2話 楓VSサナエ
太陽の光を浴びて目が覚める。
俺はベッドから起き上がり横を見と、そこにはアリアが眠っている。
無防備に眠っているその姿をみて少し微笑む。
俺は彼女を起こさないようにゆっくりとベッドから降りると、洗面台へと向かいそこで顔を洗う。そして近くに置いてあったタオルで顔を拭く。
鏡に映る自分の顔を見ながら、これからどうするべきか考える。
俺がここに来た目的は『刀』を使った剣術を教えてくれる人を見つけるためだ、そして幸運な事にすぐに見つかった。
それがサナエ――正直教わるなら俺より強くなければいけないが、昨日の戦いを見てサナエは俺より強いことを確信している。
「今日お願いしてみるか」
洗面台から出るて、寝室に戻るとアリアは目を覚ましており、朝日が差す窓を見ていた。
「おはよう。アリア」
「おはようございます。今日はいい天気ですね」
「そうだな」
「では、私も顔を洗ってきますね」
「あぁ」
窓離れ少し小走りで俺の横を通りすぎる。その時ふわっと甘い匂いが漂う。男の性か、思わずその香りに少しドキリとする。
同じシャンプーを使っているはずなんだが、こうも変わるものなんだな。
俺は頭を振り、アリアが見ていた窓に近づく。そしてそこから下を覗くと、様々な人が歩いている。
ある者は鎧に身を包み、ある者は軽装備で動きやすそうだ。
「歩いている人の大半が、戦士や武闘家だな」
ここがそうい人たちが集まる場所なのは噂で知っていたが、ここまで偏っているものか、窓から離れベッドに腰を掛る、そしてアリアが戻ってくるのを待つ。
それから、数分してからアリアは帰って来た。
「おかえり」
「ただいまです!」
ベッドに座っている俺と違い、アリアはちゃんと椅子に座る。
そして口をゆっくりと動かす。
「楓様。今日はどうするんですか?」
「そうだな。まずはサナエ達に会いに行こうと思っている」
「サナエさんにですか!」
サナエの名前を聞いて、アリアは太陽に負けないほどの眩しい笑顔を見せる。
サナエのことを、そんなに気に入ったんだな。
「随分嬉しそうだな」
「はい! 楓様はルトガア様とお話していたので、知らないと思いますが、私達かなり仲良くなったんですよ!」
こんなに嬉しそうなアリア見るのは久々だな。
「そうか良かったな」
「はい! ――――あ。そういえば、楓様はなんでサナエさんに会いに行くのですか?」
「ん? あぁ、それはこれだ」
ベッドから立ち上がり俺は武器を置いてある場所へと足を運ぶ。そして『ムラマサ』を取りアリアに見せる。
「それは……楓様の武器ですよね?」
「ああ、サナエもこれと同じ武器を使っていたのは覚えているか?」
「あぁ、確かに使っていましたね」
「だから、俺はサナエと戦おうと思う」
「え!? なんで戦うんですか。剣術を教えてもらうのでは?」
「あぁ。俺より強かったら教えてくれないかお願いするつもりだ」
まぁ俺の勘でしかないが、サナエには勝てない気がする。
彼女のあの動き、剣捌き、俺より技術が上なのは確かだ。
「そうですか……。わかりました準備しましょう」
そして俺とアリアは外に出る支度をする。
☆☆☆
ルトガアとサナエの家の扉の前に来た。そして俺は扉をノックする。すると扉の奥から誰かが走ってく来る音が聞こえ、扉の前で止まる。
「楓君とアリアちゃんですねー」
扉を開ける前から俺達の事を言い当てる。
おそらくだが、気配で察したのだろうな。
「あぁそうだ」
「はい」
返事をすると、扉が開く。
「いらっしゃーい。今日はどうしたの?」
「えっと……」
ちらりと俺の方を見る。その視線でサナエは何かに考え着いたのだろう。
「あー。もしかして、楓君が用がある感じかな?」
「そうだな」
「ふーん。どっち?」
「何がだ?」
「わたしか師匠どっちに用があるのかなって。それともどっちも?」
なるほど。どっちと戦いに来たのか聞いているのか。なら――
「サナエ、お前だ」
「わぁ、わたしをご指名ですか……ならちょっと待ってて、師匠呼んでくるから」
そう言って扉を開けたまま、奥へと向かった。
それから、しばらくするとサナエは大男をい連れて戻って来た。
その大男は戦神と呼ばれていたルトガアだ。
昨日は気が付かなかったが、戦神ルトガア。その名前はゼル師匠から少し聞いたこたがあった。なんでも昔に戦った事があるとかで、そしてその戦いは結局決着がつかなかったとか。
そしてもう一つ……この世界の最強の一角と言われているらしい。昨日の男が戦いたがっていた理由もおそらくこれが原因だろう。そしてその戦神という二つ名のせいで、日々戦いを挑まれる毎日を強いられているルトガアには少し可哀想にはなる。
彼も戦神と呼ばれていても人だ。それに、昨日の反応を見る限り、この人は戦いを好んでいるわけではなさそうだからな。だから少し可哀想になるのだ。
「待たせたな。楓、サナエと戦いたいんだろ?」
「あぁ」
「ふ。昨日からそんな気はしていた、お前の腰に付けているのは刀だからな、そしてその目は力を欲している者の目だ。だからこそ同じ刀を使うサナエに教えを乞う可能性はあった」
「そうか」
二人は靴を履き出てくる。
そして一番初めに発言したのはサナエだ。
「ここだと狭いし、また野次馬ができちゃうから、もっと戦い安いところに行こうよ師匠」
「そうだな。じゃあ着いてこい」
俺達がこうして話しているだけでも、周りの奴らは視線をこちらに向けている。
正直、居心地が悪いので、おとなしくルトガアの後を着いていくことにした。そしてしばらく歩くと森が見えてきて、その森に入り少し進むと開けた場所に連れてこられた。
「さて、ここなら何をしても問題ないだろう」
「懐かしいねーここ」
「懐かしい?」
「うん。わたしも師匠と特訓するとき、良くここを使っていたのー」
なるほど、そういうことか。確かにここの広さなら戦ったり、特訓したりするには適しているだろう。そして、何より町からもそれなりに離れているから、少しくらいの音なら聞こえないだろう。
「では、審判は俺がしてやろう」
お互いに一定の距離を空けて向かい合わせになる。そして、静かに武器を鞘から取り出し、構える――
俺は正眼の構え、サナエは昨日見せた、霞の構えを取る。
「両者準備はいいか?」
お互い同時に頷く。
「ふ。では――はじめ!」
合図とともに紫の線が俺の元へと伸びてくる。それに反応して一歩後ろへ下がり、刀を前へ出すと、前に出していた刀に何かが当たる感覚が走り、瞬間ガキンっという音が辺りに鳴り響き、目の前に突きを繰り出しているサナエがいた。
速い―― しかし、それだけではない事が今の一撃でわかった。
俺はサナエが鎧の男と戦っていた時も動きは見えなかった。しかし、今こうして目の前で見て気が付いたことがある。サナエはただ速いだけじゃない……、俺の死角に入りながら攻撃を仕掛けてきたのだ。おそらく鎧の男の時も同じ技を使ったのだろう。
相手の死角に入り瞬時に間合いを縮める技を何故か俺は知っている。
縮地――それが彼女が使っている技の名前だろう。
突きを防御されたサナエは、一度距離を取ると、今度は斬りかかる。先ほどと違い、目で追えるほどの速さだが、それでも少し残像が見える。
そして俺はそれを躱すと、上から下へサナエに向かって刀を振るう。
しかし俺が振るった斬撃をサナエは受け止めると、そのまま横にずらし下から上へと刀を振るって来た。
それからしばらくは、そういった攻防が何回か繰り返される。
「へーやるね楓君」
「サナエもな。まさか縮地を使えるとは思わなかった」
「おー良く知ってたね。あれが縮地だって」
「まぁな。何故かはわからないが、知識だけ頭の中に入っていた」
「そう……でも、そろそろ本気出した方がいいんじゃないかなー? 力押さえているでしょ」
戦うのは初めてのはずだが、俺が全力を出していない事に気が付いたか。
だが、俺も気が付かないと思っていたのか?
サナエはまるで俺に合わせるように、力をセーブしている。正直なめられたものだ。
「あぁ当たりだ。だが、それはお前も同じだろ? 俺に合わせているんだから!!」
両手で柄を持ち、力いっぱい振り下ろす。だが、サナエは受け止めることをせず、軽く体を捻り紙一重で避ける。そして俺の斬撃が当たった地面は真っすぐに切り裂かれる。
流石だな。今の一撃を受け止めていれば、サナエの力では立ってはいられなかっただろう。そしてその瞬間決着がついたはずだ。
「凄い威力だねー」
「受け止めなかった事は良い判断だな」
「流石に今のは受け止められないと思ったよ」
「ッ!?」
そうだ、その眼だ。その獣の眼を待っていた。
さぁ本番はここからだ。
俺はゆっくりと刀を構え直す。そしてゆっくりと息を整える。
「その眼を待っていたぞ」
「ほう……やるな。サナエにあの眼をさせるとは」
「あの……サナエさんのあの眼は確かに怖いですけど、そんなに珍しいんですか?」
「あぁ珍しい。ここ最近見たことが無かった。昨日が久々だったな」
「そうなんですか」
「サナエがあの眼をした時は、相手を確実に殺そうと思っている時だ」
「え?」
「ふ。アリア様」
「はい?」
「辛かったら見ない方がいい。ここからは試合じゃない。死合いが始まる」
死合い、か。
良い表現だな。確かにこれから死合いが始まる。
お互いまだ動かない。しかし攻防はすでに始まっているのだ。殺気で――
「とんでもない殺気だな」
俺はさらに呼吸を整える。
ここから一瞬も気を抜けない。気を抜けば俺の首が直ぐに宙を舞う。
そう悟ってしまうほどの殺気をサナエは放っている。この殺気……アランより遥かに強い。
「すーッ」
相手は深く息を吸う。
「はッ!」
瞬間、一気に距離を詰めてきて刀を振るう。俺は弧を描いて近づいてくる刀を受け止める。しかし受け止めると同時にサナエに足払いをされ尻もちをついてしまう。
「な!?」
「ふッ!」
足払いで倒れた俺に刀を突き刺してくる。それを横に転がり避けると、なんとか起き上がろうとする、が。サナエがそれを許さなかった。
「くッ」
「どうしたの? 避けてばかりじゃあ、わたしは殺せないよ?」
あぁそうか、これがお前の全力か……なら俺も惜しみなく力を使わせてもらおう。
無我の境地――
それを使う事で焦っていた頭が一瞬にして落ち着く。そして、サナエの動きが先ほどよりはっきりと見えるようになった。
そして、俺はサナエが刀を地面に突き刺してくるのを転がりながら避けると、先程のお返しとばかりに足払いを仕掛ける。もちろんサナエにはそんなモノは通用しない。しかし、俺が狙っていたのはサナエが転ぶ事ではない。サナエが足払いを避けるために跳ぶこと――それを待っていたのだ。
俺はそのまま後ろへと転がり、手を地面につけると同時に手首をしならせ、少し身体を宙に浮かせ立ち上がる。
サナエと目が合う。そのオレンジ色の瞳が俺を見据える。
やはり彼女は強い。俺にこの力を使わせるとは……。
サナエは再び構えを取ると突きを放ってくる。しかし俺は紙一重で突きを躱すと斬りつける。
そしてお互いに一定の距離を取る。
「流石だな」
「さっきと動きが違うね。何回か斬り合って、わたしの動きになれてきたのかな?」
サナエは再び霞の構えを取る。
「楓君に見せてあげるよ、わたしの真の突きを」
「何?」
サナエは再び目の前から消える。おそらく縮地を使ったのだろう。そして紫の線が俺の体をめがけて真っすぐ伸びているのが見えた。だが、俺は内心驚く。何故なら出ている紫の線が二つだ。つまりこれの意味すること……サナエは二撃の突きを放ってきているという事だ。
「くッ!」
一撃目は刀を盾にして防いだ、しかし二撃目は俺の体をかすめる。かすめた場所がジンジンとした痛みと共に血が滲み出てくる。
「なんだ……今の?」
あんな技俺は初めて見た。二撃の突きが……同時に来た?
俺はサナエの実力を甘く見ていたのかもしれない。彼女はリリー達とも互角かもしれないじゃない。間違いなく互角だ。
「へー、一撃目でも仕留められると思ったけど、防いだね。なら次はもう一撃増やすね?」
なんだと? さらにもう一撃増やせるのか?
これは本当にマズイかもしれないな。
「見せてあげるよ。わたしの三段突きを――」
サナエは霞の構えを取り一歩踏み込むそして、その言葉通り、それぞれ別の場所に三つの線がこちらに向かって伸びている。
これは……避けられないし、ガードすらもできないだろう。
俺は死を覚悟した――




