プロローグ
遅くなって申し訳ないです。
ついに三章がスタートです。楽しんでいただけると嬉しいです
帝都を出てから、数日。
現在俺とアリアは森で野宿をしながらヒダの町を目指している。最初はアリアに野宿させるのを申し訳なく感じていたのだが、本人は特に気にした様子もなく、むしろ、野宿なんて帝都に居た時はできなかったから、新鮮だと言っていた。
「楓様。焚火のための枝はこんなもので良いですか?」
「そうだな、大丈夫。ありがとう」
俺はアリアから枝の束を受け取って、横に置く。本来ならこれは俺がやるべきことなのだが、アリアが楓様だけに負担は掛けられません! と言っていたので、お言葉に甘えてお願いすることにした。もちろんお願いするのは簡単な仕事だけだ。
「しかし帝都を出てから何回か野宿をしましたが、まだワクワクしています」
「そうなのか、でも野宿は危険も多いから気を付けてくれよ?」
「わかっています。私はそんなに子供じゃないです!」
少し頬を膨らます姿を見て、口が緩む。
「な、なんですか?」
「いいや、何でもない――ん?」
ふと、人の気配を感じた。
「どうかなさいました?」
「いや……なんでもない」
こんな森の中で人の気配か……。可能性としては、俺達と同じで旅をしている人と、もう一つは山賊だな。
「アリア」
「はい?」
「悪い。ちょっと、ようをたして来る」
「あ、は、はい」
少し顔を赤くしながら、俺がトイレ行ってくることを了承してくれる。
「直ぐ戻ってくるから」
それだけ言い残し少し歩いて行く。
もちろんトイレなど行きたくはない。人の気配が何者なのかを確認しに行くのだ。
もし、これがただの旅人ならスルーすればいい。しかし山賊ならば――
「場合によっては消すか」
そして少し進んだところで、人の気配が俺を囲む様に動く。
「……」
どうやら、俺達を狙っていたみたいだな。
アリアじゃなく俺の方に来たのは、俺を殺せば残りはアリアだけ、見た目からでも想像ができる通り戦闘力など無い。最悪はアリアの身体も目当てかもしれないな。
「隠れてないで出てきたらどうだ?」
「へへへ。良く気が付いたな」
暗い木々の中からガラの悪そうな男が出てきた。そして、それを合図に周りを囲っていた奴らも出てくる。
「お前がこいつらの頭ってところか?」
「その通りだ」
「そうか、ではお前たちは俺になんの用だ?」
「そうだな、お前には用はない。むしろ用があるのお前が連れている。可愛い女の子だな」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
「ふーん」
やはりアリアが目当てか、しかも俺の予想通りって感じだな。
俺は周りに囲んでいる山賊を数える。ぱっと見るかぎり、目の前のこいつを入れて七人くらいか。
「あの子が誰なのかわかって言っているのか?」
「あぁ? 別に知らねぇよ、ただ可愛いから襲うんだよ」
誰かわからずに襲おうとしているとはな。
もしあの子に何かあれば、こいつらはただでは済まないんだが……。無知は罪ってやつか。
「そうか……」
俺は静かに刀を抜く。
その行動を見て各々違う反応をする。
あるものは武器を構えて警戒して、またある者は何故か怯えたような反応をする。
「お前らは襲う相手を間違えたな」
「あぁ? 何を言って――ッ!?」
目の前の山賊の頭と思われる人物に斬りかかる。予想外に反応が良くガードされる。しかし受け止められたのは一撃目だけで、二撃目は受け止める事は出来なく、腕が吹き飛ぶ。
「あ――」
そして、声を出すより早く首を吹き飛ばす。
その一部始終を見ていた周りの奴らは、あまりに一瞬の出来事だったためか、声すら上げることをしない。
動かないのなら好都合。俺はすぐ近くにいた奴を下から上に切り上げる。
「は!? おい! 武器をかまえ――」
「大きな声を出すな」
アリアに気が付かれたらどうするつもりだ。こいつらは、アリアに気づかれずに殺さなければいけないのだから。
アリアには、見せたくないものを見せる事になるかもしれないとは言っているが、それでもなるべく見せたくはない。
俺自身甘いとは思うがな。
「くっ!」
山賊が俺に向かって剣を振りかぶる。しかし、それは届くことはない。既にその武器を持つ腕は斬っているのだから。
「へ?」
「ふっ!」
口を押え、腹に刀を突き刺す。刺された痛みにより声を出そうとしているが、俺が口を押えてるため、それほど大きい声にはならず、次第に静かになり刀を身体から抜くと地面へと転がす。
「あと三人か」
残りの三人の内の一人は怯えていて武器すら構えていない。
そして残りの二人は同時に襲い掛かる。偶然か、何か合図を送ったのかはわからないが、動くタイミングだ完璧だ。しかしそんな隙だらけの動きでは、折角の同時攻撃も意味がない。
まるですれ違う様に二人の間を抜ける。
少しの沈黙があり、二人はゆっくりと俺の後ろで倒れる。
「あ……あぁ」
残り一人。
そしてその人物は今にも逃げ出してしまいそうだ。
「た、頼む見逃してくれ!」
「何故?」
「お、俺には家族だいるんだ! 妻も……娘も!」
「だから?」
「へ?」
「それは俺には関係ないよな?」
その一言を言うと、見る見るうちに恐怖と絶望の色に染まる。
「や、やめてくれ!」
「お前の反応を見る限り、自らの意思で山賊に入ったわけではないだろう。しかし、一度入ったんだ。命を取られることは覚悟できていたよな? 何より俺の命を狙ったんだ。殺されても文句はないはずだ」
男は唇を噛み、俯き、拳を強く握る。そして震えながら自らの死を覚悟する。
ふと、下を見ると。男の下半身にシミができていることに気が付く。そのシミは少しずつ大きくなってきており、うっすらとアンモニアのにおいがする。
「……」
刀を横に一閃――首を斬る。
その男の首が俺の足元に転がる。そしてそれを静かに見つめていると目が合った。その目は胴体と離れ生気を失っている。
そして首が無くなった男の体に近づき、服をまさぐる。中には少量のお金と写真が入っていた。
その写真には、この男と女性と女児が写っていた。
家族いるというのは本当だったみたいだな。
首を肉体の近くに持っていき、写真を手に握らせる。その後、他の山賊の死体を漁り、お金だけ奪って、アリアの元へ帰る。
「おかえりなさい」
「ただいま」
俺は石の上に腰を下ろす。すると、アリアが何かを言いたそうにこちらを見ていた。
「どうした?」
「いえ……その、それ」
アリアが指を指した方を見る、すると服の端に赤い色がついていた。
先ほど殺した山賊の誰かの血だろう。
「気にすることはない。動物に襲われ反撃した時に着いたやつだ」
「そうなんですか?」
アリアは瞳に疑いの色を交わらせつつ、心配そうにこちらを見る。
「心配することはない。怪我などしていない」
「そうですか……」
その後は少し気まずさが辺りを包む。
しばらくして、口を開いたのはアリアだ。
「あの!」
「ん?」
「ヒダの町はどんなところか、楽しみですね」
「そうだな。噂では戦いを好む人が結構いるとかは聞いたことがある」
「そうなんですか。楓様もお好きだったりするんですか?」
ジッと俺の瞳を見つめる。
無意識か、あるいは意図的か。アリアは俺の人柄を見極めようとしている。
帝都では確かに一緒に過ごした。しかしそれはあくまでも使用人としてだ。何より俺は自分の事を隠していた。
だから、今の上代楓を知っている者は、片手で数えるくらいにしかいないだろう。
「戦いが好きか嫌いかで言えば、好きではない」
「はい」
「俺は理由が無い戦いは好まない。まぁ目の前に立たれて、邪魔をしてこようとするなら別だが」
アリアの前なので表現を少しだけ柔らかくする。
「そうですか……」
「あぁ」
「答えていただいてありがとうございます。聞きたいことも聞けましたし、もう寝ましょうか?」
「そうだな。お休みアリア」
「はい。お休みなさい」
俺たち二人はそのまま眠りにつく。そして夜が明けてヒダの町へと足を進めていく。




