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転生黙示録  作者: 水色つばさ
2章 双子の皇女と黒の剣聖
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エピローグ

 リリーが去ってから、しばらくしてメアリー様は落ち着いた。何故あれほどリリーに恐怖したのかは、やはりわからないみたいだった。

  そして現在は城の中にこびりついた血を掃除したり、アランやその他の兵士のや魔物の死体の処理をしている。

  メアリー様はアランの事を信用していたし、死んだ事を悲しむと思っていたのだが、思ったほど落ち込んでいる様子はなかった。

 

「ふう」

「お疲れ様です。楓様」


 モップで血を洗い流していると、後ろから多少幼さの残る声で労いの言葉を掛けられる。そして俺は振り返り声のぬしを見る。予想通り、声のぬしはこの城の主の妹のアリア様だった。

 

「お疲れ様です。アリア様、何か御用ですか?」

「いいえ、様子を見に来ただけです!」

「そうなんですね。掃除の方はほとんど終わりましたよ」


 そう言いながら俺は辺りを見渡す。ここは先ほどまで魔物や兵士達の血で汚れていたが、今は綺麗になっている。

  まぁ血は無くなっているが、リリーと黒い騎士の戦いが原因で城の石材にダメージが入り、あちこち破片等が落ちてはいる。

  後でそれも綺麗にしなくては。

 

「そうですね。パッと見る限り血の跡とかは無くなっていますね」

「はい」


 お互いに無言になる。

 

「何やってるの、アナタ達?」


 その沈黙を破ったのはメアリー様だった。そしてその後ろにはあのチンピラだった奴らが居る。

  そう、あの後アイツらはこの城で働く事になったのだ。

 脅されて仕方なくやっていたとはいえ、アランに従ってしたため、城で働かせるのに反対するものが多かったのだが、メアリー様やアリア様が説得して、なんとか城で働く事ができたようだ。

 

「いえ……何もしてしません」

「何もしてないの? もしかして、楓掃除さぼってたわけ?」

「い、いえ。そういう意味では!」

「ふふッ冗談よ。それで、アリア? 楓にはあの事話せた?」

「あの事?」


 俺はメアリー様の言葉でアリア様を見る。

  すると、顔を赤くしていた。

 

「え、えっと……まだです」

「はぁ……だと思ったわ」


 ため息交じりに言葉を発して、メアリー様は辺りを見渡す。

 

「うん。石材の破片はまだ残っているけど、この辺りの血の跡は綺麗にしたみたいね。いいわ、楓少し休憩しなさい」

「え? いいのですか?」

「いいわよ、石材はこいつらに任せるから。いいわよね?」

「はい! もちろんです! 楓さんは休憩していてください」

「あ、あぁ。じゃあお言葉に甘えて休憩させてもらいますね」

「よろしい。アリア」

「はい?」

「頑張りなさいよ?」

「あ……はい!」


 アリア様は一体何を頑張るのだろう?

  そんな疑問を浮かべていると、目の前にアリア様が来ていた。

  そして、その幼い顔が俺の顔を見上げニコリと笑う。

 

「さぁお姉様が休憩していいと仰っているので、行きましょう!」

「え、は、はい」


 アリア様に引っ張られるまま連れていかれる。

 

「あ、あのどちらに向かわれているのですか?」

「私の部屋です」

「は?」


 アリア様の部屋? 何故そんなところに行くのだろうか? 休憩するだけならもっと色々あるはずだが……。

 

「あ、あの何故アリア様の部屋なのですか?」

「え?」


 アリア様が足を止める。

 

「何故って、休憩するなら私の部屋が一番だからですよ?」

「は、はぁ……」


 意味がさっぱりわからない。

 

「それとも、楓様は私の部屋では嫌なのですか?」


 瞳を潤ませながら上目使いで見てくる。

  そんな顔で見ないで欲しい。罪悪感た沸いてくる。

  しかしアリア様は何が何でも、俺を自らの部屋に連れていきたいと思っているのだな。

  まぁアリア様が何か罠を仕掛けているとか、そういった可能性はないだろうし、このまま従うか。

  しかし、俺はアリア様に甘くなっている気がするな。

 

「そ、そんな事はありません。わかりました、アリア様の部屋で休憩させていただきます」

「はい! あ――モニカいいところに来ました!」

「はい? どうかなさいましたかアリア様?」

「後で私の部屋に、お茶を持ってきてくだいませんか?」

「ええ、かしこまりました。お二人分でよろしいですか?」

「ええ!」

「ふふ……それでは、入れてまいりますね」

「お願いします」


 モニカさんは笑顔で横を通る時、俺にだけに聞こえるようにつぶやく。

 

「アリア様の用事が終わりましたら、お話したいことがあります」


 俺に話……か。なんの話かはわからないが、モニカさんの声色を聞く限り、結構大事な話かもしれないな。

  正直、彼女の話を俺は聞く義理はない。しかし彼女はリリーの仲間だ。もしかしたら、何か魔王についての情報を持っているかもしれない。一応、話を聞きに行くか。

 

「楓様どうかなさいましたか?」

「いいえ、ではアリア様の部屋に行きましょうか」

「はい!」


 ☆☆☆


 アリア様の部屋へと到着。

  そして、アリア様が先に自らの部屋に入り、俺を招き入れる。

 

「どうぞ、お座りください」

「はい、では失礼します」


 言われるまま、俺は椅子に座る。そして、アリア様も向かい側の椅子に座る。

 

「……」

「……」


 座ったのは良いが、アリア様は無言になる。

  そして、その目は少しせわしなく動いている。顔も緊張が見える、一体何の用があって俺をここに呼んだのだろうか?

  外に響く声と時計の音だけのこの空間に、扉を叩くノックの音が追加される。

 

「は、はい!」

「アリア様お飲み物をお持ちしました」

「ど、どうぞ!」

「失礼します」


 その声と共に扉がゆっくりと開き、片手にトレイを持ったモニカさんが現れる。

  ゆっくりとこちらに歩いてきて、俺たちの前に止まる。そして、目の前のテーブルに飲み物を置く。

  そして一瞬だが、アリア様に顔を近づけて何かを呟く。すると――顔が赤くなる。

 

「はい……」

「ふふ、それでは失礼します」


 笑顔を俺達に向けると、そのままお辞儀をして部屋を出ていく。

  視線をアリア様に戻すと、何かをブツブツと呟いていのがわかる、しかし何を呟いているのかは聞こえない。

 

「よし!」


 何がよし! なのかはわからないが何かを決意はしたみたいだ。

 

「楓様!」

「は、はい」

「えっとあの……あの……」


 何かを俺に言おうとしているみたいだが、上手い言葉が見つからないのか言葉に詰まっている。

 

「……アリア様」

「は、はい」

「ゆっくりで良いので、アリア様の伝えたい言葉を聞かせてください」


 俺のその言葉に少し驚いた顔をするが、直ぐにいつもの笑顔を見せてくれた。

 

「はい。ありがとうございます」


 ゆっくりと深呼吸をするアリア様。そして、落ち着いたのか、真剣な顔で俺を見つめる。

 

「改めて、楓様」

「はい」

「私は楓様が好きです」

「はい……え?」


 今アリア様は何と言った? 俺が好き? それは友達とかそういう好き? それとも――

 

「えっと……」

「どいういう意味の好きかわかりませんか? では改めて――私は楓様が好きです、ココナさんが貴方に抱いていた気持ちと同じです」


 改めて言われたその言葉に俺は目を見開く。

 

「まさか、これでもわからないとはおっしゃいませんよね?」


 流石にこれでわからないというほど俺は鈍感ではない。しかし何故アリア様が俺の事を? 何よりアリア様の気持ちは嬉しい、嬉しいが……。

 

「それは言いません、しかし何故?」

「この気持ちになったのは最近ですが、きっかけはおそらく一年前ですね」


 一年前……それって俺がココナを殺した時の事か?

 

「それって」

「はい。私がココナさんに襲われていた時に助けてくださった、あの時です」

「……それは、助けてもらったから勘違いしているだけでは?」

「ですから、きっかけだとおっしゃいましたよ? 私は帝都で楓様に再会した――」


 俺は帝都に到着した時のことを思い出す。確かチンピラに殴られていたところを助けてくれたんだ。

 

「楓様の姿を見つけた時、雰囲気は変わっていましたから直ぐには気がつきませんでした、でも私は見逃しませんでしたよ? 首に付けているペンダントを」


 ペンダント? もしかして、ココナの形見のあのペンダントの事か?

 

「ココナさんが大切にしていたペンダント。それが見えて、私は直ぐに馬車を止めました」

「そうだったんですね」

「はい。それで、改めてよく見たら、楓様だと気が付きました。でもその目はとても悲しい目をしていて、私はいてもたっていられなくてアランに助けてあげてと言いました」


 そうか……あの時、助けてくれたのはアリア様だけじゃなかったんだな。

  ココナ――お前も助けてくれたのか。

 

「その後あまりにも楓様が心配になり、城へ招待することにしました。で、話してみてわかったんです。この人は前会った楓様ではないなって」

「……」

「でも何とか前の楓様に戻って欲しくて、色々とやってみたんです」


 やたら、俺に関わってくるとは思っていたがそういう理由だったのか。

 

「ですが、前の楓様と違っていたとしても、根本的な部分は変わっていなかった事に安心しました」


 そう言って笑顔を俺に向ける。

 

「どういう事ですか?」

「お姉様を助けてくださったでしょ?」

「あれは相手が勝手に――」

「アランと互角――いや、それ以上で戦ったのに今更何言っても無駄ですよ?」


 まぁそうだよな。

  それに目的は一つは達成されているから、今更実力を隠す必要もないか。

 

「そうですね。確かエグルを撃退したのは俺です」

「最初は魔物の気まぐれで帰ったと聞いていたんですが、私は少し疑問に思ったんです。あの魔物が気まぐれで帰るのか? と」


 そうか、アリア様はエグルと一度会っているんだよな。だとすれば、奴がどういう魔物なのか少しは理解しているのだろう。

 

「それもあって庭で考えていたんです。そして、楓様がいらっしゃって。でも、そこで楓様が幹部を撃退したのだと確信することができました」


 庭……なるほど、襲われた時の事か。

 

「それで、俺に……その、恋したと?」


 自分で俺に恋したんですか? なんてあまり言いたくないな。ナルシスとみたいだ。

 

「はい。当然じゃないですか、三度助けられれば、どんな女の子だって恋に落ちます」

「は、はぁ……」

「それで、どうですか?」

「どう。とは?」

「お返事をお聞かせ願えませんか?」

「……」


 俺の答えは決まっている。少し間を開けてゆっくりと口を開く。

 

「俺は……そのお気持ちにお応えすることはできません」

「それは身分とかそういったモノでですか?」

「いいえ」

「では、まだココナさんが好きだからですか?」


 その言葉に俺は一瞬止まる。しかし、すぐに口を動かす。

 

「多少はあります、でもそれが断る理由ではないです」

「では、何故です?」


 ジッと俺の目を見てくるアリア様、おそらく彼女に嘘は通じない、そして生半可の回答では納得をしてはくれないだろう。

  ならば変に作り話を作らず、今の俺をしっかり伝えて、諦めてもらうのが一番手っ取り早いだろう。

 

「俺は人殺しですよ?」

「ココナさんを殺した事ですか? それともアランを殺したことですか?」

「どちらも違います。俺はその二人以外にも人を殺しています。そして、これからも人を殺して回ります」

「……」


 アリア様は俺の言葉に、真剣な表情で耳を傾けてくれる。

 

「そんな俺と恋人同士になりたいですか?」

「……」


 俺の目からは視線を外さず、ジッと見つめ何も言わない。

 

「貴女はこの国にとって大切な人。そんな人が罪人と一緒にいてはダメなんです。そして、俺はアリア様を愛せる自信がありません。これが一番の理由です」


 アリア様が目を瞑る。そして、ゆっくり開く。

 

「そうですか……わかりました。わざわざお呼びしてすみませんでした」

「いいえ。すみません。それでは失礼します」


 俺はこの空間があまりにも居心地が悪く、部屋を出る事にする。

  そんな俺の行動を止めることをせずに、アリア様は見守っている。そして扉を開け閉める時一瞬だが、アリア様の顔が見える。そしてその顔は涙を流していた。

 

「本当にすみません。アリア様」


 俺は誰に言うでもなく小さくそう呟いた。

  そして、俺はモニカさんを探すことにする。

 

 

 ☆☆☆

 

 

  しばらく探してモニカさんは見つかった。

 

「上代様」

「……今更なんですが、楓で良いですよ」

「そうですか? では、お言葉に甘えさせてもらいますね楓様」


 様付けは変わらないんだな。まぁある意味モニカさんらしいと言えばらしいか。

  そういえばモニカさんはリリーの事は呼び捨てにしていたな。それは同じ仲間だからなのか……それともそれとは別に何か関係があったりするのだろうか?

 

「どうかなさいましたか?」

「いいえ、それで俺に何か用があるみたいですけど、何ですか?」

「はい、楓様。貴方の武器は少し特徴ありますよね?」

「え、は、はい」


 俺の武器は刀だ。そして、この世界では数が少ない武器。

 

「それが、どうかしたんですか?」

「それを話す前に少し場所を変えましょう、それと、楓様は武器を持ってきてください」

「え? わかりました」

「では庭で待っていますね」

「はい」


 そしてモニカさんは歩いて行く。

  そして、俺も自らの部屋に一度戻り、刀を取り庭へと向かう。

 

「来ましたね」

「はい」

「じゃあ武器を構えてください」

「え? でも――」

「大丈夫ですよ。この辺一帯は幻術の魔法が展開されていますから」

「そうなんですか?」

「ええ、彼がやってくれています」


 そう言って顔を横に向ける。俺もそれに釣られるように横を向くと。仮面を付けたフードの人物が立っていた。そしてその手には槍が握られている。

  その槍を俺は見覚えがある。確かあの占い師が持っていた槍と同じだ。つまりあの仮面の奴は占い師という事か。

 

「何故、彼は仮面を?」

「貴方に顔を見られたくないみたいです」

「そうですか」

「では、改めて――武器を構えてください」

「わかりました」


 俺は言われた通り武器を構える。

 

「では私に攻撃を仕掛けてください。全力で」

「いいのですか?」

「はい」


 まぁモニカさんなら対処できるだろうし。本当に全力で攻撃してみるか。

 

「すぅ……はっ!」


 ガキンッ!

  俺の全力の一振りはいとも容易く受け止められる。そしてそのまま刀を上に流し、俺のみぞおちに柄を叩きつける。

 

「がはッ!」


 俺はその場にしゃがみ込む。

 

「やっぱり強いですね」

「まぁこれでも経験は豊富なので」

「そうですか、それでこれになんの意味があるんですか?」

「今の動きではっきりわかりました。楓様貴方の剣は荒々し過ぎます」

「確かに俺は師匠には強くしてもらったが、まだちゃんと剣術は教えて貰っていないですね」

「はい。楓様は確かにお強いです。しかしそれ以上に力を手に入れたいなら、ちゃんとして剣術を学ぶべきです」

「剣術?」

「はい」


 確かに師匠には教えて貰っていない。というより、師匠が言うには西洋の剣ならば自ら剣術を教える事ができるが、俺が持っているのは特殊なのだ。

  俺が持っているのは刀、西洋の剣と刀では扱い方が違う。そのため俺には教える事は出来ないと言っていた。

 

「ゼル師匠が楓様に剣術をお教えにならなかったのは、武器が西洋の剣と違うからではないですか?」

「あぁ……そのとおり――え?」


  今モニカさんはなんと言った? ゼル師匠?

  リリーの仲間なのだから、リリーが俺にゼル師匠を紹介したのは知っていてもおかしくない。しかし、何故モニカさんまで師匠と呼んだんだ?

 

「驚きましたか? リリーの祖父は楓様の師匠かもしれません、ですが私の師匠でもあるんですよ?」


 なんという事だ。ゼル師匠からは俺の他に弟子が居るというのは聞いたことがあった。まさかそれがモニカさんの事だったとは……。

 

「驚きましたね、だからあれほどの強さを持っていたんですね」

「驚くのはそれだけじゃないですよ?」


 今まで少し離れていたところで見ていた、占い師だった奴は俺に話掛けてきた。

 

「モニカは二つ名を持っている」

「え?」

「私は二つ名なんていらないんですけどね……」

「その二つ名はどんな名前なんですか?」

「答えてあげてはどうですか?」

「……そうですね。別に減るものでもないですし。私が言われていた二つ名は――神速の剣聖」

「は?」


 神速の剣聖? あの神速の剣聖でいいんだよな? 100の魔物の軍団を一人で殲滅させた。

 

「驚きますよね、僕も最初は驚きました。まさか、こんなメイド服着た人が神速の剣聖なんて呼ばれているとは」

「貴方と会った時はメイド服着てなかったはずですけど?」

「おっと、それは失礼しました」


 驚いた、まさかモニカさんが神速の剣聖だとは……。ゼル師匠はとんでもない人を弟子にしたな。いや、ゼル師匠の弟子だからこそすごくなったのだろうか?

 

「こほんっ! 話が逸れましたね、楓様」


 一つ咳払いして、モニカさんは真剣な表情で俺を見る。

 

「はい」

「この帝都から東に向かってみてください」

「東?」

「はい。東にはヒダという町があります。そこで、楓様のような武器を扱う人が何人かいるみたいです」


 ヒダ? ヒダってもしかして、飛騨殿の事か? いや流石にそれはないな。ここはゲームの世界だ。まぁゲームだからこそ現実世界の名前があってもおかしくはないのだろうが……。俺の記憶している限りヒダという町はゲームをプレイしていた時は無かったはずだ。

 

 それに今大事なのは、そのヒダってところに刀を扱う人が居るというところだ。つまりモニカさんはこう言いたいのだろう。

  ヒダの町に向かいそこで剣術を学べ、と。

 

「なるほど、そうい事ですか」

「はい。お察し頂けましたか?」

「ええ、しかし、何故俺にそれを?」

「ふふ、さぁ何故でしょうね?」

「ふ。そろそろ行きますよモニカ」

「ええ」


 そして槍で地面をたたくと占い師だった人物は消える。

  そして残っているのは目の前のモニカさんだけ。そしてモニカさんは俺に近づくと一言――

 

「頑張ってください」


 それだけ言うと背中を向けて、目の前から消える。

 


 ☆☆☆

 

「今までお世話になりました」

「本当に行くのね」

「ええ、俺はここにいるべき存在ではないので」

「そう……」


 俺はあの後、城の清掃を再開した。そして、それが終わるり再び旅に出る準備を整えいると、メアリー様が部屋に入って来たのだ。

  そして、俺が荷物をまとめているのをみて、再び旅に出るのを察してくれた。それと同時にお叱りも受けた。

  出ていくなら一言かけてなさいっと。

  どうやら俺がこっそり出ていこうと考えていたのはバレバレだったようだ。

  そして、メアリー様が直ぐに城の人を集めると、お見送りの準備をしてくれる。

 

  別に俺はお見送りなどいらないのだがな……。

  あ、それとモニカさんは声を掛けずに出て行ったのではないかとメアリー様に聞いてみた所、モニカさんは俺と庭で会う前に、しっかりとメアリー様に使用人を辞めると伝えていたようだ。


「ところでメアリー様」

「何かしら?」

「アリア様は?」


 お世話になった使用人や警備兵が集まっている中、この城の責任者の一人アリア様の姿が見当たらない。

 

「あー、あの子部屋の前で声を掛けても出てこなかったのよ」

「そうですか……」


 やっぱりアレが原因なのかもな。まぁつい先ほどフラれたばかりなのだから、顔など合わせたくないよな。

 

「それじゃ、失礼します」


 俺は頭を下げると、後ろに振り返り歩きだそうとしたその時――

 

「待ってください!」


 後ろから声が掛けられ俺は振り返る。そしてそこに居たのは先ほどまでこの場にいなかった、アリア様が立っていた。

 

「待ってください楓様」

「アリア様?」

「アリア?」


 辺りがざわざわと騒がしくなる。皆が騒ぎ始めたのはアリア様の登場に驚いたからではない、いやそれもあるが一番驚くべきところは今のアリア様の姿だ。

  いつもの白いドレスではなく、一般的な女の子が着るような服装になっており、尚且つ手には大きめのバッグが握られているのだ。

  そう、その姿はまるで、今から旅行でも行くのかと思ってしまうような姿だ。

 

「な、なんですか? その服装と鞄は……」

「……」


 メアリー様はあまりの驚きで口をポカーンっと開けたまま固まっている。

 

「何って決まっているではないですか! 私! 楓様についていきます!」

「「はぁ!?」」


 俺とメアリー様の言葉がシンクロする。

 

「ど、どういう事よアリア!」

「そ、そうです!」

「楓様」

「は、はい」


 アリア様が真剣な顔で俺の名前を呼ぶ。

 

「楓様は言いましたよね? 自分は罪人だから一緒に居てはダメだと」

「はい」

「何故罪人と一緒に居てはダメなんですか?」

「は?」

「それを決めるのは楓様ではないですよね?」

「た、確かにそうですけど……」


 な、なんだこの威圧感は、今までアリア様こんな威圧感出したことないぞ。

 

「それに、楓様は私を愛せる自信が無いともおっしゃておりました。それってただたんにに、私の事を知らないからではないですか?」

「……」


 俺は茫然としてしまった。

 

「私も楓様の事を知らないです。ですから、私考えました。楓様と一緒に旅をすれば楓様も私もお互いを知ることができるのではないかと」


 だからその恰好なのか? 俺と旅をするために。

 

「……ぷッ。あははは」


 突然メアリー様が笑い出す。

  周りにいた人たちも、そして俺自身も何事かと驚く。

 

「アリア……アンタ言ってくことめちゃくちゃよ? それ分かってる?」

「わかってます」

「そう……そこまでして楓と一緒に居たいの?」

「はい」


 メアリー様はアリア様の目をジッと見つめる。

  そして、フっと笑う。

 

「そう……わかったわ、楓と一緒に旅をすることを認めます」

「お姉様!」


 アリア様の顔がパァッと笑顔になる。そして、メアリー様に抱きつく。

 

「ありがとうございます。お姉様」

「ええ、しっかり楓をアリアの虜にするのよ?」

「え!? は、はい」


 何故、俺を抜きにしてアリア様が、俺と一緒に旅に行くという話が進んでいるのだろう?

 

「あの、アリア様が一緒来るの俺は反対なんですが……」

「あら、楓は忘れたのかしら?」

「え? 何をですか?」

「アリアは一度決めたことは?」

「……曲げませんね」

「そういう事よ諦めなさい」


 そう簡単に諦めていい事なのだろうか? でも、確かにアリア様は一度決めたことは曲げない人だ。それはメアリー様のお墨付きでもあるな。

 

「はぁ……わかりました」

「よろしいのですか!」

「嫌と言っても着いてくるのなら、もう諦めます」

「良かったわね?」

「はい! ありがとうございますお姉様、楓様」

「ええ、じゃあ行ってきなさい。アリア!」


 そして、メアリー様はアリア様の背中を押して俺の前へと立たせる。

 

「俺の旅は危険が一杯ですよ?」

「元より覚悟の上です」


 この目……完全に覚悟できている目だな。

  なるほど、この目を見せられてはメアリー様が許したのも納得がいく。

 

「それではお姉様行ってきます!」

「ええ、行ってきなさい。それと楓!」

「はい?」

「アリアをお願いするわね?」


 俺はメアリー様の目をジッと見つめる。その目はを見ていると不安や心配はあるが、それでもアリア様を応援したいという気持ちが伝わってくる。

 

「わかりました、お任せください。俺が守れる範囲でですが、しっかり守らせていただきます」

「ええ、それで十分よ」


 微笑みを見せる。

 

「それじゃあ行きましょうか?」

「はい。では皆さん行ってきます」

「行ってらっしゃいアリア」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 その言葉を聞き俺たちは歩き出す。

 これからはアリア様と一緒に旅をすることとなる、一人で旅をするのとは違い退屈はしないかもしれないが、その分苦労も増えるだろう。

 

「それで、どこに向かわれるのですか?」

「そうですね東にあるヒダという町に行こうかと」

「ヒダですか。私もいったことはないですが、武闘家や名のある剣士など強者が集まっている町だとは聞いたことがあります」

「なるほど……」

「それに距離も結構ありますよ?」

「そうなんですか?」

「はい。地図はお持ちですか?」

「ええ」


 そう言いながら鞄の中から地図をだす。

 

「えっとヒダの町はここです」


 そしてアリア様が指を指した場所は、確かにかなりの距離だった。一日や二日で付くような場所ではないな。

  それに森も抜けないといけないようだし。


「アリア様」

「はい?」

「俺がしっかりお守りしますからね?」

「……はい!」


 こうして俺とアリア様はヒダの町へと向かって歩いて行く。

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