14話 三人の訪問者
「く、黒の剣聖だと!?」
「え……」
そう――何故か俺は黒の剣聖の二つ名で世に通っているのだ。
そう呼ばれるようになったのは、数ヶ月前ゼル師匠に、国同士の戦争に駆り出された時だ。
あの時は本当にびっくりした。まさか隣国と、この国の戦争に単騎で参加させられるとは、しかも両方の軍で一番強い奴と戦ってこいという、とんでもない条件付きだ。
そしてその時にアランと一度戦って勝っている。隣国の方は残念ながら戦えなかった。
いや――途中でゼル師匠に止められたのだ。
あの人が戦った来いと言ったのに、勝手だとあの時は思ったものだ。
「お前があの時の仮面の剣士だというのか!?」
「そうだが?」
「ふ、つまりお前にリベンジできるということだな」
目がより鋭くなる。その目はまるで獲物を見つけた肉食獣のようだ。
「加護を全開でいかせてもらうぞ!」
アランの黒いオーラがより大きくなる。そして俺が付けた傷がいつの間にか回復している。
「加護というやつの力か……」
戦闘能力と回復力の向上とは厄介だ。だが、それでも俺はこいつを――倒す。
ココナの仇! 俺の復讐の第一歩。
例え、人としての道を外しているとしても、俺はどこまでも落ちよう。
落ちて落ちて落ちて落ちて、地獄のさらにその先まで落ちよう。
――――悪は同じ悪でしか裁けないのだから。
「はあぁぁぁぁぁ!」
「おおぉぉぉぉぉ!」
お互い同時に動き出す。
おそらくこの一振りで決まるだろう。俺が勝つかアランが勝つか。
一歩、一歩、まるで世界全体がスローモーションになった様にゆっくりと動く。
二人の距離は2メートルくらいで、ほとんどない距離は空いてない、しかしまるで10メートルほど離れていると錯覚していしまう
二人はすれ違い様に同時に武器を振るう。そしてピタリと止まる。
「……」
「……」
まるで時が止まってしまった様に俺とアランは静止している。その静けさに呼吸すら忘れそうになってしまう。
「ぐッ」
俺の後ろでアランが呻き声をあげると、地面に倒れ、血の水たまりを床に作る。
「勝った……」
勝った。勝ったんだ。
ココナの仇を取れたんだよな?
「楓様!」
アリアが俺に声を掛ける。その声に誘われる様に、ゆっくりと歩み寄る。
「大丈夫ですか?」
「一応な」
俺はアリア様の近くに寄ると、その場に崩れ地面に尻をつける。
「良かった……!」
「わぷッ」
地面に座っている俺の顔を、アリア様は自らの胸に寄せる。
小ぶりだがしっかりと女の子の柔らかさがある胸だ。
そして、何故かとても落ち着く。
「良かった、良かったです」
少し顔を上げるとアリア様は涙を流して、俺の顔にぽたぽたと落ちてきている。
俺は手をアリア様の頭の上に乗せる。
「あ」
「怖い思いをさせてしまってすみません」
「いいえ、いいのです。楓様は何も悪くないのですから」
アリア様から離れるとゆっくりと立ち上がる。そして、アランを再度見る。
彼は地面に倒れたまま全く動かない。
床に広がっている血の量を見る限り、まだ生きていたとしても、しばらくすれば、命を落とすだろう。
「目的の一つを達成だな」
そう呟いた瞬間――アランの体からまたあの黒いオーラが出てくる。
「な、なんだ?」
「楓様……」
俺はアリア様をかばうように前へ立つ。
「嘘だろ……」
驚くことにアランが立ち上がったのだ。
あれほど出血しているのにまだ戦おうとするのか? いや――
「ひッ!?」
小さく悲鳴を上げる。
アリア様が悲鳴を上げるのも仕方がない。アランの顔は目を見開き生気が全くないのだ。
あの顔は死人の顔だ。しかし何故アランは動いている?
「な、なんですか。あれ?」
「わかりませんが、アランの意思で動いているわけでないのは確かですね」
死人が動くとはな――流石にアンデットは初めて見る。
「がぁぁぁぁ!」
「きゃあ!」
「ちッ!」
俺は武器を構えようとした瞬間――
ドゴンっと言う音と共に何かが飛んでくる。
「がぁ!?」
そして、そのままアランの死体とぶつかる。
「ははは、やはり私では勝てませんか」
飛んできた何かは途中で居なくなっていた、エグルだった。そしてその見た目は先ほどの綺麗な見た目とはうって変わって、血まみれで、あちこち斬られている。
そして、エグルが飛んできた方を見ると三人の人影が立っていた。最初は砂煙で見えなかったが、次第に砂煙が晴れていき、姿が鮮明になり、俺は驚く。
「な、なんでここに」
「お久しぶりですね楓さん」
「リリー」
三人いるうちの真ん中に立っていたのはリリーだった。そしてその隣にはモニカさんとあの胡散臭い占い師までいる。
「リリー、改めて言いますが何も貴女がエグルの相手をしなくても、良かったのでは? 私や彼でもあの魔物は殺せましたよ?」
「あら、別にいいではないですか。久々に体を動かしたかったのです」
「だそうですよ? リーダらしい理由ですね。そう思いませんか? モニカ」
「そうですね。ですが、貴方はいつまでその姿でいるつもりなんですか?」
「この任務が終わるまでですかね」
モニカさんは何となく予想できた、しかし、あの占い師までもがリリーの仲間だったとは。
だが、それなら納得できることもある。あの占い師が俺の前に現れた事。そして魔王の存在を知っていったことを……。
「さて、彼らも来てしまったことですし、ここは一旦引きましょうか、アラン――ん?」
「あらあら、アラン騎士団長はアンデットになってしまっていますね」
「負けてしまったのですね。そして、魔王様の加護によって生きる屍になってしまうとは」
はぁっとため息を吐きながらエグルは立ち上がる。
「自我の無い貴方では何の役にも立ちませんね、せめて私が逃げるための時間稼ぎをしてください」
「がぁぁ!」
エグルの命令に従うように、アランの屍はリリー達の元へ走って行く。
「今度は貴方が相手をしてくださるのですか?」
リリーは左右の腰に付けた剣に手を添える。
「リリー貴女が相手をするまでもありませんよ」
そう言い。前へ出てきたのは占い師だった。
占い師の手には、十字架のような形をした槍が握られていた。
「そう……。じゃあお任せしますね? でも、その姿で勝てるのかしら?」
「冗談を言わないでください。この姿でもあんな雑魚は余裕ですよ」
この姿? 俺はその言葉の意味をあまり理解できずにいる。
もし、そのままの意味だと考えるならば、それは今の占い師の姿が本当の姿ではないという事だ。
「リリー」
「ええ、構いません。私は満足しましたので」
「ありがとうございます」
モニカさんはエグルの方にゆっくりと歩いて行く。
しかし、理性無きアンデットが素通りさせるはずもなく、こちらに歩いてくるモニカさんに襲い掛かる。
「がぁぁ!!」
モニカさんは腰に付けている剣に手を掛け、今まさに抜こうとする。
しかし――
「おっと」
「がぁ!?」
占い師が蹴りを入れてアンデットを吹き飛ばす。
――――いつ動いたんだ?
占い師とモニカさんそしてリリーですら視界から外していない。なのに、あの占い師はいつの間にかモニカさんの隣に立っていた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、僕は別にモニカを助けたわけではありません。アレは僕の獲物です、なので貴女に殺されては困るのですよ」
「そうですか、ではお任せしますね」
モニカさんは再び歩き出す。
「不味いですね。アランでは全く役に立たないようです」
エグルから強大な殺気が放たれる。
これほどの殺気を普通の人が受ければ恐怖して逃げ出すか、その場で動けなくなるだろう。
しかし、モニカさんは表情一つ変えず、ゆっくりと歩いていく。
「我が主を襲った罪。しっかりと償ってもらいます――その命で」
「くッ。流石の殺気ですね。ですが私もここで死ぬわけにはいかないので、抵抗させてもらいます」
一定距離まで近づくとモニカさんはその場で静止する。
そしてジッとエグルを見つめる。
どちらも隙を伺っているのか全く動く気配がない。
そして、後ろでは占い師がアンデットを弄んでいた。
直ぐに殺す事はせず、蹴りを入れたり槍の棒の部分で殴ったりとしている。
「アッチは余裕みたいだな」
「モニカ……」
モニカさんは一応ここの使用人だったんだ。アリア様の性格ならば心配してもおかしくない。
「ふッ!」
突然エグルが動き出す。そしてその俊敏な動きで開いていた距離を一気に詰め、その鋭い爪でモニカさんを攻撃する。
「……」
ガキンッ
モニカさんは無言で剣を抜くと、エグルの攻撃を受け止める。
「はぁ!」
今度は蹴りを入れるが躱される。
「モニカさん完全に見切っている」
エグルは爪の連続攻撃を仕掛けるが、それも全て受け止められてしまう。
「モニカ相当怒っていますね」
「え?」
「え?」
俺とアリア様は突然横から声が聞こえたので振り返る。
するといつの間にか、リリーと占い師が立っていた。
「そうですね。モニカが目を使っているところを久々に見ました」
「目?」
「楓さんモニカの目を良く見てください」
そう言われ俺はモニカさんの目を見る。すると、紫色の輪が見えた。
「あ――」
「気が付きましたか?」
「あぁ」
「え? え? どういうことですか!?」
あの目は――剣聖の予知だ。
「モニカさんは剣聖の才能を持っているんです」
「モニカが!?」
「はい。ですが、俺はモニカさんが剣聖の才能を持っていることよりも、そこの占い師がアンデットほったらかしにしている方が気にらしますが」
そう言いながら隣に立っている占い師に顔を向ける。
「ご安心してください。あのアンデットは僕の術中ですから」
どういう事かと思い俺はアンデットの方へ向く。すると、アンデットは右へ左へ動き、何もないところを攻撃していた。
「……幻術」
「その通り。僕は接近して戦うよりも、魔法を得意としていますからね。特に幻術魔法は誰にも負けない自信があります」
なるほど、だからアレは何もないところに攻撃している訳か。
「しかし、相変わらず飽きっぽいですね?」
「仕方ないじゃないですか。あまりにも弱すぎました、アレは」
アレとはアンデットの事だろうが、弱すぎて戦うのに飽きたとは、アレも可哀想だな。
「あら、そろそろモニカが動くみたいですよ」
「さて、あの魔物は何分持ちますかね?」
「さぁ流石に私もわかりません。でも、あのエグルはまだ加護を発動していませんので、結構持つかもしれませんよ?」
二人の会話聞きながら、モニカさんを見つめる。
彼女は先ほどまでエグルの攻撃を受け止めるだけで、攻勢に出る様子はなかったのだが、突然剣を振りエグルを吹き飛ばす。
「さて、そろそろ加護を使ってはどうですか?」
「なるほど……。力の差を見せつけ、私に加護を使わせようと考えていたわけですか。しかし私はそう簡単に加護は使いませんよ? 何より貴女は攻勢に出ていない。つまり私の攻撃が激し過ぎて、攻勢に出られないのではないですか?」
そんなはずはない。モニカが攻勢に出ないのはワザとだ。それはエグルもわかっている筈。しかしあえてそう言うのは強がりか、はたまた挑発のつもりなのか。
「そうですか、そこまで言うなら、良いでしょう。私も攻勢に出させてもらいます」
そう言いモニカさんは殺気を放ち、剣を構え直す。




