13話 黒の剣聖
大広間に続く扉の前へと到着した。この奥に何人かの気配がある。
俺はゆっくりと扉を開ける。
「やはり来たな――上代楓」
「楓様!」
扉を開けてすぐに声を掛けてきたのはアランだ。そして、アリア様もアランの近くにいる。
手を拘束されてはいるが、拷問と言った類を受けた様子はない。
「俺が何故来るとわかった?」
「メアリー様がお前に助けを求めたのだろう?」
なるほど、メアリー様が俺に助けを求めて、牢屋から解放したと思っているのか。
「どうだろうな」
「違うのか?」
「違うと言ったらどうだって言うんだ?」
「どうもしないな。こうして、お前は現れた。つまり俺の邪魔しに来たという事だ。それだけで、お前殺すには十分な理由だ」
「ほう?」
「行け! アイツを殺せ」
周りの魔物が一斉に襲ってくる。
俺は刀の鞘に手を添える。そして抜刀。
「何!?」
俺は一気に四体の魔物を切り捨てる。
「この程度の魔物で俺が殺せると思っているのか?」
「少しはやるようだな。だが――」
奥の扉が開く。すると、そこからさらに魔物が現れる。
随分と数が多いな。
「数で押し切る作戦か?」
「やれ!」
次々と襲ってくる。そして襲ってくる魔物を切り捨てていく。
しかし、いくら斬ろうとも、魔物の数が減る様子がない。
「どういう事だ?」
「はははッ! 驚いたか? お前は確かに強いかもしれないが、無限に沸き続ける魔物の兵隊に、いつまで持つことができるかな?」
確かに……魔物が有限であれば俺も何も問題なく対処できるだろう。しかし無限という事は終わりがないのだ。終わりがない奴らを斬り殺そうとも意味がない。無駄に体力を減らすだけだ。
「さて……どうするか」
「楓様……」
アリア様が心配そうに俺を見つめている。
この人は――自分の身を心配していればいいのに他人なんか心配して。
だけど、俺はそのお人よしに助けられたんだよな。
ならば、その恩を返す時だろう。
「ふー」
ゆっくりと息を吐く。
考えるんだ、普通。これほどの数の魔物がこの城の中にいるわけ無いのだ。
ならば、どこからか出てきてるとしか考えられない。
「ん?」
俺は魔物を斬り殺しながら辺りを見渡すと、魔物が出てきている扉の奥に、裂け目の様物が見えた。
「あれか?」
俺は刀身に魔力を送る。
そして、赤いオーラが纏う。
「何をするつもりだ?」
「こうするんだ」
俺はその扉に向かって刀を振り下ろす。
その瞬間、炎が放たれ、扉を潜り抜け裂け目へと向かう。
「まさか!?」
「その反応。当たりみたいだな」
奥から魔物の悲鳴が聞こえる。そして何匹か体を燃やしながら現れる。しかし、俺の元に到達するより先に絶命して倒れる。
後は残りの魔物を殺すだけだな。そう思った瞬間――
「お見事ですね」
「え?」
「ん?」
「な、何故ここにいらっしゃるのですか――エグル様!?」
扉の奥からゆっくりとエグルが現れる。
「ふふふ……いえ、ただ少し気になったものでね。見にきたのです」
「エグル……」
「お久しぶりですね。上代楓様」
「あぁ久しぶりだな。しかし、俺は炎をそっちに放ったはずなんだが?」
やつの体や服は焦げた跡すらなかった。
「あの程度の炎など、私には効きません」
「あ、あぁ……」
アリア様は驚いた顔をしながら、突然震えだした。
そうか、こいつはメアリー様とアリア様にとって両親の仇でもあったんだったな。
「怖がらせてしまったようですね。申し訳ない。しかし、アリア様もお姉様と同じ様にお綺麗になられましたね」
「ひッ!」
その邪悪な笑みにアリア様はさらに怯える。
「エグル、お前は何故ここにいる?」
「私ですか? 様子を見に来たと先ほど言いましたが?」
「誰の様子を見に来たんだ?」
「もちろん私の配下の者ですよ?」
「その配下は誰だ?」
「もうお察し頂けてるとは思いますが、もちろん――」
アランの方へ顔を向ける。
そして、アリア様もそれに釣られるように同じ人物に顔を向ける。
「うそ……ですよね?」
「いいえ。本当です。彼は私の下で働いてもらっています」
「そんな、何故です! アラン!! 貴方はお姉様を慕っていたはず!」
「ええ、お慕いしていますよ」
「なら、何故!?」
「それは――」
「はい。そこまでです」
アランは何かを言いかけてエグルに遮られる。
「アラン。貴方には失望しました」
「な、何故です!?」
「何故あそこの彼を、もっと早くに始末しなかったのですか?」
「それは……」
「おかげで作戦は台無しになってしまった」
「も、申し訳ございません」
「ですが、私も鬼ではありません。チャンスを与えましょう」
「チャンス?」
エグルのその言葉にアランは伏せていた顔を上げる。
「ええ、貴方が彼を殺すのです」
「え?」
「聞こえませんでしたか?」
「い、いえ!? ただ……」
「ただ?」
「それでけで良いのかと思いまして」
「ええ、それだけでいいですよ。さぁ早く彼を始末してください」
こいつ……もしかして?
いや、まぁそれはどちらでもいいか、アランと一体一で戦わしてくれるのならかえって好都合だ。
「でわ、私は端っこで見ていますので存分に戦ってください。おっと、他の魔物達が邪魔ですね」
そう言いエグルは謎の玉を取り出し、自らの隣に落とす。すると、そこから裂け目が現れる。
「さぁ貴方たちはこれで帰りなさい」
その命令に従い、魔物達は次々と入っていく。
そして、しばらくするとこの場所にいた魔物達は、全て居なくなった。
「さぁこれで戦う舞台は完成しました。今度こそ存分に戦ってください」
俺は武器を構える。そしてアランも同じ様にする。
アリア様が巻き込まれないか心配ではあるが、エグルとは反対方向で見守ってくれているから、おそらく大丈夫だろう。
「いくぞ! 上代楓」
「こい! アラン・レイモンド!」
お互いに同時に動き出す。
そして剣と刀がぶつかり合う。
一撃が重いな。流石は帝都最強の騎士と呼ばれているだけはある。
だが――
「む」
「先ほどの動きといい。貴様やはり相当な実力者だな。今まで隠していたか?」
「ああ!」
そのまま押し返そうとする。しかしやはり力では向こうの方が上の様で、押し返す事は出来ない。
仕方ないので俺は一旦距離を取り、再び接近して、今度は連続で攻撃をする。
「ふ、甘いな」
まるで攻撃が見えているようで、全て受け流される。
「俺には目があるのだ、その程度の攻撃では当てられないぞ?」
「……」
そういえばこいつも目を持っていたな。
ならば、これでどうだ?
俺は一旦距離を取る。そして――
「ふっ」
「何!?」
斬撃を飛ばす。
アランは驚いた声を上げて、横に避ける。
やっぱり遠距離は予知することはできないか。
「くッ! まさか斬撃まで飛ばすことができるとはな……」
アランは武器を構え直す。
おそらく今の技を見て、俺に対する認識を改めたのだろう。
今度はこそ本気のアランと戦う事になるな。
「行くぞ!」
アランは一気に距離を詰めてくる。
なるほど……。遠距離だと予知することができないから、近づいてきたという訳だな。
とても正しい判断だ。
「はぁぁぁぁぁ!」
剣を振りかぶり下ろす。
俺はそれを受け止める事をせず、横に体を捻り避ける。そして、攻撃後にできた隙を突いてこちらも攻撃する。
しかし体を仰け反らせて回避する。
「そんな事もできるのか」
「俺を甘くみるなよ? だてに最強の騎士と呼ばれていない」
確かにな、最強の騎士と呼ばれているだけはある。
才能を持たない者なら、今のは避ける事は出来ないだろう。
「ふッ!」
「接近戦は無駄だと言っているだろ!」
俺は何回か斬りつけ、油断させ足払いをする。
「くッ」
「何?」
今度は俺が驚かされる番だった。
まさか今の足払いが、躱されるとは思わなかった。
今の反応的に、反射で避けたのだろう。意外と反射神経もいいんだな。
「危ない危ない」
「……」
「まさか足払いしてくるとはな。意外と卑怯な真似をする」
「これは殺し合いだぞ? 卑怯もクソもないと思うが」
「その通りだ」
そして俺達お互いに武器を構え直す。
――――来る。
アランは一気に距離を詰めてきた。
パワーがあり、そしてそれなりのスピードを持っているとは、本当に厄介な相手だ。
刀で攻撃を受け流し攻撃という攻防を、しばらく繰り返す。
「流石に粘りますね。ん?」
ふと俺は目の端にエグルの姿を捉えた。そして、エグルの前に一匹の魔物がいる。
「何と……こんな面白い展開を邪魔をされるわけにはいきませんね。私が向かいます」
そしてエグルはどこかへと向かって歩いて行った。
「戦いの最中に余所見とは余裕だな!」
剣を受け止める。
「実際余裕だからな」
「言うじゃないか。ガキが!」
俺の今の一言が逆鱗に触れたみたいだな。
先ほどより、スピードもパワーが上がっている。一撃一撃が重すぎて、手が少し痺れてきた。
「どうした? 顔が辛そうだぞ?」
「お前の気のせいだろ」
「そうか、ならこれならどうだ!」
不味い――そう思った瞬間、反射的に横に跳び退く。
そして、剣が振り下ろされた場所の地面がえぐれた。
何というパワーだ、あれをまともに受けていたら、刀は折れはしないだろうが(不壊がついているから)俺の骨が折れていただろうな。
「良く避けたな? 受け止めると思っていたんだが」
「流石に今のは不味いと思ったからな」
「なかなか、良い危機察知能力を持っているじゃないか」
「それはどうも!」
今度はこちらから仕掛けることにする。
向こうはスピードもあるとはいえ、タイプで言えばパワー型だ。
パワー型は一撃一撃がダメージが大きいが、当たらなければ意味がない。
ならば、こちらは速さで翻弄してやろう。
「なるほど、俺を力で攻めるタイプと判断したか」
俺は一撃を与えたら距離を取るを繰り返す。
そして時々距離を取ったら、斬撃を飛ばしたりすることで、隙を作れないかと模索する。
しかしやはり難しいようだ。俺を常に視界に捉えているため、斬撃を飛ばしたところで対処されてしまう。
「さて……どうしたものか」
「どうした? もうこれでお終いか?」
あの力使うか? いや――あれは使うにはまだ早すぎる。
「まだまだこれからだ!」
「こい。俺はお前を完膚なきまでに実力差を見せつけてやる」
「やれるものならやってみろ」
と言ったものの、どうするか。
予想していたよりアランが強い。
俺は再び先ほどと同じ様にヒット&アウェイを繰り返す。
「無駄だ」
「なら、作戦を変えるか」
「何?」
俺は魔力を刀身に集め、炎を纏わす。
そして、リザードマン達に使った技を放つ。
「ふ、そんな技が俺に効くと思うなよ!」
剣に水の魔法を纏わせ迫りくる炎を斬り相殺する。
だが――狙い通りだ。
「は!? しまった」
そう、炎と水がぶつかれば蒸気を発生させる。
お互いに結構な魔力を込めているから、それなりに濃い蒸気が発生した。これなら、俺の姿は見えないだろう。
そして、案の定蒸気で俺の姿を見失ったようで、あちこち見渡している。
「どこだ……くッ!?」
その隙を突き背後から攻撃する。しかし運よくたまたまこちらに向いた。そして、目を持つアランは攻撃を予知して、俺の攻撃を防御する。
防御されたので一旦距離を取る。そして相手が移動する前に、再び背後を取り攻撃。
「ぐあぁぁぁ!」
今度はしっかりと攻撃を当てる事ができた。
しかし急所は外れてようだ。
この蒸気のメリットとデメリットが全く同じだ。相手から俺は見えないが、俺も相手が見えない。しかし、俺は気配で大まかの場所がわかるため問題はない。流石に急所は狙えないが、
そして、アランはどうやら気配を察知することはできないようだ。
最初からこれをやっていれば良かったと思った。アランももし気配を察知することができた場合、全く戦況は変わらない。何より魔力を意外と消費するのであまり使いたくなかった作戦だ。
まぁ風の魔法で蒸気を吹き飛ばせばいいわけなんだが、気が動転して、そこまで頭が回っていないようだ。
「く、クソガキがぁ!」
「ッ!」
「きゃあ!」
ヒュンッという音が聞こえ、強い突風が突き抜ける。
「俺としたことが、こんな簡単な対処法をすぐに思いつかないとはな」
「やっと気が付いたのか」
アランの剣には風のが纏っている。先ほどの突風はアランが出したのもだ。
「そして、お前の事を思い出したぞ」
「そうか」
「あぁ。上代楓……オルレットでエンドゥの娘と一緒に居た奴だな」
「やっと思い出しようだな」
「あぁ……髪も少し伸びているし、何より雰囲気があの時と違うからな」
「名前は憶えていなかったのか?」
「は。いちいち、どうでもいい奴の名前覚えているわけないだろ?」
「そうか……」
つまりこいつにとって、あの時の俺はどうでもいい存在だったという事か。まぁ仕方ないとは思うがな。今の俺なら同じ様にしただろうし。
「まさかあの時の奴が、再び俺の前に現れるとはな。しかしオルレットか……。エンドゥの娘に失望したことを思い出す」
「何?」
「折角、高い金を払ってアリア様を殺すように依頼したのに、まさか失敗するとはな。挙句の果てに死亡……全く無駄死ににも程がある」
「え? 私を殺すように依頼した?」
「ええ、そうですよ? 俺がアリア様を殺すように依頼したんです」
アリア様はその言葉に絶句する。
しかしこいつ今なんと言った? ココナの死が無駄死に? こいはそういったのか?
「どうした? 急に黙って。もしかして怒っているのか? エンドゥの娘の死が無駄し――ッ!?」
ガキンッ!
剣と刀がぶつかりあう音が響く。
そして俺はアランを睨みつけながら言い放つ。
「ココナを侮辱することは俺が許さない」
「ふ、何度でも言ってやる。ココナ・エンドゥの死は無駄死にだ」
その一言で俺の中の何かが切れ、力を……無我の境地を発動させる。
無我の境地。名前自体は俺が勝手につけたものだが、その能力は身体能力を飛躍的に上昇させ、ありとあらゆる感情を消し去り悟りを開かせる技。
「すーっふ!」
一度距離を取り、息を吸う。そして、一気に切り込む。
アランは先ほどとは比べ物にならないくらいの速さに戸惑い、ガードが遅れる。
一撃目は受け止められたが、俺は続けて斬りつける。
一撃、二撃、三撃と続けてアランは後ろへと押されていく。
「な、なんなんだお前はぁ!」
「遅い」
紙一重で避けると下から上に刀を振るい胴体を斬る。そして、続けざまに体を回転させ、背中に回り込むと横に薙ぎ払う。
「うあぁぁぁぁ! ……きさまぁ」
アランは後ろから斬られ前へ倒れそうになるが、剣で体を支え後ろに立っている俺を睨みつけてくる。
「俺には……俺にはあの方のご加護があるのだ!」
アランの体から黒いオーラが溢れる。
そのオーラは禍々しく、見る者全てが恐怖するような威圧感を醸し出している。
「俺は、俺は負けない!」
「……こい」
武器を構え直し、そして静かに深呼吸。目の前の敵の動きの一つすら見逃さぬように見据える。
――――来る。
ガキンッ!
先ほどと同じ様に剣と刀がぶつかり合う。 こいつ……さっきより力が上がっている?
「驚いたか? これがあの方の加護の力だ!」
「あの方とは誰だ?」
「それをお前に教えるつもりは無い!」
何度もお互いの武器がぶつかり合う。傍目からは互角に斬り合っているようにも見えるだろう、しかしよく見るとアランの方は少しずつ切り傷ができていっているのだ。
そしてこれが示すモノ、それは――実力は俺の方が少し上だという事だ。
少し、少しでも隙を作ることができれば俺はこいつを殺す事ができる。
ガキンッ
何度目かわからない武器のぶつかり合い。お互いに後ろへ跳び距離を取る。
「はぁはぁはぁ」
「はぁはぁはぁ」
お互いに息が乱れを整える。
「あの方の為に俺は負けられない」
先ほどからお同じ言葉をつぶやくアラン。アランの言うあの方とは誰なのか、そしてあれほどアランを心酔させる人物とは――
「……アラン・レイモンド」
「なんだ?」
「お前の言うあの方とは誰かは知らないが、お前が慕っている人物だ。ろくでもない奴だろうな」
「何?」
俺の言葉にアランは反応を示す。そして、傍目からでも怒りのボルテージが上がっているのがわかる。
「何度でも言ってやる、そいつはろくな奴じゃないな!」
「貴様! 許さん!!」
ついに怒りのボルテージが限界を突破して、俺へ突撃してくる。
しかしその姿は怒り任せで隙だらけだ。
「怒りに任せ過ぎて隙だらけだ」
アランの斬撃を躱すとそのまま胴体を斬る。
「がはッ!」
腹から血を滴らせながらその場に膝をつく。
俺はその後ろ姿を眺めている。このままこいつを攻撃すれば殺す事ができるだろう。しかし俺はこいつからあの方とは何者なのかを聞かなけれがならない。
もしかしたら俺が探している人物かもしれないからな。
「お前の負けだ。さぁ吐け、あの方とは誰だ?」
「俺が喋ると思っているのか?」
やはり話してはくれないようだ。こいつの目は死んでも話すつもり無いと訴えかけている。
「なら、お前のその力は何だ? 前に一度お前と戦った時には使わなかったよな?」
「何? お前と戦った?」
はあはあと息を荒げながら、怪訝な顔をする。
あぁ、そういえばそうだったな。
「そうだ。でも流石にわからないか。ならこう名乗った方が思い出すか?」
俺は一拍間を開け、口を動かす。
「黒の剣聖――」




