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転生黙示録  作者: 水色つばさ
2章 双子の皇女と黒の剣聖
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8話 魔王の幹部

 ルフリウスを出発してから、しばらくしてメアリー様は口を開いた。


「ねぇ」


「なんですか?」


「ルフリウスでアンタゴミ掃除して来たって言ってたけど、本当は何をしていたの?」


「…………ゴミ掃除ですよ」


「それ、私の目を見て言える?」


「勿論です」


「……そう」


 おそらく、メアリー様は俺を疑っているのだろう。あの時本当はロイド伯爵と何か話をしていたのではないのか? と。まぁ本当に何もないんだがな。ただ、ゴミ掃除をしていただけ。それには変わりはない。


「あまり面倒は起こさないで頂戴ね。もし面倒を起こしたら、こっちもそれなりに対処しないといけないから」


「わかっていますよ」


「それならいいけど」


 それからしばらく無言が続く。

メアリー様は窓の外をジッと眺めている。


この子は俺と年は変わらないはずなのに、とてもとても大きいモノを背負っている。帝都……いや、この国を背負っているのだ。

こんなに小さな背中で……。


「ん? 何?」


 俺の視線に気が付いたのだろう、メアリー様はこちらに向き言葉を発する。


「いえ、何もありません」


「そう……」


 俺のそのことばを聞いて再び窓の外を眺める。流石にこれ以上見ているのは失礼なので、俺も同じ様に窓の外眺める事にした。


「ッ!?」


 なんだ今の殺気……どこからだ? どこから出された?

 俺はすぐに周りを警戒する。しかし近くには何も気配がない。


 気のせい? いや、そんな筈はないか、あれほどの殺気を気のせいにするのは良くない。

ワザと気配を消しているのか? だとしたら、先ほどのは威嚇か。


「メアリー様」


「何?」


「直ぐに動ける準備しておいてください」


「は? アンタは何を言って――」


 メアリー様が言い終わる前に、窓の外に人の首が飛んでいくのが見えた。そして、一瞬だったが、見覚えのある顔だった。

そう――この馬車を操縦していた馭者だ。


「ッく! メアリー様失礼します」


「え? ちょ!?」


 俺はメアリー様を抱えて馬車から飛び降りる。


「な、何するの!? というか、危ないじゃない!」


「静かにしていてください」


「な……わかったわ」


 俺が真剣だとすぐさま判断して、言うとおりに静かになってくれた。

どこだ、どこだ?

俺は周囲を見渡す――見つけた!

俺は持っていたナイフをそこに向かって投げる。


「ほう……私を見つける事ができるとは、たいした人間ですね」


 そいつは森の中からゆっくりと歩いて出てくる。その姿は鷲の様な顔を持ちとても鋭い爪を持っている魔物だった。


「……え? うそ」

「お久しぶりですね、メアリー姫。随分とお綺麗なられて」

「……あ……あぁ」


 その魔物を見たメアリー様は、突然震え始め、声もうまく出せなくなっていた。


「メアリー様どうかなさいましたか?」


 俺がそう問いかけるが、メアリー様は驚きと恐怖と絶望が入り混じった表情をしたままで何も答えない。そして、俺の服をギュッと強く握っている。


「そんなに怖がらないでくださいよ……魔物の私でも、傷ついていまいます」


「お前何者だ?」


「私ですか? 私は魔王様に使えるただの魔物です」


 ただの魔物に見えないがな。何よりこいつ全然、隙がない。


「か、楓」


「メアリー様?」


「に、逃げなさい」


「何故です?」


「前に話したでしょ? 魔王の幹部。あいつがその一体なのよ」


 なるほど、メアリー様のこの怯え方からも何かあるとは思っていたが、アイツが魔王の幹部なのか。


「そして……お父様やお母様を殺したやつ」


 こいつがアリア様やメアリー様の両親を殺したやつなのか。


「ならば、尚更逃げるわけにはいきませんね」


「え? 楓?」


「ほう、私と戦うの言うのですか? 人間風情が?」


「お前さっきから人間風情とか色々言ってるけど、人間なめ過ぎじゃないか?」


 その言葉と同時に俺は魔物に攻撃を仕掛ける。


「へー流石というべきか?」


「早いですね。貴方」


 俺の攻撃は受け止められてしまった。それなりに、本気で踏み込んだつもりだったんだがな。


「何? 今の動き」


 メアリー様のつぶやきが聞こえる。


「ふッ」


 魔物は一旦距離を取った。


「そういえば、お前の名前聞いていなかったな?」


「……いいでしょう特別にお教えします。私の名はエグル、魔王様に参謀を任されている者です」


 参謀役か……。となると、こいつなら色々知ってそうだな。殺すのは後にしてまずは話を聞いてからにするか。


「貴方の名前は? 私にだけとは不公平ではないですか?」

「そうだな。俺の名前は上代楓」

「上代楓……ハハハッ!」


 エグルは突然顔に手を当て笑い出した。


「何がおかしい?」

「いや、すまない。別に君のことを笑ったわけではない。ただ、君の名前をとある人物から聞いていてね」


 俺の名前を他の奴から聞いていた?


「彼女は強かった。正直、私では勝てないだろう。いや――幹部最強ですらも勝てないかもしれないな」


「なるほど、それは俺の知っている人物かもしれないな」


「お知り合いでしたか?」


「名前はリリーと名乗ってなかったか?」


「ご名答です」


「やっぱりな」


「ご存知だったんですね。彼女の組織の一員ですか?」


「違うな。誘われたが断った」


「そうですか、彼女の仲間もとても強い人たちでしたからね。貴方も彼女達の仲間だとしたら、頭を抱えるところでした」


「そう」


「ええ、ですが流石貴方のような方を野放しにもできません。ここで排除させてもらいます」


 そういうと一気に距離を詰めてきた。そして、その鋭い爪を突き刺そうとしてくる。

しかし、俺は軽く体を捻ると、その腕を斬ろうとした。

だが、何かに弾かれる。


「ん? 魔法か」


「その通りです」


 どうやら、風の魔法を纏っていたらしい。


「はぁ!」


 手を横に振る。するとやつの周りに大きな竜巻が現れる。そしてそれはドンドン大きく周りの木々を切り裂いていく。

俺は後ろをチラリと見る。そこにはメアリー様が、怯えたとも心配そうな表情とも取れる二つの表情でこちらを見ていた。


「安心してください」


「え?」


「貴女は俺が守りますから」


「あ――」


 俺は両手で刀を構える。そして俺の魔力を刀身へと送る。

魔力を送られた刀身は黒いオーラを纏う。

一歩づつ竜巻に歩み寄り。その竜巻を斬る――


「ふッ!」


 竜巻を斬った瞬間、衝撃が辺りに広がる。


「貴方も恐ろしい方だ」


「それはどうも、で、観念してくれたか?」


「ふむ……残念な事に私一人では貴方に勝つことは不可能でしょうね。何より私は参謀なので戦闘は苦手なんですよ」


「嘘をつくなよ。お前まだ本気出してないじゃないか」


「それはお互い様という物ですよ? 目的を果たせなかったのは残念ですが、思わぬ伏兵が居ましたからね。それでは失礼します」


「まて!」


「待ちません」


 左右の手を横に振りかまいたちを発生させて来る。俺はそれを防ぎメアリー様に飛んでいかないようにした。



「では、メアリー姫また会いましょう」


 そう言ってエグルは砂埃に紛れて去っていった。


「逃がしたか。まぁ仕方ないか」


 俺はメアリー様の元へ向かう。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。守ってくれてありがとう楓」


「いいえ」


「それで一ついいかしら?」


 エグルが去った事により落ち着きを取り戻し、真剣な顔で俺を見る。


「何でしょう?」


「楓。貴方は何者なの?」


「何者でもないですよ? ただの一般人です」


「嘘つかないで、貴方の強さは尋常じゃない。何より、魔王の幹部が一人では勝てないと言って逃げるような人物が、一般人なわけないでしょ」


 まぁ確かにな、だが、俺は何者でもない。メアリー様やアリア様の前ではな。

あの暗殺者やあのエグルの前ならば、復讐の鬼となるが……な。まぁその時点で一般人とも程遠いな。


「ただの一般人です。少なくとも、メアリー様やアリア様の前では」


「……」


 メアリー様は俺の目をジッと見つめる。


「そう、わかったわ」


「ええ、納得していただいてありがとうございます」


「そういえば、他の兵士の姿が見えないみたいだけど……」


「……残念ですが兵士達は」


 俺は静かに指を指す。そして、メアリー様はそちらの方に向くと絶句する。

そこには馬車とその馬車を引いていた馬がいた。しかし、その周りには無数の兵士と兵士の乗っていた馬の死体が転がっていた。


「皆……ごめんね」


「……」


「ねえ楓」


「何ですか?」


「馬車操縦できる?」


「まぁあんまりスピードは出せないですが、一応できます」


 魔法の師匠が原因である程度はできる。



「そう、お願いしていい?」


「構いませんよ? じゃあ後ろに乗ってください」


「いいえ、楓の隣がいい」


「え? それは何故――」


「いいから! いう事聞く!」


「は、はい」


 メアリー様は何で俺の隣なんかに……。あと服つかめれると操縦しにくい。


「あの……」


「何?」


「操縦しにくいのですが」


「うるさい! いいから、早く馬車動かしなさい!」


「わ、わかりました」


 何なんだ一体……ん?

よく見るとメアリー様は震えていた。

そうか、もう立ち直った様に見えてはいたが、まだ怖いんだな。

少し操縦しにくいが、別にいいか。と思い俺は馬車を動かし帝都へと帰った。

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