3話 双子の過去
「私達はね幼いころに両親を亡くしてるの」
二人の親の姿が見当たらないとは思っていたが、やはり亡くなっていたのか。
「それは……なんと声を掛けていいやら」
「別に同情してほしいわけじゃないから」
「そうですか……」
「うん。それでね、両親が亡くなった原因なんだけど、魔物に殺されたの」
「魔物?」
この世界には魔物は沢山いる、いるんだが――果たしてメアリー様達の両親を殺したのはただの魔物なのだろうか?
「そう――魔物。まぁ正しくは魔王の幹部にだけどね」
「魔王……」
魔王が居るという事実は、ゲームとしてプレイしていたので知っている、だから驚くことは無かった。
「今はとある剣聖が相打ちで倒してくれて、魔王はいないけどね」
それも知っている。その剣聖の名前を俺はしらないが、彼は自らの正義で動き魔王を倒すことに命を掛けていた。と師匠から聞かされている。
正義……か。今の俺は正義とは何かわからない。だが、その魔王を倒した剣聖とは違う道に俺は進んでいる事は確かだろう。
「そうなんですね。それでなんで魔王の幹部が?」
「それはわからない。だけど、何故かあの時は幹部か三匹も来ていて……」
魔王の幹部がどれほどの強さなのか、俺は知らない。しかし、噂で聞く魔王の幹部は一匹相手にするのに一個小隊は必要だと聞いている。
それを三体――流石にそれはどんな強者を引き連れていたとしても勝てるはずがない。
もちろん例外はあるが。
「それで、どうなったんですか?」
「幹部達は兵士達をいとも簡単に殺していった」
まぁ一般の兵士が勝てるわけないよな。
「アラン騎士団長はいなかったのですか?」
「いたわよ。だけど、アランでも流石に三体は無理だった」
この言い方だと、一体くらいならどうにかできたのかもしれないな。
あぁ、そういえば剣聖の予知を持っていたなあの人。
「三体もいれば仕方ないですね」
しかし、どうしてアランや姫達は殺されなかったのだろう?
「しかし、こう言っては失礼かもしれないですが、姫様達はよく無事でしたね」
「ホントよね。実は私もそれが不思議で仕方がないわ」
「辛い聞きますがいいですか?」
「どうぞ」
「どんな状況になって助かったんですか?」
「本当に辛い事聞いてくるわね」
メアリー様は苦虫を噛み殺したような表情をする。
そして深く深呼吸する。
「まずね。兵士達が幹部に立ち向かっていったの」
「はい」
「まぁアラン以外、全く歯が立たなかったわけだけど。一匹の幹部がこちらに向かって近づいてきた」
「アラン騎士団長は?」
「幹部の二匹を相手に精一杯だったわよ」
「そうかですか……」
むしろ二匹を相手にしていたことを驚くべきところだな。
てっきり一匹で限界かと思っていたから。
「それで、近づいて来た奴は両親を殺したのですか?」
「いいえ。違うわよ」
あれ? 違うのか……俺はてっきり、そいつが殺したのかと思っていた。
「じゃあ何しにそいつは近づいてきたんですか?」
「わからない」
わからない? どういうことだ、小さい時の記憶とはいえ、その部分だけ記憶がないという訳ではないだろう。
話を聞いてる限りだと鮮明に覚えてる様にとらえらるし。
「言っとくけど、覚えてないとかじゃないからね?」
「は、はい」
「なんか。よくわからないんだけど、お父様の耳元に顔を近づけていたのよ」
「それで?」
「多分何か言ったんだと思う。急にお父様が怒鳴りだしたから」
「ちょっと待ってください」
「何?」
今何気なく言っていたが、俺にとってはとても気になることがあった。
「その魔物は喋れるのですか?」
「そうよ? 魔王の幹部は全員喋れる」
俺は驚きを隠せない。
俺は今まで魔物は人の言葉を話せないと思っていた。しかし、今ので俺の魔物に対するイメージが崩された。
魔王の幹部――覚えておく必要がありそうだ。
「アンタ……幹部が喋れること知らなかったの?」
「そうです」
「何処で生まれたの? これ一般常識よ?」
まぁ何年か前まで魔王がいたんだもんな、幹部も各地に現れて暴れていたに違いない。
だからこそ一般常識と言われても不思議ではない。
千年前の書物に記録が残っていたとかそういうのではなく。実際にその目で見て、聞いて来たんだ、この世界の人たちは、だから逆に俺の様に知らない人の方が珍しいだろう。
「まぁどこの田舎に住んでいたのかしらないけど、話を続けても?」
「頼みます」
「何かを言われて、お父様が怒鳴り始めた。そして幹部はこう言った。交渉決裂ですねって」
交渉決裂――一体どんな交渉を持ちかけたんだ?
「それでどうなったんですか?」
「お父様はこう幹部の魔物に言ったわ。そんな交渉飲むくらいなら、命を差し出した方がマシだって」
そしてメアリー様は深く俯く。
そのしぐさだけでこの後どうなったのか想像が付く。
おそらく、その言葉の後ソイツに殺されたんだ。
「そして、そして……お父様は魔物に胸を貫かれた」
やっぱりな。
「そして、魔物は次はお母さまに問いを掛けてきたの。貴女はどうしますか? と」
「お母さんはなんと答えたんですか?」
「私は王の妻。あなたがどのような条件を持ちかけようとも、夫と同じ選択をしますだって。お母さまもバカよね。魔物がどのような条件をお父様に言ったのかわからないのに。同じ選択をするなんて」
俺は無言になる。
「アンタ今の話聞いて同情しないんだ」
「何故そう思うんですか?」
「だって――さっき驚いた顔した時以外、ずっと感情の無い表情してるじゃない?」
「まぁそういう人間なんですよ。俺は」
「まぁいいわ。それでもうわかってると思うけど、お母さまも殺された。そして、今度は私たちそう思った時だったの」
メアリー様は少し間を空け、口を動かす。
「妹――アリアがお姉様は私が守るって言って目の前に立ってね。私をかばってくれたの」
アリア様は強い子だとは思っていたけど、そんな前から強かったんだな。
俺とは全然違うな。
少し過去の事を思い出しズキリと胸が痛む。
「それで、どうなさったんですか?」
「でね、魔物は宜しいすぐに殺してあげましょうって言って、お父様やお母さまの血で汚れた手を構えた」
魔物にも色々な種族がいるが、どうやら襲って来たそいつは爪が相当鋭かっただろう。でなければ、手で人を殺す事は出来ない。
「私は妹が殺されると思った、その時に自然と体が動いてアリアの前に出たの」
姉妹揃ってお互いを守ろうとしたわけだな。
「私が前に出ると同時に魔物の手が動いて――私の胸ギリギリで止まった」
魔物はメアリー様は殺す事ができなかった? その考えが仮に正しいのならば、幹部達の目的はメアリー様だという事になる。
「その後どうなったんですか?」
「急に気持ちの悪いほど邪悪な笑顔になって、アランの元に向かった
」
「それから?」
「何かを呟くとどこかへ行ってしまったわ」
ふむ。魔物達の目的はメアリー様だった可能性がある。
しかしアランに何を呟いたのか気になる。
そして、メアリー様が目的だったとしたら、何故、何もせずに撤退したのか。
全てがわからない事だらけだ。
「さて、この話を聞いて気になることはあるかしら?」
「そうですね……アラン騎士団長は魔物に何を言われたのかお聞きになりましたか?」
「ええ、聞いたわ。幼かったとしてもそれぐらいの知恵は回る。で、返って来た言葉は、屈辱的な言葉を言われただけだって」
屈辱的か、それだけだと何を言われたのかわからないな。
「他は?」
できれば何故メアリー様が目的だったのかという事が気にはなるが、それはメアリー様に言ってもわからない事だろう。
何年前かは詳しくは言って言っていないが、今の歳が俺とそんなに変わらないという事で予想するに、5歳から8歳くらいだろう。
あくまで俺の予想だから間違っている可能性もある。
「いいえ、特にないですね」
「そう……慰めの言葉もかけてくれないのね?」
「貴女がそんな物を求める人には思わないんですが」
「ふーん」
俺のその言葉にメアリー様は目を細め笑う。
「そもそも、何故突然そんな話をしたんですか? こんな素性の知れない男に」
「へーチンピラにボコられてたけど、意外と頭は回るのね」
その言葉で俺はやはりっと思った。
「別にアンタだけにこの話をしたわけじゃない。私達姉妹に近づく男達みんなに同じ昔話をしている」
メアリー様は今の話をすることで俺をまた試したのだ。
もし今の話で俺が同情し慰めの言葉を掛ければ、偽善者、または彼女達に取り入ろうとする軽薄な人。と判断されていただろう。
「アンタは他の言いよ寄ってくる男達とは違うみたいだし、少しだけ信用してあげる」
ゼロの好感度が一に上がったといったところだろう。
「それは、ありがたいですね」
「全然ありがたいと思ってるようには聞こえないけど、まぁ私の用事は済んだし。部屋に戻っていいわ」
俺は元々朝食の時のお礼を言いに来ただけだ。
だから、それはもう終わっている。
なので俺がここに居座る用事は無い。
「わかりました。今日はありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ」
その言葉を聞き、ゆっくりと扉を閉める。
そして、自室へと戻り着替えを済ませその日は終了した。




