1話 再会の姫
はぁ……帝都に入ったのはいいのだが、少し面倒な事になった。
具体的にどういう面倒が起こったかというと、俺の目の前にチンピラがいるのだ。
何故このような展開になったのかというと数分前に戻る。
俺は帝都に到着して、宿屋を探して歩いていたのだ。しかし一向に見つからない。
あの町でも俺は宿屋を見つけられなかったが方向音痴なんじゃないかと思い始めた時、人と肩がぶつかったのだ。
まぁそれだけなら謝れば済む話なのだが、ぶつかった相手が悪かった。見るからにがらが悪い四人組のチンピラとぶつかってしまったのだ。
で、案の定色々いちゃもんをつけられて、今に至るのだ。
「なんだぁ? その目は人にぶつかって来ておいて、その目は無いだろう?」
「ぶつかった事は最初に謝ったじゃないか」
「あぁ!? あんな心のこもってない謝罪があるか!」
心がこもってないね……こいつらの言う心がこもっている謝罪とはどんなことなのだろう? 土下座でもすればいいのだろうか?
早くこの問題を解決して、俺は宿屋でゆっくりしたのだがな。
「おい! 人の話を聞いているのか!」
ドンッと俺の胸を押す。
ただのチンピラだったので、特に警戒はしていなかったため、後ろにしりもちをつく。
その際に首につけていたペンダントが宙に舞う。
「お? お前良い物持ってるじゃねーか」
どうやらチンピラどもは俺のつけているペンダントに興味を示したようだ。
他の物なら問題はないのだが、このペンダントだけはだめだ。
これはココナがお母さんの形見として大切にしていたペンダント、そして俺にとってはココナの形見でもある。
これだけは絶対に誰にも渡さない。
「おい、それよこせよそれで勘弁してやる」
「……嫌だ」
「あぁ? 何だと?」
「嫌だと言ったんだ。これだけは渡せない」
「うだうだ言ってんじゃねぇ! いいから寄こせ!」
チンピラのリーダと思われる人物が俺の首掛かっているペンダントを無理に取ろうとする。
俺はその手を払い退ける。
しかしそれがいけなかった、こういう手合いでこの行動は逆鱗に触れたようだ。
「てんめぇ! 何すんだよ!」
見事に殴られた。でも、このぐらいなら師匠に殴られた方が痛いな。
「てめぇ、この! この!」
リーダがキレて殴る蹴るなどを始めると、周りの奴らもあとに続くように殴る蹴るを始める。
でも、やっぱり痛いな。早く終わらないかな。
というか、少し周りが騒がしくなってきたな。
「おい、アリア様とメアリー様がおかえりになられたそうだぞ!」
「本当か!? ならば一目お目にかからないと」
アリア様とメアリー様?
アリア……どこかで聞いた名だな、どこで聞いたんだったか。
「おら!」
痛い。そういえばチンピラに殴られてるんだった。
「おお、アリア様とメアリー様がお戻りになられたぞ!」
「あー相変わらず愛らしく方だわ」
辺りに人が次々と集まろうと気にした様子はなく、俺を殴り続けるチンピラ。この程度ならすぐに返り討ちにできるけど、こっちから危害を加えるつもりはないからな。
あ――馬車が見える。なるほど、あれがアリア様やメアリー様が乗ってるやつか。
馬車を眺めていると、白いドレスを着た少女と目が合った。
うん? あの顔見たことあるな。
「止まってください!」
「どうしたの? アリア?」
あー思い出した。ココナと仲が良かったあのアリア様か。
「いえ、ちょっと」
「んー? 何を見ているの?」
奥の方に居たもう一人の姫がこちらに顔を向ける。
「あー、なんか絡まれてる人いるわね。でもアリア? あまり、ああいうのは関わらない方がいいわよ?」
「……」
「アリア?」
ジッと俺を見てくる。
俺はスッと目を逸らした。
「アラン」
「は。何でしょうか?」
「あそこの彼を助けてあげて」
「アリア!?」
「アリア様!?」
「アリア、私の話聞いていた? 関わっちゃ――」
「ごめんなさい、お姉さま。だけど、どうしても、彼を助けたいの」
「はぁ……貴女は一度決めると言う事聞かないもんね。わかった、アラン彼を助けてあげなさい」
「わかりました」
一人の男性が馬車から降りてくる。
そしてゆっくりとこちらに向かってくる。
「そこのチンピラ」
「あん? なんだよ!」
俺を殴るのをやめて声を掛けてきた人物の方へ向く。
そして、その顔が驚きに変わる。
「あ、貴方は……!?」
「悪いがもうその辺にしておけ」
「っち。おい! 行くぞ」
「あ、あぁ」
「良かったなぁー? 最強の騎士に助けてもらえて、弱虫君」
弱虫……ね。こいつらには俺が怯えて反撃できない様に見えたようだな。
「大丈夫か?」
「……」
俺は答えない。
「む」
折角助けてやったのになんだその態度は――と、言いたげな顔をする。
まぁ当然だよな、普通は助けられた人はだいたいお礼を言う。
だけど、俺はお礼どころか大丈夫かという問いにすら答えないのだから、気に障るだろう。
「楓様ですよね?」
気が付くとアランの横にアリア様が来ていた。そしてその横にはアリアとよく似た顔の金髪のポニーテールの女の子がいる。
アリア様俺の事覚えていたのか。
「……」
俺は答えず目線を逸らす。
「貴方! 何その態度? 折角アリアが助けてくれたのに!」
「良いのです姉様」
「アリア!?」
「お礼の言葉はいりません。ですが次の私の問にだけは答えてくれませんか? 貴方は上代楓様ですか?」
「……………あぁ」
俺は答えた。
とても不愛想。普通なら助けなければよかったと思うほどの態度だろう。
だけど、アリア様はそんな俺の態度を気にした様子はない。
そして俺が答えたことが嬉しかったのか笑顔を浮かべる。
「やっぱり楓様でしたか! お久しぶりです!」
「アリア知ってるの?」
「はい! オルレットの町に出掛けた時にお会いしました!」
「じゃあアランも知っているの?」
「いえ……私は覚えておりません」
「もう! アラン!」
「申し訳ございません」
俺の事を覚えてないのか。
まぁこれは好都合かもしれないな。
「悪いですが、俺はこれで失礼する」
俺はそれだけ言って立ち去ろうとする。
しかし――
「待ってください!」
「え?」
「良ければ城に来ませんか?」
「はぁ?」
俺は間の抜けた声をあげた。
「アリア!? なんでこんなやつを城に!」
「どうですか? 楓様」
「無視!?」
城……か。明日にでも行こうと思っていたから、向こうから誘ってくれるのならそれはそれで願ったり叶ったりだ。
「……わかった。じゃあ行こう」
「はい! では馬車に乗ってください!」
俺はアリア様に押されながら馬車に入れられる。
今までの一部始終を見ていた外野は、誰だあいつ? や姫様に馴れ馴れしいといったことを言っていた。
馬車に揺られて数分、どうやら到着したようだ。
「ささ! 楓様こちらが私たちの家です!」
大きいな。まるでおとぎ話に出てくるお城の様だ。
「さぁ! 中に入りましょう!」
「え? ちょ、ちょっと待って――」
俺の言葉を聞かずアリア様は背中を押して俺を城の中に入れる。
アリア様ってこんなに強引な人だったか? なんだか少し記憶と違うような。
☆☆☆
大広間と思われる場所まで案内される。
背中を押していたアリア様が俺から離れて、目の前にある椅子の前に立つ。
「では、改めて自己紹介いたしますね? 私の名前はアリア・レイチェル。そしてこちらが私のお姉様」
「メアリー・レイチェルこの城の当主を務めさせてもらっています」
なるほど、アリア様の姉だったわけか。
しかし当主という言葉に俺は疑問が浮かんだ。見た目からしてもアリア様もエリー様も俺と歳は変わらない見た目をしている。
なのにこの城の当主?
もしかしたら、何かしら訳ありなのかもしれない。
「ちょっと貴方! 私たちが自己紹介したのだから、貴方もしなさい!」
無言でいた俺に腹を立ててエリー様は怒鳴る。
まぁ普通は俺から自己紹介して、姫様達がするものだろうな。
無礼罪で捕まえられてもおかしくはないだろうな。しかしそれが無いのは、アリア様が俺の事を知っているからだろう。
「まあまあ、落ち着いてくださいお姉様。楓様お願いできますか?」
「上代楓……旅をしている者です」
一応は敬語は使ったが、態度が相当悪いのでエリー様の堪忍袋の緒が切れる寸前の様な顔をしている。
「上代と言ったな。姫様達の前だぞ。その態度は何だ!」
「アラン落ち着いて」
「しかしアリア姫!」
「そうよ流石にこの態度はひどすぎる! 正直私は無礼罪で牢屋にでも入れたい気分よ」
まぁそれが正しい反応だと思う。
「お姉様も落ち着いて。ところで楓様私の事を覚えていらっしゃいますか?」
少し前は忘れていたが、今は思い出している。
だから覚えているか覚えていないかでいえば、覚えている。
だが――
「いいえ。残念ですが覚えていません」
「そう……ですか」
とても悲しい表情をしている。俺が覚えてない事をそんなに残念だったのか。
罪悪感が沸いてくる。しかしこれでいいのだ。
アリア様は今の俺と関わるべきじゃない。
「何なのこいつ!! アリア本当にこいつなの? 出会ったというのは」
「はい。間違いなく楓様です」
妹の悲しい顔を見て、ついに堪忍袋の緒が切れたのだろう。エリー様が俺に詰め寄る。
「貴方本当にアリアの事を覚えてないの?」
「ええ、覚えてません」
「嘘じゃないわよね? もし面白半分で嘘ついてるなら、本当に牢屋にぶち込むわよ? アリアにあんな顔させたんだから」
「嘘じゃありません」
「……」
「……」
俺の目をジッと見つめて睨みつけてくる。その何でも飲み込みそうなダークブルーの瞳を見ていると、やっぱり嘘ですごめんなさいと言いたくなる。
それほどに人に恐怖を与える目をエリーは今しているのだ。
「お姉様やめてください、楓様は嘘をつく方ではありません。きっと本当に覚えていらっしゃらないだけなのです」
「…………いいわ、今回はアリアに免じて信じてあげる」
それだけ吐き捨てると。エリーはどこかへ歩いて行こうとする。
「お姉様!」
「アリア、悪いけど部屋に戻るわ。そいつとはちょっと反りが合わないみたいだし」
「メアリー様お待ちください」
アランがメアリーの後を追う。姫のお付きの騎士なのにアリアは放っておいていいのか? まぁ周りには他にも騎士ぽい人が居るから、それでまだ安心しているのかもしれないな。
「ごめんなさい楓様」
「いいや。気にしていないです、アリア様ももし嫌なら俺を追い出してもいいですよ?」
アリア様は横に首を振り俺の言葉を否定した。
「私は別に嫌じゃないですよ」
その曇り無き笑顔を向けられて、そのあまりの可愛さに目を逸らす。
俺もまだまだだな。こんなことで目を逸らしてしまうとは――
「楓様」
「なんだ?」
「もう止まるところはお決まりですか?」
「いいえ、まだ帝都に到着したばかりですから。宿屋にすらまだ行けていないです」
行こうとしたら、あのチンピラに絡まれたわけだからな。
全く自分の運の悪さを呪いたくなる。なんであんな奴らとぶつかったのか。
まぁある意味あいつらのおかげでアリア様と再会できたわけだから、水に流してやるか。
「そうですか……でしたら一つ提案があるのですが?」
「なんだ?」
少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら、唇を震わす。
「お姉様は反対するかもしれないんのですが、良ければ楓様このお城で宿泊なさいませんか?」
「は?」
一瞬アリア様が何を言っているのか理解ができなかった。
この城で泊まるのか……まぁ悪い提案ではないが、一日だけという訳ではないからな。その辺の確認もしておくか。
「まぁエリー様は反対しそうですね。だけど俺はしばらく滞在するんですが? それは大丈夫ですか?」
「はい。今更一人増えたくらいでは、何も差支えないです」
まぁ確かにな結構使用人が多そうだし、部屋や食事に関しては一人分くらいなら何も問題ないのかもしれない。
「あの……どうでしょう?」
「そうだな……」
確かに悪い話ではない。しかしアリア様も先ほど言っていた通り、エリー様は反対するかもしれない、何よりこの帝都でも最強の騎士と名高いアランも俺の態度を見て良くは思っていないだろう。
その二人に反対される可能性は極めて高い。そうすると俺を城に泊めることを提案したアリア様が攻めれれてしまうかもしれない。
俺がどうしたものかと悩んでいると、アリア様の表情がどんどん暗くなる、そして口を開く。
「あの! もちろん食客です。お金は取りません」
どうやら俺がお金のことで悩んでると勘違いしているようだ。
この目を見ると何が何でも俺を泊めたいみたいだな。まぁ善意を無下にはでにするのも申し訳ないしな。
「わかりました、じゃあお願いします」
俺がそういうと。暗くなった表情も元の明るい表情に戻った。
「だけど」
「はい?」
「食客じゃなくて良いです。というかそれは流石に申し訳ない」
「ですが! 楓様を働かすわけには!?」
「だから、それは泊めて貰う身としては申し訳ないんです。もしこれを聞き入れてくれない野でしたら、普通に宿屋で宿泊します」
俺の言葉を聞き、アリア様は膨れっ面になる。
「楓様はわがままです」
「それはアリア様も同じではないですか?」
「私は姫ですか! わがままでいいのです」
胸に手を当てて誇らしげに言う。まぁこれはアリア様なりのジョークなのだろう。
「でも、わかりました。では楓様にもお城のお仕事をお手伝いしてもらいます」
「ええ、宿泊させてもらう分は働かせてもらいます」
「はい、頼みました楓様」
それだけ言い終わるとアリア様は近くにいたメイドを呼びつける。そして、時々俺を指刺しながら何かを説明している。
しばらく待つと話が終わったのかメイドさんがついてくるように言ってくる。そして俺は一つの個室に案内された。どうやらここが俺の部屋みたいだ。
実にシンプルだが、家具やベッドはとても高そうな物ばかりだ。一つでも壊せば今の手持ちではとても弁償することは出来なさそうだ。
俺が辺りを見渡していると、案内してくれたメイドさんが話しかけてくる。
「上代様」
「はい」
「上代様は本日は一日ゆっくりなさってください」
「え? でも仕事は?」
「旅でお疲れでしょうから、仕事は明日から与えるとアリア様はおっしゃっておりました」
「あーなるほど、わかった。ありがとう。明日からよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
軽い挨拶を済ませてメイドさんは出て行った。
まぁ今日はアリア様の気遣いに甘えるとしますか。
それから俺はその日一日を城でゆっくりと過ごした。
メアリー様やアランはアリア様が何とか説得してくれたようだ。




