エピローグ
「アリア様!」
「え?」
しばらくして、憲兵を引き連れてアランさんがやって来た。
「アラン? なんでここに」
「いえ、アリア様のお部屋に置手紙がありまして。アリア様がここにおられると書かれておりました」
置手紙?
俺はハっとしてココナを見る。
もしかして、その手紙を置いたのは――ココナ?
「そう……ですか」
アリア様はチラっとココナの方を見る。
おそらくアリア様も察したのだろう。
「しかし油断していた。まさかこの町を騒がせてる殺人鬼がアリア様に近づいていたとは、おいそこの男、ココナ・エンドゥの遺体を渡せ」
何? こいつは今なんと言った?
そうか――こいつがそうなのか。
俺は刀を拾い、アランを斬りつける。
「な!? 貴様なんのつもりだ!」
「カエデ様何を!?」
俺はその言葉を無視してココナを抱きかかえ、ゆっくりと歩いて行く。
「待て! どこに行くつもりだ! 憲兵奴を止めろ!」
「近づくな!!」
「ッ!?」
「カエデ様……?」
俺のその一言にこの場に居る人全員が止まる。
俺は敵意を剥き出しに、奴らに言った。
「それ以上近づけば、近づいてきた奴を殺す」
「カエデ様どうされたのですか!」
「アリア様、ここは見逃してもらえないでしょうか?」
「あ……ですが!」
しばらくの瞑目の後、アリア様は喉を鳴らした。
「五分です。それ以上はできません」
「アリア様!?」
「アラン、そして憲兵の皆様! 彼を五分間見逃しなさい!」
「しかしアリア様!」
「私の命令が聞けないのですか?」
「うッ」
驚いてしまった。
まさか、アリア様からあんな言葉が出るとは、しかもその言葉には重みがあった。
やはり俺と歳が変わらなくても、皇女なのだ。
俺とは違い、言葉一つの重みとプレッシャーが違う。
そして、アリア様だってわかっているんだ。ここでココナを――俺を見逃すことがどれほどの罪なのかを――
「カエデ様どうぞ、ココナさんを連れて行ってください」
俺は何も言わず歩き出す。
しかし心の中でアリア様に感謝の言葉を述べる。
☆☆☆
俺は町を抜けて森へと出る。
するとそこである人物と出会うことになる。
「こんばんわ。カエデさん」
「リリー」
リリーが何故かいた。まるで俺が来るのを待っていたかのように。
「何か用か?」
「先ほどの戦い拝見させてもらいました」
「見ていたのか?」
「はい」
一歩リリーが歩み寄る。
それに合わせて一歩下がる。
「あら? どうして下がるのですか?」
「リリーは何をするかわからないからな」
「だいぶ警戒されてますね」
まぁそのくらいの事を俺にしてきたからな。
警戒の一つや二つはする。
「そうですか――でも」
「な!?」
俺とリリーの距離は数えて十歩ほどあったのだが、一瞬で距離を詰められてしまう。
警戒もしていたし、目を一瞬も離してはいない。
「私と貴方の実力差では、いくら警戒しても無駄だと思いますよ?」
確かにそうだ。
しかしリリーのこの実力。
俺がもしこれほどの力を持っていたら、ココナを助ける事ができたのだろうか?
俺の中で何かが芽生え始める。
「ココナさん……惜しい人を亡くしました」
「お前は一体何者なんだ?」
「私ですか? そうですね、詳しくは言えないですが世界を恨む者です」
「世界を恨む者?」
「えぇ……私はこの世界を許さない。この世界は間違っているのです。どうですか? カエデさんも私と一緒に来ませんか?」
リリーは俺に手を伸ばす。
この手を掴めば俺はどうなるのだろうか?
わからない――だが、俺は伸ばされた手を掴む事はしない。
「悪いけど、リリーとは一緒に行けない」
「そうですか。残念です」
リリーはすんなりと諦めた。
「いたぞ!」
「あら?」
どうやら憲兵が追いかけてきたようだ。
あれから五分は確かに立っているが、こんなに早く俺を見つけるとは……流石と言うべきなのか。
「彼らはただの憲兵ではないですよ」
「え?」
パチンっとリリーは指を鳴らす。
「私はカエデさんとお話しているので、彼らを排除してください」
その言葉と同時に憲兵達の腕や足そして首などが宙を舞う。
そして先程までいなかったはずの人物が一人、屍の真ん中に立っていた。
その姿は、仮面にフードと見るからに怪しい姿だが、今の感じからしてアイツはリリーの仲間なのだろう。
リリー自身も化物級に強ければ、その仲間も、恐ろしいほどの実力というわけだな。
「さて、静かになりましたね? お話の続きをしましょうか」
「アイツはなんだ?」
「気にしなくてもいいですよ? そんな事よりカエデさんこれを」
そして先ほどから手に持っていた羊皮紙を俺に渡してくる。
「これは?」
「読んでみてください」
俺は言われた通りにノートを読み始める。
ペラペラと捲っていくうちに俺の表情は驚きに変わっていく。
「なん……だよ。これ」
そこに書かれていたこと、それはこの世界の”闇”だ。
ココナはとある貴族達の依頼で沢山の人を殺してきた。
それだけなら、まだわかる。
だが、『魔王』を復活させよとしている集団が居る? 何故人間だ世界を滅ぼそうとする魔王を復活させようとしている。
そして、魔王復活をワール・エンドゥも望んでいて、その為に必要な事がアリア様を殺す事?
「どうですか? それを読んでもまだ、私と一緒に行きたく無いとおっしゃりますか?」
この世界はこんなにも悪が蔓延っているというのか。
俺の中から芽生えたものが、黒く染まっていく。
ココナはアリア様と仲が良かったんだぞ。そんなココナにアリア様の暗殺を頼む――
許さない。俺はこの『信者』どもを絶対に許さない。
一人残らず殺してやる。
「……確かに、リリーと一緒に行くのは悪くないかもしれない」
「ええ、悪いようにはしませんよ?」
「だけど!」
リリーについていくことはできない。
「俺は一緒にはいかない。俺は俺のやり方でこの世界の悪を滅ぼす」
リリーは二コリと笑う。
「そうですか」
ドーンっと爆発音が鳴りそちらに目を向ける。
すると一ヶ所だけ燃えている所がある。
「あの場所は……」
確かココナの家があった場所だ。
「随分と派手にやりましたね」
「あれはお前が?」
「いいえ? 私は何もしていません。おそらく帝都の姫を殺すように命じた人の仕業でしょう」
「そうか……」
「ここでもし私がやったと、おしゃったらどうしていましたか?」
「殺す」
「良い目ですね。ではこちらを」
リリーはスカートのポケットから紙を一枚だす。。
「これは?」
「カエデさん。貴方は力が欲しいのでしょう? そこに行けば力を手に入れられます。まぁ険しい道のりでしょうが」
「信じていいのか?」
「信じるも信じないもカエデさん次第です。でも、強くなれる事は保証しますよ?」
「わかった」
「ありがとうございます。あ、それとそこには一人の老人がいらっしゃると思いますが、私の名前を出せば話を聞いてくれると思います」
「わかった」
そして、俺はゆっくりとリリーがくれた紙に書いている場所へと向かう。
俺はこの先何があろうと止まらない。
世界の悪を滅ぼすまでは……。
☆☆☆
「…………悪いな。ちゃんと墓を作ってあげられなくて」
血で服が汚れて洗った場所。
町からそれほど離れてはいないが、憲兵は来ない。
先程から何かが倒れる音が時々聞こえてくるため、リリーかリリーの仲間が見張ってくれているのだろう。
全くアイツは何がしたいのかわからない。
だが、今は感謝をする。
そして、リリーが何故ココナを欲しがっていたのか、今ならわかる。
ココナは世界を恨んでいた。
母を殺した魔族を恨み、信者である父を恨み。そして、母を殺した魔族の王。魔王を復活させようとしている人間を恨んでいた。
リリーは同じ考えを持つ人たちを集めているんだろう。
「魔王と信者」
俺は絶対に許さない。
ここに書かれている奴らは、今の俺では到底太刀打ちできないだろう。
だから俺は我慢する。いずれこいつらを殺す力を手に入れる、その時まで――




