0話 転生
ここは……何処だろう? いつの間にか知らない白い空間の中に立っていた。
キョロキョロと周りを見渡すが、扉が1つあるだけだ。
一体ここは何処なのだろう? それに、俺はさっきまで学校の帰り道を歩いていたはずだ、それから、それから――
あれ? 何故だろうか? 思い出せない。
必死に思い出そうとするが、やはり思い出せない。
「はじめまして」
後ろから綺麗で透き通った声が聞こえる。
その声に誘われるように振り向くと、そこには先程まで居なかったはずの一人の女性がいた。
見た目から判断すると、20代前半に見える。
白く華やかな服を着て、金色の少しウェーブがかかった長い髪、身長は大体160前後だろうか?
俺はその子を見た瞬間、とても神秘的な子だな――と思った。
「はじめまして……えっと、貴女は?」
「私ですか? 私は女神です。そして名はアテーナといいます」
女神? 何かの冗談だろうか? しかし、この子からは嘘を言っているようにも感じられない。だとしたら、本当に女神なのだろうか? だが、アテーナといえばゲームとかに良く出てくる女神様の名前だったよな?
「アテーナってあの?」
「はい。おそらく、上代楓さんがご想像している女神であっていると思いますよ?」
つまり、ゲームとかに出てくる女神アテナだと言う事か。
「つまりアテナ様?」
「はい!」
アテーナ様は可憐な微笑みを見せる。
その笑顔に俺は思わず見惚れてしまった。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。何でもないです」
「では、さっそくですが上代楓さん」
先ほども気になったが、俺の名前を知っているんだな。
女神様だし当然……なのか?
まぁ気がかりではあるが、女神様だから、と納得しておく事にした。
「アテーナ様」
「はい?」
「別に俺の事は楓と呼び捨てで良いですよ?」
「呼び捨ては……ちょっとあれなので、楓さんとお呼びしますね」
「はい。それで構いませんよ」
「では、楓さん。単刀直入に言います」
「はい」
真剣な顔をするアテーナ。
「あなたは、死んでしましました」
「はい――は?」
え? 今なんといった?
俺が死んだ?
嘘……だろ? だって、自分の体はしっかりある。こうして喋ることだってできているんだぞ?
なのに俺が死んでいる?
「驚いていますね」
「そりゃ、驚きますよ。俺が死んだなんて言われれば」
「そうですよね」
「それで、俺はなんで死んだんですか?」
「それは……」
アテーナ様は悲しい表情を見せる。
そして、静かに口を開いた。
「楓さんは一人の女の子を助けようとしました。そして、女の子を助ける事はできたのですが……」
そこで少し間を開け口を開き喉を鳴らす。
「楓さんはその時に車に轢かれて死んでしまったのです」
「そうなんです……か」
女の子は助けたが、車に轢かれて死んだ。
この言葉だけで想像するなら、その女の子は車に轢かれそうになっていた。そして、俺は助けようとして、そして、女の子を突き飛ばすか何かをしたのだろう。で、俺はその車を避ける事は出来ずに轢かれた。
今の説明ならこんなところだろう。
「それで、俺が死んだ理由はわかりました。しかし、俺はこれからどうしたらいいんですか?」
良く言われているの死んだら現世での行いに応じて、天国に行くか、地獄行くかを選ばれる。しかしそれを決めるのは確か閻魔様だ。
俺の目の前にいるのは閻魔様じゃない、女神様だ。
「それで、俺はこれからどうすればいいんですか?」
「そうですね……。楓さんには転生してもらいます」
転生? 転生とはアニメや、漫画に良くある死んだら別の世界に転生させるってやつだろうか?
だとしたら、一体どこに転生するのだろう?
「転生……あのそれって」
「はい。今の貴方が居た世界とは別の世界に転生してもらいます。そして、その転生する場所は貴方達の世界でも名前は聞いて事はあるのではないでしょうか?」
俺は頭を傾げながら、アテーナ様の言葉を待つ。
アテーナ様は喉を鳴らす。
「転生黙示録」
その名前を聞いて俺は驚きの顔になる。
転生黙示録――それは俺がハマっていたオンラインゲームの名前だ。
まさかここで、その名前を聞くことになるとは思っていもいなかった。
「それって――」
「ご存知ですよね? 実際にゲームをプレイしていたプレイヤーなのですから」
静かにうなずく。
転生黙示録。製作者不明の怪しいゲームだが、世界的に人気を誇っているオンラインゲームでもある。
「もしかして――」
「はい。ご想像通りです。楓さん貴方は転生黙示録の世界に転生してもらいます」
まさか転生黙示録の世界に転生することになるとは……。
確かに、好きなゲームに転生できるのは嬉しい、嬉しいのだが。
あの世界はファンタジーの世界だ。
魔物だって普通に蔓延っている世界。
少し怖い気持ちもある。
「ん?」
俺がしばらく黙っていると、アテーナ様が俺の顔をジッと見てる事に気が付く。
最初は俺が迷っているから待ってくれているのかとも思ったが――
しかし、よくよく見てみると彼女は顔は心配というよりも、何か申し訳ないという感じが伝わってくる顔をしてる。
何だろうと思っていると、静かにアテーナ様は口を開く。
「楓様は申し訳ありません、どうやら、もう時間切れの様です」
「は?」
俺はその言葉の意味を理解するよりも先にアテーナ様に突き飛ばされる。
突き飛ばされた俺は地面に倒れると思っていた。しかし、俺の後ろには先程まで遠くにあったはずの扉があった。
そしてそのまま吸い込まれるように扉を潜る。
「女神アテーナ貴様を拘束する!!」
扉を潜り、本来ある筈の地面が無い空間に落ちていく。中そんな男性の叫び声が聞こえる。
どんどん落ちいき。
どんどん扉が遠ざかる。
そして、俺はそんな扉を眺めている。
すると、アテーナ様が顔をのぞかせる。
涙を流し悲しい笑顔を見る。
そして、静かに口を動かす。
だが、俺にその言葉は届かない。
しかし、口の動きだけを見れば、こう言っていた様に思える。
ごめんなさい――と。
そこで、俺の意識が消え去る。
アテーナ様は涙で顔を濡らしながら、とても悲しい笑顔を見せ手を振っている。
それと同時に光が視界を遮り俺の意識もそこで途切れる。