表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/134

お仕事決定

いつもありがとうございます!(*^^*)


ご感想、評価、またしても沢山いただきました!

本当に感謝の言葉しかありません!(;ω;)


ブックマークをつけてくださった皆さまも

ありがとうございます!


おかげさまで、

日間ランキングが8位まで上がりました!

これも読んでくださる皆さまのおかげです!m(_ _)m


ということで、

感謝の2話投稿をさせてください!

 赤毛はよくいる髪色だが、シェイラほど鮮やかな薔薇色は珍しい。素性を隠すためにも最もシュタイツ国民に多い茶色のカツラをかぶることになった。

 わざわざカツラまで用意してくれるなんて、女の子を着飾らせたいというエイミーの欲求は本物らしい。

 長い髪は久しぶりだ。重いし、首の後ろが暑苦しい。短い髪に慣れてしまった今では鬱陶しいとさえ感じる。

 瞳の色は変えられないので、黒縁の伊達眼鏡をかけて印象を変える。エプロンドレスで姿見に映るのは、真面目そうな女の子だった。

「どうでしょう?」

「あら、とっても素敵よ。やっぱり女の子って可愛くていいわね~!もっと色んな格好をさせたいわ」

「え、遠慮しておきます」

 村の装束とは違い、王都の女の子は一般的にスカートを履くものらしい。足元がスースーして落ち着かない。ちょっと蹴りでも繰り出そうものなら下着が見えてしまいそうだ。

「攻撃力も防御力も低そうで、何だか不安になりますね……」

「オシャレには攻撃力も防御力も必要ないのよ。戦う女の子も格好いいと思うけれどね」

 シェイラの一人言を拾ったエイミーが、カツラを梳りながら困ったように笑った。溌剌とした印象をもっと抑えるために、顔の横で緩い三つ編みを作っているのだ。

「――――騎士を、目指しているの?」

 不意に落とされた質問に、頷くことも首を振ることもできなかった。既にエイミーに対して、嘘をつけない程度には親しみを感じている。それがなぜなのか、シェイラには分かっていた。

 ――この人、私が性別を偽って入学してることにも気付いてるはずなのに、一度だって責めたりしない…………。

 エイミー自身同類であるためかもしれないが、愚かだと承知している真似を否定されないのは、とても救われる。

 鏡越しに見える彼女の表情にも責める色はなく、あくまで穏やかだった。シェイラには兄しかいないけれど、姉がいたらこんな感じなのかもしれない。

「昔はね、騎士団に所属する女性もいたのよ。でもあくまで下働きや補佐っていう役職で、『騎士』という称号は、誰ももらえなかった。どれだけ武功をあげてもね」

 彼女の言葉で頭に浮かんだのは、クローシェザードの母親の名前だった。ミラ⋅ノルシュタインは騎士団長の補佐官という役職に就いていたのに、騎士とは明記されていなかった。それがこの国の慣例だからだ。

「はい、完成よ」

 エイミーが櫛を置いた。

 鏡に映るおさげ髪のシェイラは別人のような仕上がりだった。特徴的な瞳の強さは眼鏡で隠され、一見すると大人しそうな少女にしか見えない。

 シェイラの頬を撫でながら、エイミーは満足げに微笑んだ。

「面白そうじゃない。あなた、国に認められた初の女性騎士になっちゃいなさいよ」

 背中を押す彼女の一言が決め手となり、シェイラはここで働こうと思った。


  ◇ ◆ ◇


 かくして、シェイラの忙しい日々に労働が加わった。

 元々王都には週に一回ほど遊びに来ていたので、その時間は薬店勤務に充てられた。

 補習の時間も減っていたし、教員室での書類整理も補習に伴い少なくなったままだったので、週に三、四回は薬店に行っていた。

 頼まれたよりもこまめに顔を出しているのは、村にいる時からの趣味だった調薬が楽しくて仕方なかったからだ。薬を作っている間は、村で過ごした日々や両親のことを思い出せる。

 もちろん勉強をおろそかにする訳にはいかないので、日参することはできなかったが。

 勤務を始めて二週間。

 真面目で薬に詳しい新人のシェイラとして、最近は常連客とも顔見知りになっている。

 ややこしいことは苦手なので偽名は使っていない。魔法が身近に存在する学院の生徒が薬店を訪れる可能性は低いので、そこまで警戒する必要はないと考えていた。

 傷みの激しい扉が、今日も少々不気味な音を立てて開いた。

「いらっしゃいませ。――――あ、トマスさん」

「やぁこんにちは、シェイラちゃん」

 常連、というよりもエイミーとだべっていることの多い老爺トマスは、孫でも見守るように目を細めた。

「女の子が増えてよかったねぇ。外観は大層怪しいけど、パッと空気が華やぐようだよ」

「あら、随分な言い草じゃありません?女一人で切り盛りしているんだから、行き届かないところがあっても仕方ないでしょう?そんなに言うならトマスさんが補修をしてくださればいいんだわ」

 流石常連といったところで、トマスは低い声で拗ねるエイミーにも慣れたものだった。

「すまんすまん。この老いぼれに酷なことを言わんでおくれ」

「そうですね。腰にも負担がかかりそうですし、私は反対です」

 シェイラが真剣に口を挟むと、二人は同時に吹き出した。冗談だったのだ。

 分かっているのに、何度も二人の掛け合いにのせられてしまう。からかわれるたびにもう絶対口出ししないといつも心に誓っているのに。

 シェイラはトマスのための、腰痛に効く薬作りに専念することにした。

 腰痛にも原因は色々あるが、彼の場合加齢が主な理由に挙げられる。なので必要な材料は、ジオウ、サンシュユ、サンヤク、タクシャ、ブクリョウ、ボタンピ。トマスは手足が火照りやすいため、ケイヒとブシを除いて作った方が体質に合っている。

 慣れた様子で作業を進めるシェイラを、窓辺のテーブルに腰掛けたエイミーとトマスが温かく見守っていた。

 完成した薬を服用分ごとに包んでいると、再び扉が開く音がした。裏路地にひっそりと佇む店なのに、ここは意外に客足が多かったりする。

 年の頃は二十代半ばくらいだろうか、優しそうな垂れ目の青年だった。

「いらっしゃいませ、初めてですか?」

「あら、ノーマンさん。どうかなさったの?」

 エイミーもすぐに立ち上がる。どうやら初めての来店ではないらしい。

 ノーマンという青年は、シェイラの存在に驚いて店先で立ち止まった。ずっと目を合わせたままの彼に、シェイラは目を瞬かせる。

「シェイラちゃん、彼はノーマンさん。ガラス職人さんなのよ。前回は仕事中の火傷で来店されたの」

「そうなんですか。初めましてノーマンさん、私はシェイラと申します。今日はどうされたんですか?」

 家名は名乗らずに一礼すると、ノーマンはようやく我に返った。慌ててドアノブから手を離すものだから、内側に閉じる扉に頭をぶつけてしまった。

「大丈夫ですか!?」

 シェイラは慌てて駆け寄ると、彼の後頭部に手を当てた。ノーマンが真っ赤になって硬直してしまったため、ますます心配になる。

「痛みはどうですか?出血はなさそうですが、かなり鈍い音がしましたし、医者に行った方がいいかもしれません」

「だ、大丈夫です!この通り、元気です!頑丈だけが取り柄ですので!」

 すっくと立ち上がったノーマンは、真っ赤な顔のままクルリと背中を向けて扉から飛び出していく。

 取り残されたシェイラは呆然とした。何だかこれまた、酷い既視感だ。

「……あの、薬は…………」

 薬店に来たからには、何か用があったはずなのに。

 猛然と駆け去っていくノーマンの背中が、あっという間に人混みに紛れていく。それを見つめながら、シェイラはこてりと首を傾げた。

 すると、背後からクスクスと笑い声が漏れ聞こえた。

 振り向くと、エイミーとトマスが楽しくて仕方ないとばかりに笑っている。

「……どこかにそんな面白いことがありましたか?」

「フフ……、だってもう、ねぇ?」

「あぁ、青春じゃのう」

 何が青春なのかさっぱり分からなかったが、二人の大人は笑い続けるばかりだ。

 やがてエイミーが、面に笑みを残したまま席を立つ。何をするのかと思えば、おもむろにシェイラを抱き締めた。彼女の髪は甘い花の香りがする。

「やっぱり女の子って可愛いわぁ~!私にも産めたらいいのに!」

 エイミーがなぜそう感じたのかはやっぱり分からなかったが、短い間にも母性溢れる姿を見てきたシェイラは、彼女の願いが本当に叶えば素敵だと思った。

 そこまで考えてハッとする。彼女の目に敵う男らしい女性がいれば、全ては丸く収まるのではないだろうか。

「どこかにきっと、エイミーさんのよさを分かってくれる、男装の女性がいるかもしれませんね」

「そうね、私諦めないわ。ありがとうシェイラちゃん」

 言いながら、二人ははたと顔を見合わせる。男装している人物に、お互いものすごく心当たりがあった。

 エイミーが逃がさないとばかり、シェイラの両手をがっしと握った。

「シェイラちゃん!そうよ、これって運命なんだわ!うふっ、念願の我が子をこの手に抱けるなんて夢みたい!そうと決まればサクッと結婚よ~!」

「ちょ、何一つ決まってませんって」

 人生初の求婚は、紙よりも軽かった。感情が伴っていない分、子ども同士の口約束より圧倒的に軽い。

 感動も何も抱けるはずもなく、シェイラは興奮気味の上司を宥めた。

「エイミーさん暴走しすぎですっ。私はやむを得ず男装してるだけで、決してそういう趣味はないですからっ」

 肩を押して距離を取ると、間近にある緋色の瞳がすぐに潤んだ。

「私のこと、嫌い?」

「す、好きですけど……」

「やぁんありがとう!私もあなたが大好きよ!これで万事解決ね!」

「そういう意味の好きでは、」

 シェイラは再び抱き潰された。エイミーは身長があるため、詰め物の入った胸に押し付けられ、危うく窒息しそうになる。実際問題腕力では敵わないので、逃れることもできない。

「理想は女の子、女の子、男の子の順番ね!シェイラちゃん、私があなたを幸せにしてあげる!」

 頬に口付けを落とされながら、シェイラは遠い目になった。

「男女が逆転してるような気が…………あれ?でもその台詞は正しいのかな」

 最早否定し続ける気力もない。

 悪ノリしたトマスが祝福の拍手を送る姿を、シェイラは恨めしげに見つめた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ