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宣戦布告

お久しぶりになります!

お読みいただき、

本当にありがとうございます!(*^^*)


『親愛なるシェイラ


 あなたからの手紙、無事受け取りました。

 元気でいるだろうと思っていたけれど、とても安心しました。

 あなたは気が利かない子だから、どうせフェリクス辺りの入れ知恵かしらね?

 とにかく、寂しくて泣き暮らしていた父さんにとってはいい薬になったようです。手作りの額に入れて飾ってあるから、帰省しても驚かないよう覚悟しておきなさい。

 騎士になると言い出した時にしても、薬草茶の製造方法の件にしても、あなたは突拍子がなくていつもハラハラさせられます。

 けれど、いつだって何かに向かって全力で突き進んでいるのよね。

 父さんも母さんも、そんなあなたを誇りに思っています。

 でも、どうしても辛くなったら、帰っていらっしゃい。私達は、いつでもあなたの味方よ。

                   タニア』


 先日フェリクスから預かった母からの手紙を、シェイラは自室で読み返していた。

 デナン村には、字を書ける者がほとんどいない。おそらく村長辺りに代筆を頼んだのだろう。

 愛情が込められた手紙を、そっと抱き締める。ただの紙なのに温かくさえ感じるから不思議だ。

「ありがとう。父さん、母さん」

 家族の確かな優しさがあるから、きっとこれからも頑張れる。


   ◇ ◆ ◇


 ついに冬の三の月に突入した。

 一時期はシェイラの身辺も慌ただしかったものの、魔物襲撃から三週間以上が経った今、変わらない日常を過ごせている。

 毎日のしごきに補習、ヨルンヴェルナの実験、薬草茶の大量生産についての相談。

 それらも、王都に激震が走った魔物の襲撃や王城への招聘に比べれば、何もかもが穏やかと言えた。

 現在もシェイラは、執務に追われるクローシェザードをいつものように手伝っている。

 彼はあれからも何度か登城の要請を受けているようだが、その内容について話すことはない。

 まだまだ、頼れる存在になるには程遠いようだ。

「そういえば、王太子殿下の第一子、無事に誕生したらしいですね。街もお祭り騒ぎでしたよ」

「そのようだな。相当ずれ込んでしまったが、今月の半ば辺りには新年の挨拶と共にパーティが行われるだろう」

 もうすぐ春だというのに、ようやく新年の祝賀会とは。振り回される参加者達も大変だ。

「ヨルンヴェルナ先生も珍しく参加するって言ってましたから、クローシェザード先生もきっと行くんでしょうね?」

「奴を基準にされると不快なんだが。というか、最近あの男とやたら親しげだな?」

「それこそ嫌な誤解ですね」

 顔を引きつらせるも、食事中さえ離れようとしないヨルンヴェルナにはシェイラも戸惑っていた。

 変態属性に加えてワンコ属性とか、色々盛り込みすぎだろう。

 何とか新学期が始まる前に距離感が戻ればと思っていたが、むしろ密着度が増しただけだった。友人らに目撃されたらドン引き必至だ。

 書類の整理が一段落したシェイラは、現実逃避もかねて熱い紅茶を淹れることにした。

 絨毯や掛け布で冷気はしのいでいるものの、石造りの教員棟は未だに底冷えする。

「いやいや。お二人の仲のよさに、私ごときが敵うわけないですよ」

「ヨルンヴェルナとはただの腐れ縁だと、何度言ったら分かるのだ」

「そうは言っても、先生が名前で呼ぶ相手なんてあの人くらいじゃないですか?」

 彼の前にティカップを置いてから席に戻る。

 シェイラは少し冷まして、熱い紅茶を流し込んだ。相変わらず苦さは感じるけれどストレートでも平気になった。

 ホッと一息ついてから、ふと顔を上げる。

「あ。でも魔物と戦ってる時、私のこと何回か名前で呼んでくれましたよね。いつも『シェイラ・ダナウ』なのに」

 戦闘時だったので言及できなかったが、実はずっと気になっていた。

 クローシェザードは書面から顔すら上げない。

 だが一瞬手が止まったのは、気のせいだろうか。

 彼は浅く息をつくと、ペンを手離した。そしてゆっくり紅茶に口を付ける。

 シェイラはこの機会に、改めてクローシェザードと向き合うことにした。

 手伝いをしている時以外で、都合よく二人きりになれる場所はほぼない。

 それに、先日イザークから勇気をもらった。彼の強さに、潔さに、負けたくないと思った。

 ぐっと、膝の上でこぶしを握る。

「――クローシェ様。よかったら、先日の告白、やり直させてくれませんか?」

「ッ、ゴホッッ!」

 わりと真剣に告げたのだが、なぜか思いきり紅茶を噴かれた。

 シェイラは心配よりもまず、戦慄した。あのクローシェザードが、紅茶を噴いてむせている。

 鉄壁の無表情がこんなことで崩れるとは思っていなかったので、ひたすら驚愕するしかない。

 咳が次第に落ち着いてきても、目の前の出来事が信じられなかった。

「……君は、恐ろしいことを言うな」

 クローシェザードが、ようやく言葉を発する。

 孔雀石色の瞳は、本気の殺気を伴いシェイラを射抜いていた。

 さすがに申し訳なさを感じて、ぎこちなく視線を逸らしながら唇を尖らせる。

「だって、あの時は勢いで言っちゃいましたから。時間がないから全部は伝えきれませんでしたし」

「……あれ以上が、あるのか」

「好きなところならいくらでも垂れ流せますが、聞きたいですか?」

「結構だ。というか、垂れ流すなどという言い方だと、情緒も何もあったものではないな」

 紅茶を噴き出した人に言われたくない、と思ったが、口にしないのは我ながら賢明だった。

 誰のせいだとネチネチお説教が始まれば、せっかく勇気を出したのに台無しだ。

 先ほどからずっと、心臓が存在を主張している。口を開けば飛び出してしまいそうだ。

 けれど平静を装って、深く息を吸い込んだ。

「私は、あなたが好きです。あなたの強さも弱さも、全てが愛おしいし、護りたいと思う」

「……垂れ流さないのではなかったか」

「これは告白のやり直しですから、別問題です」

 これ以上茶化すなという意味合いを込め軽く睨むと、彼は圧されたように口を噤んだ。

 シェイラは細く息を吐き、再び顔を上げた。

「けれど、付き合ってほしいとは、望んでません」

 そもそも付き合ってもらえると思っていない。

 今までクローシェザードと過ごした時間を冷静に思い返してみても、女として好かれる要素はどこにもなかった。控えめにみて野生動物だ。

 クローシェザードは何も言わないし、少しも表情を変えない。

 それをいいことに、思うまま言葉を紡いだ。

「知っていてほしかっただけです。身分や容姿なんか関係なく、ただのあなたを慕う人間がいることを。あなたの幸せを、誰より願っていることを」

 彼に好きになってもらえれば、それは幸せだろうと思う。けれどそんな未来は想像すら及ばない。

 だから、ただ願うだけ。

 シェイラは黄燈色の瞳を柔らかく細めた。

「というわけで、とりあえず返事を聞かせてもらえませんか? でないと前に進めそうにないんで」

 孔雀石色の瞳が、シェイラを捉えた。

 彼の静かな眼差しが好きだ。心の奥底から澄んでいくようで、とても心地いい。

 嘘も雑じり気もない色。だから彼は絶対に誤魔化さないだろう。

 クローシェザードは一度だけ瞑目した。

 その一瞬、白銀の睫毛にかげった瞳に、強い感情がひらめいたように見えた。

 しかし再び上げられた顔には、いつもの無表情があるばかり。

「私は――おそらく人を好きになれない。これから先も、ずっと」

 シェイラだから駄目、ではなく、誰であろうと好きにならないと。

 クローシェザードが優しさのためだけに方便を使ったとは思えない。

 だとしたらそれは、とても悲しいことだった。幸せになる気がないと宣言したも同然だから。

 愛する人がいると告げられた方が、悲しくて苦しくてもまだ救いがあっただろう。

 彼が幸せから逃げようとするなら、今はまだそれでもいい。これからも側にいて、全力で引き上げればいいだけのこと。

 シェイラはさっぱりと笑った。

「これでスッキリしました。ではこれからも、改めて頑張りますね」

「…………は?」

 クローシェザードが、初めて怪訝そうに顔を歪めた。理解できない生き物を見る目付きには、告白の余韻が微塵もない。

「ふられるのは想定内ですけど、諦めるために告白したわけじゃないですよ。私この先、どんどんいい女になっていく予定ですから。クローシェ様、覚悟してくださいね」

 呆れきったのか、クローシェザードは脱力しながら息を吐く。シェイラはますます笑みを深めた。

 これはただの告白じゃない。

 言うなれば、そう――――宣戦布告だ。


   ◇ ◆ ◇


 広い稽古場は、雪がすっかり溶けていた。

 もうすぐ新学期が始まる。きっと話題は、魔物の襲撃で持ちきりだろう。

 けれどシェイラの心は、風のない湖面のように静かだった。

 研ぎ澄まされていく心のままに剣を振るう。

 玉となって飛び散る汗の軌道すら追えるほどに、意識が冴え渡っている。

 これまで漠然と追っていた背中だが、今は肩を並べて同じものが見たいと思うようになっていた。

 そのためには、もっと。

 もっと貪欲に強さを求めていかねばならない。

 不意に、イザークの顔が甦った。

『黒髪眼鏡のシェイラ』と出会ったばかりの頃、彼は腑抜けていたと言ってもよかった。けれど先日真正面から想いをぶつけた彼は、誰より強く見えた。

 人の想いは強く、重たい。

 心は傷付きたくなくて、時に弱くなる。

 けれどきっと何よりもしぶとく、強靭だ。

 だからシェイラも、何度でも立ち向かおう。この想いに命を燃やそう。ただ一人を目がけて。

 舞う鳥のように、猛る獣のように。

 がむしゃらに振り続けていた剣を、中空へと突き付ける。切っ先の向こうには皓々と輝く満月。

 あの月に誓う。

 ――私は、恋で強くなる。



お察しの方もいらっしゃるかと思いますが、

『男装少女は騎士を目指す!』はこれにて一旦完結となります!


続きを書くかは未定、つまりエタッたも同然ですね。(^_^;)

楽しみにしていた方には、

伏線を回収しきれなくて申し訳ございませんと言う他ありません。

長いお話にお付き合いいただき、ありがとうございました!


執筆中の他作品、

『悪役令嬢? いいえ、極悪令嬢ですわ』が書籍化されます!

よろしければチェックしてみてください!


……と、いかにも反感を買いそうな宣伝を

大変失礼いたしました!


ではでは改めまして、

本当に本当にありがとうございました!

m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 少しずつ成長していくシェイラがとても読んでいてとても面白かったです!ありがとうございました。
[一言] うわぁ、気になる終わり方ですね^^; できれば続きもみたいですけど無理せず頑張ってください!! とても面白かったです!楽しみにしています!!
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