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登城

いつもありがとうございます!(*^^*)

 ファリル神国との国境を護る警備団には負傷者も多いらしいが、治癒師の活躍で今は回復に向かっているという。

 現在、国境警備団本拠地であるイシュラス城塞は、被害状況の把握や復旧作業で忙しいらしい。

 十五メートル級のドラゴンを含む、災害規模の魔物襲撃であったにもかかわらず死者が出なかったのは――まさに奇跡。


   ◇ ◆ ◇


 新年の祝いと間を空けず行われるはずだった成人の儀は、しばらく延期になるとのことだった。

 皇太子殿下の第一子が生まれる機会に同時に行うことも検討されていると専らの噂だ。

 シェイラは自室で制服に袖を通しながら、ため息をついた。冬期休暇中だったこともあり、この格好も久しぶりだ。

「昨日の今日で呼び出しとか、鬼畜すぎる……」

 王都防衛の死闘を終えた翌日だというのに、シェイラは王城から招聘されていた。

 クローシェザードいわく、労いという名の報告会のようなものらしいが、正直平民には荷が重い。何と、国王陛下に目通りするというのだ。

 シェイラの他にもクローシェザードやヨルンヴェルナ、レイディルーンも一緒なので、口を開く必要はないと言い含められているが、それでもさすがに緊張する。

 そして本気で労う気があるなら休息が欲しい。

 ――まだ、コディ達とも話せてないのにな……。

 登城の要請もあり慌ただしかったため、未だに話す機会を作れていない。そのこともシェイラの足取りを重くする要因だ。

 姿見の前でおかしなところがないか確認すると、もう一度ため息をついてから部屋を出た。

 待ち合わせていた談話室には、既にクローシェザードとヨルンヴェルナが揃っていた。レイディルーンは帰省中なので、今日は城での合流となる。

「すいません、お待たせしました」

 シェイラが慌てて頭を下げると、ヨルンヴェルナが気にしなくていいと首を振った。

「おはよう、シェイラ君。心配しなくてもちゃんと時間ぴったりだよ。王城からの呼び出しを受けていながら時間通りに動く君の度胸は、本当にさすがとしか言いようがないよねぇ」

「出会い頭の皮肉はやめてくださいよ、一応これでも緊張してるんですから」

「そうは見えないから言っているのだけれどね」

 ヨルンヴェルナの苦笑を受けながら歩き出す。

 二人も今日は正装をしていて、寒がりのヨルンヴェルナがモコモコと着込んでいないのは久々だ。

 鮮やかな青のサーコートに濃紺のベスト、腰には鈍い金色のサッシュを幾重にも巻いている。ピカピカに磨き上げられた黒のブーツは、あの雑然とした研究室のどこに隠していたのか。

 普段の彼からは考えられないほど貴族らしい姿に新鮮さを感じるけれど、やはりシェイラの目を奪うのはクローシェザードだ。

 王家の紋章が入った騎士団の鎧が白銀なら、剣帯に下がる剣も白銀。白に近い銀髪と相まって、厳しい冬のように凛然としている。

 唯一腰回りにのみ緋色が飾られており、彼の芸術的な美しさに彩りを添えていた。

 久々に見る近衛騎士団の正装は、恋心を自覚したシェイラには眩しすぎる。顔が赤くなってしまいそうで直視できない。

 どちらにしても、まともな服が制服しかないシェイラとは比べようもないほど立派な二人だ。

 すっかり圧倒されてしまい、気後れしながら少し後ろを歩く。

 玄関を出ると、迎えの馬車が用意されていた。

 席順も悩ましい問題だったが、シェイラはクローシェザードの斜向かいを選んだ。

 ゆっくりと動き出す馬車の外は、すぐに城下町の景色に変わる。いつも通りの活気ある光景に笑みがこぼれた。

 王城行きは憂鬱でしかないが、この景色を護れたことに後悔はない。

「はぁ。あの場にいなかったことにできてれば、ゆっくり休めたのに」

 車窓を眺めながらの呟きに、クローシェザードが嘆息した。

「仕方あるまい。あの警備団員の男が、君のことを証言してしまったのだから」

「そうなんですよねぇ」

 シェイラはガックリと項垂れた。

 報せを持って駆けてきた国境警備団員は、功を労う意味も込めて現在城で養生中だ。王城側は彼の口から戦いに参加した者を既に聞き出しているようで、今回は名指しでの招聘だった。

 警備団員的には、学生といえど活躍した者は称えられるべきという純然な厚意からの証言なのだろう。けれど色々やらかしてしまった人間からすれば、その気遣いが逆に辛かった。

 ドラゴンを討伐したのがシェイラだということは、報告しない方向で意見が一致している。

 精霊術を使えることも、神術とも呼ぶべき力を発揮してしまったことも、大問題になるのは目に見えているからだ。

 シェイラの失言を懸念して、最低限の発言しかさせないということも事前の口裏合わせで決定していた。見くびられ感がえげつないが、助けてもらえるのなら文句はない。

「とにかく君は失礼にあたらないよう、態度にだけ気を付けていればいい。あとは私達で何とかする」

「はい。本当に心から頼りにしてます」

 クローシェザードに頭を下げると、シェイラは隣を気にした。

 視線に気付いたヨルンヴェルナが首を傾げる。

「どうかした?」

「いや……今までのヨルンヴェルナ先生ならこういう時、人の足元を見るように嬉々として実験を迫ってきたなぁ、と」

「それ、言ったら墓穴になるのではない?」

 弱みを握られたらとんでもないことになるのは、身をもって知っている。ビクビクするシェイラだったが、彼は優しく笑うばかりだ。

 なぜだか、ヨルンヴェルナの雰囲気が劇的にまろやかになった気がする。そういえば、研究室に籠りきりでご飯の時しか姿を現さないような生態だったのに、昨日はずっと側にいたような。

 冷酷さを隠していた紺碧の瞳も、どこか温かであるようにさえ感じられる。今も、シェイラを間近から見下ろす双眸は柔らかく細められていた。

「実験体になれなんて、これからは言わないよ。君に死んでほしくないからね」

 ヨルンヴェルナが、薔薇色の髪を梳るように撫でる。感触が楽しいらしくいつまでも離れていかないので、シェイラは半眼になって指先を押しやった。

「死ぬ危険があるような実験なら、始めからやらないでくださいよ」

「うん。君には、絶対しない」

「この場合やめてほしいのは危険な実験の方なんですけど、全然分かってないですよね。あと『君には』を強調されると、逆に不安になりますから」

 とても和やかとは言えない会話を弾ませながら、馬車は城へと向かっていく。

 その間、クローシェザードはむっつりと黙り込んでいた。



 城下にいても、高台に建っている王城を眺めることはできる。

 けれどここまで近付いて見るのは初めてだった。

「スゴい……」

 フェリクスの屋敷やシュタイツ学院を初めて目の当たりにした時も驚いたが、王城は規模が違った。

 空を突く白亜の尖塔は目映く荘厳。床材の大理石は陽光を吸い込み、内側から柔らかな光が滲んでいるようだった。円柱や石段一つ一つには精緻な彫刻が施され、職人達の気概が窺える。

 馬車を降りた先では、レイディルーンが腕を組んで待ち構えていた。

 貴族らしい深い紫のサーコートを身に着けた姿からは、昨日の疲れなど感じられない。

「レイディルーン先輩、昨日ぶりです」

「おはよう、シェイラ。よく眠れたか?」

 気遣わしげな視線に、シェイラは笑顔を返した。

「眠れすぎて、寝坊しちゃいそうなくらいですよ」

「よかった。いや、寝坊はよくないが」

 レイディルーンはかすかに苦笑を刻んだ。

 シェイラ達は、騎士の先導を受けて謁見の間へと静かに歩き始めた。もうここは相手の領域。安易な失言は許されない。

 中央のアーチをくぐると、深紅の絨毯が敷かれた回廊の両端に巨大な石膏像が幾つも飾られていた。様々な男女の姿は、ファリル神教の神々だろうか。

 本来なら感動する場面なのだろうが、思うところのあるシェイラにはのん気に眺める余裕がない。

 ――こんな後ろめたい気持ちで城に上がることになるなんて、思わなかったな……。

 アスタルトゥテの石膏像があったら動揺してしまいそうだと考えながら、長い回廊を抜けた。

 しばらく曲がりくねった道を進む。警護の観点からなのだろう、とても覚えきれない道順だった。

 そして、ようやく謁見の間にたどり着く。

「クローシェザード様御一行、入室致します」

 謁見の間の前に立つ衛兵が、声を張り上げる。

 鷹と剣の王紋が施された扉が、重々しい音を立てて開いていく。

 そして、シェイラの初めての謁見が始まった。





また新作を書き始めました。(*^^*)

次は恋愛ファンタジーで、

書いてみたかった悪役令嬢ものになります。

王道とは少し異なりますが、

興味がありましたらぜひよろしくお願いします!

m(_ _)m


タイトルは、

『悪役令嬢? いいえ、極悪令嬢です。』

です!


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