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男装少女は騎士を目指す!  作者: 浅名ゆうな
第一章

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実力テスト開始

 一応治癒魔法はあるが、あくまでこれは授業の一貫だ。

 あまり酷い怪我をされても治癒室の者に迷惑だろうということで、攻撃は寸止め、峰打ちにとどめ、出血は最小限に抑える。

 戦意喪失した場合は『参った』と宣言すること。宣言した者に対し、更に攻撃を加えた場合はその者が失格になること。クローシェザードは分かりやすくルールを説明していく。

「対戦の順番は、丸印の下に記入されている通りだ。人数が多いため、一度に20試合を行う。審判は六年生と五年生の生徒達で手分けするように。君達は何度も試合を経験しているから、審判をやったこともあるだろう。下級生も他人事だと思わず、今後のためにやり方をよく見ておくように。それから、一試合の制限時間は30分とする。それまでに決着がつかなかった場合は命中率などを加味した判定になる。――――ここまでで質問のある者」

 クローシェザードの説明に、サッと手を上げたのはレイディルーンだった。

「審判役を生徒が務めることに異論はありません。ですが、庶民を使うのは問題があると思います。もし判定を不服に思った貴族に圧力をかけられれば、庶民は逆らえないと思います」

 一番に圧力をかけそうな顔をして、意外と公正な発言をすることにシェイラは驚きを隠せなかった。平民を軽んじてはいるものの、騎士としての誇りに身分は関係ないと言ったところか。

「もしも審判に圧力をかけた場合、その者は即刻敗北とする。審判をする生徒は、圧力をかけられたと思った時点で私に申告するように。もちろん私も試合を見て回るので、不正を行う現場に行き合ったら、試合を中断させよう」

「我々は、集団生活をしています。これから先の学園生活のために、圧力があると申告できない生徒が出てくるかもしれません」

 レイディルーンが食い下がる。しばらく彼をじっと見つめていたかと思うと、クローシェザードはニヤリと笑った。あの、一癖ありそうな悪辣な笑みだ。

「確かにその可能性はある。けれど君達は、騎士を志す者だ。騎士道の精神は理解しているものと思っている。我々が成すべきは、己の誇りに恥じない戦いをすること。そうではないか?」

 何人もの生徒がハッとして背筋を伸ばす。

 騎士とは、ただ戦う術を持った者ではない。その行い全てが高潔で在らねばならず、それが集約されるからこそ、誇りを胸に戦いに赴けるのだ。

 生徒達の目の色が変わった。コディに至っては目に涙さえ溜まっている。シェイラだけは、ものすごく微妙な気持ちでそれを眺めていた。彼が巧みな話術で不正を未然に防いだことに、一体何人が気付いただろうか。気付いたとしても、クローシェザードの崇高な信念という奴に感動して言葉もないのかもしれない。おそらくこの教官は今現在、内心ほくそ笑んでいることだろうに。

「他に質問のある者は?」

 今度はシェイラが挙手をした。若干嫌そうにクローシェザードが発言を許可する。

「お昼休憩は、いつになりますか?」

 なぜか全員が一気に脱力した。クローシェザードは、『ホラやっぱり』と言わんばかりに首を振っていた。

「大事なことです!腹ごなしにかかる時間も考えないといけませんから!」

 シェイラが正当性を主張しても、目の色を変える者は誰一人としていなかった。

「昼休憩は寮の食堂が開く11時からの二時間だ。試合でいうと、第四試合と第五試合の間になる」

「分かりました。ありがとうございます」

 シェイラは第二試合と第六試合、最後の第九試合の三回なので、余裕を持って腹ごなしをすればいつも通り食べても大丈夫そうだ。満足げに笑うシェイラを、コディとゼクスが呆れて見下ろしていた。

「他に質問は――――」

「はい!」

「…………シェイラ⋅ダナウ」

「応援はしてもいいですか?騒いではいけないですか?」

 今度の質問は問題なかったようで、クローシェザードは頷いた。

「真っ当な質問もできるようだな。どんな状況でも戦える術を身に付けなければならないため、外野の声に集中できないというのは言い訳にならない。よって応援は許可する」

「はいっ!」

「これ以上の質問はないようだな。――――ではこれより、実力テストを開始する。第一試合に出場する者は、指定されたフィールドに移動しなさい」

 クローシェザードが手を打つと、全員が一斉に動き出す。

「確かコディは第一試合からだよね。応援に行ってもいい?」

「もちろんだよ。ありがとう、頑張るよ」

 コディはしっかり頷き返してくれた。今朝までの緊張で参っていた姿は、欠片も見受けられなかった。



 ゼクスは見たい試合があるということで、別行動になった。

 コディの相手は同級生だった。一緒に学んでいる平民の一人、バート⋅レストン。特待生だけあって、ゼクスと並んで技量が目立つ少年だった。

 二人が向き合って定位置につく。しばらくすると、拡声の魔道具を手にしたクローシェザードの声が、一帯に響き渡った。

「第一試合――――――開始!」

 二人は同時に後方へ飛んだ。似たような形の剣を構える。長さはバートの剣の方があるため、間合いでは有利か。

 けれどシェイラがそう考えたのも一瞬だった。コディが何やら呪文を唱えると、バートに向かって雷が落ちたのだ。

「そうか。魔法があるから、剣の間合いなんて関係ないんだ……」

 授業では剣の練習しかしていなかったので、魔術をどんなふうに戦いに組み込むのか知らなかった。ましてや、試合形式での打ち合いも初めて見る。

 シェイラは想像以上の戦闘に目を輝かせた。

 コディが連続で雷を落とす。バートは避けるので精一杯で前に出られない。その表情にはやや焦りが見える。

 雷魔法を連発していたから、避けさえすればいいとバートは少し油断していたようだ。避け続けていた彼が、ガクリとバランスを崩した。

「何!?」

 バートの顔に驚愕が広がる。彼の足元には、いつの間にか深い穴が開いていた。

 そういえば、バートは避けるのに集中していたから気付いていなかったが、コディは雷魔法を使う傍ら一度だけ地面に触れていた。あれで、地面を操ったのだろうか。雷魔法でバートを攻撃していると見せかけて、その実誘導していたのか。

 相手が体勢を崩した好機を見逃すほど間抜けじゃない。コディがすかさず間合いを詰めた。

「ハァッ!!」

「くっ、」

 バートも片膝が地面に着いた形で何とか応戦する。けれど形勢の不利を立て直せず、遂に首筋に剣先を突き付けられた。

「…………参った」

 荒い息の合間に、バートが敗北を宣言した。魔法に翻弄され続けたため、額にも汗がにじんでいた。

 コディは一つ息をつき、バートに手を差し出した。その手を取ってバートが立ち上がる。

 比較的運動量の少なかったコディが、疲れの見えない足取りでシェイラに近付いてきた。

「コディ、やったね!」

「うん。何とか勝てたってところだけどね」

「そんなことないよ!見入っちゃって応援なんか忘れてたくらい!」

「そーだそーだ。謙遜されると敗けた俺が惨めだろーが」

 コディの後に続いて、バートも場外に出てきた。

「バートもお疲れさま!いい試合だったよ、カッコよかった!」

「ソッコーで敗けたけどな」

「それでもスゴかったよ!授業の時も思ってたけど、バートの剣はスゴく速いよね!それにあの体勢で、あそこまでの剣さばきができるなんて信じられなかった!」

 いかに格好よかったかを一生懸命説明すると、本気が伝わったのか、バートは満更でもなさそうにはにかんだ。

「まぁ、いい勉強になったよ。魔法が使えるってだけなら、そんな驚異じゃないんだよなー。ちゃんとお前みたいに戦術に組み込むから、強いんだ」

 バートがコディの肩を叩いた。コディは嬉しそうだけれど、曖昧な笑みを浮かべた。

「僕は魔力が少ないから、こうやって戦うしかないってだけだよ。魔力が多ければ、もっと圧倒的なんだから」

 そう言ってコディが視線を向けたのは、レイディルーンの戦いだった。フィールドを覆うような竜巻を前に、対戦相手が尻餅をついて降参するところだった。

「……ありゃ、規格外だろー。それに大魔法だと、それだけ呪文が長くなるんだろ?詠唱時間を与えた相手も悪いって」

 バートも頬を掻きながら、何とも言えない表情だ。

 あんな強そうな人が最後の相手か、と真剣に眺めていたシェイラだったが、すぐに我に返った。

「あ。審判のやり方も覚えなきゃいけなかったんだ。しまったな、次こそ真剣に観察しなきゃ」

 声援さえ忘れてしまうシェイラの頼りない決意に、コディは苦笑した。

「それより、君はすぐ試合だろ。そろそろ時間になるから早く行った方がいい。僕も試合がないから、応援に行くよ」

「じゃあ俺もー」

「ありがとう。コディ、バート!」

 シェイラは笑顔で指定されたフィールドへと走り出した。


  ◇ ◆ ◇


 シェイラがフィールドに向かうと、既に前の試合は終わっていて、定位置に男が立っていた。

 高い位置で結ばれた黒髪が風に揺れている。切れ長の黒い瞳が大人びた印象で、スラリと背が高い。最上級生というだけあって、既に少年というよりは青年といった感じだ。

 彼が一人目の対戦相手、セイリュウ⋅ミフネだろう。

 シェイラに気付くと、セイリュウは綺麗な礼をした。平民だと聞いていたが、所作が洗練されている。

 ――そういえばゼクスも、コディ以外の貴族の前では別人みたいだったな。

 相手によって顔を使い分けるゼクスと違い、セイリュウは誰に対しても礼儀を欠かさない男なのだろう。シェイラも慌てて定位置につき、礼を返した。

 ふと、彼の手に握られた剣に視線が吸い寄せられる。

 見たことのない片刃の剣だった。

 頼りないほど細い刀身。だが揺らめくように走る刃紋は鈍い青に輝いていて、切れ味のよさが窺える。

 柄には握りやすいように糸が巻き付けられていて、とても装飾的だ。黒く艶のある鞘も、凝った鍔も珍しい。

 じっと見つめていたら、いつの間にか時間が経っていたらしい。稽古場がしんと静まり、クローシェザードが魔道具を握る。

 シェイラは剣を構えた。


「第二試合――――――開始!」



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