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クローシェザードの覚悟

本当にお久しぶりです!

ノロノロペースに付き合ってくださり、

本当にありがとうございますm(_ _)m

「…………え? 何を……言ってるんですか?」

 一瞬、耳が理解を拒否した。

 戦線を外れる。すなわち、戦闘を放棄するということ。

 教師として、生徒を危険から護りたい気持ちは分かる。

 けれどクローシェザードは、シュタイツ王国にとってもはや英雄だ。彼が持つ戦力を失えば、前線は総崩れになるだろう。そうなれば王都は――――。

 ――クローシェ様も分かってるはずだ。なのに何で、こんなこと。

 伝説の数々を築き上げてきたクローシェザードが、逃げるなんてあり得ない。護らなければならない王都の民を、貴族や王族を見捨てるなんて。

 ――私を、避難させなければいけないって……。

 ジワジワと、発言の意味を理解する。

 おそらく、主君としているフェリクスに、命じられているのだ。シェイラを護れと。そしてより確実に護るために、彼は戦わないことを選んだ。

 愕然とクローシェザードを見上げる。孔雀石色の瞳には、覚悟があった。たった一人のために、他の全てを切り捨てる覚悟。

 あくまで冷静な、それゆえ非情にすら感じるクローシェザードの発言に、誰もが黙り込んだ。ゼクスに至っては理解できないと言いたげに顔を歪めている。そこには、冷酷さへの畏怖すら感じられて。

 シェイラは乱暴にクローシェザードの腕を掴むと、張り詰めた空気を一掃した。

「少し、時間をください。二人だけで話がしたい」

 時間がないことは分かっている。

 それでも、クローシェザードの説得は絶対的に重要だ。彼が参加するかどうかで勝敗が決まると言っても過言ではない。

 それぞれ同じような結論に達したのか、反対する者はいなかった。

「――――分かった。俺はその間、彼の治療をしていよう。疲労や精神の消耗は治すことができないから、擦り傷を治すくらいしか力になれないが」

 治癒魔法を得意とするレイディルーンが、力尽きて気絶寸前の国境警備団員を顎で示す。

 それならとヨルンヴェルナが懐から取り出したのは、魔法石と怪しげな鋼の塊だった。魔法石は鮮やかな紅色で、かなり純度が高そうだ。

「じゃあ僕は、せいぜい力を入れて罠を仕掛けるとするかな~。シェイラ君の言う通り、魔物を迎え撃つならここが最も適しているしね」

 不満もなく送り出してくれた二人に目顔で礼を言うと、シェイラはクローシェザードを引きずるようにして歩き出した。

 森の入口、馬を繋いでいた辺りまで来れば、話し声も聞こえないだろう。シェイラは立ち止まり、睨み付けるようにクローシェザードを見上げた。

 彼はやはり、いつも通りの無表情だ。ゼクスが冷酷に感じても無理はない。

 シェイラは、クローシェザードの右手にそっと手を伸ばした。激情を堪えるように、僅かに震えているこぶしに。

「先生が、フェリクスの命令に忠実なことは知ってます。でも今は緊急事態ですよ。私はともかく、クローシェザード先生の力は絶対に必要です」

「緊急事態だからこそ、君をこの場から一刻も早く逃がさねばならない」

「ここで戦わなければ、王都に魔物が入り込むかもしれないんですよ? もしかしたら、フェリクスにだって被害が及ぶかもしれない。それでも?」

「それでもだ。それが、フェリクス様がくださった命令なのだから」

「――――」

 シェイラ・ダナウを、最優先で護る。それが王都の安全と引き換えになっても?

 ――こんなに辛い決断を、私がさせるの?

 シェイラは泣きそうな気持ちになって、声を荒らげた。

「先生、お願いします。私と一緒に戦ってください。先生だってそれを望んでるはずでしょう? 王都が危険に晒されるかもしれないっていうのに、みすみす逃げ出すなんて、」

「私は君を守るためにいる」

 撥ね付けるように遮られ、言葉を失う。

 間近で見るクローシェザードの瞳には、様々な感情が揺らめいているようだった。

「それが、私の使命なのだ」

 これ以上の問答は不要とばかり、クローシェザードが背中を向けようとする。シェイラは逃がすまいと手に力を込めた。

「……私が憧れた騎士様は、助けられる命がすぐそこにあるのに、あっさり見捨てられるような人じゃありません……!」

 責めるような口振りになってしまって、言った端から後悔がにじむ。

 あっさりでないことくらい、シェイラも承知している。彼にとって苦渋の決断であることも。冷徹に切り捨てられる人じゃないことは、これまでの付き合いでよく分かっている。だからこそ。

 諦めないでほしい。見棄てた命の分だけ、平気で重荷を背負って行こうとするから。それが自分の選んだ道だと、割り切ってしまっているから。

 そんな重たい覚悟で生きてほしくない。誰より幸せであってほしいのだ。心安らかに、でき得るなら笑っていてほしい。

 ――あぁ。そうか、私は。

 瞬きの拍子に、涙がポロリと一粒転がり落ちた。

「私、好きです。好きなんです――――あなたが」

 想いは自然と口を突いていた。一拍置いて、クローシェザードがゆっくりと振り返る。

 孔雀石色の鮮やかな瞳が、僅かに見開かれている。不意に訪れた沈黙に、雨音がやけに響いた。

 ……いつの間に、気持ちが育っていたのだろう。こんなにも、こんなにも強い気持ちに今まで気付かずにいたなんて、自分は大概鈍い。

 当初は、幼い頃からの純粋な尊敬のみを抱いていたように思う。

 学院で再び出会ったあの瞬間、心を奪われたのだろうか。それとも、師弟のような関係になって、少しずつ積もっていった?

 強くて、誰にも頼らずに生きていける人。

 そのせいで、誰より孤独な人。

 ――護りたい。この人が自分を大事にしないなら、私が心ごと護ってあげたい。

 いつからこんな傲慢なことを願うようになっていたのだろう。浅ましい、願いを。

 降りやまない雨のためか、指先がひどく冷たい。

 足元に広がっていく水溜まりが、二人の間に埋めようのない隔たりを作っていくようだった。

 シェイラはぎゅっと唇を噛み締める。

 どう考えても言うべきじゃなかった。表情は変わっていないのに、クローシェザードが途方に暮れていることだけは分かってしまうから、胸が痛い。

「すまないが、私は……」

「ま、待ってください!」

 慌てたシェイラは彼の口を押さえようとしたものの、唇に触れられずあたふたと手を彷徨わせた。

「分かってます、あなたが私を女として見てないことくらい。ただちょっと、本音が漏れちゃっただけなんです。ごめんなさい、緊急時にこんなこと。でも、決定打だけはまだ言わないでください」

 今死亡宣告を受けたら大事な何かがへし折れる。

 結論を先送りにしようと必死なシェイラから、クローシェザードが口元を隠しながら顔を背けた。

「……本音と言ってしまったら、何の否定にもならないのだが」

「否定はできませんよ。だって事実ですから」

 そこだけはきっぱり言い切り、気を取り直す。クローシェザードは珍しくまだ混乱しているようだが、今は気にかけるほど猶予はない。

「クローシェ様、私は誰かを護るために騎士を目指しました。大切な人を護りたくて。今ここで動かなければ、誰かが傷付くかもしれない。その誰かは、誰かにとっての大切な人なのに」

 決意をたぎらせるシェイラを見て、クローシェザードも真摯な表情になった。

「全てを護れるほど強くないのは分かっています。それでも、援軍を待つ間の足止めに、少しでもなれればいい。私が使うのは魔術じゃないから、魔力量の限界もない。どこかに使い道があるはずです」

 この手で護れるだけのものを護りたいと、何度も思ってきた。夏の研修で無力感に苛まれた時も、進路について考えた時も。

「私は、あなたにずっと護られなければならないほど、か弱いつもりはありません」

 過酷な訓練に耐えて、一年を過ごした。まだまだ未熟だけれど、まるで成長していないなんてことはないはず。

 ならば今、ここで逃げてどうするのか。

 黄燈色の瞳を炎のようにきらめかせ、シェイラはクローシェザードを見据えた。

「クローシェ様、あなたが育てた生徒を、信じてください!」

 足手まといになんかならない。いつかその遠い背中に、肩を並べられるように。

 想いを込めて見つめたのは、ほんの短い時間だったかもしれない。

 クローシェザードは小さく息をつくと、真っ直ぐシェイラを見返した。

「――――シュタイツ王国を護るのは、騎士の責務だ。それは、シュタイツ学院の生徒である君達にも同じことが言えるだろう」

「! じゃあ……」

「ここで魔物を迎え撃つ、という君の案には賛成する。だがあまりに杜撰で内容がない。すぐに詳細を詰めるぞ」

「はい!」

 コディ達が待つ方へ翻る背中を、笑顔になったシェイラは小走りで追いかけた。


ついにシェイラが。。。!

クララが立ったレベルの感動(^^)








単行本サイズで高いですけど、

誰か書籍を買ってあげてください ⊂(´; ω ;`)⊃


。。。小説がシリアス展開なのに、

宣伝入れてしまってすいません。

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