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校外学習

いつもありがとうございます!(*^^*)


ついに今日は、書籍の発売日です!

どうかよろしくお願いします!土下座


 シェイラの攻撃を、ゼクスが紙一重でかわす。

 彼が動作を最小限に抑えたのは、反撃の機会を逃さぬためだ。踏み込んだために出来た僅かな隙を狙うように、直ぐ様鋭い突きが飛んでくる。

「くっ!」

 細剣でいなそうとしたが、正面から受け止めることになる。腕に伝わる一刀の重みに、ゼクスの成長をひしひしと感じる。彼は素早さも重さも格段に磨きがかかっている上、シェイラの戦法を知り尽くしている。普通に戦えば、苦戦を強いられるのは間違いなかった。

 それでもこの打ち合いは、地の利を得ているシェイラの独壇場だ。

 素早く体勢を立て直すと、すぐ側に生えた木の幹を一気に駆け上る。

 驚きに目を見張るゼクスを尻目に、幹を蹴り上げた反動を利用して斬りかかる。彼は辛うじて受け止めたが、激しい衝撃に顔をしかめた。

 地面に着地したシェイラが、体勢を低くする。

 また離れ業をお見舞いされては敵わないと、ゼクスは闇雲に剣を振るった。彼とて間合いを詰められたら終わりだと理解しているのだ。

 けれどやはり、森での戦い方を熟知しているシェイラの方が上手だった。

 ゼクスが振り回す剣を、力任せに弾き返す。鋼同士がぶつかり合う高い音を響かせながら、彼の剣は手近な木の幹に突き刺さった。深く食い込み、ちょっとやそっとじゃ抜けそうもない。

 しまった、と慌ててももう遅い。シェイラは余裕をもって首筋に刃を当てた。

「はい、隙あり」

「――――負けました」

 ゼクスは苦々しげにしながら木の幹に足をかけ、力任せに柄を引っ張った。何度か繰り返すと、ようやく剣が抜ける。

「クソ、木を利用するとか想定外だろ」

「狭い場所での戦術っていうのも大事だよ? 屋内で戦闘になることだってあり得るんだから」

「だからって、走って木に登るヤツはいねぇ」

 ゼクスは悪態をつきながら、ドサリと地面に転がった。このまま少し休憩するというので、彼を置いて森の中を進む。

 そちらでは、クローシェザードとコディが戦っていた。シェイラは大人しく試合を見ていたヨルンヴェルナに近付く。

「ヨルンヴェルナ先生が稽古に興味あるなんて意外です。楽しいですか?」

「うん。とても面白いものだね」

「……」

 彼は少年のような笑みを浮かべているが、残念ながら普段の行いのために胡散臭くしか感じない。打ち合いが何かの実験に生かせるのだろうかと勘繰ってしまう。

 とりあえず深くは突っ込まないことにして、シェイラは隣に視線を向けた。

「レイディルーン先輩は?」

「楽しいかどうかはともかく、勉強になる」

 未だにむっつりと唇を引き結んでいるレイディルーンだが、退屈はしていないらしい。ならば不機嫌が収まらないのは、苦手な親戚が隣にいるためか。

 しばらく話していると勝負が着いたのか、クローシェザードとコディが近付いてきた。

 決着を見逃したことをこっそり悔やみながらも、シェイラは労いの言葉を送る。

「お疲れ様です。どちらが勝ちました?」

「愚問だな」

 素っ気なく答えるクローシェザードは汗一つかいていない。反対にコディは汗だくだけれど、とても嬉しそうに破顔した。

「クローシェザード先生は、僕の実力に合わせてくださっていたんだ。でなければ一瞬で勝敗が着いてしまうから。やはり先生は素晴らしい方だよ」

 いつもなら彼の傾倒ぶりに少し引いてしまうけれど、今は素直に頷くことができた。あの戦闘力を目の当たりにすれば、興奮するに決まっている。

「君達はどうだったのだ?」

 クローシェザードに問いかけられ、シェイラはこぶしを握ってみせた。

「僕は森なら滅法強いですよ。先生がわざわざ真剣を持たせた理由も分かりました」

 障害物のある状況がいかに戦いづらいものか、理解させたかったのだろう。模造刀ではそれも難しかったかもしれない。

 彼はおもむろに歩み寄ると、シェイラの細剣を手に取った。

「この細剣にもだいぶ慣れたようだな。新学期になったら、自分に合った武器と模造刀を発注することになっている。君も何を選択すべきか、よく考えておくといい」

「そうなんですか」

 シェイラはクローシェザードの手の中にある細剣を思わず見下ろした。

 そういえば、四年生は一般的な長剣を扱う者が多かったが、上級生は様々な模造刀を所持していたように思う。実力テストの時に使用していたセイリュウの模造刀は、刃が潰れているとは思えないくらい鋭く、美しかった。

「もしかして、真剣と模造刀、全く同じ形のものを造るってことですか?」

「その通りだ。自らの武器に馴染むため、同じ形の模造刀を準備するものと決まっている。金銭的に余裕のない特待生でも、申請すれば支給品扱いで発注できるようになっているから安心していい」

「それは助かります。金銭的な余裕以前に、うちの実家にはお金というものがありませんから」

 物々交換で武器を購うには何年かかったことか。むしろ売ってくれる鍛冶屋がいるかすら怪しい。

 シェイラは獣を狩って暮らしていたから、実戦で様々な武器を使用してきた。苦手分野はなく、どれもある程度扱える。

 ただ、突出して得意なものもないため、自分の特性を生かせる武器を探さねばならない。

「鎖鎌だと騎士になった時、見映えが問題になりそうですよね」

「鎖鎌を視野に入れていること自体が、君の末恐ろしいところだな」

「意外と殺傷能力高いし、便利なんですよ。近距離戦も中距離戦も可能ですし」

「君が加入すれば、栄えある近衛騎士団もたちまち山賊に早変わりするだろう。この上なく素晴らしい未来予想図だな」

「もう、文句ばっかり。じゃあ(なた)とかどうです?」

 武器談義で盛り上がっていると、レイディルーンが話を分断するように割り入ってきた。それはもうグイグイと。

 しかしそのくせ黙り込んでいるため、意図が分からない。視界の隅ではなぜかヨルンヴェルナが笑い転げていた。

 シェイラはハッとして、コディの言葉を思い出す。『レイディルーンは、仲間外れにされて悔しい』のだと。つまり彼は切磋琢磨し合い、共に更なる高みを目指したいと考えているのか。

「そうですよね! せっかくここまで来たんですから、レイディルーン先輩も体を動かしたいですよね! じゃあまず、誰と対戦しますか?」

 瞳を輝かせるシェイラの傍らで、ヨルンヴェルナが更に苦しげに身をよじった。

 問われた当人であるレイディルーンは、不可解そうに眉を寄せたが、やがて視線をクローシェザードに定める。

「そうだな……。ここはやはり、クローシェザード先生にお願いしましょうか」

 ざわり、と肌が粟立つような緊張感が生まれる。見つめ合う二人の表情はひどく厳しい。

 今にも打ち合いそうなピリピリした空気に、シェイラはすかさずコディの傍へと避難する。

「ひゃあ~、どうせなら僕が戦いたかったけど、この二人の試合を見るのは初めてかも。これはこれでスゴいワクワクするね!」

 ゼクスを呼ぶべきか考えていたシェイラだったが、なぜか友人が紙のような顔色をしていることに気付いた。

「コディ、どうしたの? どこか具合悪い?」

「……どこと言われれば、僕は胃が痛いよ、ハハ」

 虚ろな横顔を不思議がって見つめていると、ポツリと頬に雨が当たる。

「あれ、また降ってきた」

 小さな雨粒がぱらつき始め、シェイラは唇を尖らせた。せっかく楽しくなりそうだったのに。

 予想に違わず、クローシェザードはすぐに闘気を収めてしまった。

「少し早いが、今日はこの辺りで切り上げよう。訓練で体調を崩しては本末転倒だ」

「えー、やっぱり帰るんですか。クローシェザード先生ともレイディルーン先輩とも戦いたいのに」

「続きはまたの機会にすればいいだろう」

 クローシェザードも、いつの間にか起き上がっていたゼクスもさっさと歩き出してしまう。シェイラは不満になりながらも最後尾をついていった。

 体に当たる雨粒が大きくなってきている。一行はやや早足になりながら馬が繋いである方へ向かった。先頭のクローシェザードはこの森を歩いた経験があるらしく、足取りに迷いはない。

 森の入り口にたどり着き、急いで馬のリードを外している時。

 最も早くそれに気付いたのは、聴覚の優れたシェイラだった。

「あれ……?」

 作業を一旦やめ、ゆっくりと顔を上げる。

 聞き取ったのは、地を駆ける馬蹄。その足取りは切迫した状況を物語るようにひどく乱れている。

 眉をひそめるシェイラの様子に、クローシェザードが口を開いた。

「どうした?」

「馬が、こっちに近付いて来てます。単騎で、物凄い速さで」

 シェイラが答える頃には、遠い地平線の向こうに馬影が認められるようになっていた。気付いたクローシェザードが厳しい眼差しを向けながら一歩進み出る。シェイラを守るような立ち位置だ。

 遠くで、馬上の人物の体がグラリと傾ぐ。

 落馬は大怪我に繋がる場合が多い。シェイラは咄嗟に駆け出していた。

 クローシェザードが特に留め立てしないのは、相手の素性がはっきりしたからだろう。近付いたことで、その人物が国境警備団の制服を着ていると分かったのだ。

「大丈夫ですか!?」

 うつ伏せに倒れたまま動かない相手の、意識の有無を確認する。返事のようにうめき声を上げたのでひとまず安堵した。

 素早く全体を確認する。うまく落ちたのだろう、変に歪んだ箇所はない。骨に異常はなさそうだ。

 細かな擦り傷はあるものの、何よりも気になったのは男の衰弱ぶりだった。

 異常なほどの発汗、青ざめた顔。落馬の恐怖からかと思い至り、安心させるよう手を握る。すると、加減のない力で握り返された。

「…………っ」

 痛みに顔をしかめると、横から腕を取り上げられた。クローシェザードだ。

「国境警備団の者とお見受けする。何があった?」

 冷静な声音での問いかけに、朦朧としていた男の意識が焦点を結んだ。彼の目には、はっきりと焦燥が浮かんでいる。

「その鎧、騎士団の人間か……? 頼む、どうか国王陛下に伝えてくれ」

 男は、かすれる声を絞り出した。震える腕で、無意識に何かにすがろうとしている。シェイラは再び男の手を握った。咎めるクローシェザードの視線を一瞥で跳ね返す。

「大丈夫ですよ、ゆっくり話してください」

「ゆっくりなど、していられない。君達は学生だろう? 一刻も早くここから避難するんだ」

 大きく唾を飲み込み、男は決死の表情で叫んだ。

「魔物だ、魔物の襲撃だ! ファリル神国との国境を突破して、じきに王都にやって来る……!」


 ――――雨足が、強くなってきていた。



少しでも多くの方の目に留まるよう、今日まで連続更新してみました。

一話完成させては更新するという自転車操業。。。

ツライ(^_^;)



ストックも完全に使いきったので、ここで一旦お休みします。

区切りの悪いところですいません。


なるべく早い再開を目指す!

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