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突然、お料理教室

お久しぶりです。(^^)

この辺、お話が停滞ぎみですいません(汗

「―――何だよ、いきなり。料理教室ってどういうことだ?」

 ますます訝しげな顔になるゼクスを尻目に、てきぱきと準備を始める。

「薬草茶作りを実演しようかな、と。実は材料なんかもちゃんと揃えてあるんだ」

 このためにエイミーには、カウンターの中に簡易の調理台を用意してもらっている。暖炉から火を移し、鉄鍋の下で火種が大きくなるのを待ちながらエプロンを装着した。

 自ら採取したものや、エイミー薬店で取り扱っているもの。薬草茶に必要な材料は全て揃えてあった。それらを並べると準備は完了だ。

「ではここで、シェイラのお料理教室の始めたいと思いま~す」

「何で急に敬語なんだよ。あと勝手に始めたわりにやる気ねぇな」

 盛り上げるために拍手をしてみたが、誰もノッてこない。シェイラは気にせず薬草茶作りに取りかかった。

「用意するのは玄米、クマザサ、カンゾウの根。チンピなどなど」

「などなどって何だよ。そこちゃんと言っとかねぇと料理教室が成立しないだろ」

「玄米は、既に黒くなるまで煎ってあります。完成品の香ばしい風味はこれですね」

「観客の抗議を聞けコラ」

 いちいちツッコミを入れるゼクスの隣で、エイミーが疑問を口にした。

「煮出した色が黒いのも、玄米由来なのかしら?」

「そうかもしれません。クマザサは結構薄い液色ですしね」

 昔から当たり前に作っているため、どれが液色に影響しているのか考えたことはなかった。調べてみるのもいいかもしれない。

「次に取り出したのは、カンゾウの根。ここまでの大きさになるには何年もかかるんですよ。それとチンピ。これは食べた蜜柑の皮を干しておけば勝手にできまーす。キランソウ、ハハコグサは採取時期もまちまちだから、既に乾燥させたものを今日は用意しましたー」

「って、もうできてんのかよ! それじゃ製造方法分かんねぇだろ!」

「採取方法や時期、乾燥させるやり方など、詳しくはこちらをご覧ください」

「書いてあるなら先に言え! ツッコミ損だろ!」

「ちゃんと書いておいたのに文句言わないでよ~」

「いや、確かにここは礼を言うべきなんだろうが……。わけの分からん料理教室に付き合わされてるこっちの身にもなれよ」

 ゼクスがガックリ脱力するのを、コディが同情の入り交じった顔で見下ろしていた。

「では、クマザサを用意していきまーす。クマザサは免疫力の向上、整腸作用だけじゃなく、外用薬にもなるし防腐効果もあります。ただ、血圧を下げる効果もあるため低血圧の人にはお勧めしません」

「つまり販売は、ある程度薬の知識がある人間に任せた方がいいってことだな」

 しっかり者の性か、色々文句を言いつつも大事なことはきちんと書き留めていくゼクス。シェイラはこっそり笑って作業を進めた。

「最初に、クマザサを蒸します。適当な大きさに千切った茶葉をさっと水で洗って水分を拭き取りまーす」

「さっきから気になってたんだが、その間延びした喋り方は何なんだよ。それにホント驚くほどテンション低いな」

「あらかじめ温めておいた蒸し器に、クマザサを入れて蒸します。ふんわり甘い香りがしてきたら引き上げまーす」

「無視かよ、オイ」

 ゼクスの訴えをまともに取り合わずにいると、数分もかからない内に爽やかな香りが漂ってくる。

 シェイラはすぐに葉を取り出し、ザルにまんべんなく広げた。村にいる頃ならばここで風の精霊の力を借りるのだが、今回は自力で扇いで冷ました。

「ある程度冷めたら火にかけた鍋で煎っていきまーす。このままでも使えるけど、煎った方が香ばしくておいしくなります。葉が焦げ付かないように、弱火でじっくりいきましょう」

「まだ続くのかよ、この茶番は」

「ある程度水分を飛ばしたら鍋から取り出して、茶葉を揉んで水気を絞りまーす。とっても熱いから気を付けてね」

「オイ、いい加減無視はやめろ。傷付く」

 威勢のよかったツッコミが、段々と力をなくしていく。さすがに疲れてきたらしい。

「揉んだらまた鍋に戻して、同じように煎っていきまーす。水分が完全に出なくなるまでこの作業を何度も繰り返しますよ」

 僅かに立ち上る蒸気を見つめながらも、忙しく動かす腕は休めない。

「完全に水気がなくなったら、火から上げて更に乾燥させます。茶葉が結構細かくなっているので、目の細かいザルを用意しておいてください。それでもすり抜けちゃうほど細かい茶葉は、クッキーに混ぜるなどして活用しちゃいましょう。独特の風味なので好む人は少ないですけどね~」

「それ、作る意味あるのか……?」

 ゼクスが風前の灯火といった体で呟くが、もちろん聞かなかったことにする。

 村では乾燥させた薬草を刻む者、玄米を煎る者、クマザサ茶を作る者とで分かれて、一日かけて薬草茶を作ったものだ。最終的に村民全員で分け合うため、どの材料も物凄い大量だった。

 大変だったけれど、まるでお祭りのように楽しかった。作り終えたあと大人達は、完成祝いと称してどんちゃん騒ぎをして。

 賑やかな日常を懐かしみながら、シェイラは調理台の火を消した。

「まぁ何度も煎る作業は根気がいります。今日は省略して、乾燥させたものがこちらになりま~す」

「完成品あんのかーい!!」

 衰えつつあったゼクスのツッコミが、ここで最高潮に轟いた。

 さすがだと称賛しようと思ったところで、悪ノリを制止するように扉のきしむ音が響いた。

 珍しい来客は、シェイラ達もよく知る人。

「イザークさん」

 コディの呟きとほぼ同時にカウンター下に身を隠したのは、本当に咄嗟のことだった。

『シュタイツ学院のシェイラ』と、黒髪眼鏡に変装している『薬店のシェイラ』。からくりを知っているエイミー以外で唯一、両方と顔見知りである彼には、極力会わないよう心がけていた。忙しいはずのイザークがなぜか頻繁に顔を出すため、ほとんど条件反射だった。

 ――いつもの癖で焦っちゃったけど、変装時じゃないんだから隠れても意味なかった……。

 このままだと友人らに不審に思われる。

 慌てるのは逆にまずいと判断し、シェイラは何食わぬ顔で立ち上がる。そしてたった今気付いたと言わんばかりに、イザークを振り返った。

 一部始終を見ていたエイミーは無言だ。

「あれ、イザークさん。お久しぶりです」

「おう、久しぶりだなお前ら。こんなところで何してるんだよ」

「えっと、ちょっと商談と、料理教室みたいなことを少々?」

「何だそりゃ。相変わらずわけ分かんないな」

 應揚に笑うイザークの元へ、コディとゼクスが嬉しそうに駆け寄っていく。

「イザークさん、寮長……アックス先輩はお元気ですか?」

「俺は気にしないから、あの筋肉馬鹿のことは昔みたいに呼んでいいぞ」

「どうせあの人のことだから、鍛練ばっかしてるんでしょ。国境警備の仕事が始まるまで待ちきれないとか言って」

 にわかに騒がしくなった男性陣を、シェイラとエイミーはカウンターから眺めていた。

「あの二人、イザークさんの弟と幼馴染みで、仲がいいんですよ」

「まぁ。それであんなに楽しそうなのね、イザーク様」

 もしかしたら、イザークとも親しくしていたのかもしれない。研修の時はあくまで職場だったため公私を分けていたようだけれど、気の置けない様子を見ているとそう感じる。

 イザークの分の薬草茶を淹れようか、と考えていると、エイミーが静かな声を発した。

「……イザーク様だけは、冬になっても足繁く通ってくださってるのよ」

 カウンター内を片付ける彼女の横顔には、笑みが浮かんでいた。それはどこか儚げなもので、普段の溌剌とした雰囲気は鳴りを潜めている。シェイラはにわかに、イザークの体調が心配になった。

「イザークさん、そんなに具合悪いんですか?」

 声音を潜めて訊くと、エイミーは目を瞬かせた。そしてしばらくして、おかしそうに吹き出す。

「バカね。目当てはあなたに決まってるじゃない」

「へ?」

「正確に言えば変装しているシェイラちゃん、かしらね」

「へ?」

「イザーク様は、あなたのことが好きなのよ」

「――――――――へ?」

 エイミーの言葉がどうしても理解できず、今度はシェイラが瞬きを繰り返した。



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