立てばゴブリン 座ればオーク 歩く姿はスプリガン
美醜逆転異世界っていいですよね(使用方法を間違えなければ)
『 立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花 』
この慣用句をご存知だろうか。花にたとえて美人の姿を形容した言葉である。
男ならこのように言われるほどの美人と付き合い、結婚したいと誰でも一度は考えるだろう。しかし、俺はそんな望みは持っていない。いや、むしろ美人とは関わらずに生きていきたいと言いきれる。
──特に、あの厄介な国一番の美人とだけは──
俺は25歳の時に、異世界に勇者として召喚された。最初の頃は戸惑いもしたが、強力なチート能力が備わっていることが分かってからは、異世界で無双してあわよくばハーレムなんて築けるかもとすぐに浮かれた。
実際俺を召喚した国王からは、魔王を倒したあかつきには、絶世の美女と国中で評判の姫と見目麗しい貴族の娘たちを嫁とさせようと言われ、姫たちに会うこともせず速攻で城を旅立った。
異世界で美少女ハーレム。その言葉は俺にとてつもないやる気と力を与えた。城を出た翌日には魔王を撃破。その翌日には魔王を裏から操っていた邪神を撃破。邪神の死に気づきこの機にこちらの世界を乗っ取ろうと他の異世界から攻めてきた神々もなんやかんやで撃破。
もうマジ無敵って感じ。俺は嬉々として王城に帰った。これから始まるハーレムライフを想像しながら。
城につき早速国王に報告をした。
「な、なんと!もう魔王を倒してしまったとは。これは約束通り褒美を与えねばな。大臣よ、姫を呼んでまいれ。」
国王はそう告げた。俺は期待に胸を膨らませる。むふふ、姫様はどんなタイプだろうか。ボンッキュッボンの妖艶なお姉さまタイプ?それとも清純なお嬢様タイプ?あ〜、夢が広がるな〜!
「国王様、姫様をお連れいたしました!」
想像を膨らませているうちに大臣が姫を連れて来たらしい。俺はその声へ聞き、後ろを振り返る。
そこには大臣と・・・。豚のような顔に、はちきれんばかりに盛り上がった腹をした何かが立っていた。
あ、これ知ってる。日本にいた頃はゲームや小説にもよく出てきた魔物だ。名前は確かオーク。・・・!?!?
「オークじゃねえか!!!」
とっさに叫ぶ。なんで城の中に魔物が?それになぜ王や大臣たちは魔物を目の前にして何も言わないのだろうか。恐怖のあまり言葉を失ったか?しかたない、ここは俺がこのオークを倒そう。俺はオークの方へと一歩踏み出し・・・
「ハッハッハ、勇者殿。まさか伝説の神獣オークと娘を間違えるとは、ずいぶん娘のことを気に入ってもらえたようだ。これは明日にでも結婚式を挙げるべきかな?」
俺はギギギと首を回し、国王の方へと向き直る。このおっさん、今なんて言った?目の前のオークが娘?俺がそれを気に入った?いかん、理解が追いつかない。
「オークが伝説の神獣?というかそこにいるのが娘?」
「おや、オークの詳細までは知らなかったのか。オークは神のごとき美しさを持った魔物で、昔の人々が愛玩用にとこぞって欲しがったため乱獲され今では絶滅してしまった。今では絵画でしかその姿を見ることができないが、未だに絶大な人気を誇る。娘はオークにそっくりであるし、国一番の美人と言われておる。勇者殿にはお似合いであろう。ハッハッハ。」
バカな!?これが美人?これが美人だったらイモムシだって美人だって言えるぞ。しかし、超にこやかな顔で言っているし、嘘には見えない。この王様がおかしいのか?
「いやはや、この大臣、姫様ほどの美しき方と結婚できるなど勇者様が羨ましくて仕方ありませんな!」
う、うそだろ。大臣まで妙なことを言い始めやがった。まさか、本当に姫は可愛いと思われているのか。
そういえば、俺が倒したものすごい綺麗な魔王が「我が醜いという理由だけで手を出してきたのは人間だ」とか、邪神も「人族の卑しい価値観に染まった世界を浄化する」とか言っていた気が。・・・え、あれって俺の精神を乱そうとしていたとかそういうのじゃなかったのか?この世界の価値観って・・・
もしかして:美醜逆転?
やっちまったああああああ。くそ、魔王だからってすぐ倒さないで話聞けばよかった。せめて姫様の容姿を確認してから出発するんだった。童貞だからって異世界ハーレムに浮かれすぎた!
とにかくこのままでは結婚させられてしまう。それだけは避けたい。何か考えなければ!
プラン1:正直に言う
「え、ぶっさ。もうまじむり。」
・・・言えるかああああああ!国王の前で姫に向かってそんなん言えるわけないわ!この国で生きていけなくなるわ!
プラン2:逃亡する
なぜ魔王を倒した勇者が悲しく逃げなければならないのか。さすがに人海戦術で追いかけられたら見つかるだろうしな。あまりいい案ではない。
プラン3:城ごと吹っ飛ばして何もかもなかったことにする
ふむ、普通に考えたらアウトだ。だがオークと結婚するくらいならこっちの方がまだマシな気がする。国の安定より俺の心の平穏の方が大事だ。まあ、これは最終手段だが。
うーむ、なかなかいい案が思い浮かばない。というかいきなり結婚と言われてもな。
・・・いや、待てよ。そうだ、この話は姫にとっても急な話だったはず。ならば、姫も心の準備が出来ていないんじゃないか?そもそも見ず知らずの男と結婚などと言われても嫌なはずだ。この姫は美人(という話)だし、それこそ相手だって選び放題なはずだ。・・・いける!
「国王様、このように美しき姫と結婚とは嬉しく思いますが姫様も急な話では困ってしまうでしょう。それに私は無理やり結婚するよりは、きちんと姫様が愛する相手と結ばれて欲しいと思います。」
「ふむ、確かに姫の気持ちは聞いていなかったな。姫よ、お前はどう思う?」
よし、これはいい流れだ。ここで姫が遠慮すれば全て丸く収まる。そうすれば俺の薔薇色の人生は保たれる。
「フーッ、フゥー、オレ、ツヨイヤツ、スキ。ハヤク、コウビ、スル。」
・・・オークじゃねえか!やっぱ性欲で動くオークじゃねえか!
ていうか、なんだそのちょっとだけ知性のある魔物みたいな話し方は。俺は魔物に逆レイプされる趣味なんてないぞ。オークに犯される姫は需要があっても、姫オークに犯される勇者なんてただのグロだからな!
「姫も納得しておるようじゃの。さて大臣、さっそく2人をベッド付きの部屋へ案内s・・・」
──俺は何もかも捨てて逃げ出した──
逃げ出してから2年が経過した。俺は今日もあのオークから逃げている。あのオーク、俺がどこに逃げてもフゴフゴ鼻を鳴らしながら匂いをたどって追いかけてくる。本当に人間ではないと思う。
俺はというと、夜もオークに襲われるのではないかと眠れぬ日々を過ごし日々苦労している。もういっそ倒してしまおうかとも考えたこともあるが、もはやあのオークが視界に入るだけで体は恐慌状態になり、逃げるだけで精いっぱいで戦闘などできやしない。
ああ、異世界だからって夢なんてみるもんじゃないな。日本での平凡で安全な日々が恋しい。人間やはり調子に乗らず堅実に生きることが大切だ。もし無事に日本に帰ることができたら、美人じゃなくていいから優しい女性と付き合おう。
だから、神様。何体か倒しちゃったけど、それ以外の神様。
──どうか、今日も俺の貞操が無事でありますように──
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