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87.聞き込み

 日の光がまぶしい。

 時刻は既に正午に差し掛かろうとしている。

 レイウィングズ、大街道上の町の一つ、レンドル。

 先の大戦でライン地方の北西部の町や村はだいたいがアーインスキアの侵攻を受けた過去を持っているが、この町もその一つである。

 しかし、要衝地の一つだからか、復興はかなり早く行われており、今ではその面影を隠すように市場などが賑わっている。

 その市場に、純一と凜の姿があった。



●●●



「―――それじゃあ、その集団を今日は見てないんですか?」


 端末に集めた情報を入力し、整理している少女、凜を横に、俺は市場で聞き込みをしていた。既に、宿屋や酒場が多い区での聞き込みは完了している。

 眼前、話を聞いている相手は八百屋の女店主だ。

 最初は、こちらが買い物を目的にしていないと知るや否や、商売の邪魔だと言わんばかりの顔をされたが、こちらとて仕事だし、そもそも前の仕事(マザー時代)で慣れているので、気落ちするようなことも無い。

 とは言え、円滑に話を進める上で必要なことはやっておくべきだろう。

 ということで、店頭にあったそこそこの値があった果実を数個買うと表情が好転したので、悪い判断ではなかったと思う。

 ……まぁ、道中みんなで食べるのにちょうどいいしな。

 今日からの日程はこの後、エミリアたちと合流してから決めることになるが、少なくとも最初に想定していたよりも移動する距離は多くなると感じている。


「あぁ、そうだね。昨日の朝、市場の方で総締めと話してるのを見たよ。なんでも噂じゃ、町の東側で魔物が出たってんで、注意喚起に来ていたらしいよ」


「―――そして、その後、町長と市場の総締めが合同で声明を出したと?」


「そうさ。『町の東側に魔物が出現したため、東側への通行を制限する』って言うね。遠くからの行商人なんかはかなり騒いでたが、町のもんやここら一帯で活動してる商人たちは去年のラインアルストの騒動を知っているからねぇ。素直に言うこと聞いて移動を自粛してるって訳さ」


「だから、こんな時間なのにあっちの方にたくさん人がいたんだ」


 凜の呟いたとおり、ここに来る前のに行った宿、酒場の多い区も日中だというのに人が多かった。

 聞いた話によれば、移動を制限された者たちの為……というよりは稼ぎ時だと判断した酒場などは普段は休憩中の時間も営業していると宣伝し、この時間からでも人入りが激しかった。


「それで、その人たちが何処に行ったとか、その辺りの事はわかりませんか?」


「さあねえ。あたしゃ、昨日のその騒動より後は、今日と同じくずっとここにいたからね。

 だいたい、その連中に何か用事でもあるのかい?」


 ―――っと。

 興味本位の言葉が来た。どうしたものか。

 まさか本当のことを包み隠さず言うわけにもいかない。

 いかにも噂好きのおばちゃんって感じだしなぁ。というかさっきも噂とか何とか言ってたしなー。

 というわけで、少しだけ、即興の話を作ることにする。

 こういう場合、多少事実を織り交ぜながら話した方が現実味が増す。

 後は仮に噂になっても差しさわりの無い、もしくは噂になりにくい要素を付け加えれば良い。


「……実は、探してる人たちはギルドの人たちなんですが、その中に俺たちの兄が居るんです。だけど、仕事に必要な道具を忘れていきまして。仕事に支障が出てしまうので、届けに追いかけてきたんですが、なかなか追いつけなくて……」


 凜がこちらの横腹をつついてきた。

 彼女は小声で、


「なにその設定」


「兄妹って事にしておいたほうが話しやすいだろ。それとも何だ、恋人とかの方が良かったか?」


「……リーシャさんに言っちゃうからね」


 え、何その告げ口怖い。

 ともあれ、理由としては十分だろう。


「そりゃぁ大変だねぇ……。でも、さっき言ったとおり、あたしゃ詳しいことはぜんぜんわかんないんだよねね。

 ……あぁ! 常連さんの息子が町門の門番をやってるから、その子なら何かわかるかもしれないね」


「なるほど」


 今日、今まで聞いてきた話は基本的には同じか似通った話ばかりで、信憑性や重要性に欠けていたが、町の門を守護しているものならば、町の()を監視しているはずだ。何かを見ている可能性も高い。


「その方は今どちらに?」


「どうだろうかね。非番じゃないなら、昨日の今日だし、東の詰所にでも居るんじゃ……と、噂をすればなんとやらだ。おーい、ビリー!」


 女店主が大声で、道行く一人の男を呼び止めた。ちょうど件の門番が通りかかったらしい。

 そろそろ、エミリアたちとの合流を考えていたので、探す手間が省けて正直助かった。


「今日は非番かい?」


「ええ、詰所の方は忙しいでしょうけど、僕は昨日までずっと働いていたので、さすがに休みをもらいました。

 ところで、僕に何か用事ですか?」


「あぁ、そうだった。実はこの子たちが、昨日魔物の話をもってきた連中を探してるみたいでね。あんた、何かしらないかい?」


 言われ、男はこちらを見た。

 少し間を空けてから、


「うん、特に何か悪さを企んでる感じでもないですね」


 さすがに町を守る仕事をしているだけに、人を見る眼はある、という自負を感じられる。

 ―――まー、『敵』の連中に対して、力は発揮しなかったみたいだけど。

 そんなことを思うが、今は話を聞く方を優先する。


「大体どっちの方角に行ったか、とか。そんな情報でもいいので、知っていることを教えてほしいんですが」


「うーん、そうだね。昨日、僕は一日中、西門の担当だったんだ。

 昨日の朝方、やってきた彼らは、ギルドの人間で町長に会いたいということでね。ちょうど入れ違いで、昨朝まで蒼王様がご滞在されていたっていうし、ほら、ギルドのトップは政府から派遣された元王族親衛隊副隊長のガリウスって人らしいし。最初はそのことで何かあったと思って通したんだけど……」


 だが、後に上から通知された情報によると、レンドルの北から北東側にかけて未知の魔物を確認した、という情報をギルドが入手したため、やってきたらしかった。


「ただ、蒼王様がラインベルニカに向けて既に出発されたということで、そのギルドの人たちは、通知と東への移動制限を町長に伝えて、あわてて東側に向かったらしいね。

 ……あぁ、でも」


「何か?」


「うん、その人たち、未知の魔物が出たって言う割には数えられる程度しか居なかったから違和感があったね。

 まぁでもそんなものかなって思ったんだけど、昼前ぐらいかな? そのうちの何人かが町の中から西門を通ろうとしたんだ」


「ただ、帰ろうとしただけでは?」


 その連中が西から来て、町の東側で魔物を討伐し終えて、町の中を通って西側に帰ろうとした。そう考えれば別に違和感は無いが。


「うん、最初はそう思ったんだけどね。でも朝見た人数よりは少なかったし、戦闘をしたような傷とかも無かったんだよ。それで、僕の同僚が、『魔物は討伐されたんですか?』って尋ねたんだけど、無視されて早足で去っていったからさ。感じが悪いよな、なんて話もしてたんだけど」


「そう、ですか……」


 おそらく、東に向かった連中は蒼王の一行を呼び止めに向かった者たちだ。

 

「でも、昨日東門に配置されてたやつと話したんだけど、通行規制を抜けて出て行こうとするものが居ないように、ギルドの人間が門に居座った、とも言ってたからその人たちなんだろうね。

 ……あれ、でも今日も通行規制はされてるみたいだし、いったいどういうことなんだろう」


 おそらく、規制を徹底させる人員というのは当たりだろう。その後、蒼王誘拐という目的を達成したが、魔物の話はそのままにして出て行ったというところだろうか。

 ともかく、わざわざ西門から出たということは、北の方に抜けた可能性は低いと見ていいだろう。


「ありがとうございました」


 これからのことをどうエミリアに提案するか、考えながら俺は一礼する。

 

「うん、それじゃあ僕はこれで」


 と、立ち去ろうとする男に、俺はふと、思い出したように言葉を投げた。

 確証は無いが、懸念材料として俺の心に引っかかっていることがあったからだ。


「あぁ、そうだ。最後に一つ。昨日、その人たちが来る前から、去っていった間にかけて、何か気になることはありませんでしたか?

 例えば、聞いた事の無い音が聞こえたとか」


「そういえば、そうだった。彼らが来た後と去っていった後、遠くから音が聞こえたんだった」


「……どんな音でした?」


「うーん、なんて言えばいいか。ただ、本当に普段は聞いたことが無いから、それこそ魔物の咆哮か何かだと思ったんだけどね」


「そうですか……。ありがとうございました」


 

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