83.十蒼希の現状Ⅰ
「――行方がわからないだって!?」
俺の驚いた様子に、エミリアは、はい、と頷いた。
凜も驚きを隠せないようで、
「それは、いつからなの?」
「一昨年の末から、ですね」
その時期は未だ俺が異世界という存在に触れていない時期。
だが、その時にこの世界で何が起こったかは既に聞いている。
「――オリジンか」
オリジンという竜がグラーフリート山を消し飛ばして復活。そのまま付近にあった、極東都市ラインベルニカと同規模の、北方氷閉都市リョーツ・ガレジーナという都市を壊滅させたという話だ。これはギルド大会議で既に聞いている。
そして、その対処をしたのが十蒼希の面々だという事もだ。
「だけど、オリジンは倒したんだろ? でなきゃ、今頃こういう状況じゃないはずだし」
十蒼希がオリジンを倒せていなかった場合、今のこの世界はもっと酷いことになっているはずだ。
しかし、実際にはそうなっていない。
つまりは十蒼希たちはオリジン討伐を為しているはずなのだ。だから、そこから十蒼希が行方不明というのは話の繋がりが見えない。
だが、
「倒した、というのは語弊があるだろうな」
「……?」
バハムートの言葉に、訳が分からない、という顔をした俺と凜をみて、エミリアが困り顔をしながら言う。
「――順を追ってご説明します」
●●●
「……事の発端は先程言ったとおり、一昨年の十二月でした。その時、私たちはレイア様や政府関係者と一緒に王都グランティ郊外にあるジアル宮殿という場所にいたのですが、そこに一報が届いたのです。
――数日前、リョーツ・ガレジーナが壊滅した、と」
大騒ぎだっただろうな、と思う。
「当時はまだ魔流導ネットワークもありませんでしたから、レイガルフの皆さんにはがんばっていただきました」
思っていた疑問が先に解決される。
と、それはいいとして、
「壊滅、って言っているが、実際どれくらいの被害だったかはわかっているのか?」
「……後になって確認がとれたことですが、全体の二割が死亡を確認、一割が何らかの障害を伴う重症、ニ割が軽症を含めた生存者でした」
「酷いな……」
リョーツ・ガレジーナがどれほどの人口を誇っていたかはわからないが、大都市というぐらいだ。その一割でも相当の数だろう。
「ねえ」
ふと、凜が声をあげる。
それは、確認とでも言うようなようで、
「二割、一割、二割はわかったよ。……じゃあ、残りの五割は? 軽症を含めた生存者、ってことは無傷の生存者が五割って事?」
「――」
エミリアはすぐには答えなかった。
だから、というように、代わりに返答したのは、ネインだった。
『否、そうではない。確認が取れなかったのだ』
「……どういうことだ?」
『この際誤魔化して言うのも野暮か。はっきり言おう。
――消えたのだ』
「消えた?」
俺と凜が同時に声をあげた。
これはあくまで推測だが、と前置きしたネインは、
『封印から解放された際に、物理的な衝撃が発生したのを確認している。それと、爆発的な魔力の拡散をな。
――故に、前者によって跡形も無く吹き飛ばされたか、後者の影響で身体が耐え切れなくなったか。もしくはその両方か』
「それは……」
前者については、言葉通りの意味だろう。そして、後者については心当たりがある。なにせ、俺自身が持つ技の一つがそれだからだ。
魔流暴裂。対象に許容外の魔力を流し込み、破裂させる。
それに似た事が起きたと、そういうことなのだろう。
「一体何なんだ、そのオリジンって魔物は」
問いに、バハムートが視線だけこちらに寄越しながら答えた。
「奴の仔細については、かなり複雑でな。長くなるため今回は省かせてもらう。どうせ、奴の残り香のおかげで嫌でも関わる事になるだろうからその時にでも説明する。
今は、『それほどの存在が封印から解き放たれ、顕現した』ということが解れば良い」
「あ、ああ……」
「それとエミリア、町まであまり距離も無い。現状の説明をするなら手早くしろ」
「あ、はい、そうでした。と、そんな存在が現れた事で、当然私たちも対応を迫られました。なにせ、実害のある魔物。しかも、魔物の例に漏れずなのか、オリジンはレイア様が持っていた聖剣、リュミエール・アージェンクと守護宝石の魔力を狙って南進してきたのですから」
言葉に、俺は右手を上げた。
話を区切る事に詫びながら、
「すまん、本当悪いんだが――聖剣とか、本当にあるのか? それと、守護……宝石? もよくわからないんだが」
「……」
……言っておいてなんだけど、こんな質問今更な気もするな……。
魔法や異世界、スキルなんてものに触れてもう一年近くになる。聖剣などというものが実際にあるとしても不思議ではない。
だいたい、俺のヴェリアルやレオのルベルサイファー等、魔銃や魔剣と呼ばれる物が存在しているのはわかっているではないか。
――というか、どっちも作ったの俺だった……。
ただ、守護宝石というものはぶっちゃけよくわからない。魔石の一種だろうか。
対するエミリアも、言われて困り顔のまま、数秒間を置いて考えた後、隣のバハムートに振り向いた。
「はぁ、いいだろう。レイアたちの話をする上でその辺りはどうしても必要な情報になってくるだろうからな」
「そうですよね。純一さんたちはレガリアについては?」
「前に聞いた事がある。確か特殊なスキルで、大昔に初代蒼王が神様たちの戦いに参加した時にもらったとかなんとか……」
ラインベルニカに行った際、そんな話をされた覚えがある。
「レガリアについてはそれぐらいで良いかと思います。ではまず、王族に伝わる聖剣について、簡潔にご説明しましょう」
「頼む」
「王族に伝わる聖剣は二つあります。一つが先程言ったリュミエール・アージェンク。そして、オプスキュリテ・アージェンク。兄弟剣として存在するこれらの聖剣は、伝承としてはレガリアや守護宝石と共に、初代蒼王が入手した物とされています。
――否、本人たちの言によれば、事実だそうですが」
「……?」
「すみません、混乱させてしまう一言でしたね。詳しくは後ほど――聖剣は対外的には王族の象徴として、そして、対内的には守護宝石の力を引き出し、王族に力を与える、まさに伝説の武器です」
「その守護宝石ってのは?」
「レガリアや聖剣と同じく、王族にもたらされた特殊な魔石のことです」
エミリアはこちらに掌を向け、数えるように指を折りながら続けた。
「火の宝石エテルナフィーア、水の宝石ツォールアクア、風の宝石ウィンディ-ド、土の宝石グランズバイル、光の宝石コルネッサ、闇の宝石ドゥンリタース。これらが、永きに渡りこの世界を王族や四大貴族と共に守ってきた守護宝石です」
「火、水、風、土、光、闇――属性ごとに存在するのか。……ん? というか、その名前、どこかで聞いた覚えが……」
どこだっただろうか。
思い出す前に、凜が答えを口にした。
「――全部、異世界の名前だよ。それも、それぞれの属性を司る世界の、ね」
凜の指摘に、エミリアが笑みを浮かべたのを俺は見た。
「ふふ、凜ちゃんは博識ですね」
「別に名前を知ってるぐらいで博識とは言わないって」
言われた言葉に、肩をすくめて返答した凜は、エミリアに続けるように促す。
「それで? 偶然じゃないよね、どういう事?」
凜の疑問に、エミリアが返してきたのは、答えというよりはこちらへの確認の問いだった。
「――お二人は先程も少し話しに出た『神々の戦い』については?」




