81.調査開始Ⅰ
「大街道を走ったのは初めてだけど、思ったよりちゃんとしてるんだな」
疾駆するヴィエラに乗りながら、俺はそうつぶやいた。
エミリアたちと合流した俺たちは、今、ラインアルスト北部の大街道に出たばかりだった。
『大街道は様々な方が利用するという事で、昔から整備されてきたんです。さすがに戦時中はできなかったみたいですが、この数年でノードゥスを始め、様々な方々の助力で前より良くなっているみたいですね』
俺の呟きに答えたのは、隣のエミリアだ。
彼女は凜が乗るサイドカーとは反対側の宙を、飛んでいた。
上級風属性魔法、シエラリーベル。
効果としては単純。空中を自由に動き回れるものだ。だが、それでも習得できる者はごく僅かな、難しい魔法だ。
俺も実際に使える者はリリエしか知らなかった。
ヴィエラの駆動音や風の音もあり、俺と凜、エミリアは片耳装着のヘッドセットで会話している。ネインとバハムートは、『聞こえるから要らん』、と言っていたが、その辺り人間よりも優れているのだろう。
今、構図としては俺と凜がヴィエラに、エミリアとバハムートがシエラリーベルによって飛行、ネインが自分で走っている状況だが、
『……ぶっちゃけ中々に目立つよね、この集団』
「……」
思ったことを凜に言われた。
ネインはまだしも、バイクと空飛ぶ人間は目を引く。
『仕方が無かろう、長距離の移動だ。それにお前らとて魔流活性で走りたくは無いだろう』
言われ、いやまぁと口ごもるしかない。
『まー、どうせ噂になっても、うちのネットワーク使わないと高が知れてると思うから敵側にこっちの初動がバレる事はないと思うけど』
「そう、だな……」
しかし、
「相手の戦力も未知数だ、決め付けておくのはよく無い」
前提条件が否定された時、人間は大体慌てるものだ。
相手はマザー・イニーツィオにおける現代の拳銃を所持していた。レオたちに聞いた話では、それほど使い方になれた様子ではなかったと言うが、なにもそれだけだという保証は無い。通信連絡手段など持っている可能性もあるのだ。
柔軟な思考と、対応が必要だろう。
と、前方、先行していたネインがこちらに声を飛ばしてきた。
『――! エミリア様、どうやらあの辺りのようです!』
正面右側、大街道上というよりは、草原に外れたところに、戦闘痕らしきものが確認できた。
あそこで蒼王一行たちが戦闘を行ったのだろう。
道をはずれ、現場に近づく。
「これは……」
馬車などの残骸がそこらに落ちている。
そして、草が赤い部分が多い。これはおそらく、血痕だ。
激しい戦闘があったことが一目でわかる。
だが、
「……妙だな」
周辺を見渡したバハムートが口にする。
「あんたもそう思うか」
バハムートの隣に立ち、俺も同じように辺りを見回す。
遺体が無いのだ。
スレイの証言から、相当な戦闘があったのは間違いないはずだ。それは、この現場を見ても推測できる。
どのような戦闘だったかまではわからないが、死人が出ない、なんてことはないはずだ。
少なくとも、昨日のアーインスキア兵は本気でレオと剣を殺そうとしていた。
目撃者とは言え、未だ子どもとも言える少年たち相手にそれだ。蒼王を守護する近衛の精鋭たち相手にはなおさら苛烈に対応するはずなのだ。
だから、死傷者が出ない、というのはほぼ有り得ないと言って良いほど可能性が低い。
「……まさか、遺体も全部回収したのか?」
「大街道は人通りも多いです。騒ぎになると考えたのでは?」
エミリアが考えを口にする。
確かに言う通りではある。だが、ここで騒ぎになったと仮定して、
「町の役所とか自警団に通報してもどうしようもないと思うけど」
凜の言うとおりだ。仮に、蒼王一行が襲われた、と言う情報がそこで判明したとして、それを政府中枢――ラインベルニカまで伝える手段がこの世界の一般的な方法ではかなり時間がかかる。それは、相手方もわかっているはずであり、それならば、遺体まで回収する必要は無いのだ。
そして、それに付随して気になることがある。
「エミリア、蒼王陛下を含め、一行は何人ぐらいの規模だったんだ?」
「侍女も含めると約五十人前後でしょうか。レイガルフはスレイさんを除いて二体でした」
「人数もそうだが、レイガルフだってあの大きさだ。それなりの収容能力を持った運搬方法じゃなきゃ、ろくに移動できないはずだ」
『ざっと見た感じだが、焼却した跡も臭いも無い。やはり遺体を含め、粗方回収し、雑多ではあるが痕跡を隠そうとはしていたようだ』
遺体を回収……。痕跡を隠滅するためだと思うが……。
やはり、その運搬方法が気になる。
が、情報が少なすぎる。
「……考えてても仕方が無い。みんな、周辺を精査して何か無いか探そう。凜はここを遠目から撮ったものと残ってる痕跡の写真を撮って、ラインベルニカに送ってくれ」
ガリウスのおっさんたちもここは通るだろうが、環境が変わる可能性もあるし、現場の状況を早く知るのに越した事は無い――。
思いながら、俺も痕跡探しに着手するのだった。




