79.オフィスでの報告Ⅱ
劇中で度々出てくる十蒼希、彼らが十蒼希になるまでの物語である『蒼聖世界の王と六つの守護宝石』も投稿してますので、そちらもよろしくお願いします。
『ライナーを救出するというならば、俺が出るのが最も手っ取り早いと思うが』
……バハムート。
自身を竜と称する者であり、放つ魔力も只者ではなかった覚えがある。
『確かに、現存するSランクであるバハムートくんであれば、陛下を救出するのも容易ですが……』
『――否』
隼人の言葉に、即座に否定を示したのはガリウスだった。
『スレイ、捕まったのはライナーだけではないだろう?』
『ああ。ライナー様とミレイナ様。御付の侍女たちもおそらく。それと、戦闘で早いうちに行動不能になった者も捕虜として連れて行かれた可能性が高い』
『……そうか。ライナー様とミレイナ様はもちろん、御付の方々や近衛も方も救出しなくては……』
『そういうことだ。ライナーと、ぎりぎりミレイナ様だけならお前だけでいけるかもしれんが、他の人員救出も行う必要がある。それに、二人だけに絞ったとして、片方を人質にとられた場合、お前だけではやはり危険だ』
ガリウスの言葉にバハムートが腕を組み、口を閉ざす。
了解した、ということだろうか。
『アーインスキアの連中が居て、しかしライナーたちを殺すのではなく、わざわざ拉致したんだ。そこに何らかの思惑があると見ていいだろうが、どちらにしろ早急に救出する必要はある』
しかし、それにもそれなりの人数が居る。
相手の規模も未だ不明瞭なのだ。
『俺は先刻告げたとおり、混成軍を率いて西に進軍する。この様子だと各地に散らばっていた残党ほとんどが集結している可能性があるからな……。
だが、調整に数日かかる。全員を魔流電導列車で輸送しても、事件があった場所にすら一週間はかかると思われる』
人数が多い部隊は進軍するのにも一手間だ。
だから、というように、
『……少数で先行し、状況を探る役割を持った者を選びたい』
そう言ったガリウスの目が何故か俺を見ているような気がしてならないのだが、これは自意識過剰だろうか。
否。まったく過剰ではない事をすぐに思い知らされる事となる。
『ある程度の戦闘力を持ち、機動力も兼ね備えた者。かつ、ノードゥスの端末でこちらに報告ができる者がいいんだが……』
それって俺ですよね、遠まわしに俺以外いない感じで言ってますよねこれ。
皆の視線が画面から俺に移ったのがわかる。
「――いやいやいや。それはさすがにどうかと思うぞ。だいたい西に行ったら『つながるくん』設置地域から出ちゃうだろ」
ラインアルストの周辺ならまだいいが、それより西にいけばネットワーク通信網からはみ出す事になる。
『……確か、機材の予備がそこそこあったはずだよね。凜も同行して、大街道に仮設置。後から進むガリウスさんの部隊に僕らからも技術者を同行させるから都度調整していくっていうのはどうかな』
どうかなって言われても、と内心で思う。
「――否、やっぱり受けられない。凜を連れて行くならなおさらだ。アーインスキアの将軍とやらがどれくらいの強さなのか知らないが、鉢合わせになった場合、戦闘になる可能性だってある」
自分一人の身ならば、たとえAランク相当だったとしても相手は人間だ。逃げるだけならば、自信はある。
だが、俺以外、しかも凜は、剣のように戦闘経験のある者でない。質もそうだが、物量差で攻められた場合、かなり厳しい。
「それに、何かあった場合、判断を下すのに俺じゃ役不足だろ。俺は蒼王様一行の顔だって知らないし、どうするんだよそこのところ」
はっきり言って荷が重い。
俺の言葉に、ガリウスと隼人が口を噤む。
……二人には悪いが、俺もそこまでの責任を持てないしな。
だから、この話はここで終わり。
『……でしたら、私も同行しましょう』
●●●
少女の一声で、終わるはずだった話が続く事になる。
エミリアは純一たちに同行しようと言うのだ。
その唐突な提案に、今度は純一ではなく、ガリウスたちが慌てふためく。
『おいおい、エミリアちゃん。急に何を……』
「もちろん、バハムートさんも一緒ですよ?」
『ああ、それなら安心だ――じゃなくてだな』
『ギルドマスターの言うとおりです、エミリア公』
頭をかくガリウスを援護するように、画面の向こう、ミストが言った。
『蒼王陛下、そしてミレイナ陛下がこのような事態の場合、四大貴族が皆を率いなければならないはずです。まして、エミリア様は蒼王補佐官でもあるのです』
的確な言葉に、しかし、当のエミリアは怯んだ様子は無かった。
「こちら――政府の方は、引退されたジャミルおじ様を引っ張り出し……いえ、臨時復帰していただきましたから。若輩者の私より士気もあがるというもの。それに、陣頭指揮をする者も必要でしょう」
『だからそれは俺が――』
ガリウスが言い切る前に、エミリアが割り込む。
「今回は純一さんたちに同行して、状況確認が主なわけですから」
……戦時中のあの方々に比べれば、危険なんて無いようなものです。
「――これは、バハムートさんの言葉とも受け取っていただきたいのですが……」
それは、未だ渋り顔のガリウスに向けての言葉。
「私たちはライナー様の事をあの方々にに託されました。それなのに、この有様です。約束を果たすためにも、ラインベルニカで見ているだけなのは我慢できません」
エミリアは言い切って、横に居るバハムートをちらりと見た。彼は目を閉じたままだ。だが、口端が微妙に上がっているのをエミリアは見逃さない。
●●●
俺は、エミリアの言葉を受けたガリウスが腕を組んだのを見た。
『……仕方が無い。そこまで言われちゃ、俺は何も言えない』
俺には、否、俺たちには何のことかよくわからなかったが、今のやりとりでガリウスの考えを変えさせる何かがあったらしい。
しかし、俺としては状況はかなり微妙だ。
「……いや、いいのか? 正直、それでも荷が重過ぎるんだが」
というより、お守りの対象が増えただけでは無いだろうか。
『エミリアちゃんも何気に頑固だし、悪いが頼む。なに、二人の事は気にするな。少なくとも二人は戦闘面だけ見てもギルドのAランクと同等かそれ以上だ』
……マジか。
十蒼希もそうだが、その関係者も割りとおかしいレベルのようだ。
「――うーん、エミリアちゃんたちが行くなら私は残って、先にガリウスさんたちと合流しようかなー」
今の今まで話を聞くだけだったリリエが不意に自分の方針を口にする。
「ジュン坊の言うとおり、さすがにアレだったからついて行こうと思ったんだけどー。バハ君いるなら私は要らないよねぇ。現状、レイ・ウィングズの最高戦力だしー」
……あ、やっぱり最強クラスなのね。
結局、『竜』ということについては聞けずじまいだったわけだが、その強さはリリエが言うのだから嘘ではないだろう。
――というか、最高戦力だけならそれこそ十蒼希がいるんじゃないのか……?
『オリジン』討伐の影響で療養中という噂をリーシャから聞いたことがあるが、さすがに現蒼王、つまりはレイア王の息子が攫われたのだ。無理を押してでも動くと思ったが。
その辺り、エミリアたちが口に出さないのは妙だ。
……どうせ、そのうち会うんだ。その時に聞いてみればいいか。
そんな事を思った俺を置いて、リリエが話を進めていた。
「あ、エミリアちゃん。こっち来るんだったらネインっち連れてきなよ。敵さん追うのにあの子の鼻が役に立つだろうし」
『……ぬ。それであれば私でも十分――』
「だーめ。君は病み上がりだし、その大きさは目立って仕方が無いの。道中の町で聞き込みとかもするだろうし、その時ネインっちの方が何かといいでしょ? ちっちゃいし」
「そうですね。俺のヴィエラも大概かなとは思いますけど、この大きさの狼は流石に……」
『ぐ……わかった……。だが、ガリウスの部隊には合流させてもらうぞ』
しぶしぶといった風にスレイが言う。
これでメンバーは俺、凜、エミリア、バハムート、ネインか。
あとは何処で何時、合流するかだが……、
「――あの」
これから話を詰めようと言う時に、新たな声が上がる。
「リーシャ? どうした?」
「いえ、純一さんが行くのであれば、私も同行しま――」
「駄目です」
リーシャの言葉が終わる前に、それをミストが遮った。
「今回はエミリア様たちがご同行なされるのです。貴女の力は不要でしょう」
「し、しかし、私の感知能力があれば……」
「それこそ、レイガルフも一緒なのです。要らぬ手間が増えるだけです、許しません」
ミストにしては珍しいリーシャへの断言だ、と俺は思った。
……この前のデーモン戦が効いたか……。
ミストはリーシャの両親から彼女を預かっている身だ。余計な心配は増やしたくないだろう。
リーシャもリーシャで、正論なのをわかっているからか、反論できないでいる。
なんとも言えない空気が流れる中、エミリアが言葉を作る。
『……それでは、色々あると思いますが、まずは合流してからですね。純一さん、必要な物を明日の朝までに揃えていただいて、凜さんという方と一緒に、ラインアルスト郊外で待っていてくださいませんか?』
「え、はい。それはかまいませんけど……」
――明日の朝?
今からだと八時間前後しかないが。
『それでは、私も各方面の連絡等ありますので、これで』
「は、はあ……」
エミリアとの通信が途切れ、ガリウスが肩をすくめる。
『……まあ、そんなところだ。エミリアちゃんの相手、よろしく頼む』
「なんか、よくわからないが、また面倒ごとを押し付けられた気分だ。とりあえず今の事を凜と話してくる」
凜本人はこの場に居ないので、詳細を伝えなければ。
『あぁ、後の事はこちらでやっておくからお前さんは準備を始めてくれ』
その言葉を聞いてから、俺はオフィスを出たのだった。




