77.争乱の幕開けⅡ
「っとー、敵の情報はミストっち待ちとして。具体的な方針はどうするー?」
リリエがそう切り出した時だ。
画面に映っていた映像が一つ増えた。
接続先が表示される前に陣がその答えを言う。
「ラインベルニカ、ミリアルノ宮殿と繋がりました」
『――遅くなり、申し訳ございません。エミリアです』
映し出されたのはレオや剣たちと同じぐらいの歳の少女。
エミリア・ドラン・ベグレット。貴族の中でも特別な存在、四大貴族の一当主にして、蒼王補佐官。そして、自称だが竜という者を、従えているなかなかの大物。
彼女が映ったとたん、隼人は映像を介しながらも、頭を下げ、一礼する。
同時、リーシャも片膝をつき、頭をたれた。慌てて、俺とエリス、陣と彩華も同じようにする。
……というか今までも本来はこうするべきだったんだよな……。
相手は貴族の中でも更に上位者。
そんな相手に動じてないのはガリウスとリリエぐらいだ。
『み、皆さんどうかお顔を上げてください……』
「エミリアちゃん、跪かれるの嫌がるもんねぇ」
『うぅ……と、とにかく、申し訳ないのですが、詳しい話をお願いできますか?』
●●●
『……事は急を要しますね』
画面の中、エミリアが言葉を作る。
俺は俺で再度の説明をし、若干疲れていた。
『とは言え、だ。敵の正体が判明していない。否、アーインスキアが関わっているのは確かだが、そこに何が付随しているか、だな』
「ああ。その辺り、ミストさんによる捕まえた男の尋問と、このスレイが目を覚ましてからの、情報の確認は必要だろうな」
前者はともかく、後者は無理にという訳にもいかない為、どうしても待ちの時間は必要だ。
『……だが、やれることはある』
画面の中、ガリウスが言葉を作る。
『俺は政府とギルドの連中――まあギルド側はランクB以上になるだろうが、混合の部隊を編成しようと思う。エミリアちゃん、いいか?』
『むしろ、ガリウスさんにお願いしようと思っていたところです。
――ギルドマスター、ガリウス・ラインフォートに王国軍・ギルド混成部隊の組織、運用を命じます』
一拍の間を入れて、エミリアがガリウスに命じた。
対し、ガリウスも、画面上で一礼を以って、
『ご拝命承りました。……すまん、俺は早速動く。ラインアルストからの通信には必ず出るから、何か動きがあったら頼む』
「了解した」
俺の返答に頷いたガリウスの顔が、画面上から消える。
『……私もガリウスさんと連携を主軸に、準備をする必要がありますね』
『はい、おそらくノードゥスの支援は必要になるかと思います』
「隼人、アーインスキアの奴が持っていたこれはどうする?」
言って、示したのは黒の色を持った鉄の塊。拳銃だ。
『……製造元によっては、対応も変わってくる案件だね。ひとまず、陣に解析をお願いしたい』
「了解した。陣、渡しておく。弾はもう入ってないはずだが、気をつけろよ」
俺が陣に拳銃を手渡すのを見届けてから、エミリアが口を開いた。
『私も一度、ジャミルおじ様たちに事のあらましを伝えてきます。純一さんたちはひとまず休養を。ギルドのクエストからここまで、大変だったでしょう』
エミリアの言葉を受け、そういえばと思い出す。同時、どっと疲労が出てきたような感覚にも陥る。
「どちらかって言うと、レオたちの方が戦闘ありきで大変だった気もしますが、自分もポーション製造でスキル多様したので、お言葉に甘えさせてもらいます」
ポーション製造は慣れたものではあるが、それなりの数を作ったため、《創造者》事態の行使に使った魔力もそこそこある。
『私たちもガリウスさん同様、そちらからの連絡は優先でお受けしますので』
「かしこまりました」
エミリアと隼人との映像が途切れる。
「――ったく、大変な事になってきたな……」
我慢していたため息を全開に、愚痴を吐いた。
「というか、いきなり四大貴族の御方が出てきてあたしびっくりなんですけど? ギルドマスターだけでも割と大概だったのに」
エリスがスレイから離れ、こちらに近づきながら言ってきた。
「すみませんエリス。一応、ここで聞いた事は他言無用で」
リーシャの頼みに、はいはい、とエリスが肩をすくめて頷いた。
「だいたいこんなこと他で言えるかっての。それと、そのレイガルフ君は特に鏃とかそういうものは残ってなかったから。多分ジュンイチの薬のおかげだろうけど」
「そうか、ありがとう」
「いいって。ただ衰弱してるのは間違いないし、起きた時栄養も必要だろうし、ガルフが好みそうな物を今から買ってくるから、ここ勝手に入るわよ?」
エリスは引き続き協力してくれるようだ。
「ああ、俺はこのままここで休むから大丈夫だ。
……金はこれ使ってくれ。ノードゥスの方で払っておく」
「ほいさ。じゃ、行ってくる。悪いけどリーとアヤカも付き合って。あたしストックス使えないし」
「承知しました」
「あ、はい。では、行ってきますね」
オフィスを出て行ったエリスとリーシャ、彩華を見送り、俺は椅子に座った。
「はあ、疲れた。リリエさんはどうするんですか?」
問うた先、ん、と黙っていたリリエが近くの椅子に座る。
「私もここで待機させてもらおうかな。アルガドの方は今日は元々休みにしてあるし。エミリアちゃんたちと連絡取るのもここの方が楽だし」
笑って言うリリエに対し、俺は半目で、
「というか、蒼王が誘拐されたって言うのに、いいんですか、そんなんで」
「えー、そんなんとか酷いよジュン坊。一応、これでも救出方法一通り練ってるんだよ?」
笑みを止めないまま言うが、おそらく嘘ではないのだろう。
この人はそういう人だと、この一年の付き合いでわかっている。
「そうですか。じゃあここ一回任せていいですか。他のみんなに簡単な説明してきます。陣!」
そう言い残した俺は陣を伴って、オフィスから繋がる住宅へと移動したのだった。




