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75.草原の戦いⅡ

 しまった、と思った時には遅かった。

 レオの回避行動は間に合わない。

 だから、間に入るものが居た。


「――剣君!?」



●●●



「……間一髪間に合ったっすね!?」


 レオと振り下ろされる大剣の間に己の身体を差し込んだ剣は、片手剣を盾にした。

 大剣の重い衝撃が片手剣から手を伝って身体に響く。

 ぐっ、と口から声が漏れた。

 このままでは押し切られる。だが、蹴りなどをいれようにも体勢を崩せばこちらが斬られる。

 だから、まかせた。

 自分の横、レオが抜け、


「……っ!」


 ルベルサイファーがフード男の鎧に食い込む。

 刃が鎧を完全に破壊する前にフード男は後退を決める。


「っち! もう一人のガキか。あいつはどうした!?」


 男は遠く、気絶し縛られている男を見つけて、


「ガキにやられるなんて使えねえにも程があるだろ!? だからあんな雑魚と組むのは嫌だったんだ!」


 悪態を吐き散らす。

 それに対し、剣は失笑する。


「それはあんただって同じじゃないっすか? 二体一とは言え、()()相手に粘られてるじゃないっすか」


「……はっ! 確かにてめえらが普通のガキじゃねえのは認めるぜ。そっちのガキは変な剣も持っているしなぁ」


 だが、と男は続ける。


「双剣のガキはともかく、てめえはもう戦えねえ」


 男が告げる。その視線は剣の片手剣を捉えていた。


「――(つるぎ)君、剣が……!」


 剣身に、亀裂が入っていた。

 それはちょうど、大剣が叩きつけられたところで、


「それで向かってくるって言うなら、その勇ましさと無謀さに免じて一瞬で斬り殺してやるぜ?」


 フード男はそう言って、大剣を構えた。

 レオが、剣の横に並び立つ。


「剣くん、他に何か武器は持ってたっけ」


「いやー、今日はランクFクエストって言うんで、これしか」


 じゃあ、と言うレオに対し、剣は首を横に振った。

 剣はニヤリと笑みをこぼして言う。


「大丈夫っすよ。全部予定通りなんで」


 予定通り? とレオが聞き返してくる横を、剣は一歩前に出た。

 そのまま亀裂が入った片手剣を相手に見えるように前に晒す。


「その気持ちはありがた――別にありがたくもないっすね。

 ……まあ、一つ。あんたは勘違いしてるっす」


 あ? と男が疑問の声を作った。

 その瞬間、剣の片手剣からある物が落ちた。

 それは、金属の部品。

 普通に考えれば、亀裂から金属片が落ちたと考えるのが妥当だが、


「これをやるのに、一部パージしないといけないのはやっぱり問題っすよねー、簡単に元には戻せなくなるのも含めて」


 横のレオもフード男の表情に近いものを持っていることを剣は察し、苦笑した。


「ああ、すみません。自分どうにも説明不足がちで。

 ――簡単に言えば、あんたが自分で入れたと思った()()は、自分が機構変形を行うためにできた溝っす」


「なっ……!?」


 剣の片手剣がその秘められていた姿を現すために、自らの身を組み替えていく。

 ガシャン、という金属音が鳴り響き、新たな姿を形作っていくが、それはもはや()ではなく、


「――煉野式機構刀剣、影明(かげあかし)


 完成したそれは、以前自分を救った者が持つ武器に限りなく近い形状。


「……まあ、打った本人はこんなのを刀と言うのはおこがましいと言ってたっすけど」


 確かに本来の日本刀のような切れ味は無い。だが、まりが打ったそれは、戦う力を備えている。

 だから、


「肉を斬るには十分なんすよ……さあ、続き、やりましょうか?」


 戦闘が再開される。



●●●



 レオは左に居る剣とともに男との距離をつめた。

 彼の持つ剣、否、刀について色々聞きたいことはあるが、


「あの拳銃はうちのより性能が低いはず――おそらくマザー・イニーツィオの既存品っす! だから今は弾切れのはず。もし撃ってきたら魔流活性で身体強化は絶やさずっす!」


 そう警告された。

 加減が難しい。なにしろ、自分は攻撃時はルベルサイファーにも魔力を送らなければならない。

 ……切り替えが大事だね。

 そう思う眼前、男との距離は数メートルを切っている。迎撃として横一線の斬撃がくる。

 レオと剣は走りの勢いを利用し、地を滑るようにして身を低くする。

 直後、頭上を鉄の刃が通り過ぎる。

 今度はこちらのカウンターだ。

 左右からの胴体に対しての斬撃。

 左の剣からは鋭利な、右の自分からは特殊な斬撃が行われ、男の胴体を守る鎧に深い傷をつける。

 そのまま斬り抜けた二人は距離をとり、


「んー、思ったよりあの鎧、いい物なんっすねー。今のでどちらかは貫通出来ると思ったんすけど」


「それ深く入ったらやばいんじゃない? 一応捕らえるのが目標なんだから」


 と、剣に念押しするが、正直レオ自身どう戦闘不能状態まで持っていくか、考えが無い。


「腕の一本ぐらいならこう、シュバってやっちゃってもいいんじゃないっすか? というか最悪あっちで寝てる人がいればいいような」


「いやまあそうなんだけど」


 情報だけなら別にフード男だけでなくとも持っているだろうが、正確性にかける。できれば、二人とも捕らえたい。


「……じゃあ、ひとつやってみたいことがあるんすけど」


「何?」


「説明は行動で示すっす。レオさんはとりあえずあいつの大剣を封じてくれれば」


 難しい事を言う。だが、わざわざやりたいと進言してきたのだ。何かあるのだろう。


「わかった……いくよ!」


 再度の突撃だ。

 本日何度目かの大剣の振り下ろしに、レオはルベルサイファーを左右から入れた。

 結果、大剣の身をルベルサイファーが挟み、抑える事になる。


「――剣君!」


「うっす」


 声とともに、剣が跳んだ。

 レオの後ろ直上、刀を振りかざしながら男に迫る。


「甘ぇ!」


 男は大剣から左手を離し、強引な動きで今度は腰にある短刀を剣に投げた。

 剣は迎撃する必要があるが、そうすると空中で身体のバランスを崩すはずだ。

 フォローしなければ、と思った瞬間、レオは目の前――否、フード男の更に後ろに剣が居るのを見た。


「――魔流活技、走駕(そうが)


 剣の言葉と同時、一閃が走る。

 それは、男の脚部裏を切り裂き、


「がぁ!?」


 痛みと驚きで男が声をあげ、転倒する。


「――ふう、なんとか決まったっすね」


「決まったっすね……じゃないよ、剣君! 今の何?」


 親指挙げて笑顔をこちらに向ける剣に対し、レオは突っ込みを入れる。


「ああ、走駕(そうが)のことっすか?」


「……魔流活技なの?」


「そうっすね。魔流活技の秘奥、らしいっす」


 らしい、って……、とレオは言葉を失った。


「いや、以前、社長が稽古をつけてくれたことがあるんすけど、その時に今のやられて。

 そん時にコツだけ教えてもらって、一時期こればっかり練習してたらちょっとだけっすけどできるようになったんすよ。社長に言ったら驚いてましたっすけど」


 魔流活技の秘奥ならば、そう簡単に出来るものではない。たとえ、どれだけ修練を積んでも、だ。

 ――うーん、剣君も天才肌というか。


「まあ、おかげで倒せたけどね――っと!」


 レオは倒れた男の手から大剣を奪い取り、遠くに投げる。

 これで男は主な武装を失った。拳銃などまだ持っているだろうが、弾を装填した様子はなかった。加えて、剣の影明による脚部のダメージで立ち上がることすら出来ないはずだ。


「さて、あとは拘束して終わりかな?」


「そうっすね。純一さんに縄でも作ってもらってくるっすかね」


 剣が言ったときだ。

 ふと、男が笑っているのが聞こえた。


「――何が可笑しい?」


「いや、色々なぁ。この俺がてめえらみたいなガキに負けたのもそうだ」


 だが、と男は言葉を続けた。


「つくづく甘いと思ってよぉ? やっぱりガキはガキか」


「何……?」


 何か嫌な予感がした。

 だが、何だ。こいつはもうこちらに対し、攻撃できる手段はほぼ無いはずだ。あるとしても簡単に鎮圧できる自信はある。

 だから、念のために男の体を調べようとして男に近づいた時、


「離れろ!」


 声と同時、いつの間にか近くに居た純一がこちらと剣の方に跳び、両者を抱え込んで、地に倒れた。

 直後だ。


「――!」


 爆発が起こる。

 それは、男の身体からで、


「――うっ……何が……?」


「危なかったな……グレネードだよ。拳銃持ちの時点で何かあるとは思っていたが、《観測者》が警告出してきたんだ。大慌てで走ってきたが間に合ってよかった」


 つまり、男は負けた瞬間、こちらを巻き込んで死ぬつもりだったのだ。


「っー、油断っすね。すみません純一さん」


「いいんだよ。フードの方はあれ、即死だろうが、もう一人は無傷だし」


「うん……。レイガルフは?」


「一応、傷自体は全部治した。ただ衰弱が酷い。ポーションを飲ませもしたけど、一日は起きないかもな」


 そう、とレイガルフの方を見ると博がこちらに手を振っているのが見えた。

 手を振り返しながら、レオは今後の方針を尋ねる。


「まずはラインアルストに帰る。向こうには連絡済だから、大慌てだろうが、それはこっちも同じ。とりあえず、俺は林の木材でレイガルフを乗せる台車を作るからお前達は男をこの縄でもう少し縛って動けないように。どうせなら顔に紙袋でもかけておけばいい」


 純一は言って、こちらに異空間から出した紙袋と縄を放る。


「その後は台車に俺たちでレイガルフを乗せてヴィエラで引っ張る。多少揺れるが、それならすぐにラインアルストに帰れるからな」


 純一の指示の下、それぞれが動き出した。



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