74.草原の戦いⅠ
草原に、火花が散った。
それは、金属同士がぶつかり生じたものだ。
「くっ……、子どもの割りに良くやる……!」
一度数歩下がった剣に対し、ギルドの男がそう言い放った。
二体二の戦いは自然と二つに分かれ、剣はギルドの男と戦う事になった。というのも、レオが率先してフードの男に斬りかかって行ってしまった為、自分がこちらを担当する羽目になったというところだ。
……個人的にはあっちの方が気になったんですがねぇ。
だが、レオの方が色々と先輩だし、尊重しなければ。
「もう自分もいい歳だとは思うっすけどね」
自分としては魔物を相手するよりは対人の方が得意だ。
身体の動きなどわかりやすいし、なにより、ノードゥス戦闘部で培った暴徒鎮圧の技術などが転用できる。
……まあ、普通のヒューマンが対象だった事はあんまり無いっすけど。
大抵は異世界の特殊な性質を持った者だったが、この際、気にしない。
と、剣は接近しながら片手剣を右下から振り上げる形をとる。
それをギルドの男が自らの剣で受け止める。
予想通りの対応だ。だから、剣は膝を折った。
「うおっ!?」
足払いだ。
脚部に衝撃を受けた相手はバランスを崩す。
そのまま、片手剣の柄で腹部にでも衝撃を与えれば、気絶するだろう。
「――っと!?」
ところが、そう簡単にはいかなかった。ギルドの男は転倒しながらも片手剣を振り回して抵抗する。
剣は安全のため、後退せざるおえない。
「うーん、なまじ戦闘経験がある相手だと面倒っすねー」
ここに鎮圧用の道具があれば、もっと楽なのだろうが、ラインアルストに持ってきているのは最小限。さらに今回はそれら全てを自分たちの拠点に置いてきてしまった。
これは失敗だ。自分ちょっと反省。
「――くそ、舐めた真似を……! 子どもだからと手加減していたが!」
立ち上がった男が言い捨てる。
直後、男がこちらに飛び掛ってくる。
剣は片手剣を盾に、斬撃を受け止める。先程とは逆の構図だ。
……この速さは魔流活性っすか!
普通の人間の速度ではない。それも、それなりの質の魔流活性だ。
男は片手剣を力任せに何度もこちらに振り下ろしてくる。
「魔流活性はそれなりなのに、その雑さ。よくわからないっすね!」
才能に対して、技術が無いのか。否、これは焦りか。
……そういえば、時間が無いとか言ってたっすもんね。
それは、こちらも同じ事だ。
だから、剣は早々にこの戦いに決着をつけることにした。
正直、もっと実戦の空気を体験したかったが、これではまだリーシャやレオを相手にした方が、近接戦等を伴った対人戦の練習になる。
乱雑な斬撃は、大きな隙を生む。
「――今!」
剣はそれまで受け止めていた斬撃を、片手剣を傾かせる事で受け流した。
と、同時、剣は左手に魔力を集中させ、そのまま男の腹にねじ込んだ。
「ぐぉっ……!?」
魔流活性による強化を全て攻撃面にしていたのならば、身体の防護面での強化は疎かなはずだ。
かなりの衝撃が伝わったはず。
男はその影響か、気絶したようで、地面に倒れる。
「内臓までいったかもしれないっすけど、まあ死んでないからいいっすよね」
剣は気絶した男を持っていたヒモで簡易的に縛る。
「さて、レオさんは、っと……」
●●●
レオはフード男と斬撃の応酬を繰り広げていた。
フード男の大剣による斬撃を、レオは受け流すのではなく、回避を選択していた。
横にスライドする形での回避はそのまま攻撃へと転化する。
赤の双剣がフード男の身体へと迫る。
だが、フード男は大剣を一度手放し、懐から取り出した短剣で間一髪受け流す。
「やるじゃねえかクソガキ!」
大剣を回収し、一度離れたフード男がレオに対し、言葉を作った。
「そりゃどうも。全然うれしくないけどさ」
レオはレオで吐き捨てるようにそう言った。
レオとしては相手が敵、というよりも気になることがあった。
「……あんた、アーインスキアの人間でしょ?」
「――ほう? 何故そう思う」
「何故も何もないよ。そのマントの下、どう見てもアーインスキア兵の鎧じゃない」
フード男はマントも装着しているが、その下、戦争中に一度だけ見たことがある鎧を装備している。
おそらく、こいつは残党兵なのだろう。
「俺たちがどういった存在かも知ってるか。こいつはさらに殺す必要があるってもんだ」
「――必要がなくても殺すくせに」
今度はレオからの攻撃だ。
右手のルベルサイファーを逆手に持ち、連撃を見舞いする。
「甘ぇ!」
フード男は大剣で受け止めていたルベルサイファーごと、レオを吹き飛ばす。
飛ばされたレオは難なく、着地する。
「その口ぶり、俺たちに何かある様子だな?」
「……別に? 父さんたちをお前らに殺されたってだけの、よくある話の一人なだけだよ」
そう。レオの両親は既に他界している。数年前に、だ。
戦争中、一度だけラインアルストがアーインスキアの襲撃を受けたことがある。
その時、避難が遅れたレオの一家が戦いに巻き込まれた。
両親は戦闘できる力も無いのに、レオが逃げるための時間を稼ぎ、殺された。
「――まあ、よくある話だよね」
戦争孤児。
どの世界でも戦いがある世界ではよくある話だ。
しかし、
「よくある話だけど許せない」
レオはルベルサイファーを握る力を強めた。
「だから俺に復讐しようってか? 俺としちゃここいらの街は知らねえが、いいぜ。その恨みを抱かせたまま殺してやるよ」
男がニヤニヤとして言う。
対し、レオはため息をついた。
「……はあ。早とちりも程々にしてほしいよねえ。お前らは許せないけどそれはそれ。こっちには仕事があるんだから」
純一に、情報を聞き出すために拘束して欲しいと頼まれた。
ならば、それを全うするだけだ。
だから、レオは再度、突入した。
始めに左のルベルサイファーで斬りかかる。これは当然大剣でガードされる。故に、右のルベルサイファーで大剣の横を通り抜け、刺突する。
残念ながら、それは男の鎧を削ぐだけで終わる。
「ちぃっ!? 言う割には殺意あるじゃねえか!」
「まあ殺さなければいいだけだし? どこかに穴が開いててもかまわないでしょ」
純一たちには見せた事の無い表情のまま、右手のルベルサイファーを戻し、左のルベルサイファーと重ねるように、大剣にぶつけた。
「――!」
魔流活技、錬装。
身体に装備している武装に魔力を流し込み、切れ味や強度を補強する魔流活性の応用技。
瞬間、剣身から炎が噴出する。
魔剣、ルベルサイファー。
魔力を帯びる事で斬撃の強化、さらに与えた傷口から炎が出火し、追加攻撃ができるといった能力を備えている。
その世界有数の剣をもって、レオは大剣の破壊を試みようとした。
だが、
「おっと危ねえ!」
男がルベルサイファーの異常性から、後退した。
「……面白い剣を持ってやがるな? その剣、あとで俺が使ってやろう」
余裕綽々なのが腹が立つ。
しかし、油断してくれれば隙が生まれる。
その隙を突けば、倒す事もできるだろう。
レオはそう思った。
しかし、男はそれを裏切った。
「とは言え、その炎の剣と、剣をあわせるのはやべえ。なら、こうするしかねえな!」
言葉から、何か遠距離攻撃を仕掛けてくると思った。
だが、男の体に弓などは見当たらない。
ならば何を、とレオが思った時、男は懐からある物を取り出した。
それは、黒の色を持った――、
「銃?」
否、この世界の一般的なものでは無い。それは、ノードゥスの、凜たちも持っている拳銃。
何故そんなものを持っている、と問う暇もなく、男は銃口をこちらに向け、
「おら!」
発砲してきた。
弾丸が顔の横を通り過ぎていったのがわかった。
「っち! 慣れねえ。
……だが、こいつは怖ぇぞ? 魔流活性してなきゃ、かすっても命取りだ」
言葉に、レオは戦慄する。
疑問はあとだ。あれの威力は一般的なこの世界の常識では通用しない。それこそ、純一やノードゥスの武装と同じ。
飛んでくる弾丸を回避、またはルベルサイファーで切り落とす必要がある。
レオは魔力を視覚に集中し、弾丸を見極めることを選択した。
ぎりぎりの回避が続く。
避けられないものではない。
弾切れの瞬間、懐に飛び込めば……。
「……おらっ! 死ねやぁ!」
男の声がすぐ近くからした。
――しまった。
弾丸を避けるのに気をとられ、男自体の接近に気がつかなかったのだ。
レオの身体を容易く二つに断てる大剣が、振り下ろされた。




