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73.嫌な予感

『――あれは、レイガルフです』


「なんだって!?」


 告げられた事実に俺は驚きの声をあげた。


「どうしたの純一!?」


 レオがゆっくりとこちらに接近してくる魔物から目を離さずに声を飛ばしてくる。


「《観測者》があれはレイガルフだって……。でも俺の知ってるレイガルフ――ネインはもっと小さかったはずだけど……」


 数ヶ月前にラインベルニカまで行くきっかけを持ってきたレイガルフのネインはそれこそやや小さめの中型犬という風だった。

 だが、今俺たちの眼前にいるのは、去年キメラに追われラインアルストを襲ったハイガルフ並で、俺が乗れるようなサイズだ。


「……いえ、そのネインさん? って十蒼希の従士をされた方のことっすよね?」


「ああ、そうだ」


「前に社長がネインはレイガルフでもかなり小さい方って言っていたのを聞いた覚えがあるっす」


「じゃあ、あいつが例外なだけで、レイガルフはあんななのか……」


「結局どうする純一?

 ……あ!?」


 ふいにレイガルフが倒れた。衝撃で血液が飛び散る。


「なんでレイガルフがこんな所であんななのか気になるが、まずは治療だ。あれじゃあ十分も持たない!」


 言って、俺たちはレイガルフに駆け寄る。

 異空間からポーションを引っ張り出した俺は、


「おいあんた、大丈夫か!?」


『……人間、か……』


 声が脳内に響く。

 魔流通話(まりゅうつうわ)。魔流活性と同じく魔流活技(まりゅうかつぎ)の一つで、魔力を媒介にした念話のようなものだ。だが、難しい技術らしく、行使出来る者は魔流活性以上に少ないのだという。ちなみに魔流通話を受けるだけならば、誰でも出来る。


「ああ。ギルドの者だ。何があった?」


 俺がそう言うとレイガルフはいきなり表情を硬くする。


『……貴様らは……()()()だ……!?』


「――?」


 どちらだ、とはどういうことだ。

 こちらが伝えた情報は、ギルドの人間というだけで、そこに選択肢が介入する余地は無いはずだ。


「おい、どういう意味だ」


『――……』


 今の問いに、こちらも問いで返すが、それに対しての返答は無い。


「純一、とにかく、治療させなきゃ!」


「あ、ああ……そうだな。おい、あんた。回復させるから口を開けてくれ」


 俺は手に持つポーションをレイガルフの口に流し込もうとする。

 だが、レイガルフは警戒からか、口を閉ざしている。毒だとでも思っているのだろうか。


「ええい、仕方が無い。とにかく出血を止める。みんな、これを傷という傷にかけるんだ」


 言って、三人にポーションを渡す。

 内側が駄目なら外からだ。正直効果は低くなるが、今は仕方が無い。


「俺は《創造者》で追加のポーションを作る。今の在庫じゃ間に合わない。

 剣はそれが終わったら、ラインアルストに居る誰かに連絡して、ミストさんに医療班の用意をしてもらってくれ! 魔物だから正直役に立つかわからないが、体の中に鏃とかが入っていたら摘出する必要もある」


 傷跡は刀剣による傷の他、鏃や魔法による火傷などが多数見受けられる。正直、博にはあまり見せたくないが、緊急事態だ。


「――あとノードゥスの回線経由でラインベルニカのガリウスのおっさんにも連絡がつくように」


 ネインの言っていた事が本当ならレイガルフってのはガルフ系の魔物の中でトップクラスのはずだ。

 それがここまで損傷するということは、何かが起きている証拠だ。

 その時だ。俺の放った言葉に、レイガルフが目を見開き、反応を示した。


『ガリウス……ノードゥス……お前達は、ノードゥスの関係者……か……?』


「ああ、関係者も関係者。俺は清堂 純一。十蒼希でもあるうちの社長の浩二、その従兄弟さ、俺は」


 レイガルフに対し、俺は自分のノードゥス社員の証を見せる。日本語で書かれているが、レイガルフならば、認識できるはずだ。


『清堂――そうか……ならば――お前達に頼みが、ある――』


「あまり喋るな、体力が奪われる」


 だが、かまうものかとレイガルフは言葉を口にする。


『ガリウスと、エミリア様に伝え、てくれ……、――ライナー様が、攫われたと』


「――は?」


 疑問の声をあげるが、それ以上言葉を作る事は難しいようで、レイガルフは口を閉ざす。

 ライナー。何処かで聞いた名だ。どこだっけ……。

 確か有名人だったはず、とレオの方を見た俺は異変に気づく。レオの顔が蒼白の色を持っているのだ。


「――純一、ライナー様って……もしかして、蒼王様のことじゃ……」


「……!」


 瞬間、全てがつながる。

 そうだ。東ギルド大会議で、エミリアが言っていたではないか。




『はい。実は蒼王ライナー様とその祖母であり前々蒼王であるミレイナ様が王都郊外にある宮殿に視察もかねて公務に出ておられるのです。レイ・ウィングズ軍の精鋭に加え、レイガルフ数体の護衛がついているので、安全であるはずですが、何かあってからは遅いということで、ラインベルニカまでお戻りになるように政府は使者を送りました』




 以前地図で確認した限り、大街道を使ったラインベルニカと王都の往来はかなりの距離がある。使者が王都まで行くのもかなりかかるが、問題は帰りだ。王族を連れているなら無理をして進むわけにもいかない。

 東ギルド大会議が行われたのが、俺の端末に表示されている日付で三月十五日。そして今日が五月二十七日。大会議よりも前に使者がラインベルニカを発ったとしても多少のずれにしかならないはずだ。つまりは約七十日。この世界の主な移動手段である馬車の速度を一日百五十キロと換算する。


「ラインベルニカと王都間の大街道は地図の縮尺が正しければ五千キロ強。往復で約一万キロ。ただ、天候や王都からこちらに出発するための用意、馬の疲弊も含めてると……」


(マスター)の想像通りであると予想――多少のズレを考慮しても、蒼王(対象存在)はラインアルスト北部の大街道を移動していた可能性大――』


「――護衛にはレイガルフ数体もついていたはずだ。辻褄は合う……」


 そして。そして、だ。

 このレイガルフが始めの方にこちらに向かって言った言葉。

 『どちら』だ。これが何に対して放たれた問いか。


「……ギルド」


 それが、何を意味するか。東ギルド大会議に参加した俺ならばわかる。

 ――これは魔物云々とはまた違う方向で、非常にまずい案件だ。

 そう、俺は心の中で確信する。

 だから、俺は剣に対し、連絡を早めるように指示しようとした。

 だが、それは知らぬ声により阻まれる。


「――君たち!」



●●●



 男の声が俺の動きを静止させる。

 振り返ると、レイガルフのやってきた林から、二人組みの男が出てくるところだった。

 片方は街でも良く見る防具をつけた男、もう片方はぼろフードを被っているが、体格的に男だと判別でき、それぞれが片手剣と大剣を装備している。

 二人のうちの片方、前者の人当たりの良さそうな方が、こちらに対し、


「君たち! 今すぐその魔物から離れるんだ!」


 俺たちに警告を発する。


「いきなり何ですか、ボクたちは――」


 唐突な命令に憤ったレオが言葉を作るのを俺はレオの前に出ることで制止する。

 同時、《創造者》を起動し、自身の魔力である物を作成する。

 それは紙。ただの紙ではない。その紙にはこう書いてあった。


『ちょっと気になる事があるから俺に合わせてくれ。全員ポーションを隠して。あとレオはすぐにギルドのメンバー証を外して隠し、剣と博には言葉を発しないようにさせるんだ』


 指示書。男達に見えないよう、身体の後ろで紙を作成し、レオに手渡した俺は服を正すように見せかけ、メンバー証を外してポケットに突っ込む。

 そして、俺は男達に()()()()()()()()()で返答した。


「すみません。いきなり話かけられたもんで、びっくりしたみたいで」


「いや、いい。それより君たち、早くその魔物から離れなさい。そいつは大変危険な魔物なんだ」


「……ふむ、確かに。こんな大きな狼は見たことが無い。でも凄い傷だらけだ。お兄さんたちがこの魔物を?」


 二十代半ばに見える男にそう問いかける。


「――そうだ。私たちはギルドの者でね」


 そう言って、男は俺に胸のバッジを示した。ギルドメンバー証でもあるそれが示すのはランクD。レオやエリスと同じ階級。

 自分で示してきたか……。

 こちらから訊く手間が省けた。


「人的被害を出していたそいつを討伐しようとしていたんだが、運悪く逃がしてしまってね」


 嘘一つ目。

 こいつらがレイガルフを殺そうとしている奴らの、()()な事は間違いないだろうが、仮にこのレイガルフが討伐対象になるような魔物であれば、ラインアルストのクエストに成らない訳が無い。少なくともこの辺りはまだまだラインアルスト近郊であり、管轄内だ。

 さらに、レイガルフが蒼王直轄の個体しか存在しないのか、または野良個体なども存在するのかは知らないが、ガリウス、そしてノードゥスの名を知っているのであれば、信用には値する。

 ――少なくとも、こいつらよりは。


「……なるほど。俺たちは最近ウルダ地方からこの近くの村に引っ越してきて、色々見て回っている時にこれに遭遇しまして。どうしようかと思っていたんですよ」


「そ、そうか。それはちょうど良かったな。私たちの方で処理しておくから、君たちはもう帰った方がいい」


 どうにもこの男から焦りを感じる。


「ええ、そうですね。

 ……ところで、ギルドというとこの辺りだとラインアルスト? とかいう街にあるみたいですが、貴方たちもその街の方なんですか?」


「……あ、ああ。その通りだ」


 嘘二つ目。

 俺とレオがラインアルストのランクDメンバーの顔を知らないということは有り得ない。

 

「――おい」


 その時、今まで一言も喋らなかったフードの男が、もう一人に話しかけた。


「ちんたらしてたら本隊に追いつけねーぞ、わかってんのか」


「わかっている、だからこうして……」


「ふん、たかがガキが四人。全員始末すりゃあいいだろ」


「おい! 少し黙っていてくれ!」


 ――穏やかじゃないねぇ。

 こちらと話していた方がフード男の言葉を止めるが、残念ながらばっちり聞こえている。

 向こうは時間が無いようだ。

 だが、それはこちらも同じで、


(マスター)に警告。レイガルフの生命活動可能領域が危険域に突入します。至急、蘇生行動の再開を推奨――』


 《観測者》からの警告に、俺は内心で舌打ちをする。

 ……ここまでか。もうちょい情報を引き出したかったが……。

 あとは拘束してから情報を喋ってもらうしかない。正直、黙秘を続けられると困るので、この会話である程度までは話を引き出したかった。


「――いや、すまない。この男は短気でね。怖がらせてしまったらすまない」


「いえいえ。どうやら時間が無い様子。俺たちもそろそろ退散します」


 それを実行するためにまずやるべき事は。


「そうか、では――っ!?」


 男の言葉と同時、否、それよりも早く、俺はある物を男たちの足元に投げつける。

 それはノードゥス製のスタングレネード、と同じものを《創造者》で作成したもの。ストックスで異空間から取り出すと特有の発光現象で不審に思われるため、わざわざ作った。

 俺はそれを先程の紙と同じく、身体の後ろで手に持ち、レオ、剣、博に見せていた。起爆地点は俺たちと離れているとは言え、味方まで動けなくなったら話にならない。

 不意の攻撃。しかも、この世界には通常存在しない武装。

 普通の人間ならば、もろに受けて行動できなくなる、はずだった。

 しかし、男たちは起爆と同時に、後退する。それでも、効果範囲内には入っているため、影響は受けるはずだ。


「ぐっ……」


「くそがぁ!」


 突然の攻撃に動揺しているようだが、視覚にさしたる影響は無いように見える。

 ……魔流活性か!

 感覚を強化できる魔流活性は、同時に刺激に対しての防護も備える。


「……ランクDって言うのは嘘じゃないようだな」


 多少のダメージは入ったようだが、戦闘不能にはなっていない。

 いきなりの攻撃にわけのわからないという様子の男は、


「何が、どういうことだ……?」


「……はっ! わかんねーのか!? 俺たちは嵌められてたって訳だ。このクソガキどもにな!」


 どうやらフードの方は事情に気づいたようだ。


「だから言ったんだよ、馬鹿が! とっとと殺しちまおうってなぁ。てめーの失態だぞこれはぁ!」


 フード男が悪態をつく。


「くそ、騙されていたのか!?」


 ようやく事態を飲み込めたという風にギルドの男が言う。


「まあ、騙していたのはお互い様だろ」


 俺はストックスで異空間からヴェリアルを引き抜いた。


「……!?」


 俺のストックス行使、そしてヴェリアルの銃身が男たちを身構えさせる。

 

「《創造者》起動。《観測者》と連携してレイガルフ(こいつ)に必要な量のポーションを作れ。持ってる魔石は勝手に使え」


(マスター)からの指示命令を実行します――』


 しかし、どうするか。

 二体一。加えて、手加減しなければならない。情報を得るために生かして捉える必要があるからだ。対し、向こうはこちらを殺しに来るだろう。

 さらに作ったポーションをレオたちに渡して治療を続けてもらう必要がある。だが、巻き込まないために戦闘は離れて行う必要があるし、そうなるとポーションを渡すのは難しくなる。

 面倒な状況だ、そう思った時、俺の前に二つの影が立った。


「――レオ、剣!」


 名を呼ぶ事で、それはやめろ、という意思を伝える。

 だが、レオと剣はそれぞれの武器を構え、


「ポーションを作れるのは純一だけなんだから、役割は自然と決まるはずだよ」


「そうっすね。戦闘だけなら自分らでもいいっすけど、治療に何か必要な物が出たときに純一さんが居ないと困るっすよ」


 正論だ。だが、相手はメンバー証が本物であれば、ランクD。そして、フードの男の方に至っては実力は未知数だ。出来れば、俺が対応した方がいい。


「なんとなく、純一の考えは読めるけど、それでもだよ。博君だって守らないといけないし、仮に離脱ってなったら、純一がヴィエラを準備してくれないと。

 ――それに純一に付き合ってるせいだろうけど、ボクたちもそこそこ強くなってるからね?」


 最後の言葉に、俺はため息をついてから、言葉を返す事にした。


「ったく、仕方が無い……。情報が欲しいから出来るだけ殺すなよ、出来るだけな」


 絶対、とは言わない。命を賭けた戦場で相手を殺すな、というのは最も難しい事の一つだからだ。


「先月のデーモン戦。良いとこ無かったっすからねえ……」


「そうだね。ここらで挽回といこうか」


 気にしていたのか。否、気にするよな……。

 二人ともれっきとした戦士だ。だが、デーモン戦(あの戦い)では戦う事すらできなかった。


「お前ら無理だと思うなら必ず退け。こっちは絶対だからな?」


 念押しする。心配だが、二人とも()()は出来ると、今までの付き合いでわかっている。

 スタングレネードの影響が薄れたのだろうか、相手の男たちもこちらを正確に視界に捉えたようだ。


「わかってるって。治療とみんなへの連絡は任せたよ。

 ……いくよ、剣君!」


 四人の男たちが、戦闘を開始する。 


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