69.新たな事実
俺たちは地上に向かうため、洞窟の出口に向かっていた。
ここまでのダンジョンの帰り道は元来た道を戻る予定だったのだが、水晶が無くなったからか、それとも主であるデーモンが死んだからか、壁の反射能力は無くなっていた事によって、リリエが魔法で壁を破壊していたので帰り道は大いに短縮することになった。仮にまだ壁の能力があったとしてもめんどくさいから近道したいとかなんとか言って反射を上回る魔法で壊していただろうが。
「うー、結局活躍らしい活躍できなかったなー」
横、レオがうなだれて言う。
「仕方が無いっすよ。相手が相手ですし。自分としては、参戦できなかったとしても戦闘見るだけでもできればよかったんですけど、それもできなかったのが悔しいっすね」
仏頂面で言うのはレオの隣、剣だ。
デーモン討伐後、彼らの回復を待ち、直ちに地上に戻る事になったのだ。
気になるのは、
「ノードゥスのアピールは結局成功って言って良いのかな、これ」
途中からばたばたで、ほとんど活用しなかったラインアルストとの通信。
今は調整と言う事で、『ミストたちが地上で待っている』という報告を最後に、通信は切れている。
「ま、誰でも簡単に離れた相手と通信できるっていう事自体は説明できてたし、割と好感触みたいだったから成功なんじゃない?」
「それならわざわざここまで来た意味はあるんですけど」
元々の目的が果たせていないのでは意味が無い。
「……それにしてもまさかジュン坊が新しいスキルを手に入れてたとはねー。何て言ったっけ?」
「《観測者》です。まあ、大雑把に説明すれば、対象の情報や行動予測が出来るっぽいですね。限度はありますが」
「――ということはー、対象を女の子とかにすれば、色々ジュン坊にばれちゃう訳だー? どうするー、リーシャちゃん?」
その手があったか。
「……不埒な気配がしますので、私がそのような事が無いように監視しておきます」
《観測者》含めスキルとのやり取りは、実は脳内だけでも出来るわけだが、そのあたりは伝えておかなくても良さそうだ。
「でも《観測者》が出来たおかげで助かりましたよ。今まで《作成者》たちだけじゃスキルが使いにくかったっていうのもありますし」
俺に最適化されたという《観測者》の言葉はまだ拙いところもあるが、未だ機械的な《作成者》と《創造者》よりも理解しやすい。
先程レオたちが目を覚ます前に、《観測者》に《作成者》たちも最適化できないのかと聞いたところ、
『《観測者》のフィードバックは全スキルに予定、されています――』
と言っていたので、期待していいだろう。
「私としては元からすごかったスキルもそうですが、ヴェリアルのほうに驚きました。一撃でデーモンを討つとは……」
リーシャの視線が念のため収納していないヴェリアルを捉える。
「魔流暴裂……でしたか? 魔物は種によっては、自身の許容量を超える魔力を生成したり取り込んだりすると魔力暴走する特性がありますから、かなり有効な手ではありますが」
「……でも、目の前でスプラッター映画よろしくな現場が出来上がるのはちょっとな……。あのデーモンみたいに相手によってはとんでもない魔力も必要になるし、あとあんな感じになるから魔物の素材が必要な時には使えないしな。俺としてはあまり使う事が無い事を祈るかな」
今回、魔流暴裂をデーモン相手に発動するのに、手持ちで残っている魔石総量の三分の一を一気に消費してしまったのだ。燃費最悪とも言える。
ただ、不思議なのが、
「俺はヴェリアルからすごい魔力――それこそさっきのデーモン並みの魔力を感じるんだけど」
「……私は特に何も。以前のヴェリアルのままか、気持ち少しだけ大きくなった程度です」
「うーん、リーシャちゃんと同じかなぁ。天霊石っていうのも聞いた事が無いし」
リリエが知らないのであれば、誰もわからないだろう。《観測者》もそれについては無言を貫いているということは詳細不明と判断する。
「――それにしても、話は戻るけどさー。スキルを作成するスキルなんて聞いた事が無いなー。レアもレアって感じ。
……ジュン坊、実は由緒ある家柄とかそういうのじゃないの?」
「それだったら従兄の浩二もなんかあるんじゃないですか?」
「あ、確かに。コー君はそういうの持ってるって話聞いた事なかったなー」
リリエが浩二と面識があるのは既にわかっている。
「スキルについてはちょっと調べただけで、他のスキル持ちには実際に会った事が無いんですけど、他にはどんなのがあるんですか?」
「んー、私の知り合いだと王族と四大貴族のレガリア除くと全然いないよー。聞いた事あるだけなら、『透視能力』とか魔法で代用できそうなのばかりかなー。あ、でも『視るだけで相手を魔力暴走させる魔眼』とかはジュン坊のと同じくらいレアかな?」
「……それ魔流暴裂よりも危険なんじゃ?」
対象を魔力暴走で自滅させるという脅威的な攻撃行動を、視るだけで行えるとかチートもいいところだが。
「でも相手と視線を合わせなきゃ発動しないしけっこう魔力消費するしで、副次効果の方が便利だわー、とかその子は言ってたよ? ちゃんと使ってるところ、私も見た事が無いし」
その子、ということはリリエより年下なのだろう。
「……あ、年下で思い出した。リリエさん、年齢が若返る、っていうスキルはあるんですか?」
レイ・ウィングズに転移してからずっと謎のままだったこと。ある意味、《作成者》とそれに連なるスキルたちよりも不可解な事象。
齢三十過ぎだった俺が外見や身体能力などが二十歳前後まで若返った事だ。
「何その世の女性が求めるスキル――って、ジュン坊は元は私よりもおっさんなんだっけ?」
おっさん言うな。浩二や隼人と同い年だぞまだ。三十は過ぎてるけど。
「スキル持ちは少ないし、若返った、なんて話も聞いた事無いよ。あ、でも似たようなものがレガリアの一つにあるよ。第二貴族が持ってる美なんだけど」
「……ちなみにどんな効果なんですか?」
「うーんとね。簡単に言っちゃえば『美』を体現すると言うか。身体が一番美しいときに成長が止まるんだ。これはエルフの特性と同じだけど、ヒューマンで不老って言うのは魔法でも簡単に出来るものじゃないよ。あと第二貴族の人ってすっごい美人ばっかりでねー、比較的弱目だけど魅了魔法が常にかかるみたいで、一目惚れに陥る人が出るっていう」
「それはそれは……」
貴族様に一般人が恋しても叶わぬ夢も良いところだ。
「それ聞いた事があります。その効果があるから、第二貴族の現当主であるカロン様の子であるフェリシア様やルナ様、ジン様は公に姿を現すことはめったに無かった――って」
「あー、そうだねー。フェリシアちゃんやルナちゃんはそれはもう私でも恋人にしたいくらい美少女だったー。ジン君もショタっぷり全開で、とあるお姉さまの餌食に……」
「最後危ない感じなんでスルーしますけど、美少女ですか……ふむ」
俺はわざとらしく、考え込む仕草をとる。
「……」
ちらっとこちらを見るリーシャが可愛い。
「――ちょっとジュン坊。ここでイチャイチャし出したら縛って置いてくからね?」
「……すみません。で、まあ美ですか。聞いた感じすごいですけど、若返りまではいかないと」
「そうねー、すごさの方向性の違いかなー」
何か聞いた事あるフレーズが。
「ていうかー、《観測者》なんて便利なものが増えたなら自分のこと調べてみればいいじゃんー」
「そういえばそうですね……」
情報を読み取るスキルの対象が自分自身というのは、実はあまり出てこない発想だ。
「《観測者》、俺の身体が若返った原因はわかるのか?」
『――観測対象を主に変更し、観測開始――』
程なくして、《観測者》の言葉が続いた。
『――観測完了。主にはパッシブスキルとして、『スキル:最盛期』が発動中。スキル効果――肉体の最盛期への遡行、保持。
また、最盛期の副次効果として、現在主の肉体寿命がそれまでの約五倍以上に変化――スキル:最盛期は《作成者》とは別に主が元々所持していたものが、世界間強制転移と多くの魔力に晒されたの影響で変化、発動したものと判断――』
「ご、五倍!?」
平均寿命を八十歳としてみれば、四百歳以上になる。
そして、副次効果のインパクトに流されがちだが、肉体の保持効果。つまりこれはエルフやレガリアの美と同じものではないか。
「《観測者》は何て言ってたの?」
レオが興味津々で聞いてくる。
俺は《観測者》の言葉をそのまま伝える。
「――!」
「ボクがおじいちゃんになってもジュンイチはそのまんまなのかー、老後のお世話でも頼めそうだねー」
「すごいっすね! いいなぁ、自分もスキル欲しいっす!」
「……へえ、元々保持、それが変化して表層に出てきたと。じゃあ最初はそこまでのスキルでもなかった?――で、その言葉だとすると《作成者》は後天的付与された物ってことか――なるほどわからん……」
反応が三者三様だ。リーシャなどは何か考え込んでいるようで、言葉は出さない。
「若干眩暈がしてきましたね、色々ありすぎて」
「えー、ほら、もう出口なんだからがんばってよ」
言われて見れば、上の方に明かりが見える。色は既に橙色だ。日没が近いのだろう。
あとは降りてきたロープを昇るだけだ。
「さあ、最後の力を振りしぼろうー! あ、ちなみに私は先に行ってるからねー」
は? とリリエの方を見ると、彼女が浮いていた。
飛行魔法だ。リーシャの言曰く、魔法使いでも使えるものは限られるという難しい魔法を駆使し、先に地上に向かったリリエを見て、ため息をつきながら、
「その内、陣たちに協力してもらって空飛べる道具考えよう」
そんな言葉が自然と出てくるのであった。




