66.ダンジョン攻略戦Ⅲ
「これも駄目……」
リーシャは自らが知っている魔法解除の方法を粗方試し、そして最後の方法を行使しても開かない扉に、為す術無く立っていた。
扉の向こうではジュンイチがデーモンと戦闘を繰り広げている。
先程、ジュンイチがデーモンに対し、効果のある攻撃を繰り出したと思ったら、デーモンは更に強力な魔力を放ち、体術を織り交ぜた戦闘を開始したのだ。
幸い、ジュンイチは間一髪で回避できているが、かなりギリギリだ。自分だったら無理だ、と思うほどの攻撃を回避できていることに疑問も湧くが、今はそれどころではない。
ジュンイチとデーモン。総魔力量はどう考えてもデーモンが上だ。ならば、必然的に魔流活性の限界はジュンイチのほうが早い。
「その前に……!」
自分が行ってどうにかなる、とは思えないのが正直なところだ。
――だけど、見ている事しかできないなんて……!
そんなのは嫌だ。
しかし、自分の魔法はこの壁にすら全て通じない。レオの双剣もツルギの武器もだ。
「どうすれば……!?」
「……こうするんだよー」
瞬間、扉が溶解した。
「うわ、なんすか!?」
リーシャでも解除できなかった魔法の扉を一瞬で消した者。
聞き覚えのある女の声、その主は、
「……リリエさん?」
顔を上げると、すぐ隣にリリエが立っていた。
「当たりー、遅くなっちゃってごめんねー」
舌を出して両手をあわせながらこちらに対し謝罪するリリエに対し、リーシャは、
「どうして……?」
「うん、はや君に頼まれてさー。最初は断ろうかと思ったんだけど、流石にランクA+の魔物だと私の領分になるから、後で仕事して無いーってガリウスさんとかエミリアちゃんに怒られても困るしねー」
「それは……」
あくまで仕事で来た、とそう感じる台詞だ。
以前からリリエにはそういったドライな部分はあると感じていたが、それをここで出すのもどうなのだと思う。
だが、今はその未知数な力が必要だ。
「――お願いします。ジュンイチさんを、助けて下さい」
「わかってるってー。そのために来たんだから」
何故か人差し指と中指を立て、こちらに示しながら、彼女が広間に向かっていく。
青年と悪魔の戦いに、彼女が参戦する。
●●●
「うおっ!?」
俺は先程から本当のギリギリでデーモンの攻撃を避けていた。
というのも《観測者》がデーモンの攻撃パターンを瞬時に解析、予測したものを俺に伝えてくれているからだ。
普通の魔物程度ならば、もっと簡単に回避――もしくは反撃に転じていただろう。
だが、俺の目の前にいるのは普通の相手ではない。だから《作成者》は自動判断で《観測者》を作ったのだろう。
まさか、《作成者》がスキルまで作れるとは思わなかったが、これが無ければ、俺はおそらく今頃肉片だ。
「あとは攻撃さえ出来れば……」
現状回避しかできない。このままではジリ貧なので、隙を見て攻勢に転じたいが、そのためのピースが足りない。
『……ヌゥゥ。虫ト戯レルノモソロソロ飽キテキタナ』
じゃあやめなさいよ、と思う。
するとデーモンは一旦俺から距離を開けた。
「なんだ? 話し合いでもしてくれるか……?」
『――敵対悪魔種、魔力増大』
《観測者》が危険を告げる。
何かの魔法が飛んでくる!?
そう思い、俺は身構えた。それがいけなかった。
次に《観測者》が解析したデーモンの魔法は、
『……ヴァルベルズバインド』
突如、俺の足元から魔法の鎖が出現し、手足を拘束する。
「……まずい!」
魔流活性で強化された筋力を持ってしても千切れない。
なんとかヴェリアルで鎖を撃つと鎖は壊れる。だが、壊した箇所から再生するのだ。
『フハハ! コレデ吹キ飛バスダケダナ!』
デーモンが悠々と俺に近づいてくる。
くそ、こうなったら手持ちの魔石全部ヴェリアルにぶち込んで迎撃するしか……!
ヴェリアルはもちろん、衝撃で俺すら吹き飛ばされる可能性があるが、デーモンにやられるよりかはマシだ。
デーモンが拳を握り締める。
対し、俺が左手をストックスで異空間に突っ込んで魔石を掴み、そのままその魔力を右手のヴェリアルに流し込もうとした。その時だ。
「はい、そこまでー」
暢気な女の声とともに、デーモンの身体を俺を縛り上げる鎖と同じ物が拘束する。
「……リリエさんですか」
「そだよー、ヘッドセット越しにリーシャちゃんとのやり取り聞いてたかな」
「ええまあ。ついに本性を出したというか」
「なにさー、その言い方。これ解いてあげないよー?」
ぷんぷんと頬を膨らませたリリエをおだてるように、
「はいはいすみませんでした。リリエさんが着てくれて正直助かりました」
「よろしいー、ほら」
リリエが俺を拘束する鎖に触れたとたん、鎖が崩れ落ちる。
簡単にデーモンの魔法を解除するリリエに対し、半目で、
「ホント、何者なんだか……、大体察しはついてますけど」
「もう隠せなくなっちゃったしなー、これ通信で全部丸聞こえだし……」
とんとんと彼女はヘッドセットをつついた。
「ここ最近、ほとんど隠すつもりも無かったんじゃないですか……? というかミストさんはどうするんですか」
ここまでのやり取りは当然、支部長であるミストにも聞こえているはずだ。
二人は親友だと言う話だが、リリエが本当のところ何者なのか、今までの様子を見るにミストは知らないはずだ。
「そうなんだよねー。絶対ミストっち怒ってるよー……。帰ったら鉢合わせするしー。それまでにジュン坊も一緒に良い言い訳考えてよ」
その台詞もミストに聞こえてるはずなので、逆効果では?
「はぁ……。で、あまりのリリエさんの自由さに忘れそうになりますけど、この状況どうするんですか」
眼前、デーモンは拘束から逃れようと鎖を引っ張っている。
「あー、そういえばそだねー。とっとと始末しちゃおっか」
平然とデーモン相手にそんなことを言うのが、こちらとしては信じられない。
何食わぬ顔でデーモンに近づいたリリエはこちらを見て、なんと解説を始めた。
「デーモンにもねー、一応心臓があるんだー。まあ、これはだいたいの生物に言えるけど、そこが弱点。
ただ人型だから勘違いしやすいんだけど、デーモンの心臓は左胸じゃなくて右胸にあるんだ」
だから、
「そこを貫いちゃえばいいんだ」
まず、皮膚さえ貫けて無いんですが。
そんな俺の感想を他所に、リリエが右手をデーモンに向ける。
いきなりトンデモ女の介入で窮地に立たされたデーモンが更に暴れだす。
『ガァァァァ! タカダカ神想世界ノ小人ゴトキニヤラレル訳ニハイカンノダァ!!』
「……ちょっと気になる事も聞こえたけど、その程度ならバハっちでも知ってそうだし。
――やっぱ消えてもらおう」
最後の言葉のトーンに若干びくっと俺がなった瞬間、リリエが放った魔法がデーモンを貫いた。
心臓を貫かれたデーモンは意識を失ったようで、リリエが鎖を解除するとそのまま後ろに倒れた。
「はい終了ー。久々に魔法使ったからしんどいー、帰ってゆっくりしたいわー」
「ゆっくりできるんですかね……」
あっさりとデーモンを倒したリリエを見て、先程まで命がけだった俺は何だったのかという思いが湧くが、無事に帰れるなら良い。
ふっ、っとため息をついたときだ。
「ジュンイチさん!」
声とともに、リーシャが俺に抱きついてきた。
「おっとっと!」
普段、リーシャがこんな事をしてくる事は無いのだが、それだけ心配してくれたと言う事か。
「……悪い、心配かけた」
「まったくです。でも無事なら、許します」
そんな様子の俺たちを、リーシャの後からついてきたレオと剣がにやつきながら、
「お熱いっすね!」
「今日は一段とねー」
うるさいよお前ら。
「あー、あっついあっつい。ここ暖房効き過ぎてるんじゃないー?」
リリエに至っては、ぱたぱたと手で自らを扇いでいる。
そんな様子をみて、リーシャは自分のしている事に冷静になったのか、ぱっと俺から離れた。
ああー、柔らかい感触がー。
「ジュン坊、今の一連のラブラブっぷりもミストっち含め支部のみんなに筒抜けだからねー?」
一緒に怒られよっか? とでも言いたげだなこの人。
まあ、リーシャとのことについて周りからの反応は諦めているし、俺もとっとと正式に付き合ってくれと言わないといけない、のだが、何か俺のチキンボーイな部分がそれを邪魔している。
「はあ。とにかく一旦帰りましょう。そこの水晶も調べてみたかったですが、皆さんを心配させているでしょうし」
俺の提案に皆が賛成し、出口に向かう。
ここまで、罠は無かったし、出会った魔物はデーモンだけであり、そのデーモンもリリエが瞬殺した。
危険なものはもう無い――。
その思いが、皆を油断させていた。実力者であるリリエでさえも。
後ろで死んでいるはずのデーモンが立ち上がっている事に気がつかないほどに。
そう、魔力感知に聡いリーシャと、未だ対象をデーモンに設定していた《観測者》だけが気がつくことが出来たのだ。
「――っ!? 皆さん避けて!」
『危険度増大――』
振り返ったリーシャが叫び、《観測者》が警告を告げるのと同時。
俺たちはデーモンの攻撃により吹き飛ばされた。




