65.ダンジョン攻略戦Ⅰ
「まず、ここからの作戦だが……」
洞窟探索がダンジョン探索へと切り替わり、俺たち四人はひとまず、最初の通路を歩いていた。
「陣形自体は変えない。支部長の判断のためには映像も必要だしな」
これはあくまで半分の理由だ。もう半分は言わないが、リーシャ、レオ、剣の安全確保のためだ。ばったり何かに出くわす、または罠が発動した場合、一番前の人間が危険なのだ。それを他の者には任せられない。
「次だ。リーシャ、魔力を強く感じる方向を後ろから教えてくれ」
「了解しました」
本来ならば、強い魔力を放つようなものとはご対面したくないのだが、今回に関してはダンジョンの最奥を目指す計画だ。
このダンジョンがどういったギミックを持つかは知らないが、大抵は一番奥に何かしらあるものだ。そして、主がいるとしたらやはりそこだ。
……まあ一番良いのは道中出口があることなんだけど。
「それで、ここの主がまだ健在だった場合、どうするのですか?」
問題はそれだ。
「リーシャ、高位の魔物ってのは話は出来るのか?」
「ダンジョンを作成できるレベルなのであれば容易でしょう。その魔物の種にも寄りますが、だいたいは人型であることが多いと思います」
「そうか……じゃあまずは話し合いだなー……」
レイガルフとも普通に話すことは出来るのだ。
俺たちがここに迷い込んだのは偶然であり、決して何かを盗りに来た訳じゃない――と、事実はどうあれ、そう伝えることで、敵対関係を解く。
そしてここから出してくれれば御の字だ。
「それが駄目なら、戦いだろうなぁ……」
話し合いが駄目なら実力行使だ。こちらとて生死がかかっている。手持ちの魔石全てを使ってでも勝ちにいく。
「とりあえずは進んでみよう。話はそれからだ」
決まってからは単純だ。
ただ進むだけである。
●●●
時折、休憩を挟みながら歩く事、数時間。
やはり出口は見つからない。
だが、道中何かしらと遭遇すると言う事も無い。ただただ歩くだけだ。
こうなってくると一つ、嫌な疑問が浮かぶ。
「――凜、そっちでダンジョンマップ作成してると思うんだが……一応確認だけど俺たち迷っては無いよな?」
『それはないと思う。同じ場所は一切通って無いよ』
歩きながら聞く凜の言葉に嘘は無い。実際、端末に送信されてくるマップは常に更新され続けており、
「螺旋を描いている、か……」
『迷宮になってるかと思えば、ほとんど一本道だったしね。位置情報から判断してそろそろ行き止まりになると思うんだけど』
行き止まり。高さの変化はほとんど見られないことから、このまま螺旋状に進んでいくと中心にぶつかる。
「リーシャ、魔力反応はどうだ?」
「かなり強くなってきた、と思います。ただ、これが何から発せられているかは判断がつきません」
魔物から発生しているのか、それとも道具から発生しているのか。前者なら間違いなく、ここの主だ。後者なら魔法装置か何かだろう。
「成るようになる、しかないか……っと、あれは――」
曲がり角を曲がった俺の目に、今まで目にはしなかった光景が映った。
扉だ。だが、それは、
「なんか変じゃないっすか……?」
剣も気づいたようだ。
その違和感は近づいてみる事ではっきりとした。
半透明なのだ。幾何学的な模様が扉に描かれており、その部分は見透かせないが、その他の部分は向こう側が見える。
「この扉の向こう、見る限り大きな広間のようになっているようですが、中央にあるあの大きな水晶。あれから大きな魔力を感じます」
まさに移動魔法装置っぽい。
仮に違うとしてもリーシャが魔力を感じるならば、このダンジョンにおいて何らかの役割を果たしている可能性は高い。
「――しかしこれ、扉としてはどうなんだ……?」
「プライバシー的にはアウトっすよね」
剣が言いながら扉を押す。しかし、
「……動かないっすね、まったく」
『押し扉で無いのならば、引く扉なのでは?』
尤もな事をミストが言ってくるが、
「とは言っても、取っ手のようなものも無いですね……」
全員で扉を見るが、そう言ったものは見られない。
この扉、実に見事な平ら位なのだ。レオが模様の部分を触りながら、
「……この模様の部分、全然浮いてない」
普通、模様を彫るにしろ描くにしろ凹凸はできるはずだ。
「ダンジョン自体の材質もそうだけどこの扉も何で出来てるんだろうな? ガラスってわけでも無さそうだし……」
押しても開かないとわかった扉に、俺は右手のヴェリアルを肩に担ぎ、寄りかかるように左手を伸ばした。
だが、するっと。そこに何も無いように俺の身体が扉をすり抜けた。
「――え? あだっ!?」
予想外の展開に、体勢を崩したまま床に激突する。
「ジュンイチさん!?」
リーシャが驚きと心配が入り混じった声をあげる。
だが、リーシャが扉に手をかけても、俺と同じようにすり抜ける事はなかった。
「何で!? ボクたちじゃ全然動かないのに!」
レオと剣が扉を叩くが、扉は開く気配を見せない。
「魔法で破壊を試みます!」
リーシャが言って、右手を挙げかけるが、俺は立ち上がり、慌ててそれを止める。
「待て、落ち着け! 多分、壁のときと結果は一緒になるだろうし、危ないから! 通り抜けれたって事は、またそっちに戻れる――」
言いながら、俺は扉を通り抜けるために手を当てるが、今度は一切動いたり、透過する様子が無い。
「――まあ、分断されたのは厄介だけど、別に魔物とかは見る限り居ないし、大丈夫――」
だ、と言い切ろうとしたその瞬間だ。
広間の反対側、何も無い空間から魔力が噴出した。
「……!?」
魔力感知に疎い俺でもはっきりとわかる。一瞬、鳥肌が立つほどの力を感じた、その発生源が居るであろう部屋の奥を見た。
身の丈は優に俺の二倍以上。角が二本、翼も生えている。
俗に言うあれだった。
「――デーモン……?」
『侵入者……ヤハリ奴ラガ仕エシ者ト同ジ魔力ヲ感ジル……滅スル……!』
その赤い目ははっきりと俺の姿を捉えているようだ。
俺は一度、殺気全開の悪魔から視線をはずし、ゆっくりと振り向いてから、
「……やっぱり逃げる算段考えといてくれない?」
直後、戦闘が始まった。




