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64.暗中の進入者たち

「――っと、着いたようだな」


 するするとロープを下って俺は一番最初に洞窟内部に到着した。続いて、リーシャ、レオ、剣の順番で降りてくる。


「全員、周囲の警戒は怠るなよ」


 降りてくる最中から警戒は続けているが、俺一人では限界がある。

 しかし、それよりも、

 ――やっぱり暗いな。

 ここに降りてくるまでは、まだ地上からの光があり、良かった。

 だが、底についてみると完全に視界が無いに等しい。今は持ってきた懐中電灯とヘッドセットに備え付けているライトだけで周辺をやっと照らしている状況だ。


「ここまで真っ暗だとは思わなかったな」


「全員、常に魔流活性で視覚を強化してください。これではいくら目が慣れてもままなりません」


 言われたとおり、眼球に魔力を注ぐ。すると、徐々に視界が明けていく。

 ……暗視ゴーグルとか作らないといけないと思ったが、これなら十分だな。

 俺達の視界は良くなった。あと問題があるとすれば……、


「ラインアルスト――凜、聞こえるか? 多分このままだと映像が真っ暗なままだと思うんだが、どうしたらいい?」


 助言を乞うとすぐに、


『――ごめん、伝え忘れてた。端末から操作して――』


 凜の言葉通り、俺は端末を操作してヘッドセット内臓カメラを暗視モードにする。


『うん、暗視モードおっけーだよ。じゃあがんばって』


「おう」


 それを最後に凜の声が途切れる。


「……それじゃここからが本番だ。みんな、何か見えるか?」


 周囲、見える範囲で言えば、ここは円形の広場のようであり、


「あ、ジュンイチ! 向こうに通路みたいなのがあるよ!」


「他には行けそうな所はないっすね」


 二人の言うとおり、どうやら道はひとつしか無いらしい。


「そこしかないか。じゃあ、俺が先頭になって進むから殿(しんがり)は、リーシャ、頼む」


「引き受けました」


 本来ならば、俺が殿を勤めるべきなのだが、今回は俺の視点が重要なのだ。致し方が無い。

 通路に入ってみると、涼しい風が吹き抜けているのがわかる。


「――ちょいとさむいっすね」


 剣が身体をぶるっと震えさせてつぶやいた。

 それもそうだ。時期は未だ四月。ラインアルストは気候的に日本とほぼ同じであるため、季節は春だがそれでもまだまだ肌寒い。加えて地下の洞窟内だ。キワル大火山の近くであれば、地熱等の影響で逆に暑いのだろうが、現状感じるのは寒さしかない。


「これ以上寒くなるようなら懐炉(かいろ)でも作ってやるさ。リーシャが魔法で暖めてくれても良いけど。

 ……しかし、風が吹いてきたって事は――」


「――そこそこ奥に続いている、ということでしょうね」


 リーシャが続けた言葉に、俺は内心でため息をつく。

 今回の主目的は洞窟の調査であるため、浅すぎて何も見つからなかった、というのも問題だが、逆に奥が深ければ深いほど、迷いやすく、危険だ。

 日没までに戻るとなると、昼過ぎには折り返さないと駄目だな……。

 幸いにして、半年前のラインマインズ坑道よりも装備と環境は整っている。


「何か見つけたら報告あげてくれ。凜が記録してくれるだろうから」


 

●●●



「……何にも無いな」


 既に洞窟に進入してから二十分が経過していた。

 ここまでほぼ道は一本道だ。分かれ道なども片方が崩れたり、すぐ行き止まりだったりと、楽ではあるが攻略し甲斐の無い洞窟とも言える。


「道中、鉱物らしきものなども見られませんでしたが、かと言って人が立ち入った形跡なども見られません。

 ……正直ここまでの経過だけですと、ただの洞穴――」


「言うなリーシャ」


 これではただの散歩、洞窟探検で終わってしまう。現状、ノードゥスの機械の力を示す事には成功していると思うが、これでは俺じゃなくても良かったとか言われる。

 

「この先、まだまだ道は続いてるわけだし、幸い時間もまだまだある。行ける所まで行ってみよう」

 

 諦めたらそこで終わりだって何処かの先生も言い残していたはずだ。

 とは言え、実際何も見つからないのも事実。ギルド支部の方でもそう思っている者が大半だろう。

 ……なんか胃が痛くなってきたなぁ……。

 そんなことを思っていたときだ。


「――おわっ!?」


 何かに躓き、俺は体勢を崩した。転ばぬように片足のまま、数歩ぴょんぴょんと跳ねてやっと落ち着く。


「ちょっとジュンイチ、大丈夫?」


「悪い、石か何かに躓いたみたいだ」


 胃の痛みで気が散っていたようだ。

 気をつけないと危ないな――ん?

 ふと、違和感に気づいた。

 それは足元だ。正確に言えば、地に着けている足裏の感触。

 妙にしっかりしているような……?

 今まで歩いてきた洞窟の地面、それが今はまったく違うものになっている。

 俺は足元をライトで照らしてみた。


「これは……!」


 今、俺が踏んでいる地面、それが先程までと材質が異なっている。 

 洞窟の地面にところどころ埋もれているため、段差が出来、それに俺は躓いたのだ。

 そして、埋もれているそれは……、


「どうしたんっすか? って、何すかこれ!?」


「俺もわからない」


 だが、奥に向かっていくほど露出が増えていくそれは、明らかに自然のものではない。

 

「これはもう建築物だよね……壁や天井までこの材質になってきたし」


 レオが黄土色の壁を手の甲でノックしながら言った。俺たちの周りはもう完全に洞窟というよりは建物の通路のようになっていた。


「そうですね。しかし、こんな地下にいったい……」


「というか、これ一体何でできてるんだ? 古いけどしっかりしてる煉瓦っぽいような……」


 言って、俺が壁に触った瞬間だった。

 ぼっ! と、天井付近の壁に光が出現する。松明だ。

 独りでに着火した松明、それが通路の奥まで同じように配置されており、通路を照らしている。

 その光景は、まるで――。

 俺は試しにまだリーシャたちに教えていない日本語で、あることを問う事にする。もし、この世界に()()が無い、もしくは彼女達が存在を知らないのであれば、俺の言葉は正しくレイ・ウィングズ語には訳されないはずだ。


「……なあリーシャ。レイ・ウィングズに、『ダンジョン』ってものはあるのか?」


「あります」


 割と即答され、若干面食らう。

 そういえば、さっき凜がダンジョンのマップ作成なんたらって言ってたもんね……。


「しかし、存在自体はかなり珍しいです。過去に高位の魔物が作成したものが見つかり、攻略されたという記録がありますが、数は指で数えられる程度ですよ。

 現にライン地方の南部にも一つ、数年前まで小規模なダンジョンがあったのですが……」


「それボクも聞いた事ある! 確か、今はもう解体されちゃったんだよね?」


「え、ダンジョンって解体できんの!?」


 そんなビル解体みたいな……。


「詳しくはわかりませんが、そういう話がありましたね」


『ちなみにそれやったのはジーク君なんだよねー。

 ――あ、第三貴族のジークフリート様のことだけど』


 いきなり、地上にいるだろうリリエの声が耳に届く。


『確かー、内部調査で入ったら、思ったより構造が浅くてすぐにダンジョン作成真っ最中の魔物に出くわしてー、――色々やり取りしたが、気に食わなかったから爆破してやったわ――なんて言ってたかなぁ』


 貴族様怖っ!?

 というかダンジョンを爆破って……。


『まー、ジーク君も理不尽は許さ――……多分許さない人だったから、何かしら迷惑な事を企んでたんだろうねーそのダンジョン主の魔物もー』


 何か思考と力の次元が違う気がすると感じる。

 ……というか、リリエさんも色々隠さなくなってきたな!

 俺がノードゥス関係者だと確定してから彼女は余計にその辺りをずぼらにしている感じがする。


「良いんですかそんな内容言っちゃって。これギルド支部に声届いちゃってますけど」


『リンちゃんにチャットで、十数秒ミュートにしてって頼んでたから大丈夫なんだな、これがー』


 それだけ言い残してリリエの声は聞こえなくなる。

 彼女の方が上手なようだ。


「……まあ、気を取り直して。じゃあ、ここがダンジョンって可能性はあるのか?」


 十中八九、そうだろうと思うが、一応確認の声をあげる。


「断定は出来ませんが、おそらくそうでしょう」


「地下に隠されたダンジョン……すごいっすね!」


 興奮からか、目を輝かせて手のひらと拳を合わせた剣が言う。

 だが、その時、


『――聞こえますか皆さん』


「姉さん?」


 ミストだ。

 まるで隣にいるような声はギルド支部から届いている。


『今しがた、ケインと話をしたのですが、皆さんの推測どおり、そこはおそらくダンジョンでしょう。

 本来ならば、すぐにでも調査したいのですが、規模、危険度ともに未知数で、ギルド本部に相談するレベルの案件ですので、一度皆さんはラインアルストに帰ってきてください』


 そうなるよな、と頷いた。

 洞窟探索とダンジョン探索では意味合いが大きく異なる。

 後者は作られたものだ。何者かによって。

 先程、リーシャが言ったように、ダンジョンは高位の魔物が作成するものだ。これがいつ作られたかは知らないが、魔物であれば、未だ存命している可能性は十分ある。

 ランクにもよるが、高位というからにはおそらくB以上だろう。

 加えて往々にして、ダンジョンとは罠あり、敵あり、迷路ありの危険な場所だ。

 それをこの四人だけでは少々無謀だ。


「ということで、仕方が無いが、帰るしかない」


「うーん、ダンジョン攻略したかったんすけどねー……あれ?」


 踵を返した剣がそのまま進むのではなく、立ち止まった。


「ツルギ君どうかした?」


「……あのー、自分らが来た道が見つからないっす」


「は? 何言って……?」


 剣の言った言葉の意味がわからない。ここまで一本道で、見つからないも何も振り返ってまっすぐ進むだけだろうに。

 思い、俺は同じく踵を返した。

 無かった。道が。

 あるのは壁だ。


「どういうことだ? 魔法か何かか?」


「……転移系の魔法が発動した形跡もありません。あれば、少なくとも私は気がつく自信があります」


「ラインアルスト、聞こえるか?」


 念のため、通信はそのままかを確認する。


『聞こえています。……そちらの状況も把握しました。今、救出チームを編成中です。

 ひとまず、皆さんはその壁を調べてください。ワタナベ支部長の話では、皆さんの位置は動いていないということですので』


 つまりは、何か変化が起こったのは俺たちではなく、この建造物の方だという事か。


「ジュンイチ! ちょっとこれを見て」


 壁を先に調べていたレオが俺を呼んだ。


「何か見つけたのか?」


「うん、これ。さっきまで居た洞窟に転がっていたのと同じ石がここにあるんだ。反対側、ダンジョンの奥の方には無いし、この壁の向こうが洞窟なんじゃないかな」


「つまり、私達が通った後に、壁が生成されたということですか」


 リーシャが可能性を口にするが、果たしてそんなことあるのだろうか。


「あるんだろうなぁ……。ダンジョンだしなぁ……」


 そういう仕掛けは多々ある。昔俺がやっていたゲーム内の話だが。


「とにかく、この壁の向こうに帰り道があるなら簡単な話だ。ぶっ壊せばいい」


「乱暴ですが、事実ですね。

 ……皆さん下がってください。中級魔法のファイ・ブラストを放ちます」


 指示に従い、俺たちは壁から離れる。

 それを確認したリーシャは壁に右手を向け、


「ファイ・ブラスト!」


 声とともに、右手から火球が放たれる。

 下級魔法であるファイアーボールよりも威力が上であるその魔法は、壁にあった時点で爆発。古い壁程度、粉々に砕く――はずだった。

 しかし、壁にあたったファイ・ブラストは爆発するのではなく、なんと跳ね返ってきた。


「うおっ!?」


 迫り来る火球を俺たちは伏せる、壁に張り付く、で回避する。


「危なかったね……。でもなんで、ファイ・ブラストがこっちに……」


「ファイ・ブラストが当たる直前、壁がうっすら光っていた。もしかしたら、何かあるかも。ちょっと試していいか」


 俺はそう言って、ストックスでヴェリアルを取り出す。

 そのまま弾丸を魔力弾モードにして、銃口を壁に向け、


「最弱威力だと……これくらいかっと!」


 銃口から放たれたのは、当たれば多少の打撃にはなるかという、()()調整した魔力弾だ。

 それは、そのまま壁に飛んでいき、壁に当たった直後、元来た射線をそのまま戻る。俺はそれをまったく同じ威力の球を再度撃つ事で打ち消した。


「やっぱりか」


「……魔法の反射能力を持った壁、ですか?」


 様子を見ていたリーシャがそう口にする。


「だろうな。ヴェリアルの魔力弾を反射するって事は魔法だけじゃなく、魔力も反射させるんだろうけど。でも、何故か通信は届いているんだよな」


 ノードゥスの通信は魔力を用いているが、それは影響を受けていないようだ。


「だけど、物理で壊せるかと言えば……」


 言いながら、創造者で作ったのはタイマー式の小さなプラスチック爆弾だ。

 それをそのまま例の壁に張り付けてから、


「みんな、もうちょっと下がれー」


 下がったのを確認してから、タイマーを起動した俺は、全速力で皆のもとへと走る。

 直後、後方で爆発が起きる。

 爆弾にしては小規模爆破だが、普通であれば、あの程度の壁、破壊する事は容易なはず。

 なのだが、


「うーん、やっぱり壊れないか。魔法系がだめなら単純な力押しでいける可能性も考えたけど」


「外部からの救出待ちしか無い、でしょうね……」


 リーシャのため息交じりの言葉に、しかし、俺は、


「――否、そうとも限らないんじゃないか?」


「どういうことっすか?」


「このダンジョンに当てはまるかは断言できないけど、この手の代物ってだいたい最奥まで行くと入り口に戻る移動装置とかそんなものがあるはずなんだよ」


 ここの主が出入り口を必要としない入出方法を持っているなら別の話だが、わざわざ入り口があったのだ。出るための方法も存在しなければおかしい。

 ――獲物を招き入れるためだけの、とかなら話は別だけど。

 それは割と最悪なので、考えないでおく。

 

「では、このまま奥の方まで進むのですか?」


「俺はそうしようと思うんだけど……」


『……こちらとしては容認できません』


 そう言うとは思っていた。

 実際、奥がどうなっているかはわからない。仮にBランク以上の魔物が居たならば、全滅も有り得るレベルだ。


「しかし、外から救出できないって可能性も高いんじゃないですか? 中からの攻撃に対応していて、外からの攻撃に対応していないなんて聞いた事無いですし」


 壁の話だ。俺の読みでは、おそらく壁の外から同じ事をしても反射されるはずだ。

 そうでなかったら、ダンジョンの主はよほど特殊な思考の持ち主か間抜けかどちらかだろう。


「最悪、やばそうなのに出会ったら手持ちの物全て使って全力で逃げますし、もしかしたら途中にぽっかり出口が開いてるかもしれないですし。

 ……今ここで無駄に時間過ごすよりは良いと思うんですが」


『……』


 正直、俺も賭けだと思っている。

 正攻法としてみれば、俺の提案はかなり危ない。遭難したときにやってはいけない部類の事だからだ。

 だが、ラインアルストに存在する戦力で俺とリーシャ以上の人物はかなり少ない。

 未だネットワークが繋がっていないラインベルニカのギルド本部まで連絡、Bランク以上の救援待ちとなると、餓死一直線だ。


「んー、じゃあ、映像もリアルタイムでそちらに届いてますし、それを見てミストさんがやはり危険だと判断したら、俺たちもここに撤退してくる、ってのはどうですか?」


『……はぁ。わかりました。探索を許可します。

 ――ただし! ジュンイチさんの提案どおり、危険だと判断した場合はすぐに撤退命令を出しますので、きちんと聞いて下さい』


「了解です。みんなもそれでいいか?」


 三人が頷くのをみて、ダンジョンの通路奥へと向き直した俺はヴェリアルを片手に、


「それじゃあ、ダンジョン探索、開始だ」


 こうして、俺たちの洞窟探索はダンジョン探索へと変貌したのだった。

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