63.挑戦者達の初仕事Ⅲ
洞窟入り口前で純一たちがケインたちと合流する、その少し前。
ラインアルスト支部の一室に人々が集まっていた。
支部に所属するメンバーが集うその部屋には、技術スタッフである凜と陣が作業しており、それを見守る責任者の隼人がいた。他のメンバーは今日から始まるヴォルガー主導の拠点改築の方に手伝いや支持で出向いている。加えて、剣は純一たちと共に洞窟探索だ。
隼人の眼前、集うメンバーは話によればランクCとD、この支部における『主戦力』たる者達らしい。当初はFまでを含め、参加できるものは全員という話で進めていたのだが、部屋の都合上と、人から人への話の伝播を考えれば、これくらいでも大丈夫だという最終的な判断の結果が今だ。
横、凜と陣は機材の最終調整を行っている。これから行うのは、ラインベルニカで行ったプレゼンと同じもの。
「――とは言えないのが現実だよねぇ」
純一に対しては大丈夫だと言ったが、正直不安な面もある。何しろ、ラインベルニカ――ギルド大会議で行ったものとは設備や環境が異なる。
否、理論上は可能であるが、機械という物は生命と同じで何が起こるかわからない時もあるのだ。
――まあ、今更どうしようもないんだけど。
開始の時間はあと数分後だ。
今、最終調整を行ってくれている二人を信じるしかない。
それに、手助けらしい手助けを行えるのはこのプレゼンを行った後はほぼ無い。ラインアルストでの活動に関しては彼らに任せるためだ。
腕時計で時間を確認した隼人は懐から携帯端末を取り出し、電話をかける。相手は純一だ。
「……あ、いっくん? そろそろ着いた?」
『ああ、今着いたところだ。そっちは?』
「今、凜と陣が最終調整中。もう終わるところだから、こっち、色々手順どおりやってからまたかけるね」
『おー、了解。こっちも進入準備進めておくわー』
純一の言葉を聴き終えて、通話を終える。
隼人は端末を持ったまま、近くに立っていたミストに声をかけた。
「リアウェイ支部長、少しよろしいですか?」
「何でしょうか、ワタナベ支部長」
「あと数分でこちらの準備が整いますがギルドの方はどうですか?」
問われ、彼女は部屋を見渡す事も無く、
「――まだ、二、三名ほど来ていないようですが……、こちらはかまいません。先程の様子を見るに、ジュンイチさん達をあまり待たせるのも良くないですし」
先の通話の様子を見られてたのか、と思い、苦笑する。
今もこちらが訊ねてから人員確認をする様子も無かった。
……よく見てるんだね。
感心するが、彼女とて一支部の長だ。これくらいは当たり前だろう。
というか僕も暢気に人の事感心してる場合じゃないか、と思いながら横目で部下達を見やる。
「……そうですね。機材の方も良さそうですし、そろそろ始めましょうか。部屋の皆さんもこちらに興味津々のようですし」
今、部屋に集っている者達の視線は自分とミスト、または凜たちの二つに絞られている。
隼人は凜と陣に声をかける。
「凜、陣。準備はできたかい?」
「ええ、僕のほうはもう。凜は?」
「――ん、丁度終わったとこ」
画面から視線をこちらに移した彼女は、親指を立てて言葉通りの完了の意を示した。
「うん、じゃあ始めようか。
――ノードゥスがこの街に受け入れられるための最初の一歩を」
●●●
「――さて、そろそろいいかな」
俺はそう言って、手に持っていた端末を操作する。それはケーブルが繋がっており、その先は洞窟の穴に伸びていた。
「あれ、ジュンイチ。それってさっき中に落としたやつ?」
「――に繋がってる端末だな」
俺が弄る端末の画面に表示される文字、それは、
「あ、酸素濃度とかを測るやつっすか」
横から覗き込んできた剣の言葉に頷いた。
「今朝、陣に渡されたんだ。まだ誰も入った事が無いなら、念のため、そういうのも調べておいた方がいいってことでさ」
「あー、確かにそうだねぇ。中に入った瞬間、毒が蔓延してて――とか洒落にならないし」
「そうなんだよなぁ……っと、結果が出てるな。えーと、空気中の成分に異常なし、魔力濃度も……地上と変わらないか」
「じゃあ安心だね」
ああ、と言って、俺は測定器を回収する。
するとそこにケインが声をかけてきた。
「おうジュンイチ。支部の方から連絡はきたか?」
「いえ、さっきの確認から未だきてないですね。時間的にはそろそろだと思うんですけど」
言った瞬間だ。尻ポケットに入れていた端末が震えだした。
「っと、今きたみたいです――」
画面に表示された通話ボタンを押し、耳元に近づける。
「もしもし」
『……純一? 私だけど』
「――凜か?」
『当たり。今、大丈夫?』
「ああ、そちらからの連絡を待っていたところだ。隼人は?」
『ん、今はギルドの人たちに色々話してるところ』
端末からは確かに隼人の声が聞こえるが、遠く聞こえ、何を言っているかまでははっきりとわからない。
『機材とか、諸々の事を確認したくて私が勝手に早く電話かけた感じ』
なるほど、とこちらが納得したのを伝えるまでも無く、凜が言葉を続けた。
『それじゃチェック開始。これ、皆にも聞こえるようにするから端末を出すように伝えて。スピーカーだと聞き取りづらいから』
「了解」
俺はリーシャ、レオ、剣に携帯端末を出すように伝える。
そのまま凜からの伝言を続ける。
「次に端末のグループ通話をオンにして。あとは今朝渡されたヘッドセットを耳につけてくれ」
未だ慣れない様子のレオをサポートしながら異空間からヘッドセットを引っ張り出した。
装着してみれば、自動で起動し、自身の端末と同期した。
――生体認証か何かか……?
こちらで設定しなくても良いのはありがたい。正直言うほど、俺自身がノードゥス製の機械に慣れていないにもある。
「未来過ぎるのも難点だな――っと、リーシャ、どうした?」
俺はリーシャがヘッドセットを耳に装着していない事に気づいた。
「いえ、その……」
リーシャは口ごもるが、俺は思い出す。
彼女がハーフエルフであることを。
……普段耳とか隠してるし、そもそも俺エルフの特徴ってそこ以外わかんないもんなー。
「――悪い、気づかなかった。リーシャ、ちょっと貸してくれ」
「? どうぞ……」
俺は彼女から手渡されたヘッドセットを左手に持ち、右手は、
「ごめん、ちょっと髪触るぞ」
「え、っひゃ!?」
リーシャの長髪を掻き分け、耳を露出させる。
普通の人間――ヒューマンとは異なる形状を持つ耳に、彼女はヘッドセットが上手く装着できなかったのだ。
「……っと、これなら……《作成者》」
『《作成者》起動――』
スキルを発動させ、思い浮かべるのはリーシャの耳に合うヘッドセット。
内部基盤やデータなど、構造以外の物を一切変化させずに、俺はヘッドセットを作成した。
『――完了』
「これでどうだ?」
出来立てほやほやのヘッドセットを彼女に返す。
「ありがとうございます――はい、大丈夫ですね」
『ん、なにか問題起こった?』
「否、リーシャのヘッドセットが合わなかったみたいでさ。俺の方で何とかした」
『……ごめんリーシャさん、迂闊だった』
凜の申し訳なさそうな声に対し、リーシャは慌てて、
「いえ、リンちゃんの私もあまり耳の事は表に出さないですから。それにもうジュンイチさんが解決してくださいましたから」
彼女がそう言って数秒置いて、
『……剣、二人っていちゃついてた?』
「そこそこ!」
『じゃあプラマイゼロでノーカンだね』
「え!?」
戸惑う様子のリーシャをそのままに俺は続けた。
「はいはい、で? 全員ヘッドセットはつけたが……ちょっといいか、凜。これハウリングとかその辺りの問題は無いのか?」
『とーぜん、問題ないから安心して。実際、装着して話してても違和感とかないはずだけど』
――そういえば、確かに。
ノイズのようなものなどは感じられない。凜の声もまるで隣に居るように聞こえる。
『良い感じだね。それじゃ次。純一に持っていってもらったやつはもう設置した?』
「簡易版つながるくんか? それならもう済んでる」
簡易版つながるくん。それは文字通り、つながるくんをダウングレードした物のようで、凜の話に寄れば、通常のものより通信可能範囲が若干狭い。また魔石を燃料とするのではなく、充電による内蔵電池による駆動で、連続駆動時間は三日が関の山らしい。
『そして、それには一つ追加で測定器から発信される電波を受信する装置が組み込まれてるんだ』
「測定器?」
『うん、今回みたいに洞窟とかダンジョンみたいなところだとマッピングも必要になるからね。純一の端末と簡易版つながるくんの相対座標をこっちにあるソフトで情報処理、マップ作成もするっていうのが、こっちの仕事』
「――いや、なんかすごいな」
つまりは俺達が洞窟を歩くだけで自動で地図が作られていく。RPGゲームのようなものだ。
『私達からしたら実際に行く純一たちのほうがすごいと思うけどね。それと、純一のヘッドセットだけカメラが内蔵されてて、純一視点の映像がこっちに飛んでくるから変なところは見ないようにね。とにかく、事前確認としてはそんな感じ』
「最後、余計なお世話だが了解した」
『――隼人さんのプレゼンもちょうど終了したみたい。代わるね』
凜の声が途切れてすぐ、
『いっくん――純一君? 聞こえる?』
「ああ。聞こえてるぞ」
俺の言葉に、隼人の後ろ――おそらく部屋に集まっているであろうギルドメンバーの声が聞こえる。
『映像も良好だね。進入開始をお願いできるかな? あ、基本的にこちらから音声は飛ばさないし、行動はそちらにまかせるから』
「――了解。それじゃあ行こうか、みんな」
おおっ、と三人が声をあげた。
「日没までには戻ってこいよ? それまでここで待機してるからな」
いつのまにか俺達と同じ端末とヘッドセットをつけているリリエの横、ケインが手を挙げて言った。
「ありがとうございます。行ってきます」
そうして、俺達は洞窟探索を開始した。




