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62.挑戦者達の初仕事Ⅱ

「唐突だけど確かにな……」


 リーシャの提案に、俺は頷きを以って返した。


「さっきも言ったけど剣の戦闘とかは未だ見ていないし、二手に分かれる事になった場合の戦力分散とかも考えられるからある程度は知っておきたいな」


「うん、一応ツルギ君は片手剣を使うって聞いてはいるけど、詳しい戦闘スタイルとか人それぞれだしね。……あ、じゃあボクからで良いかな?」


 問いにこちらが答える前にレオは腰に帯びている二対の剣を抜いた。


「武器はこの『ルベルサイファー』で、戦闘だと前衛担当。魔法も少しは使えるけどそっちはあんまり期待してほしくないかな」


「やはりレオさんは双剣使いだったんすね! まさかとは思ったんですけど珍しいっすよね」


 拳を握り、目を輝かせた剣がそう言った。


「あー、確かに双剣使うのってラインアルストでもレオだけっぽいよなぁ、他、見た事無いし」


「剣が二つあるから強さも二倍、なんて単純な話ではありませんからね。手数は二倍になりますが、剣の総重量や利き手では無い方で持つ剣の扱いなど、結局片手剣のほうが扱いやすいという意見が大半なはずです」


 ……これ、銃でも同じ事言えるよなー。

 一度、魔銃(ヴェリアル)をもう一本複製して、二挺として扱ってはどうかと考えた事がある。ヴェリアルは片手だけで扱えるように作成しているため、左手がフリーになるからだ。

 しかし、試しにヴェリアルを作成する前に使っていた銃を左手に持ってみると、そう簡単な事ではない事に気づかされた。

 身体の重心の取り様が異なるのだ。右手と左手で異なる操作も必要であり、結果的に断念した覚えがある。

 ――まぁ、ヴェリアルをもう一本作るほどの魔石なんかもう無いんだけど。

 あの高純度の魔石が大量にあるキワル火山内部に行かなければ複製は無理だ。だが、溶岩や崩落の危険と隣り合わせ且つランクCとは思えないレベルのファイアエレメントをまた相手にするのは遠慮願いたい。


「ボクの場合は生まれつき両手利きだったこともあって、特に不自由はしてないんだよね」


「なるほど……。しかしきれいな剣身っすね。これは相当名のある職人が打った物っすか?」


 問いにレオは笑いながら俺の指差した。


「ううん、ジュンイチがボクの為に作ってくれたんだよ、確かヴェリアルとかと同じ魔石からだよね?」


「ん? あー、そうだな。当時、創造者の魔石消費具合も試しておきたかったのもあったんだけど、ヴェリアル自体は完成してたからなー。こっち来てからレオには世話になってたし、そのお礼もってことで作ったんだけど……」


 自分でも驚くほど完成度の高い剣ができたのを今でも覚えている。


「すごいというかなんと言うか……言葉を失うっすね……」


「そのうち慣れますよ。……それでは、私も」


 言って、リーシャはストックスで武器を取り出した。

 細身の剣――レイピアとまではいかないが、ギルドで一般的に使用されている物よりは細く、軽そうである。


「武装はこの片手剣。剣自体は特に能力などは付与されてはいません」


 ただ、とリーシャは細身の剣を異空間に戻しながら、


「魔法には少々自信がありますので、戦場では臨機応変に立ち回る事はできますね」


 剣による近接戦闘と魔法による遠中距離戦闘を切り替えられるリーシャはある意味において戦場の要だ。

 今回の場合、レオと剣という近接系が二人居る事を考えると、中距離主体で立ち回ってもらう事になるだろうか。


「――っと、俺の番か」


 俺は異空間からヴェリアルを取り出した。風景に似合わない、精錬された金属の銃身が、太陽光を反射して眩しい。


「武器はさっきも話に出たヴェリアル。基本は遠距離から皆の支援攻撃だな」


 戦場においては例外を除いて、最も安全な位置。しかし、それ故にやる事は多い。


「あとは色々道具もあるんだが……数が多いから今回は省略で。

 ……それじゃあ、最後は剣の番な」


 ここまではいつものメンバーという感じで、お互いは知り尽くしている。剣に簡単な紹介というところだ。


「うっす。武器に関しては純一さんが言っていた通り、片手剣っすね」


「……ずっと思ってたんだけどさ。片手剣――っていうには大きくないか?」


 剣の背中、そこにあるのはむしろ大剣の規格だ。

 ……サイドカーに積んでた時からツッコミは入れたかったんだが。


「まさか片手で扱えるから片手剣とか言わないよな?」


「え!? 片手で扱えるから片手剣って言うんじゃないんすか?」


 言葉にリーシャとレオが苦笑する。

 俺も笑いながら、


「言わない言わない。その分だとレオと同じで前衛だな……。それと、他のやつと一緒で拳銃もあるんだよな?」


 背中の大剣とは別、腰に装着してあるホルスターに目を向ける。


「あ、はい。あるっす……とは言っても拳銃というよりは携帯式グレネードランチャーなんっすけど」


「ぐれねえどらんちゃー?」


「しれっと物騒な物持ってるのな」


 よくわからないといった顔の二人をよそに、俺は目を細めながら言った。

 対し、剣は頭を掻きながら、


「いやー、あくまでサブウェポンっすよ。(これ)だけだと対応できない場合を想定してのことっす」


「俺もその手の武器があるからあまり大きく言えないけど、使いどころは間違えるなよ? 今回の場合、下手したら生き埋めだし」


「了解っす。……いやー、本当は自分の武器は刀にしたかったんすけど、『あれは殺す事に特化してるから、剣にしておけ』って。以前、そういう言葉をもらいまして」


「? 隼人にか?」


「いえ、自分の憧れの人というか――」


 と、再び歩き出した中、剣は言葉を続けた。


「自分がノードゥスに入るきっかけになった方っすね。実はノードゥスに入る前、ラインベルニカで不良どもに囲まれた事がありまして」


「いきなりハードだな……」


「ははは、まあ確かにその時はかなり焦ったっすね。不良って言っても全員武装していて日本のソレとは訳が違いますから」


「……大丈夫だったのか?」


「うっす。ああどうしようかと考えていた時に、空から人が降ってきまして。その方が刀を使って一瞬で全員を気絶に追い込んだんっすよ」


「気絶――峰打ちってやつか……。じゃあ、その人が憧れの人なのか?」


「そうっすね。それで、その少し後に清堂社長がやってきまして。どうやら二人はご友人だったみたいっすね。その時社長と知り合って、その縁でノードゥスに入ったんす」


「なるほどなぁ……にしても、その人は日本人だったのか」


 ノードゥス関係者で、まして日本刀が対象を斬ることに特化していると、そのようなことをレイ・ウィングズ人が知っているとも思えない。

 それは、この世界の武器事情からみての判断だ。基本的に刀剣の部類は両刃であり、対象を叩き斬る事に主眼を置いている。

 カトラスのような物もあるにはあるが、日本刀のように精巧なものかと言われると疑問が湧く。

 日本人である剣がわざわざ刀と呼ぶのだから、武器は日本刀、それではそれを使っていたのは日本人だ、という考えだったが、


「それが正直わからないんっすよね……。直接話せたのもその時しかないんす」


「え? 初めて会ってそれっきりか? でもノードゥス関係者ならミロモルデアの支部とかで会えるんじゃないのか?」


「それが全然。一度隼人さんに伺ってみたんすけど、『あー、あの人は特殊な立場だからちょっと秘密かなー』ってぼかされちゃったんすよね……」


 なんだ特殊な立場って……。

 話を聞く限り、戦闘系の人物のようだが、それで正体が秘密となると、出来る想像はかなり限られてくる。

 政府とも密接な関係のあるノードゥスだ。あまり考えたくないが、()()()()なんてことも。

 ――止めだ。今、そういうのは考えないでおこう……。

 良くない所まで発展しそうな創造をシャットダウンして、意識を現実に戻す。


「喋ってた言葉は日本語だってわかってるんすけど、見た目がはっきり言って日本人ではなかったんすよね。髪はオレンジ色、目は赤色で顔立ちも自分や純一さんとは違ってて――」


 と、剣がそう口にしたときだ。ふと、リーシャが勢いよく振り返って、剣に迫り、


「――! ……ツルギ君、ちょっといいですか?」


「は、はいっ! 何でしょうか!?」


 口調口調。

 まあ仕方が無いよね、リーシャ美人だし、慣れてないとね。剣君、良い歳した男の子だしね。

 赤面する剣だが、リーシャはお構いなしに言葉を続けた。


「カタナというのは片刃の剣のことですよね。その赤目の方なんですが……、使っていたカタナに特徴的な点などはありましたか?」


「形状は普通だった気がするっすけど……あぁ、一つあったっす。普通、日本刀って一般的な剣と同じく、刀身は鉄の色と同じになるわけですが、その方が使っていた刀の刀身は赤みを帯びていたんすよね」


「赤いカタナ、赤目、オレンジ色の髪……そうですか……」


「リーシャの知り合いだったのか?」


 俯くリーシャに問いかける。


「いえ、知り合いという訳ではないのですが……。実は私もラインベルニカに住んでいた頃に、ツルギ君と同じような事がありまして」


 彼女の話では、近道をしようと人気(ひとけ)の無い道を使ったところ、数人の男に囲まれた事があるらしい。


「その時に助けてくださった方と身体的な特徴が同じでして。もしかしてと思ったのですが、武器も同じとなるとやはり同じ方なんでしょうね」


「ラインベルニカのスーパーヒーローか何かかよ。でもまあ、ノードゥスの関係者とは言え、髪と目がそれで、ツルギから見て顔立ちも違うって言うなら確かに日本人じゃ――」


 ふと、引っ掛かりを覚えた。記憶の片隅に、だ。


「ジュンイチさん?」


 ――オレンジ頭で赤色の瞳、日本人の顔じゃないのに、日本語を使える……。

 どこかで、そんな人物にあった覚えがあるのだ。

 どこでだ、と記憶を思い返す。正直言って近年の日本は外国人がいるのは当たり前で、都心などは外国人のほうが多いのではと思うほどだ。

 だが、キーワードがあった。ノードゥスだ。そのタグをつけるだけで記憶の中はかなり整理される。


「……俺、その人に会った事あるかも」


「ラインベルニカで? でもジュンイチ、知らない都市だからっていつもリーシャさんと二人で行動してたんじゃないの? それだったらリーシャさんが気づくと思うんだけど」


 レオの指摘に俺は頭を左右に振る事で否定した。


「否、もっと前の話――それこそ、俺がレイ・ウィングズに転移してくる前の話だ」


 今から四年ほど前の話だ。

 何かの用事で地元に戻ったとき、母親の頼みでノードゥス本社に居る浩二に会いに行った事があるのだ。

 だが、あいつだって社長。いくら従兄弟だからとは言えそんな簡単に会える訳が無い。そう思いながら行くとやはりすぐには会えなかった。


「……そんなもんだから、ひとまずロビーで待ってたんだよ、ソファーに座りながら。そしたらテーブル挟んだ対面にいきなり外国人の青年が座って話しかけてきてさ」


 オフで外国人と話す事なんて無いため、あの時はかなり挙動不審になった。

 だが次の瞬間には話す言葉が流暢な日本語だった事に驚きが変わったのを覚えている。


「で、話聞いてみると、外国から久々に日本に来たんだけど、秋田(この辺り)は初めてだから、もしよかったら案内してくれないかって。時間もあったから一時間ぐらい付き合った記憶がある」


「それが、例の人じゃないかって?」


「ああ。何かよくわからんけどノリで写真も一緒に撮った気がするから……ちょっと待ってくれ」


 俺はノードゥスから支給された端末を取り出した。実は以前使っていたスマートフォンのデータは全てこれに移してある。というのも《作成者》を応用する事で端末にスマートフォンのデータ移行と同時に、メモリ等を継ぎ足す事で独自にスペックアップを図っていた。


「……四年前ともなるとかなり下の方に……あった。これだこれ。この人じゃないか? 二人が言ってたのって」


 端末に表示された写真をリーシャと剣が覗き込む。


「あ! この方っす!」


「……私の方もそうですね、間違いないかと」


「やっぱりかー……偶然ってすごいな」


「――偶然、なんでしょうか」


 確かに、偶然というには規模が大きい気がする、世界的な意味で。


「偶然と言えばさ、この人の名前もその時聞いたんだけど。

 アギト、って言うらしいぞ」


「それって……」


 三人が驚く顔をしている。


「そう、確か前蒼王の弟もアギトって名前だよな」


「まさか……」


「……いえ、それは無いかと」


 リーシャが男三人の考えを否定した。


「アギト・アジュア・レーベンケーニッヒ――アギト様は生来、御身体が弱く、静穏を好む御方だと言われています。故に先の戦争では相当御無理を為されてその後は公にも御姿を御見せしなかったほどですし、異世界の地でそのような事を為されるとは考えにくいのですが……」


「……まっ、そうだよな」


 言い換えるなら、あまり日本に縁の無い外国の王族や首相などのトップがお偲びで遊んでいるようなものだ。

 それでも護衛の一人も無し、というのはおかしい。


「……でも三人が会う前にそのアギトって人に会ってたのって何か不思議だよね」


 再び歩き出した俺達の中、レオがそう言った。


「だなぁ。もしかしたらレオとかも何処かで会ってるのかもな」


「あはは、かもしれないねー……あ」


 唐突にレオが正面を指差した。


「色々話している間にそろそろ着くみたいだな」


 眼前、木々は薄れてきており、視線の先、初老の男性と妙齢の女性がこちらに手を挙げているのがわかる。

 この距離であればわざわざヴィエラを再度出す距離でもあるまい、とそう思いながら同時に俺は違う事が脳内の過ぎる。

 ラインアルストに残った残りのノードゥスメンバーたちが上手くやっているだろうか、と。

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