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56.拠点をつくろうⅠ

 二ヶ月ぶりのラインアルストは俺の予想よりも変化が無かった。

 もう四月に入るというのに、雪が未だに大量にあるのは内陸地だからだろうか。

 ギルド、ラインアルスト支部の裏手に停まった三台の馬車のうち、中型の二台から俺たちは大地に降り立つ。


「――ここが、ラインアルスト……」


 辺りを見渡す少女、凛がつぶやいた。


「この世界の町としては小規模にあたるけど、それでもそれなりに広いし、物もある。良い町だと思うよ」


 凛の横、俺は久しぶりの町の景色を眺めながら言った。


「……うん、思ったよりは良いかも」


「どんなの想像してたんだよ」


 凛たち、ノードゥスのメンバーと初めて会ってから三週間ほど、俺は彼女達と思いの他、打ち解けていた。

 それは俺が隼人の親友だった事も少なからずあるだろうが、加えて彼女達に対しての()()()()()()を感じさせない接し方をしていたのも大きいだろう。

 とは言え、あくまで打ち解けただけであり、隼人のように信頼されているかといえば、答えはNOだろう。

 それこそ、時間をかけて築いていく必要がある。

 幸か不幸か、彼女達とはやることがいっぱいあるため、そう難しくないような気がしている。


「さてと……」


 俺はつい最近『ギルド特別連携係』なんていう肩書きをもったノードゥスの一員になってしまった。

 よって、最初の仕事に取り掛からねばならない。


「ミストさん、例の物件に皆を連れて行きたいんですが」


 俺の提案にミストは横目で貨物が乗った馬車を見た。


「そうですね、荷もかなりの量ですし……今日中に降ろせるでしょうか?」


 彼女の問いに俺は少し考えた後に首を横に振って返した。


「――いや、おそらく無理ですね。量のこともそうなんですが……」


 俺の懸念はむしろそれらを運び込む物件の方だった。


「とにかく、俺も中に入ったことは無いですし、行ってみないことにはなんともって感じで」


「わかりました。ひとまず鍵を取ってきますので少々お待ちください」


 数分して戻ってきたミストから鍵を受け取ると、俺は振り向いて町の様子を眺めていた面々に声をかけた。


「みんなー、移動するから自分の手荷物を持ってついて来てくれ」


 言葉に皆が行動を以って返した。

 俺もそれを確認すると貨物馬車の御者に移動するように伝える。


「――ジュンイチさん」


「ん、リーシャか。なんだ?」


「一応私は姉さんの補佐という事で報告等ありますので、それらが終わり次第、そちらのお手伝いに行きますね。移動中に書類は作っていたのでそこまでかからないとは思うのですが」


「おう。あー、あとできれば昼過ぎになるし、何か食い物を……と思ったけどこの人数じゃ多いか。じゃあ、リーシャが合流次第、どこか近場に食いに行こう」


「はい、それでは後ほど」


 ミストに続き、ギルド支部に裏手から入っていくリーシャを見送り、振り向くと思ったよりもすぐ近くに隼人がにこにこと立っていた。


「……なんだよ」


「別に?」


 どうせ追求しても良い結果にならないだろうから無視する事にする。


「んじゃ、行くぞー」



●●●



 そこは、ギルド支部から徒歩五分の位置にあった。

 俺達の目の前にある建築物は一軒家――というよりは倉庫や商店に近い大きさだった。


「ここが純一さんの言っていた所ですか?」


 陣が窓から中を覗きながら訊ねてきた。


「ああ、ここ、半年前までは商店だったんだけど、色々あって隣にある家とセットで空き家になってるんだよ」



 これは、ラインアルストにいた俺しか知らないことだが、半年前からこの町からの移住を求め、そして実際に移住する例が少なからず増えていた。

 移住先は各々の故郷や他の町、都市等様々であったが、ほとんどの原因がキメラ襲撃事件だった。

 あの事件のラインアルストへの物的、人的被害はガルフの大群、そしてキメラという魔物のクラスの反して、確認されているものはかなり少ないものだったが、一つの村が壊滅したという事実は人々への心に恐怖を植えつけるには十分だった。

 この空き家の持ち主の男性もそんな中の一人だった。否、正確に言えば、彼の家族が、だろう。

 ギルドに所属しながら商店も営んでいた彼には妻と、そして小さい子どもが二人いたのだ。それだけで、この町を離れる理由には十分だったのだ。

 聞いた話では彼はもっと大きな都市にいる親族の下に移ったらしい。

 


 さて、本題に戻るが、通常空き家は自治体などの政府が管理することになるのだが、ここは元持ち主がギルド所属だった事、物件が倉庫として使える広さだった事などから特別にギルドが安く譲り受けたのだ。

 しかし、どう使うかを細かく決める前にガリウスからの召集があったため、うやむやな状態になっているのだという。

 ラインアルストへの帰路の途中、ミストにノードゥス面々の拠点をどうするかという話をした時にここの話を提案された。


「とりあえず、入ってみようか。俺も中の様子は知らないわけだし」


 ミストから預かった鍵を使って扉を開ける。


「お邪魔しまーす……っと」


 中は至って普通の様子であり、リリエが営むアルガドのように通常の商店スペースがあった。おそらく、その奥に見える空間が倉庫に当たる部分だろう。商店スペースから延びる通路といくつかの小部屋、そして大きな空間があるようだ。

 商店スペースには、持ち出すのに苦労するような大きなテーブルなどが残されており、埃を被っている。

 

「――うーん、この構造、少し微妙だね」


 歩いて見て回る隼人が顎に手をあてて言った。


「……やっぱりそう思うか?」


 俺は隼人と同じ事を思っていた。

 当たり前といえば当たり前なのだが、このままでは商店以外に使うのにまったく向いていない。

 それに、


「さむー!」


 倉庫側の通路に入った博がそう声を挙げた。

 確かに、寒い。

 物が無いので寒いのもあるが、生活する事は考慮されていないので、おそらく、壁などが見た目よりも薄いのだろう。

 また、マザー・イニーツィオのように住居に断熱材が入っている、なんて事はまず無いので、寒いのも当たり前だ。

 俺は慣れてしまったし、魔流活性(まりゅうかっせい)による身体強化で実はなんとかなるので良いのだが、子ども達(こいつら)はそうもいかない。水城兄妹がここを使うかはさておき、せめて一般的な住居と同じような環境にはした方が良い気がする。

 

「そもそも、拠点としてはどういう機能が必要なんだよ?」


 まずはそこからだ。

 俺の問いに、まず凛が手を挙げた。


「……落ち着く空間」


 いきなり抽象的な答えが返ってきたが、確かにシステムの設計、作成にはそう言ったものも必要なのだろう、たぶん。

 何かを作成するとなった場合、陣やまりとの話し合いの場だって必要だろうし、割と的を射ている提案かもしれない。


「あー、あたし的には武装のメンテナンス器具を置いたりでそれなりに広い場所が欲しいね。おそらく、陣もそうじゃないかい?」


「うん、あまり手狭じゃない方がいいですね」


「なるほどな……他はあるか?」


 おそらく、ノードゥスとして活動する場合にメインとなる三人の意見を聞いた俺は、一応ほかにも無いか聞いておく。


「はい! 稽古場が欲しいっす!」


「却下だ、そこまで広くは無い。……だいたい、ギルド支部だって近いし、俺も適当なクエストに行く事になったらお前を連れて行くつもりだったから要らないだろう」


「いいんすか!」


「あー、また今度の話だけどな。俺だってまずはこっちに力入れたいし」


 ここまでの間に少しだけ(つるぎ)の片手剣を使った動きを見てみたが、前に隼人から聞いたとおり、基礎自体はできていてランクE相当なのも納得だった。

 と、なれば、あとは実戦形式による経験。または、同じような力量の持ち主の中に放り込むのが良いだろう。

 近接武器による動きなどはそもそも俺の専門外なので、同じ片手剣を扱うリーシャに預けてみてもいいかもしれない。


「他は?」


 再び訪ねてみるが、声が上がらない。

 意見を言っていないのは明日香、博、花、彩華であるが、そも彼女達はノードゥスにおいて行う仕事――事業に直接関わる事がないので、こちらにはノータッチというところだろう。


「と、なると、メインになるのは、凛や陣が使う『オフィス』と、まりが使う――まぁ、『工房』とでも言っておこう。その二つか」


「……あー、あと電力室も、じゃないかな」


 俺達のやり取りを見ていた隼人が横から言葉を投げてきた。


「電力室?」


 そういえば、ノードゥスが行うことには機械を使う事になるのは必須であり……その動力源はどうするのかを失念していた。


「うん、と言っても、この世界じゃ外部から引っ張ってくるなんて出来ない訳だから、そこも自給自足なんだけど」


 隼人は窓から見える馬車を指差した。

 そこには、ラインベルニカにおいてのノードゥスの本部から持ってきた機材が多く積まれているのだ。


「魔導発電機――ま、名前はこの際何でもいいんだけど、要は『魔力を電力に変換』できるものなんだよ。しかもかなりの効率で変換できるから、一般で売られてる魔石でも親指大あれば一般的な家庭、五世帯分をおよそ一ヶ月賄えると思うよ」


「へー、すごいな」


 俺は素直にそう思った。




 ――清堂 純一が今までの生活で、この世界に一般に流通しているものと比べ物にならないほど質の高い魔石を割りと酷いと言ってよいレベルの燃費で消費していたという事実を知る者は、実は純一が持つ魔石の質と量を知っているリーシャだけで、当の本人はあまりわかっていないのだが、それはまた別の話――。




「――で、魔石は最近また流通し始めたし、当面のものは持ってきているから困らないとは思う。だから電力室に発電機を置いたとして、きちんと配線とかしないとね。火事とかになっても困るし」


 一応、凛たちの保護者という立場にある者としては彼女達の安全は第一に考えるものだ。


「あとは水周りだね。見てる分だとそういうのも無さそうだし」


「それではもう、全とっかえ――立て直した方が早そうですね……」


 彩華が困ったように言った。


「まぁ、それを言ったらどこも同じような……、ちょっと隣の家を見てみるか。場合によってはあっちの方が重要になるぞ。なんせみんなの住居になるわけだからな」


 俺の場合、ギルドの宿舎があるわけで、あそこはあそこでそれなりに味のあるので、満足してる。いずれ、自分だけの家を建てたいとも思うが、それは完全に()()()()()()になると決めた時になるだろう。

 ともかく、今は眼前の問題だ。

 商店物件を出て隣の家の鍵を開け、入った俺達はまず最初に安堵の息を吐いた。

 まともな、一軒家と言っていいだろう。というよりも、そもそも先程の物件にしたって、この世界の基準で商店として使うならば、普通に良物件だ。

 問題は、


「二階建てで部屋は居間などを除いて四つ……か」


 部屋が足りない。凛たちとて、いい歳だし、プライベートな空間は必要だろう。

 と、なると部屋がさらに四つ必要になる。

 いっそ、陣と明日香は一緒に部屋でも良いとしてもやはり足りない。


「電気配線も隣から引いてこないといけないし、これなら建築関係を何人か連れてくるんだったなぁ」


 隼人が心底しまったという顔をしながら言うが、時既に遅しだ。

 

「一から作るってのもなぁ。土地から探さないといけない訳だし、それなりに金もかかる」


 それに加えて完成まで時間がかかるため、それまでの拠点が必要になる。


「しばらくはどこかに宿泊、ですかね」


 とりあえず家を出て、陣がぽつりとつぶやく。

 その言葉に皆が仕方がないという感じに頷いた。

 新築するにしても、費用と時間、そして立地が問題だ。

 今後、ギルドと連携するならば、ある程度距離が近いほうが良い。


「……よし、改築(リフォーム)するか」


「いやいや、いっくん。今の流れからどうやってそうなるのさ。というかそれは短絡過ぎない!?」


「流石に俺達だけでやるとは言わねーよ。素人にできることなんて高が知れてるしな」


 完全に日曜大工の域は超えている。

 では、どうするのか。


「俺に少し心当たりがある」


 言葉とともに、俺は二ヶ月ぶりにストックスでバイク(ヴィエラ)を出現させる。

 その出現に、凛たちが、隼人さえも驚く。

 

「うわ、なにそれ」


「かっけぇー!」


「ほぅ……」


「それがいっくんの言っていた――」


 ノードゥスの、主に男子たちがはしゃぐ。


「あぁ、スキルで造った俺の愛車」


 そこには普段は使う事のない、サイドカーが付けられていた。


「家の方は割となんとかなる、と思う。とりあえず俺が戻ってくるまでオフィスの方を使う事になる凛、陣、まりの三人を中心にどういう感じにしたいか、間取りでも考えておいてくれ」


 俺の魔力を鍵として、ヴィエラが駆動音を上げる。そのまま、ホバーモードに変形したヴィエラを駆り、俺はある人物の元に向かった。

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