55.同僚-子どもたち-
東ギルド会議から三日後、俺達はラインアルストに帰還するべく、ラインベルニカを発った。
移動方法はと言えば、ラインベルニカまでやってきたのと同じ、馬車での移動だ。
また吐く寸前までいくような揺れがなければいいけど、と思う俺の横にリーシャやミストは居ない。
人数と貨物が多いため、三台の馬車に分かれて乗っており、うち一台に全ての貨物を乗せている。
よって他二台に人が乗る形となる。
ミストとリーシャは、ちゃっかり一緒に帰ることになったリリエとともに居る。
では、俺が乗っている方はどうか。
三人しか乗っていないあちらの方に対し、こちらはそれなりの人数が乗っていた。
もっと人数配分をどうにかして欲しいとも思ったが、仕方が無い。こちらに乗っているのはノードゥスの、ラインアルスト支部に配属される面々だからだ。
そして、その者達に加えて、
「……なんでお前も居るんだよ。臨時とは言え、代表がラインベルニカを出たらやばいだろ」
隼人が居た。
「ラインベルニカから遠隔地に常駐って形で人を派遣するのは初めてだし、一応付き添いしようかなって。それに部下に今後の計画、問題発生時の対応等すべて引き継いできたから大丈夫だよ。
――いざとなったらガリウスさんを頼れって言ってあるしね」
「あのおっさんも災難だな……」
同情するが、どうすることもできない。
「――それで? こいつらが?」
隼人にしか聞こえないような小声で言って、馬車内を見渡した。
車内には数人の、正確に言えば俺と隼人を除いて八人の男女が居た。それも、全員が、
……若いな。
最初の感想がそうだ。
どう見ても十代か二十代前半。まだ子どもだと言っていいレベル。
――まさか、今の俺やリーシャみたいに外見と実年齢が異なるなんてそうそう居るわけないしなぁ……。
「本当はもっと人数を連れてきたかったんだけど、今、別の事業に人を結構割いててね。でも、若いからって未熟とは限らないよ?」
例えば、と隼人は八人の中、一人で携帯端末から伸びたイヤホンで音楽を聴いている高校生ぐらいの少女を視線で示した。
「あの子は今回設置する基地局のシステム。その構築に貢献した者の一人だ。その右隣、別の女の子と話している男の子はうちの開発部で若手エースとして活躍してる子だ」
「へえ、立派なもんだ」
「役目は果たせる子達だよ。ただ、皆、ラインベルニカを出ることなんて無かったから不安とかストレスとかあると思うし、そこは大目に見てあげて欲しいかな」
「あー、大丈夫大丈夫。元々、日本じゃ後輩纏めてプロジェクト立ち上げてたりしてたし」
言って、問題ないという感じを出すが、実は内心、俺も不安ではあった。
後輩と言っても年齢はそれなりに近かったし、元々同じ会社、同じ部署で面識があった上でだ。
しかし、彼らとは今日会ったばかりだし、何より若い。
歳の離れた妹が居たとは言え、ジェネレーションギャップとかあったらどうしようか、否、そもそもすんでいた世界が違うからワールドギャップか!?
などと意味もない不安に駆られる。
「じゃあ、早いうちに自己紹介とか済ませちゃおうか」
唐突な提案だ。
「いきなりかよ。まぁ、お互いの名前ぐらいは知っておかないと困るしな……」
「そうそう……みんな、ちょっといいかな?」
隼人の声に皆が、イヤホンで耳を塞いでいた少女までが顔を上げる。
「みんな、お互い知っている顔もあるだろうけどそうじゃないのもいる。だから、ここらで軽く自己紹介といこうじゃないか」
彼は言って、一番近くに居た茶髪の、頬に傷がある少女に手のひらを差し出すように向けた。
「とりあえずそうだな……、まりから時計順にお願い」
「はいはい、言ったとおり知ってる顔が多いけどね。煉野 まり、二十歳、そこでいちゃついてる男の助手兼剣たちの武装メンテナンスを請け負うのが仕事だよ、よろしく」
まりはそれだけ言って隣に居る片手剣を持った少年に視線を送った。
少年は何故か勢いよく立ち上がり、揺れる馬車内で不安定になりながら名乗りを挙げた。
「うす! 斉藤 剣っす! 戦闘部所属で武装は片手剣です! 機械とかはよくわかりませんが皆さんをお守りできればと思ってます!」
暑苦し――熱い少年だ。そこで、ふと俺は思い出すことがあった。隣の隼人に小声で、
「――戦闘できないやつばかりじゃなかったのか?」
「最初の計画ではそうだったんだけど、少し変わったんだ。元々まりが配属計画の中に入ってたんだけど、彼女は言っていた通り、開発部の仕事の他、元々剣君の武装メンテも請け負ってたから、それだったら魔流活性で力仕事も戦闘もできる剣君を同行させようかなって。彼も一応ギルドのランク指標でいけばE相当の力はあるし、いっくんの助けになると思うよ?」
それに、と続けて、
「――彼も『外』での経験が必要になってくる時期だったし、丁度良いかなって」
「……まあ、お前がいいって言うんだったら、それで良いんだけどさ」
そんなやり取りをしている間に次の自己紹介は始まっていた。
「えと、水城 花、です。む、難しい事とかよくわかんないけど、彩華お姉ちゃんのお手伝いは、がんばります。よろしくお願いします」
おどおどしながらもまだ小学生ぐらいの少女が宣言する。そのすぐ隣、同じぐらいの男の子が、
「花の双子で博ってんだ! よくわかんないけどみんなの手伝いするぜ!」
――そこまで素直に言われると何も言えない……。
代わりにと横目で隼人を見るが、微笑のまま、こちらの視線を流している。
「座ったままで失礼します、東雲 彩華です。博君と花ちゃんの親代わり――みたいなものをさせてもらってます。また、医療の心得もあるので、何かありましたら私をお役立てください」
一礼を伴った丁寧な挨拶だ。
少し下がった眼鏡を押し戻しながら彩華が隣を見た。
そこにいるのは、イヤホンを外した少女がいた。
「……夜椛子 凛、システムエンジニア」
それだけ言って、凛は口を閉じた。それで終わりということだろう。
「凛は相変わらずだね」
言葉をつくったのは凛の隣、先程まりにいちゃついてると言われた青年だ。
「僕は安原 陣。開発部に所属してて、物を作るのが好きです。みんなの役に立てるようがんばります」
「私は紀之口 明日香です。本来は花ちゃんたちと同じようにノードゥス所属ではないんですが、陣君が異動するということでついてきました。よろしくお願いしますね」
陣と話していた少女、明日香も軽い自己紹介を終える。なるほど、押しかけ女房か。
――あれ、これだと八人中、基地局やらなにやらの仕事をできるのって三人しか居ないのでは……。
大丈夫か、と不安になるが、だからこそギルドの協力が必要なのか。
と、内心で思っていると、八人が俺を見ていることに気づいた。
「――っと、最後に俺か」
隼人は全員が知っているだろうから、順番的に俺で終わりだ。
「えーと、清堂 純一だ。色々あってこんななりだが、隼人と同い年で、半年前にこの世界に飛ばされてきたから皆よりはレイ・ウィングズ暦? は浅いかな。
今までギルドで過ごしてきたが、これからノードゥスの一員としても働く事になる。よろしく頼む」
簡潔に、用意していた言葉を並べる。
スキルのことなど、色々と端折ったが、今はとりあえず自分がどういう人間か伝わればそれでいい。
果たして結果はどうか、と皆を見てみれば、全員が驚きの表情を持って、沈黙していた。
……あれ、だめだったか?
そう不安になった俺に対し、八人は一度お互いに顔を見合わせ、そして少しして陣が手を挙げて問うてきた。
「すみません、『清堂』というのは……、浩二さんと関係が?」
ああ、そこは聞かれると思っていた。何せ、社長と同じ姓だ。
「ああ、あいつとは従兄弟で同じ一族だな。ノードゥスが異世界で活動してるってのはつい最近だけど」
俺が答えてすぐに違う手が挙がった。
彩華だ。彼女は少し前のめりになりながら、
「あの、先程隼人さんと同い年と言っていましたが……」
「うん、今三十一歳だぞ」
二十歳前後の姿をして言う言葉ではない。
「それは……魔法か何かですか? それとも今のマザー・イニーツィオ――日本ではそれが一般的なんですか?」
「あー、それについては俺にもよくわからないんだ。半年前にレイ・ウィングズに転移させられたときにこの姿になったみたいだけど、周りからは魔法じゃないって言われてるからスキルじゃないかって考えてる」
「ス、スキルですか……」
予想を超えた答えに彩華は困惑してしまったようだ。
「あっ、じゃあ自分いいっすか!?」
熱い少年、剣がぴょんぴょんと跳びそうな勢いで手を挙げた。
「どうぞ」
「ギルドに所属してると言ってましたが、それでは魔物相手なんかに実戦経験も!?」
「……まぁ、一応ある、かなぁ」
一応どころか、エレメンタルやキメラまで討伐しているランクCだが、それはおいおいだ。
そこまで話すとこの少年は興奮でブレーキが利かなさそうだからね。
「おぉー! すごいっす!」
「落ち着けよ」
「はい! 落ち着きます!」
素直か。
熱いが、人の話はきちんと聞くタイプだな。
そう思った俺に対し、博などが俺も俺もと手を挙げたが、それを俺の横にいた隼人が制止した。
「はいはい、これからラインアルストに着くまでたっぷり時間はあるんだから、そう慌てないように」
えーという声が響く中、隼人は言葉を続ける。
「それにそろそろお昼だよ、みんなもお腹が減っただろう」
確かに腹の音がなってもいい頃合だ。
「いっくん、昼食を取りたいからミストさんたちに連絡お願いできる?」
「ああ」
言って、俺はポケットから携帯端末を取り出した。
今までは着信が来る事等あるわけが無かったのでストックスで収納空間に閉まっていた訳だが、今後はそうもいかない。
電話帳に登録されてある、リーシャに渡した端末に電話をかける。
馬車同士は近くなので、余裕で繋がる。
『――はい、リーシャです』
「リーシャ、隼人がそろそろ昼飯にしたいから止まってくれだってさ」
『わかりました、姉さんに伝えます』
「おう、頼む――」
「昼食の時にミストさんたちにもこの子達を紹介しなきゃね」
馬を走らせている御者に止まるよう伝えるため、隼人が立ち上がりながらそう言った。
「そうだな」
なんとも、賑やかになりそうな未来が見えた気がした。




