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52.東ギルド会議Ⅰ

 暗いな……。

 それが会議場に入った俺が最初に抱いた感想だった。

 日本にいた頃、会議をする場合でも部屋が暗い事はあったが、あれはプロジェクタが良く見えるようにするためである。

 対し、ここは窓と扉を閉め切り、おそらく魔法か何かで防音処理も施しているのだろう。光どころか、外部の音も聞こえてこない。つまりは内部の音も遮断されているだろう。

 電気による灯りが無いため、ある一箇所と部屋の外周にイル・ライノ――魔法による光が部屋を照らしている、のだが、部屋の広さに対し、数が少ない。

 中央付近の一箇所だけ異様に明るく、そこに居るものが目立つ仕組みになっている。

 そして、その一箇所が俺を含めたガリウス一行の定位置なのだろう。

 そこは会議に参列した者達が座る座席よりも少しだけ高い位置にあり、例えるなら、

 ――学者の研究発表とか、新商品の発表に使われるステージって感じだな……。

 その壇上に、ガリウスが向かう。

 ざわざわと、騒がしかった部屋が徐々に静まっていく。

 部屋の中、ぱっと数えただけでも百数人は居る。

 支部長はミストほど若い者はいないようだが、補佐となれば、若い――今の俺の姿のように十代と思われる姿もある。

 そして、おそらく全員がランクEやD以上の実力者なのだろう。

 今となってはランクCになった俺が言うのもなんだが、下から数えて二番目であるランクEで実力があるとは言えないのでは? というのは間違いだ。

 魔物と戦える――戦闘力があるのとそうではないとでは明確に差がある。故にギルドの中でもランクFの人数がEになると大幅に減るのだ。

 そんな事を考えているうちにガリウスが壇上に立つ。

 彼は備えられた机に手をついて、部屋を見渡した。


「――諸君、待たせてすまなかった。ギルドマスターのガリウスだ」


 名乗りをあげ、ガリウスは一息を着いた。

 と、そこで彼は気づいたらしい。

 部屋の中がピリピリと緊張感に包まれている。

 それもそうだ。

 わざわざ会議の中身も伝えない『極秘』の会議が今まさに始まろうとしているのだ。

 そんな様子を見たガリウスは、


「あー……会議って言っても、前半はお知らせみたいなもんだから皆楽にしていいぞー」


 ギルドマスターのそんな一言に緊張感が薄れる。

 とは言え、完全に無くなった訳ではないのは、それでも大事な会議だから、と思うからか。それともガリウスの左後方、つまり俺の斜め左前にいる少女が原因だろうか。


「――さて、話を進める前に本日はギルド外からの客人を招いている。皆も気になっているであろう」


 言って、ガリウスが隼人の方に手を差し出すようにして、視線を誘導する。


「まずはこちらから。ノードゥスという、異世界であるマザー・イニーツィオに存在する商業組織とでも言えばいいか。そのレイ・ウィングズ支部の代表を務めているハヤト ワタナベ君だ」


 隼人は深く一礼した。


「隼人 渡辺と申します。今回はノードゥスが正式にギルドと協力関係を結ぶ事になるということでご挨拶とご説明をしにやって参りました。詳しい事は後ほどになりますが、本日はよろしくお願いします」


 と、隼人は最低限の言葉だけ述べ、挨拶を簡潔に済ます。

 ガリウスは反対側、エミリアに対し同じように、


「そして、政府からいらっしゃった第四貴族のエミリア・ドラン・ベグレット様だ。皆、失礼の無いように」


 エミリアは両手でスカートの裾を軽く持ち上げ、


「ご紹介を頂きました。第四貴族、従獣(ウェルヒト)を司るエミリア・ドラン・ベグレットです。本日はよろしくお願いいたします」


 その動作とこれだけの人数を相手に物怖じせずに挨拶する様子は、まさに貴族といった感じの気品さを持ち合わせているように思えた。

 あの歳ですごいな……。

 年齢を聞いたわけではないが、見た目は十代半ばか後半。エルフでもない限り、リーシャと同じように実年齢が上ということもないだろう。

 そして、エミリアが一礼したのに対し、支部長達がぱっと立ち上がり、深々と頭を下げる。

 幸いにして俺とバハムートには振られない。

 良かった。いきなりやれとか言われなくて。

 二人の自己紹介を終え、ガリウスは再度前を向く。


「では、早速会議を始めるとしよう」



●●●



「今日の議題は大まかに分ければ三つある」


 隼人の隣で用意された椅子に座っていた俺は、ガリウスが皆に向けて右手の指を三本立てたのを見た。


「実は今日の話は全て繋がっている訳だが、皆にはわかりにくい話も含まれる故、三つに分けさせてもらった」


 おそらく、ノードゥスが関わる問題。この世界のネットワークを高速化しようという話のことだろう。


「一つ目の話だが、昨今の魔物情勢についてだ」


 と、ガリウスが指を鳴らすとプロジェクタースクリーンのようなものが天井の穴から音を立ててするすると降りてきた。

 どちらかというと、魔法の儀式が行われそうな雰囲気を醸し出すこの部屋に、えらく場違いなものが出たなと思った。


「――この部屋は僕達が改造したものでね? 見た目より多機能なんだよ」


 俺の横に座る隼人が耳打ちしてくる。

 部屋に灯るイル・ライノが極限まで小さくなると同時、スクリーンに画像が映し出される。

 レイ・ウィングズの地図だ。

 その技術に部屋が少しざわめく。

 だが、ガリウスはそんなのはおかまいなしにと、長い棒をストックスで異空間から出した。


「はじめに、ある件で皆には詳細な事は伝えていなかったが、既に噂として各地に広まってしまっているため、変に隠さないで伝えようと思う」


 ガリウスは地図の上部、大陸北側を棒で指した。


「『一昨年(おととし)末、大陸北の最大都市である北方氷閉都市ほっぽうひょうへいとしリョーツ・ガレジーナの壊滅とグラーフリート山が消失した』という噂……これは事実であり、政府も認めている」


 ガリウスの言葉にエミリアが頷きを返した。

 その様子にまたもや部屋がざわめきたった。


「静かに。これくらいで驚いていたら最後まで身が持たんぞ」


 その言葉もどうかとは思うが、事実毎回ざわめいて話が中断されては進むものも進まない。


「話を戻す。噂では、この異常事態に対し、政府が対応したとか前蒼王がその力を以ってどうにかした、なんて話もあるな。しかし、そもそもの原因は一切語られていない」


 ――確かに、前にリーシャからこの話を聞いたときも原因については聞かなかったな。

 都市や山の話、そしてあの時は魔石についての話もあったため、そもそもそれがどうして起こったかについては聞かなかった。


「まず、結果だけ言おう。リョーツ・ガレジーナ壊滅とグラーフリート消失を引き起こした原因、それは魔物だ」


 魔物情勢の話が噂の話にどう繋がるかという疑問が解消された。

 魔物が、街を、山を、破壊したのだ。

 だが、街とは言え、大きさは大都市――おそらくこのラインベルニカと同規模のものであり、グラーフリートも俺達が半年前に入山したキワル火山と同クラスだという。それを壊滅または消失させるなど、いったい、どんな魔物なのだ。


「魔物は『オリジン』と呼ばれる巨大な竜だ。当時、こいつはグラーフリートの内部に封印されていたらしいが、どういうわけか復活、リョーツ・ガレジーナを破壊した。その後、前蒼王たちがとある方法で消し飛ばしたのだが、問題が残ってな」


「問題?」


 部屋の中の誰かがつぶやいた。


「そうだ。この『オリジン』は竜種の中でも特別な存在だったらしい。そもそも同じ竜たちの中でも伝説の邪悪な存在として恐れられるほど、強力な個体で、実際強力だった」


 まるで本物の竜から話を聞いたように、と皆は思っただろう。

 はい、います。同じ部屋に。みんなの視界の中に。

 俺の横、足を組み、目を閉じている背の高いイケメン君。

 竜であるという、彼の自己申告でしかないが、隼人もガリウスもエミリアさえも否定しなかったという事は事実であることを意味する。


「そんな『オリジン』の出した魔力、そして残した余波が迷惑な事に様々な魔物に影響を残した……。それが、半年前に起こったラインアルストでのキメラ襲撃にも繋がる」


 いきなりの言葉に、俺の脳が反応する。おそらく、ミストとリーシャもそうだろう。


「ライン地方の皆はだいたい知っているだろうが、半年前、ここラインベルニカと王都の中間地であるラインアルストがガルフの集団、ハイガルフ、そして二体のキメラに襲われた。

 その時は支部長をはじめ、ギルドメンバーの対応、そして本部からの支援で被害は最小限で収まったが、そもそもガルフが、キメラが何故あのような平地、人が居るようなところまでやってきたか」


 それは、


「『オリジン』の魔力を恐れ、離れるために南下したという結論が出た」


 つまり、大陸北に漂う、その『オリジン』とやらの魔力を恐れた魔物たちが生息地を南下させているという。

 普通、生物は人間のような例外でもない限り、その地に合わせた環境に適合しているため、温暖化、または寒冷化のように環境が変わらない限り、生息地を変えることはほぼない。

 その『オリジン』の魔力がそれほどまでに魔物たちにとって脅威ということか。


「――リアウェイ支部長、キメラ襲撃の件の他、何か気になる点などはあったか?」


 突然の質問に、しかし、ミストは怯むことなく、立ち上がった。

 彼女は数秒考え、口を開いた。


「……はい。これは件のキメラ襲撃の二ヶ月ほど前の出来事にはなるのですが、それまで魔物の存在が確認されていなかった森林地域で『バーグスパイダー』が出現し、ギルドメンバーの一人がその毒に侵されました」


 言葉に周囲がざわつく。

 ミストが言っているのは、俺とレオが襲われたときの事だろう。


「幸いにして、()()()()()()()()()により、事なきを得ましたが――」


 暗くて実際にはわからないが、ミストが俺を見ている気がした。

 バーグスパイダーは本体よりもその毒が厄介で、適切な対処をしないままだと数刻で死に至る猛毒であり、俺が《作成者》と《創造者》でポーションを作っていなければ、レオは今この世には居なかった。


「――どちらにしろ、バーグスパイダーは元々ライン地方には生息しておらず、もっと北、それこそ大陸北部の種だったはずです。それが、きまぐれにラインアルストまで南下してきた、というのはあり得ないと考えています」


「――ふむ、他地域でも似たような話を受けている。このような事から魔物の討伐もそうだが、普段の生活から十分注意をしてほしい。特にキワル火山が存在するロント大山脈付近の地域。あそこにはワイバーンが生息している事が確認されている。もし、不安があったら、この後時間を設けているので、俺か本部の者に声をかけてくれ」


 言って、ガリウスは一息ついた。


「と、これが一つ目の話だ。続けて二つ目の話に行くが、いいか?」


 誰も顔を横に振らないことを確認したガリウスは話を続ける。

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