51.ギルド本部
高い天井が見える。
一般的な生活には不要なこの高さも、こういった施設であるならば、それなりの雰囲気を出す役割を果たしている。
ギルド、ラインベルニカ支部。今はギルドの本部となっているその場所の中央ホールに、俺、リーシャ、ミスト、そして隼人が居た。
これから行われる会議に出席するためだ。
ギルドマスター、ガリウスの要請で大陸東に点在するギルドの支部長クラスが極秘に召集され、行われるこの会議は事前に内容が伝えられていない。
普通、そのような事は前もって伝えておくものだが、それも極秘会議だからだろうか。
わかっているのは、本部で開催される事。
そして、ギルド支部長は信頼できる補佐一人を伴ってそれに参加せよ、という指令のみ。
ミストはそれにリーシャを選んだのだ。
では、俺はどうするか。正直に言って、俺がラインベルニカに来たのも、ガリウスに会ってマザー・イニーツィオについて知るためだったのだが、ミロモルデア特区からここまでの一連の流れでその目的もほとんど達成された――というよりもそれ以上の成果を手にしている。
とは言え、俺だってギルドの一員だし、極秘会議の内容には興味がある。そこで、ギルドの協力関係者として参加する隼人に、俺を補佐として連れて行くように頼んだところ、隼人も元々俺を連れて行くつもりだったようですんなり話は決着した。
「――で、会議ってどこでやるんだっけ?」
テラコッタタイルが敷き詰められた廊下を歩きながら、俺は隣を歩くリーシャに小さな声で問いかけた。
周囲、本部となればそれなりの人数がいるわけで、迂闊な事は言えない。
「私も姉さんまかせなので、なんとも……」
俺達の前、ミストと隼人が歩いていくのにしたがっているだけなので、これからどこに向かうかなど不明だ。
そもそも、本部に各支部長が集まってくる時点で何事かと騒ぎになるのではないか。そんなことを前に話したらリリエが「まあ世界は広いから支部長が誰々なんて全部覚えてる人なんてそういないよー」とか言われたがずぼらではないだろうか。そういえば、半年前のガリウスも割りと大概だったので、大丈夫かこの組織とその関係者達。
それが顔に出ていたのか、こちらに振り返った隼人が口を開いた。
「会議は中央会議場でやる事になっているんだけど……おそらく、本部の人間は大体が今日のことを知っているんじゃないかな?」
「そうなのか?」
「うん、確証は無いけどね。先日、ガリウスさんと連絡を取った時に、『ラインベルニカからであれば距離もあるし、今となっては本部の人間ぐらいなら知られてもかまわん』なんて言ってたから」
「遠い、ですか。ライン地方やウルダ地方では駄目で、ラインベルニカなら良い、ということは王都に近いのがいけないということでしょうか……」
リーシャのつぶやきに隼人は頷いた。
「私も近い考えですね。それもすぐにわかることですが」
正面、大きな扉が見えた。
あれが中央会議場への入り口だろう。
「ミスト支部長たちはそのまま会議場へ。私たちはあくまで協力者という立ち位置なので、ガリウスさんと共に参ります」
「わかりました。それでは、また後ほど」
ミストの返答を最後に、俺達は二手に分かれた。
●●●
「おう、話には聞いていたが久しぶりだな、少年」
ミストたちと別れ、そのまま隼人と別室に入った俺は中に居た男に声をかけられた。
ギルドマスター、ガリウス・ラインフォートだ。
「少年言うな、隼人からそこら辺りは聞いてるんだろうに」
ため息交じりの俺を見て、ガリウスは笑う。
「まあな。しかし悪かったな、俺に話を聞きにやってきたというのに対応できなくて」
「いや、いいさ。随分と忙しかったって聞いてるし」
ギルドはラインアルストだけでも百人以上の規模の組織だ。支部でそれだけなら企業であればかなりの大企業に値する。それの頂点ともなれば、多忙を極めるだろう。
……というか普通にタメ口きいちゃってるけど良いんだろうか?
「はー、その通りだぞ、本当に。一昨年から政府がごたごたして、その分の案件処理等がギルドに廻されてきていたからな。年寄りをこき使うなっての」
「何を言います、まだまだ現役じゃないですか」
隼人の言葉にガリウスが右手を左右に振った。
「無い無い。レイア達を旅に送り出した時点で俺の役目は終わってたはずなんだよ」
そういえばラインベルニカにきた日、ネインがガリウスは先代蒼王のレイアの育ての親、と洩らしていたが、その辺りの話も聞いてみたい。
そんな事を思った時、隼人がガリウスに問いを投げた。
「ところでこの会議にはあの方達も出席すると聞いていたのですが、まだいらしていないのですか?」
「あー、まだ来てないな。寝坊でもしたか」
「あの方?」
「この後の会議には僕たちノードゥスの他に、政府から第四貴族の方が出席されるんだ。いっくん、失礼の無いようにね?」
「失礼の無いように、って言ってもなぁ……」
俺は頭をかきながら困った声を出した。
貴族様との接し方なんて知らないのだが。
とりあえず敬語で話しておけば無難だろうか。
「――と、噂をすればご到着みたいだぞ」
いきなり、ガリウスが扉の方を向いて言う。
数秒して、扉をノックする音が部屋に響いた。
「すごいな、声も聞こえなかったのに」
「魔力の気配を読んだだけだ――どうぞ」
ガリウスの応答に扉が開いた。
入ってきたのは一組の少女と青年だった。
「失礼しますね、ガリウスさん――あら?」
「――あ、あんたたちは……」
それは見たことがある人物だった。
隼人と再会した日、ノードゥスからの帰り道に出会った二人。たしか、男の方は少女から『バハムート』と呼ばれていた。
「なんだ、お前ら知り合いだったのか」
ガリウスが俺と少女たちを交互に見て言う。
「いや、知り合いって言うか何と言うか……、って、え? 政府から来る貴族様って……」
「あぁ、紹介しよう。こちら、第四貴族当主にして、現蒼王補佐官でもあるエミリア・ドラン・ベグレット様だ。横のでかいのはお守りのバハムート」
言われ、エミリアがこちらに一礼する。
「エミリア・ドラン・ベグレットです。よろしくお願いいたします」
「……バハムートだ」
「――あ、ああ。俺――じゃなくて、自分は清堂 純一と言います。以後、お見知りおきを……」
慌ててこちらも自己紹介を返す。
「よろしくお願いしますね純一さん。
――ふふ、そんなかしこまらなくても大丈夫ですよ」
「そうだぞ、親戚の嬢ちゃんだと思えばいい」
「――いやいや、無理だろ」
「そんな風に出来るのはガリウスさんやリリエさんたちぐらいですよ」
困った声を出した俺の横、隼人も苦笑して言う。
「しかし、清堂……。隼人さんの仰っていた方が貴方だったなんて……あの時は失礼いたしました」
「いや、そんな……」
「先ほども思いましたが、エミリア様は何時の間にいっくんと?」
俺とエミリアはあの日のことを手短に説明した。
「――なるほど、あの時そんなことが」
「はい。しかし、フードの方には本当に申し訳ございません。バハムートさんが怯えさせてしまったみたいで」
そういえばあの時、リーシャはバハムートを見て人間ではないと言ったが、あれは……。
「あー、失礼かもなんですが、バハムートさん? はいったい……」
「竜だ。今は人の形を取っているがな。
――それと、バハムートでいい」
本人から、短く、しかし明確な一言が返ってきた。
竜。ドラゴン。ランクで言えば、Sランクに該当する魔物。それが、人の姿をして、貴族の御付をやっている。
この二人もなかなかややこしい感じがする、と俺はそう思った。
腕を組んだバハムートは俺の見て、言葉を続けた。
「……先日はすまなかったな。過去にワイバーンがエルフを襲ったことがある。おそらく、血がそれを覚えていたんだろう。あれらは正確に言えば竜ではないが、他種から見たら同じような物だろうしな」
それは、俺、というよりは今この場に居ないリーシャへの謝罪。
しかしすごい魔力を感じる。改めてバハムートの前に居てわかるが、魔力感知が素人の俺でもその高さがわかるぐらいで、竜、というのは嘘ではないのだろう。
だが、隼人もそうだが、ガリウスや主人のエミリアも信頼しているようだし、安心できそうだ。
「わかった、リーシャもここには来ているから、後で説明しておく」
「まあ、それでしたら私からきちんとリーシャさんに謝罪いたします。会議の後でしたら時間もありますし」
そうだ、会議だ。けっこう話をしていたが、時間は大丈夫だろうか。
「エミリアちゃんたちも到着したし、支部長たちも大方が会議場に入っているだろう。そろそろ行くか」
言って、ガリウスが立ち上がる。
「そうですね、参りましょうか」
エミリアの言葉に全員が頷いた。




