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49.誘いⅠ

『これから会える?』


 ミロモルデア特区での一件から数日後の朝、端末に連絡が入った。


「大丈夫だ、どこで落ち合う?」


『……この前の話からして、ラインアルストのギルド支部長もそこにいるのかい?』


「ああ、ミストさんなら今日はずっと宿に居るらしいけど」


『なら、やっぱり僕がいっくんの宿に向かうよ。いっくんがお世話になっていた事のお礼も含めて挨拶しておきたいしね』


「母親かよ。まぁいいや、ミストさんにも伝えておく。――じゃあ宿の場所だけど……」



●●●



「――お初にお目にかかります。私、株式会社ノードゥスの社長秘書で今はラインベルニカ支部の責任者を兼任しております隼人 渡辺と申します。以後お見知りおきを」


「……ギルド、ラインアルスト支部長のミスト・リアウェイです」


 両者の自己紹介から始まったそれは、友人と話をするために――というよりは、もはや会談といった雰囲気だった。

 宿の部屋には俺とリーシャ、ミストと隼人、そして、


「まあまあー、そうかしこまらずにー。気軽にいこうよー」


「……なんでリリエさんもいるんですか」


 俺のベッドの上、リリエが鎮座していた。


「えー、だってはや君がミストっちに会うって言うから。ミストっちの親友としてついて行かない訳にはいかなかったんだよー」


「ラインベルニカに来ていた事を報告しないでおいてよく言うわねリリエ」


 リリエがラインベルニカに来ていた事はミストも知らなかったようで、先日宿に帰った後に報告したときには驚いていた。


「まあまあ私とミストっちのことは置いといて。はや君の話聞こうよー。私も興味はあるしさー」


 本題はそっちだろう。

 とは言え、前回とは違い、時間はあるが、それでも必要な事は早めに聞いておきたい。


「――んじゃ、そうだな……。何時(いつ)からノードゥスはレイ・ウィングズ(異世界)で活動していたんだ? 否、そもそも何故、日本の企業であるノードゥスがレイ・ウィングズと関係を持っているんだ?」


「……その二つは同時に答えられるね。これは浩くんから聞いた話なんだけど、ノードゥスの設立よりもずっと前、先々々代――つまりはいっくんの曾御祖父さんが発端らしいね」


 口調をビジネスに使う丁寧語から普段のくだけたものとした隼人が告げた。


「曾祖父さんが?」


 そんなに前からだとは予想していなかった。

 隼人の説明としてはこうだ。

 俺の曾祖父さんが俺と同じようにある日偶然、異世界転移してこの世界に来たのがそもそもの始まりらしい。その時にさらに偶然に当時の蒼王と出会い、異世界情勢などを知る事となった彼はある意味において唯一()()()()()マザー・イニーツィオに危機感を覚え、なんとかできないかと思案。結果が彼の息子、つまりは俺の祖父さんが設立したノードゥスなのだという。

 俺が知らなかったのも、祖父さんがそもそも俺の母親に一切異世界のことは話さず、ノードゥスを引き継いだ者、浩二の父親である清堂 士郎にしか教えなかったからだとらしい。


「先々代が何故いっくんのお母さんに話さなかったのかは僕もわからないからその辺りの話は置いておくよ。

 それで、ノードゥスは、表向きは普通の企業を装いながら、裏ではレイ・ウィングズとの交流を行ってきたんだ、ほそぼそとね。

 ……それが激変したのが五年前」


「レイ・ウィングズがアーインスキアの支配を打ち破った年ですか?」


 ミストの問いかけに隼人は頷きを以って返す。


「はい、あの年がターニングポイントでしょうね。その年から、ノードゥスはレイ・ウィングズ政府の協力関係者となったんだ。

 無論、先述した通り、先々々代の頃からある程度の関係性は持ててはいたんだけど、今ほどではなかった」


「その年にノードゥスに何があったんだよ?」


「別にノードゥスに何かあったわけではないんだ。……まあ結論だけ言うと、浩くんが十蒼希の一人になった事が主な原因かな」


「――は?」


 十蒼希。十数年にわたり、この世界の王都を不当に占拠、支配していた異世界アーインスキアの軍勢をたった十人で撃退したという伝説を持つ者たち。

 そのうちの一人が俺の従兄だという。


「……冗談だろ?」


「僕も最初はいっくんとまったく同じ感想だったよ」


 苦笑を伴った返しに、それはそれで困る。


「そのおかげでノードゥスがここまでこれたんだけどね……」


 異世界出身の者と言えど、世界を救った英雄ならば、それ相応の待遇が期待できただろう。

 否、そもそも同じ十蒼希に王族や貴族が居たならば、それだけで関係を持てる。


「それで二年前、丁度浩くんがマザー・イニーツィオに帰ってる最中にゲートが開けなくなってしまったから代わりに僕が代表を務めているんだ。

 僕自身も異世界なんてものがあるって知ったのはここ数年だから、今から考えてもよくやってるな、とは思ってるけど」


「……そうだったのか」


「本当、大変だったよ? 八年前に浩くんがノードゥスの副社長になってから、僕が秘書になった訳だけど、ふらっと居なくなったと思ったら数ヶ月行方不明なんてこともあったし。当時社長だった士郎さんに相談したら『よくあることだからあいつが帰ってくるまでは俺の秘書補佐やっててくれ』って。それで、帰ってきた浩くんはいきなりノードゥスの社長に昇格するし、かと思ったら僕は異世界に連れて行かれるし……」


「それは大変だったな……」


 話を聞くだけでも苦労が目に浮かぶ。

 浩二は昔から自由奔放だった。

 そして俺はここであることを思い出した。


「――たしかあいつ、結婚してたよな? 俺が大学生やってるときにいきなり嫁と子どもの写真送りつけてきたんだけど」


 十年前に送られてきた写真。そこには浩二と外国人らしき女性、その腕には赤ん坊が映っていた。当時、電話で訊いたら英国人だ、なんて言っていたが、


「ああ、メイアさんと(はじめ)くんね。浩くんが学生時代――とは言っても、ステラリベルスなんだけど、在学中に――その、一くんが生まれてそのまま結婚したみたいだね。メイアさんはマジーア・リベレーターの有名な家の出だったから、ステラリベルスではかなり騒がれたみたいだよ?」


 あいつ、なにやってるんだ……。

 浩二がステラリベルスの学生だったなど、色々驚く事が増えた。

 しかし、


「ノードゥス云々とかはそんな感じかな。――と、それでさ、いっくん。少し話は変わるんだけど」


 こほん、と咳払いをした隼人は、改まってこう俺に告げた。


「いっくん、ノードゥスに入社しない?」


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