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46.ミロモルデア特区Ⅲ

「もしかしたら、もう気づいているかもしれないけど」


 最初にそう切り出したリリエを俺は見た。


「結果だけいえば、ジュン坊が居た日本はこのマザー・イニーツィオに存在するの」


「まぁ、はい」


 簡単な話、消去法だ。十ある世界のうち、九つがファンタジー、またはSFじみた世界で俺の世界とは異なる。であれば残る一つが俺の世界だと簡単に推測できる。


「マザー……イニーツィオ……ですか。聞いたことがありませんね」


「だと思うよー。最近になってレイ・ウィングズと関係が急接近した世界だからねー。マザー・イニーツィオはマジーア・リベレーターとはまた違う意味で特殊なんだ」


 言葉にリーシャが首をかしげた。


「先ほど仰った魔法が使えない、ということでしょうか?」


「それもあるんだけどね。あ、飲んじゃったら移動しようか。行きたいところがあるし……、ジュン坊もそこに行きたいはずだしねー」



●●●



「じゃあ行こうかー」


 俺達は喫茶店での短い滞在を終え、外に出た。


「どっちに行くんです?」


 特区の入り口である広場、ここから見えるだけでも道は大きく三つに分かれている。

 案内板なども無く、どこに向かうべきかはわからない。


「えーと、あの建物だよー」


「はい?」


 リリエが指差したのは近くにある木造の建物だ。まだ何か寄るところがあるのだろうか。


「この特区って世界ごとにさらに区画が分かれてるんだー。合同区画はこの中央区だけなんだけど、マザー・イニーツィオの特区って歩いていくとちょーっとかかるんだよねー」


「具体的には?」


「七、八キロぐらいかなぁ、時間で一時間少しぐらい? 健康にはいいけど、時間がもったいないよね」


 地図で見た限りだとミロモルデア特区は円状というよりは細長い楕円状だった覚えがある。それゆえ、奥に配置されている地区は入り口からかなりの距離になるのだろう。

 それを解消するには『乗り物』という手段が必要だ。ならば、あの建物にそれがあるのだろうか。

 だが、一見して建物は馬車乗り場、という雰囲気ではなく、民家や商店といったそれに近い。


「まーまー、いいからいいからー」


 言われるがまま入ってみれば、やはり商店という感じでカウンターに男が立っている。

 しかし、通常の商店と異なる点があった。

 商品が陳列されていないのだ。これでは、商品を買うにも不便だろうに。


「おっちゃん、きたよー」


 後ろ、俺とリーシャを急かし入れたリリエが男の店員に声をかけた。


「ん? おう、リリエじゃねえか、久しぶりだな!」


 どうやら顔馴染みのようだ。

 リリエはストックスから財布を出し、


「今日は三人、場所はいつものところー」


「おう、準備するから待ってな」


 言葉を残し、男が店の奥に消えていった。


「……あの、リリエさん、ここはいったい?」


 俺の代わりに、リーシャが疑問を口にする。


「んー、簡単に言えば、転送屋? かなぁ」


「――転送屋?」


「そう。名前の通り、人や物を遠隔地に転送するんだよ」


 そんな事が可能なのか。魔法はどちらかといえば、攻撃的なイメージがあった。

 もちろん、光を灯し、辺りを照らすイル・ライノなど、下級魔法には生活に使える魔法も多いが、基本的には戦闘で魔法を見ることが多かったからかもしれない。


「転送魔法といえば、無属性上級魔法、オームウェル。

 本来は大規模な術式、それと転送元と転送目的地に魔方陣を用意しなくちゃいけないんだけど、ここはそれを事前に用意していて、すぐに使える場所のひとつなの」


「オームウェル……、資料で読んだことはありますが、事前に用意とは……? 基本的にオームウェルはその都度、詠唱と多大な魔力を封じ込めた魔方陣が必要だと文献で読みました。

 そして魔方陣の魔力は一度使えば消失し、時間が経てば拡散してしまうものだとも。前者はともかく、後者の魔方陣は事前に用意したとしても――」


 魔力が拡散し、十分な効果が発揮できないかもしれない。

 無論、減衰した魔力を再度注入すれば、問題ないとは思うが、効率が悪いとしかいえない。


「うん、確かにねー。だからそこで出てくるのがマジーア・リベレーターとマザー・イニーツィオなんだー」


「――?」


 どういうことだ、という顔をした俺とリーシャにリリエが笑う。


「マジーア・リベレーターには物を瞬時に移動させる技術があるんだって。でも、それはけっこうな電力を使うみたいで、レイ・ウィングズじゃ用意できないの」


「まあ、そうですね」


 リリエが言う『けっこうな電力』がどれくらいかは知らないが、物体を瞬間移動させるエネルギーとなると大規模発電所が必要になりそうだ。


「……だからマザー・イニーツィオの人たちが電力だけじゃなく、魔力も使ってそれを起動できるように改良したの。マジーア・リベレーターの技術とオームウェルを組み合わせて、機械が魔方陣の役割を、電力消費を半分魔力消費に変えてね」


 ハイブリッド技術か。


「――リリエ、用意できたぜ!」


 奥から男の声が響いた。


「行こっか」


 店の奥に言ってみれば、それはこの建物には似合わない、銀の色があった。

 円状の金属、円の縁には棒状のものが立っており、いかにもな感じを出している。


「これがオームウェルに必要な魔法陣を肩代わりしてくれる」


 言って、リリエは金属の上に乗った。


「あとは自分で魔力をこの機械に流せば設定された目的地にある同じ機械に転送してくれるんだ――ほら、ジュン坊とリーシャちゃんも入って入って。本当は一人ひとりやるものなんだけど、めんどくさいし一気にやっちゃうから」


「……そんな適当な感じで大丈夫なんですか?」


 失敗したらどうなるのか、若干の恐怖があるが、置いていかれても困るので、しぶしぶ機械の上に乗る。


 本来一人で使うべき機械の上に三人も乗るのだからせまい。

 あー、この密着具合は久しぶりな気がする……、とそんなことを思ったときだ。耳元でリリエの声が聞こえた。


「それじゃ、いくよー――初めてだと酔うと思うけどがんばってね?」


「え――」


 抗議する間もなく、俺は勢い良く上昇する感覚に襲われた。

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