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45.ミロモルデア特区Ⅱ

「すごいな……」


 中の様子は驚くものだった。

 様々な文化が入り乱れている、その一言で説明できる。否、それでしか説明できない。

 外の――ラインベルニカの一般的な街模様とは異なり、様々な様式の建物が立ち並んでいた。

 そして、道を歩く人々。

 背から羽を生やした者や全身が岩で構成された者、噴水がある水辺には所謂人魚がくつろいでいるのが確認できる。

 人種が様々、というよりはもはや、


「人――なのか……?」


「全員れっきとした人間だよー、種族的な意味合いでは『ヒューマン』ではないけどねー」


「それは、亜人――ということでしょうか?」


 自らも亜人に分類されているハーフエルフであるリーシャがリリエに問う。


「分類としてはね。でも少数種族って訳じゃないんだよ? 例えばあそこにいる全身が岩でできてる男の人はグランズバイルで一番多い種族のガングロックだし」


 聞き慣れない言葉が出てきた。


「グランズバイル?」


 疑問の声をあげると、あー、とリリエが頷く。


「そういえば、みんなは異世界についてあまり知らないんだったっけ」


「知ってる人のほうが少ないと思いますけど」


 一般人は異世界に疎いのだ。

 というか、と前置きしたリリエが、


「ジュン坊はガリウスさんに会えたのー?」


「いや、それが――」


 案内役のネインがとっとと帰ってしまい、ガリウスには会えていない事、そのため約束までの間に自分で調べる事にしたのを伝える。


「なるほどねー。自分の足で調べる事はいいことだよ。

 ……それじゃあ、時間もあるし、二人に異世界についてちょっと教えちゃおうかなー、今後必要になってくるかもしれないしねー。

 ――あそこに入ろうかー」


 リリエと共に目に付いた喫茶店に向かう。



●●●



 テーブル席に座り、適当な注文をした俺達は話を再開させた。


「二人は異世界についてはどこまで知ってるの?」


「ミストさんから聞いた話じゃ、このレイ・ウィングズの他に九つあるとかなんとか」


「そのうちの一つがアーインスキアですね」


 リーシャが補足を入れる。


「んー、じゃあレイ・ウィングズとアーインスキア以外の、八つの世界について説明するよー」


 リリエはストックスから紙とペンを取り出した。


「まずはそうだねー……属性世界からいこうか」


「属性世界?」


「うん、魔属世界とも言うんだけどね。そのままの意味で取ってもらってかまわないんだけど……魔法の属性と同じように、属性を司る世界があるんだ」


 リリエは言って異空間から出した紙に文字を箇条書きで書いていく。


 ・火属性:エテルナフィーア

 ・水属性:ツィールアクア

 ・風属性:ウィンディード

 ・地属性:グランズバイル

 ・光属性:コルネッサ

 ・闇属性:ドゥンリタース


「これが属性世界だよーここら辺は私も名前を知ってるだけで行った事は無いかなー」


「なるほど……あれ? 属性って確かこの六つの他に無属性、もありましたよね」


「的確な質問ありがとうねー。実は明確な無属性を司る世界、っていうのはないんだー、なんせ無だからね」


 でも、と言ったリリエは紙に文字を書き足す。


 ・無属性:レイ・ウィングズ


「便宜上、無属性はここ、レイ・ウィングズが司ってる、ってことになってるねー。これは王家の秘宝とか第一貴族エンデシルト家が関係してるんだけど、今回はそれは省略で」


「はぁ……」


「まー、属性世界についてはこれといって言う事も無いかなー。この六つの世界はレイ・ウィングズやアーインスキアと同じで魔力濃度が濃い世界だから、ジュン坊の世界とは全然関係ないだろうし」


 確かに俺の居た世界は魔力だの魔法だのなんて存在はしなかった。否、()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う方が正しいか。

 概念としては存在した。だが、それはあくまで空想上のもので、人に話せば笑われる類のものだった。


「では、後の二つは?」


 ウェイトレスが運んできたコーヒーカップを手に取ったリーシャが促す。


「それが厄介なんだよねー。残り二つの世界って説明が難しいんだー。あぁ、でもジュン坊だったらわかりやすいかなぁ」


 言って、紙に文字が書き足された。


 ・マジーア・リベレーター

 ・マザー・イニーツィオ


「本当はマザー・イニーツィオから説明した方がいいんだけど、今回は最後にしようかな……。この二つの世界はちょっと――ううん、かなり特殊でね? 他世界と違って平均的な魔力濃度がかなり薄いの」


「魔力濃度が、薄い?」


「そう、魔法って『自分の魔力』と『空間に存在する空間魔力』を消費して行使するでしょ? その後者の空間魔力が圧倒的に薄いの。マザー・イニーツィオに至ってはほぼ皆無って聞いたこともあるかな」


「しかし、それでは魔法が使えないのでは」


 自らの魔力だけで行使できる魔法も存在はするが、魔法は空間魔力を伴って使うものだ。それが存在しないのであれば、魔法を実用レベルで使う事ができない。


「そうだよー、だからこの二つの世界は基本的に魔法が使えないんだ。とは言ってもね? 例外はあるんだけど」


「例外?」


「そー。リーシャちゃんは『魔法学園ステラリベルス』って知ってる?」


「――マジーア・リベレーターに存在する魔法学院と聞いたことはありますが」


「正解。各世界が共同で立ち上げた魔法学院。第三貴族のジークフリート君なんかはあそこに所属してた事もあるし、私も一時期は通ってたんだよねー」


 さらっと貴族を君付けで呼んだリリエがマジーアー・リベレーターの文字を指差す。


「しかし、魔力濃度が薄いのに魔法学院って変というか……適していないと思うのですが」

 

 当然の疑問をリーシャが言葉にする。

 確かにそうだ。魔法を行使するのに適していない場所に魔法学院を作るのはおかしい。よほど、このレイ・ウィングズに作った方が賢明と思うのだが。


「普通はそう思うよねー。だからそこで例外が出るの」


 リリエが言うには、あくまで平均的な魔力濃度が薄いだけであり、局地的に高い魔力が存在する地域があるのだという。


「この世界で言うなら、それこそ半年前にジュン坊たちが行ったキワル山とかがそうだね」


「ああ……」


 あそこの空間魔力量は尋常ではなかった。当時まだまだ素人であった俺でもわかったのだ、相当だったのだろう。


「それにマジーア・リベレーターは各世界において中立を保ってるからー……って、少し話がそれちゃったね。まぁそんな特殊な環境に関係してるのもあるんだけど、マジーア・リベレーターは魔法技術ではなくて、違う方面で力を伸ばしていったの」


「違う方面?」


「リーシャちゃんにはちょっと難しいかも。日本人のジュン坊なら感覚的にわかると思うけど、実際に見てもらったほうが早いかなー」


 実際に見る? それにリーシャにはわかりにくいって……。

 リリエは窓の外を眺めだした。少しして、


「二人ともあそこ、女の人が歩いてるでしょ?」


 言われ、窓の外を見る。

 言葉通り、確かに街路を女性が歩いている。この区画内では逆に珍しいヒューマンのように見えるが、


「あの人はヒューマンじゃないんだよー、否、半分ぐらいはそうかもしれないんだけど」


「半分……? 私のような、ということでしょうか?」


 ううん、とリリエは首を横に振る。


「あの人、身体が機械でできているんだよ」


「なんだって……!?」


 俺はもう一度女性を見た。しかし、露出している肌や髪など、どう見たって人間だ。


「アンドロイド――だっけかな。他種族に比べて歴史が浅いから定義が確立してないけど」


 アンドロイド。人造人間のことだ。意味はわかる、なにしろ日本や各国のロボット工学が目指す道の一つだ。

 しかし、あんな精巧なものは現代でも実現できていないはずだ。動きも自然で人間のようにしか見えない。


「マジーア・リベレーターはヒューマンとそれに作られたアンドロイドが主な人種だね。あの世界にあえて二つ名を付けるとしたら、そうだな……『機械世界』。

 リーシャちゃんにはわかりにくいって言ったのもそれのせいかな。他世界とは機械や科学技術が桁違いに進んでいるの」


 言っている事は間違ってない、と思う。

 この世界の科学技術や機械技術も中近世、よくて近代レベルのものだ。たまに水道などは変に発展して現代っぽさを感じるが、例えば、大航海時代の船に乗っている者に、SFに出てくるような戦闘機を見せても何がなんだかわからないだろう。

 だが、あのアンドロイド。現代どころか、その先を行っている。それなりの科学技術に囲まれていた俺ですら驚くほどだ。


「まあ、だからと言ってマジーア・リベレーターが他世界よりも優位、って言う訳でもないんだけどね? 魔法が自在に使えるのとそうじゃないのは結構大きいから」


 カップを持ち上げたリリエが付け加える。


「なるほど……」


 つまりは魔法が使えない、そのディスアドバンテージを科学技術で補っているのがマジーア・リベレーターなのだと。

 では、残り一つの世界は?


「それじゃあ最後のマザー・イニーツィオについて教えちゃおうか」

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