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38.エピローグ:討伐戦を終えて

(っつ)ー……」


「我慢してください」


 リーシャが傷薬を擦り傷につけてくる。


「魔法で回復してくれてもいいんだよ?」


「油断していた罰です。戦いは最後までどうなるかわからないんですから」


 遠足か何かか。否、ここはリーシャの(げん)の方が正しい。

 正しいが、しかし、


「キメラ倒したんだから御褒美(やさしさ)くれたって良いんじゃないですかね……」


 今、俺とリーシャはギルド支部の特別医務室にいた。

 ギルドの医務室は負傷者で一杯でフロントなどで治療を受けているものも居たが、幸いにして死亡した者はゼロ、負傷者の度合いもミストより酷いものはいなかった。

 そんなミストは俺たちがいる特別医務室で治療を受けていて、左腕の裂傷と全身打撲、軽い火傷ということだったが、回復魔法と自身の魔流活性である程度治してしまうのはさすがランクCと言ったところだろうか。

 そして特別医務室には俺とリーシャ、ミストの他にリリエ、そして二人の男女が居た。

 俺はその二人を見て、先ほどの様子を思い返す。



●●●



「ノー……ドゥス……?」


 見覚えのある文字。

 何故、という言葉が浮かぶ。異世界であるレイ・ウィングズに何故あんなものがあるのか。

 

「二人ともだいじょーぶ?」


 いきなり女の声が後ろから飛んできた。


「リリエさん!? なんでこんなところに」


 雑貨屋アルガドの女店主、リリエが俺とリーシャの後ろに立っていた。

 戦場に似合わない、おっとりした彼女はこちらの無事を確認すると顔をあげた。


「ミストっちがやられたって聞いてね。でも二人は大丈夫そうだね、よかったよー。……じゃあガリウスさん、後はお願いね?」


「おうおう、まかされた」


 いつの間にか俺達の近くに降りてきていた男が剣を抜きながら答えた。

 吹き飛ばされたキメラは既に起き上がっていた。

 不用意に接近してきた男に対し、噛み付こうとする。


「おそい」


 一瞬だった。

 するりと噛み付きを横に避けた男はそのまま持っていた剣でキメラの胴体を斬り上げる。


「――ラインフォート流剣技、ガルウジェン」


 それは単純な斬撃、だと言うのに。

 キメラの身体は、前後で二つに分かれることになる。


「なっ……!?」


 驚く俺とリーシャを尻目に男は剣を鞘にしまう。


「終わったぞ、リリエちゃん」


「うんうん、さすがガリウスさんー。つよーい」


「はっはっはっ! それほどでもあるな!」


 行動に対し、お気楽な雰囲気で話す二人を呆然と見る俺達の近くに、さらに人が近づいてきた。

 男の横で銃を撃った女だ。歳はミストやリリエと同じぐらいだろうか。


「息子の方が強いとか言われて拗ねてたおっさんがよく言うわ」


 彼女は重そうな銃を肩に置いてニヤッとして言った。


「あ、余計な事言うなよ」


「ふふっ、(れつ)君も強いものねー」


 話からして、烈というのはこの男性の息子の事だろう。

 ――ん? レツ……?

 何か、この世界の人間にしては響きが日本語っぽいような……。

 そんな事を思った時、女が振り向き、声をかけてきた。


「っと、それで? あんたたちは大丈夫?」


「え、あぁ……」


「おう、無事か、少年」


「はい、おかげさまでありがとうございます……」


 この二人に助けられたのは事実だ。礼を言っておく。


「ジュン坊はなかなか見所あるからねー。ま、こんなところで立ち話もなんだし、事後処理はケインさんにまかせてミストっちの様子見に行こうよー」


 そうだ、ミストはどうなったのか……。

 リーシャも気になるだろう。

 俺達は自分の治療もかねてミストを訪ねる事になった。



●●●



 と、そんなこんなで今に至るわけだ。

 ちなみにケインはミストのかわりに事後処理に追われている。

 どうやら今回討伐した魔物はガルフと二体目のキメラについては、魔物から取れた素材はそれぞれ平等に分配された。素材は武装加工に使えるし、いらないのであれば、商人連合が素材を買い取ってくれるのだと言う。それに加えてラインアルストから防衛に参加したギルドメンバーに報奨金が支払われるらしい。

 俺とリーシャが倒したキメラについては俺の好きにしていいと言われたが、素材が無くても自分で作れるので、全て商人連合に売ってしまった。リーシャと二人でその金を分けたのだが、けっこうな金額になったので驚いている。どれくらいかといえば、俺の今までの働きは何だったという額だ。

 そしてヴィエラとヴェリアルだが、あれだけの衝撃で吹き飛ばされてもフレームに汚れや凹みがついただけで小破すらしていなかったと言える。《創造者》で修理して、今は俺のストックスの中にしまっている。


「――まったく、あのキメラを倒してしまうとは、驚きです」


 ミストはベッドで横になっていた。

 左腕は治療済みだが、まだ動かせはしないそうだ。

 

「まぁ、はい。自分でもびっくりですけど」


 これは素直な感想だ。


「それに、まさか貴方が来るとは思いませんでしたよ……ギルドマスター」


 呼ばれた男が顔をあげた。

 ギルドマスター、ガリウス・ラインフォート。

 この男がギルドのトップ。しかし、遠い田舎町の救援にそんなトップが来る事があるのだろうか。


「あぁ、実はラインアルストからの使者が来る前には、既にラインベルニカからこっちに向かってたんだよ」


 彼の話では、ラインアルストでキメラの存在が確認される少し前、王都とラインベルニカを結ぶ大街道で魔物の群れが確認されたと情報がギルド本部には入っていたのだという。加えてキメラまで目撃されたことをふまえ、急を要する事から大勢の派遣では移動に時間がかかると判断し、ギルドマスターが来たのだ。


「ミストちゃんに何かあったら烈の野郎にあわせる顔も無いからすっ飛んできたわけだ」


「はぁ……」


 言葉にミストが困った顔をする。

 会話が停滞する。

 チャンスだ。先ほどからずっと気になっていることを聞く。


「あの、いいですか? その――」


 しまった。この女性の名前が分からない。

 俺の視線を感じた女性はあぁ、と頷いて、


「メニアルーエ、メニアでいいよ。どうかした?」


「その、メニアさんが持ってた銃なんですけど……」


「これかい?」


 そう言ってメニアはストックスから銃を引き抜いた。

 やはり、見間違いではない。

 NODUSの文字がしっかりと刻まれている。


「やっぱりその名前は……」


「ほう、それを意味ではなく、名と捉えるか」


 ガリウスが俺の言葉に反応した。

 この世界には知らない言語などでもわかるような魔法の影響下にあるらしい。

 つまり、例えばリーシャがこの文字を見たとき、文字自体は知らなくとも、『絆、結び目、節』などの意味は理解できるのだ。

 だが俺はそれに対して『名前』と言った。それにガリウスが興味を持ったのだろう。


「君、名はなんていうんだ?」


「ジュンイチ・セイドー……否、清堂 純一です」


 今までこちらにあわせて名から先に名乗っていたが、あえて昔の、日本に居た頃からの名乗りをした。

 それを聞いたガリウスがかなり驚いたように見えた。

 一度メニアと顔を見合わせてから、


「ほう、純一……日本人か?」


「――はい」


 やはり、この人は、この世界()にとっ()ての()異世界()を知っている。しかも、アメリカやイギリスとかではなく、一発で日本人だと当ててきた。


「ラインアルストに日本人がいるとは聞いた事が無いが……」


「最近やってきましたから」


 だいぶ長くいる気もしたが、レイ・ウィングズに着てからまだ二ヶ月も経ってないのだ。そう考えるとやはり濃い時間を過ごしている気がする。


「それに清堂、か……。だが、あいつらは特に何も言ってなかったし、偶然か?」


 ガリウスが独り言のようにつぶやく。


 清堂という苗字を知っていて、なおかつノードゥスを知っている。俺の疑問が解消されていくと同時にさらに増えていく感じがした。


「そこらへんのお話を聞きたいんですけど……」


 まったく手がかりや帰る方法が見つからないと思っていたが、ここにきて日本を知る人間がいきなり出てきた。

 それにノードゥス。俺に無関係ではない、その名を刻む銃の出処など聞きたいことはたくさんある。

 だが、


「すまん、実は事後報告で本部を抜け出してきたから急いで戻らないといけなくてな……」


「え?」


 それはやばいのでは。


「ミストちゃんが危ないって聞いたからなあ、仕方が無いよな」


 おっさんが茶目っ気たっぷりに言ってもなぁ……。


「私のせいにしないでください、はやく本部に帰って仕事してください」


 ミストが冷淡に突き放した。

 悲しそうな顔をするガリウスとうんうんと頷くメニアを見ると哀れと言うかなんと言うか。


「というわけで俺達は急いでもう戻る」


 立ち上がったガリウスが言う。

 こうなってくると俺がラインベルニカにあるギルド本部まで行って話を聞くしかない。

 とは言え、つい先日まで町から離れていたし、またすぐに町を離れるのもどうだろうか。

 考えあぐねていたとき、メニアを連れて部屋を出ようとしたガリウスが振り返った。


「そうだ、ミストちゃん。そのうち、ギルド本部に召集要請をかけるかもしれん。その時にそこの純一君も連れて来るといい」


「――何かあったのですか?」


「まぁ、ちょっとな。ここではまだ言えん」


 答えをはぐらかし、出て行くガリウスとそれに付き添うメニア。

 それを見送り、リリエがふふっ、と笑う。


「ガリウスさん、昔からばたばたしてる人だけど変わらないねー」


「そうなんですか……リリエさん、ギルドマスターと知り合いなんですか?」


 田舎の雑貨屋店主がギルドトップと知り合いって。

 ――そういえば前にリーシャがリリエさんは政府のエージェントじゃないかって言ってたけど……。

 ギルドが政府と関係ない、と言う事はないだろう。ますます疑惑が……。


「――というかジュン坊ってやっぱり日本人だったんだねー?」


「え、あぁ、はい……え?」


「名前の響き的にそうかなぁとは思ってたんだけどね」


「え、知ってるんですか、日本? 何で言ってくれなかったんですか!?」


「えー? 聞かれなかったし」


 いや、たしかに聞かなかったが、異世界でいきなりあなたは私の世界を知ってますかとか聞かないだろう普通。


「まー、私も日本人の知り合いがいたってだけで、行った事とかは無いしなー。やっぱりガリウスさんに聞きに行くのが良いと思うよ」


 俺が訊ねる前に先手を打ってきた。この人やはりできる。

 ということはしばらくはガリウスがミストに召集をかけるのを待つことになるだろう。

 町も慌しい感じはまだ少しは続くだろうし、俺もそれに巻き込まれるだろう。なにせ、ランクFがキメラを討伐したのだ。キメラ襲来と同じくらい、騒ぎになるかもしれないから覚悟してください、と言われたときはげんなりした。


「まぁ、なるようになる、か……」



 俺の、異世界生活は、まだまだ続く。

これで1章は終了です。

読んでくださり、ありがとうございました。

引き続き、2章に続きます。

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