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35.魔獣襲来

 それは第五波と言っていいガルフの群れが確認できたときの事だ。

 個体数は減る一方で、徐々に大きくかつ強力になってきていたガルフの中でも、明らかに強大な個体が確認できたのだ。

 瞬間、それに恐怖を感じた者達が赤の光をいっせいに空に上げた。

 


●●●



 それまで不動だったミスト率いる精鋭隊が動く時がきた。


 ここまでくると射撃隊の疲労が目に見える形となってきていた。さらにガルフ側も残っているのが比較的強力な個体とあって、結果的にランクDやEの負担が大きくなってくる。

 ……手早く済ませたいものですね。

 ミストはため息混じりに周囲を見渡す。

 皆、疲れている。

 対し、自分達はキメラ討伐に力を注ぐため、今まで待機していたのだ。

 必要な事だとは自認しているが、申し訳ないとも感じる。


「支部長」


 後ろ、ランクDの部下が声をかけてくる。


「……ええ、いきましょう」


 キメラが目前に迫っている。


 キメラは防衛線に突っ込んでくるのではなく、少し離れたところで一度走りを止め、戦場を確認するような仕草を取った。

 そして最後にミストたちを見てから咆哮を放った。


「怒り、ですか」


 戦場には多くのガルフの死体があった。

 それに対しての怒りか。


「ですがこちらとて、退くわけにはいきません」


 そう言ってミストは武器を構える。リーシャと同じような片手剣だ。

 それと同時、キメラがミストに飛び掛った。



●●●



 ミストは前方に向かって飛び込むような形で回避を選んだ。


「っ――精鋭隊はキメラを囲みなさい! その他の者はガルフの邪魔が入らないようにしなさい!」


 魔流活性によって大きくなった声が戦場に響く。

 ガルフの数自体は最初から見て相当減ったが、それでもまだ多いといえる。

 キメラの相手をしているときに後ろから襲われたのではたまったものではない。

 指示に呼応し、陣形が組まれる。


「さて……」


 キメラは既に振り返ってこちらを視界に捕らえなおしている。

 自分がこの中で最も強いことと組織の頭である事を理解しているのか、他の者ではなく、自分を狙っているようだ。

 それでいい。

 精鋭隊とは言え、他の者が狙われてはやりにくい。

 やはり自分が主体となってキメラと相対し、他の者が横から攻撃するという方法が一番だろう。


「はぁっ!」


 ミストは最初の攻撃として、シンプルに真正面から斬りかかることを選択した。

 当たり前ながら反撃が来る。斜め上から振り下ろされる前足についている爪は、熊などの鉤爪と同じく、驚異的だ。

 だからミストは左上から右下に振り下ろされる斬撃を左下に走りこむ形で避ける。

 キメラの死角に入ったミストは右手に持つ剣をキメラのわき腹に叩き込んだ。


「!」


 直後、キメラが振り下ろした右前足を戻す動作で反撃を加えてきた。

 すんでのところで跳躍したミストは少し離れた位置に着地した。

 ――浅かったですか……!

 手ごたえが感じられない。多少なりとは傷を与えただろうが、致命傷になるようなものではない。

 おそらく、キメラは元々の硬度に加えて、瞬間的に魔流活性で身体を強化したのだろうでなければ、今の一撃は心臓に達するか、その近くまではいけたはずだ。

 魔流活術(まりゅうかつぎ)錬装(れんそう)で最大限に強化した一撃だ。普通の生物はもちろん、厚みが無ければ鉄でも両断できる。

 しくじった。一撃で仕留められれば良かったが、こうなってはキメラも警戒する。

 長期戦になればこちらが不利だ。自覚しているが、自分は魔力量が多いほうではない。強力な魔物と戦う際、魔力が無ければ魔流活性もままならず、まともに戦うのは困難だ。

 キメラは自分に集中している。であれば、


「次の私の攻撃時、キメラの死角から攻撃を! ただし、近接ではなく魔法や手持ちの飛び道具攻撃に切り替えなさい!」


「しかしそれでは支部長が……」


「そこまで(やわ)では支部長なんてやってないですよ。いいですか、一気に終わらせます」


 先ほどから何か違和感を感じる。何かはわからないが、嫌な感じがするし、負傷者も増えてきている。できれば今キメラに対処しているメンバーも、早くガルフ討伐にまわしてこの防衛戦を終わらせたいのもある。

 ミストは動いた。再度、キメラの真正面からの突撃。だが、今度は得物をあえてちらつかせて、だ。

 

「――!」


 キメラはそれを避けるのではなく、剣身を噛む事でこちらの動きを封じる。そのまま先ほどと同じく右前足を動かす。このまま剣を話さなければ、横からの薙ぎで致命傷をくらう。だから、


「今です!」


 声をあげたと同時、キメラの死角から四つの攻撃が放たれる。

 ランクDにもなれば、大抵の者が予備の武装を持ったり、多少なりとも魔法を使える。

 下級魔法はもちろん、戦闘になれば中級魔法も必要な場面は多くなってくるからだ。

 至近からの攻撃だ。全てが直撃した。しかも、連続する。

 威力も属性も種類もばらばらではあるが、確かな威力をもった攻撃は、キメラの腹や後ろ足の皮膚を削る。

 放たれた魔法の違いからか、魔法同士が反応して爆風が生まれミストまで届くが、ミストも魔流活性を防御面に少しだけ傾け、被害を最小限にする。


「――!!!」


 痛みからキメラがミストの片手剣を噛む力を緩める。それをミストは見逃さない。空いた左手でファイアボールをキメラの顔面に放ち、片手剣を強引に右に引き抜いて後ろに跳躍した。

 

「はぁ……どうです!?」


 爆風が晴れる。


 キメラは、まだ立っていた。

 だが、身体中から出血し、また右目にファイアボールが直撃したからか、損傷が激しい。牙も剣を強引に引き抜いた際に欠けたものがあるようだ。


「これで倒れないのか……」


 他の者が驚きの声をあげる。

 しかし、確実にダメージを与えた。

 今なら、自分の攻撃だけでも仕留められる。

 ガルフもほとんどが討伐され、残るは少しだ。終わらせよう。



「……?」


 そこでミストは気づいた。

 このキメラ、自分ではなく、その後ろ、北を見ていた。そちらは人々がいるラインアルストではなく、キメラやガルフがやってきた方向だ。戦場で魔獣が獲物以外に目を向けるなど、よっぽどのことがなければ無い。

 ――いったい何が……?

 気にはなるが、キメラから意識を外す事はできない。できないのに、それをさせる言葉が来た。


「――支部長……あれは……」


 それは自分が選んだ精鋭のランクDメンバーの言葉。

 彼らは戦闘中だというのに、キメラと同じ方向、自分の後ろを見ていた。否、気づけば、射撃隊やガルフを討伐していた者たちさえ同じ方向を見ている。

 何がある?

 ミストはすぐ動ける姿勢のまま、振り向いた。そして視界に捉えてしまった。

 少し遠く。大きな岩からそれは現れた。

 魔獣(キメラ)だった。


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