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27.対ファイアエレメント戦Ⅰ

 いきなりの高熱におもわず目を瞑りたくなる。


「うぁ、あっつ……、どうした……!?」


「しっ、静かに。申し訳ないのですが、ウォルヴレインを解除しました」


 つまり、これが本来の、この場所の温度。こんなところ、長居は出来ない。では何故リーシャは魔法を解いたのか。

 こちらがそれを訊く前に、リーシャはこの場所の入り口、洞窟側を指差した。

 岩陰から少しだけ顔を出して覗いて見る。

 一見すれば、特に何かあるようには見えない。だが、

 なんだ……?

 ふと、ゆらめきのようなものを見た気がした。まるで陽炎(かげろう)のようだ。


「……ファイアエレメントです。活性化していないのでよく見えませんが」


「――エレメントだって?」


 エレメント。ギルドランクで言えばCランクに相当する。

 戦闘能力としてはDランクのオークと同じようなレベルらしいのだが、厄介なのはその特徴。

 身体の大部分が魔力で構成されているのである。それはつまり、物理攻撃がほとんど意味を成さないということだ。相対するには魔法でもって戦うか、魔力を帯びた特殊な武装で戦う他ない。それゆえにCランクに位置づけられている。

 現在、ファイアエレメントは活性化と呼ばれる戦闘状態には入っていないようで、半透明な姿だ。

 

「よくあんなもの気づいたな。言われなきゃわかんないぞ」


「異常なほどの魔力が漂ってるこの場所で、なおさらおかしいものを後ろの方に感じましたから。エルフの血には感謝しないといけませんね」


 エルフ特有の魔力感知能力か何かか。

 まあエルフは魔法とか弓とか得意とかよく言われるが、実際そうなのだろう。

 しかし、ここにくるまで俺達はあんなものとは会わなかった。もちろん、活性化していないのであれば、俺は気づかないだろうが、リーシャが気づくはずだし、なによりその時点で襲われている可能性が高いはずだが……。


「一本道かと思い出したが、どこかに別ルートがあって、私達が来る前にはそこにいたのでしょう」


「なるほどなー」


 エレメントのことについて、俺はよくわかっていない。あんな魔物と戦うのだって、あるかわからないし、あったとしてもずっと先のことだと思っていたからだ。


「リーシャはエレメントについて、どれだけ知ってる?」


「あまり詳しくは知りません。存在自体がそう一般的な場所に出てくるものではありませんから」


 まぁ、たしかに。エレメント種としてはゴースト系の魔物もいるらしいのだが、幽霊がそうウヨウヨ居てもらってはたまらない。


「ただ、魔力感知するタイプが多いはずです。ウォルヴレインに反応してここに戻ってきたのだと思います」


 だから、リーシャは魔法を解いたのか。今も続けていたならば、ファイアエレメントに感知されていただろう。

 しかし、それはつまり、


「あちらもこの空間に何かが侵入していることには気づいているはずです。だから入り口で待ち伏せしているのでしょう」


 出入り口さえ塞いでしまえば、侵入者はファイアエレメントと対峙せざるおえない。かと言って、潜伏を続けていれば侵入者は熱で干上がる。

 どちらにしろ、とっととあの出入り口から出て、この火山を脱出しなければならない。


「……だけど、エレメンタルって言えばランクCクラスの魔物だろ?」


「ええ、しかもこの尋常ではない魔力から生まれたからか、力も大きいようですね」


 リーシャですらDクラスだ。俺にいたってはまだFランク。エレメントに通用しそうな魔弾を撃てる銃は未だ作成中だ。それを待つ間に身体中の血が沸騰してもらってはかなわない。


「……どうするかな」


 するっと横を抜けて逃げ出せればよいのだが。

 もしくは、だ。

 魔物とは言え、全てがいきなり襲ってくることはないのではないか。あのファイアエレメントだって、こちらを見てすぐ襲ってくるかはわからない。

 それをリーシャに言ってみた。


「確かに、他の生物に対し、友好的な種類はいます。……広義で見れば、エルフとて魔物ですし」


 肩をすくめてリーシャが答える。自分を半分魔物だというのも微妙な気分だろう。

 だがリーシャは、ただ、と一息ついて、


「例えば、です。ジュンイチさんが帰宅したとしましょう。部屋に入ると中の家具や食料などを荒らすだけ荒らして持ち帰ろうとしている泥棒と鉢合わせしたとします。その時、ジュンイチさんはどうしますか」


 ああ、そういうことか。俺達はまんまとファイアエレメントの(テリトリー)にお邪魔したというわけだ。

 ならば、確実にファイアエレメントとは交戦する。そういう覚悟を持たなければならない。


 では、どのように戦うか。ただ無謀に戦える相手ではないだろう。

 まずリーシャが接近して近接戦、というのは考えから除外される。物理攻撃がほとんど意味がない上に、近づいただけでリーシャが黒焦げになる可能性だってある。

 俺も、今まで使っていた銃はまだあるが、それで撃つ弾丸も透過するか、直撃する前に熱でじゅわっとなったりするかもしれない。

 となれば、正攻法の魔法だが、俺は魔法が使えないので、リーシャ主体になる。俺ってば本当に足手まといだな。

 

「しかし、この魔力と、私の得意属性を考えて苦戦する可能性が高いです。……もしものときはジュンイチさんだけでも――」


 逃げろ、とそう言いたそうな顔だ。

 だが、俺は即答した。


「いやいや、それだけはないな。リーシャを置いて逃げるとかありえない」


 女の子一人置いて逃げるとか俺の中の選択肢には無い。

 だから、プランBは必要だ。もしくは、もっと有効な手段。

 俺は、一つだけ気になっていることがあった。


「あのさ、エレメントって壁とか岩とか、そういうのも透過しちゃったりするか?」


「いえ、基本的にそれはないです。そこまでできるエレメントとなるとそれこそ最上位種でしょうが、流石にそのような類のものは魔淵大陸の奥地にしか居ないと言われてます」


「なるほど……じゃあ、俺に一つ考えがあるんだけど」


 それは、割と賭けだ。失敗すれば全滅は確実だが、成功すれば二人とも無事に帰れる。

 俺はリーシャに一連の流れを話す。


「……わかりました」


「よし、じゃあすぐに実行だ。熱くてかなわないしな」


 対ファイアエレメント戦の始まりだ。

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