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24.坑道内アクシデント

「ふごっ……!?」


 俺は事態の緊急性を一瞬で理解した。

 呼吸がまともに出来ないのだ。おまけに視界は暗い。

 わかることと言えば、身体の上に何かが乗っていることと、自分の顔面を塞いでいる物の柔らかさ。

 俺は数秒前の流れを思い出す。


 魔物倒した。

 天井穴開いた。

 俺気づいた。

 天井崩れた。

 俺引っ張った。

 俺転んだ。


 無駄に箇条書きになった。ともあれ、俺は石に躓いて転んだ。問題はリーシャを引っ張っていたため、彼女も一緒に転んでしまったということだ。

 俺の記憶で、最後に目に映ったのは、俺に倒れてくるリーシャ、の胸。

 そう、オパーイ。ここはメロンとしておこう。

 その後のこの感覚、自分を俯瞰的に見ることは出来ないが、大体の察しがつく。

 つまり俺の顔を塞いでいるこれは。

 ――これが俗に言うラッキースケベ……! LUCKY・SUKEBE!

 おっと、俺も混乱しているようだ。

 とにかくこのままではいけない。

 なにしろ構図としては俺の顔をリーシャのメロンが押しつぶしている形。それだけで俺の口は塞がる。

 世の中にはこんなに柔らかいものがあったんだなぁという感動と生命の危機が同時にやってきた感じだ。

 洞窟の中は涼しいのでは、と思いきや、主な空間魔力が火属性魔力なためか、ふつうに暑いために布の薄い服になっているからさらに感覚は生に近い。

 ――いやぁ、もうね……、すごいのよ、『圧』が……。

 結果として。

 呼吸困難になった俺は酸素を求めて思いっきり息を吸うことになる。

 すーはー。


「あっ……」


 ちょっとえろいどころではない喘ぎ声が聞こえるが仕方が無いだろう、人間、息をしなければ死んでしまうのだ。俺は何も悪いことはしていない、いいね? いいよ?

 自己完結した。

 すーはーすーはー。


「んっ……ちょ、っと……ジュン、イチさん!?」


 ふぅ……。

 そろそろ本気で起こられそうだし、俺も割りと危ないので、名残惜しい気もするが、上体を起こし、リーシャごと身体を起こした。

 というかリーシャが身体を起こしてくれれば俺も助かったんだが、そうしなかったのは今の衝撃で腰でも抜けたのだろうか?

 起きてみれば、リーシャが俺の膝の上に座る形となり、顔が間近になる。

 ここまで近距離で直視したのは初めてあったとき以来か。

 見れば、涙目の彼女は顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいるが、それもまた可愛い。写真に撮りたい。

 ――というか俺も恥ずかしい……。

 今まで生きてきて数十年、いい人、友人止まりで異性と本格的な交際をすることが無かった俺には、刺激が強すぎるイベントだ。そう、さっきの行動は混乱からきているので、仕方が無い。


「……何か言い訳はありますか」


「すみません俺が悪うございました」


 素直に謝った。こういうのはすぐ謝った方が良い。

 すると、あっさり非を認めた俺をじっと見て、


「――はぁ。許します。私を助けてくれようとした結果のようですし」


 リーシャは言って、そのまま後ろを見やったので、俺もつられて見た。

 俺たちから見て坑道入り口側の道が完全に岩石や土砂で塞がっていた。

 坑道自体が崩れたり、巻き込まれなかったのが不思議なぐらいで、これを除去するには相当手間がかかりそうだ。

 そして、もう一つの大きな変化。

 俺たちの横、大きな穴、とは言っても人一人が通れるぐらいのものだが、開いていたのだ。おそらく、今の衝撃で元々薄かった岩盤が砕けて開いたのだろう。

 ところで、


「あのー……リーシャさん? そろそろ降りてくださると、その、助かるんですがー……」


 金髪巨乳美少女が身体の上に乗っているというのは実に幸福な事と同時に危ないのだ、色々と。


「え? あっ……すみませんっ」


 さすがに動けるようになったか、リーシャが俺の上から退く。


「……」


 微妙に気まずい空気が流れるが、今気になることは。


「……その穴、どうなってるんだ?」


 俺は立ち上がって、穴の奥を懐中電灯で照らした。

 奥は空洞になっていた。今いる坑道の様に人工で掘られたもの、というよりは自然に出来たもののようだ。


「――これは、大発見の予感……! 休憩したらどこに繋がってるか行ってみようぜ!」


「……もう好きにしてください」


 また反対されるかと思ったが、リーシャはどうやら諦めているようだ。


「というかこれ、帰りはどうするつもりなのですか」


「まぁまぁ、それは俺が何とかするから」


 《創造者》があれば、どうにかなる、はずだ。

 穴をくぐって出れば、坑道と同じぐらいの広さの空洞が広がっている。


「とりあえず奥側っぽい方、行ってみようか」


 空洞は左右に広がっているが、行ってみるとすれば坑道の奥と同じ方向、火山へとつながる方だ。

 

「――っと、一応念のために目印だけ置いておくか」


 もう一つ、懐中電灯を作り、スイッチを入れたまま、地面に置いた。

 これで、戻ってきたとき、元の坑道に戻る穴を見失うことはないはずだ。

 


●●●



 しばしの休憩の後、俺たちは空洞を進んでいた。

 

「だいぶ歩いたけど、まだ続いてんのかこの穴」


 思ったよりも空洞は続いていた。見立てではすぐに行き止まりだと思っていたのだが。


「一度戻った方が良いかもしれませんね。坑道まで帰る距離も考えると行けば行くほど大変になります」


「そうだなぁ、なんか暑くなってきてるし――」


 坑道にいた時よりも気温が高い。火山内部に近づいているからだろうか。

 そう思ったとき、俺はふと前方に違和感を感じた。


「……なぁ、リーシャ」


「なんでしょう?」


「前の方、なんか明るくない?」


 俺の言葉にリーシャが前を直視する。おそらく、魔流活性で視力を強化しているのだろう。


「……確かに明るいです」


 近づいてみれば、それは別の空間に繋がる穴だった。そこから光が漏れていたのだろう。そして、光の発生源は、


「……マグマ!?」


 穴から覗いて見えたのは、赤黒い物質。

 触れたもの、否、近づくものも発火させるほどの高温物質が、大量にうねっていた。

 ――おいおい、マジかよ……。

 火山だから、と予感はしていたが、実際に目の当たりにすると圧倒される。

 穴の向こう、マグマの上を岩の橋が形成し、さらに奥に続いている。だが、

 ……危なすぎる。

 さすがに危険だ。進んでいるときに橋が崩れればマグマに飲み込まれることは確実であり、そもそも向こうは空気がここより高温のはずだ。魔流活性していてもあまり長居は出来ない。

 気にはなる。どうみたってダンジョン的な何かだ、この先は。

 だが、仮に俺が進むと言ってもリーシャは許さないだろう。今までと危険度が違いすぎる。


「リーシャ、もど――」


「ジュンイチさん、進んでみましょう」


「――ろ……はっ?」


 予期していた言葉と間逆のものが来た。

 冷静な彼女ならすぐに引き返そうというはずだが。

 

「まさかあの時、頭でも打ったか――!?」


「打っていませんよ、なんですかいきなり」


「否、だって、ねえ?」


「私も普通なら引き返すところです。ですが――」


 言って、リーシャはマグマ空洞につながる穴のふちを触った。


「これ、自然に出来た穴ではないようです。魔法か何か、とにかく人工に開けられたものでしょう」


「わかるのか?」


「はい、開けられてからそれなりの年月は経っているみたいですが、崩れたというよりは削って開いたものでしょう」


「……で、リーシャちゃんは気になるから奥も見たいと」


「戻りたいなら一人で戻っても良いんですよ?」


「いやいや、ダンジョンは男の夢でしょ! それに女の子一人で危ないところには行かせられないし」


 そもそもここまで連れてきたのは俺なのだが、そこは目を瞑って。


「……では行きましょうか」


 何故か顔を背けて言ったリーシャと共に、俺は火山内部ダンジョンに足を踏み入れた。

LUCKY・SUKEBE

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