23.坑道内バトル
「なんだ!? ……って、アルマジロか……」
いきなり岩が変形したので驚いたが、あれはアルマジロのようだ。実際に見たことは無いが、テレビ番組で姿かたちを見たことがあるので、覚えている。
「びっくりしたなぁ、こんなところに動物がいるなんて――」
俺は安心して胸を撫で下ろして言った。そして言い切る前にふと思う。
あんな岩みたいなアルマジロなんているのか……?
魔流活性で視覚を強化してよく見てみれば、目は赤く、牙なんかも生えてあれではまるで……、
「……ジュンイチさん気をつけてください。あれは魔物です」
あ、やっぱりそういう流れなのね。
というか岩のままだったら忍び足で横を通り過ぎるか、魔流活性で駆け抜けたら良かったんじゃないの? リーシャちゃん意気揚々と爆撃して起こしちゃったんじゃないの、ねえ?
「……む、なんですかジュンイチさんその目は。先に言っておきますが、あのログジバルゥという魔物は岩に擬態して近寄った獲物を狩る習性があるので、むやみに近寄ったらがぶりと噛まれますよ」
この黄金メロン、無駄に俺の心を読んできやがる。
「噛まれるだけで済むのか?」
「何を言ってるんですか。魔物がそんなに優しい訳が無いのはジュンイチさん自身、ご存知でしょう」
何か理不尽な反論を受けた気がする。
「――待てよ。前にテレビで見たときは、アルマジロは虫とか食ってるって聞いたぞ。俺達と体格差だってあるし、襲ってこないんじゃないか?」
テレビとか、あくまで俺の世界の言葉なのでリーシャにいまいち伝わってない。
だが、
「ログジバルゥは基本的に雑食で、普段は岩石や昆虫などを食べているようですが……まぁ……その……」
言葉を濁しつつ、リーシャは続けた。
「柔らかい肉のほうが好みではないかと」
瞬間、ログジバルゥが襲ってきた。
●●●
岩石ボールとなって襲来したログジバルゥに対し、俺とリーシャは横に飛び跳ねて回避を選択した。
そのまま減速せずに転がってどこかに行ってくれればいいが、現実はそう甘くない。
ブレーキをかけたログジバルゥは方向転換し、再度こちらに迫ってくる。
魔力が多いリーシャを狙っているようだ。あんな加速した岩石ボール、直撃すればただではすまないだろう。
「やらせるかよっ!」
俺は持っていた銃の引き金をひいた。
一帯は暗く、狙いを付けるのも難しいが、直線的にこちらに向かってくるのであれば、当てるのは難しくも無い。
直撃した。
だが、ガギンッという音を立てて、俺の放った銃弾が跳弾して天井を僅かに穿った。
「っち、だめだ。俺の銃だと跳弾して危ない」
自分の攻撃でやられるのはお断りだ。
俺の横、剣を抜いたリーシャは身を横にずらし、転がってきたログジバルゥをまるでゴルフのように叩き斬る。
しかし、勢いを殺せず、逆にリーシャの剣が弾かれる。
「っ……、さすがに硬いですね……」
「ああ、あれじゃあ物理で殴って、っていうのは難しいな」
と、なれば攻撃手段は変わってくる。
魔法だ。
「ログジバルゥは地属性の魔物ですから風魔法が有効でしょう。しかし……」
この付近一帯の空間魔力。通常値より高めなこの魔力は火属性魔力が主だ。
風属性魔法が効率的に発揮できないのだ。
「そのうち、ジュンイチさんには属性について教えなければいけませんね」
「あいつ倒して道中で教えてくれたって良いんだぞ」
「それもそうですね、では早く倒してしまいましょうか」
とは言ったものの、どうしたものか。
問題はあの速度だ。武器で攻撃するにしても魔法で攻撃するにしても動きを止めたほうが確実だし、俺達もずっと回避できる保証は無い。
普通の網だと破られるだろう。で、あれば鉄網だろうか。
そう考えていた俺は、ふと、もっと良い方法を思いついた。
――あれだったら破られる心配は無い。
だから、俺はそれを作ることにした。
『《創造者》起動――目的物質を認識――作成開始』
「リーシャ! あいつの動きをとめる! 破壊力はなくても良いから風を起こせるか!?」
「……? 攻撃するのではないのですか?」
「そうだ! あっぶね! 風を起こせれば良い!」
3回目の突進を避けた俺達。
ログジバルゥは今、俺達から見て坑道の入り口側にいる。
「可能です」
「なら俺の合図であいつに向かって風を放ってくれ!」
頷いたリーシャは剣を持つ右手とは逆、左の手を向かってくるログジバルゥに向ける。
『――完了』
空間に出てくるのは引き金のついた鉄の筒。
ログジバルゥは目前に迫ってくる。
だから俺はそれをログジバルゥに向けて引き金を引いた。
直撃する、その直前に俺は叫んだ。
「リーシャ!」
「はい! ウィン・バル!」
下級風属性魔法、ウィン・バル。攻撃力は無い、しかし確かな風がリーシャの左手から放たれた。
ボンッ、と俺の放った弾がログジバルゥに直撃すると同時、跳弾するのではなく、爆発した。
だが、ログジバルゥは爆炎に包まれなかった。
ログジバルゥは白っぽい透明な液体が降りかかっていた。そこにリーシャの放った風が到着する。
「……成功したみたいだな」
俺はバズーカを地面に置いて言った。
「いったい何が……?」
リーシャはログジバルゥを見て疑問の声をあげた。
ログジバルゥは固まっていた。否、ログジバルゥを包んでいる液体が固まっていた。
接着剤だ。
俺が放った弾の中身は超強力瞬間接着剤。そこにリーシャの風が起こり、接着剤が凝固するのを促進したのだ。
「あれでしばらく――相当強力なもの作ったからずっとかもしれないけど動けないはずだ」
ログジバルゥには悪いが、帰りも襲われたのではたまったものではない。
「それもスキルで作った物ですか。すごいですね……」
リーシャの前で現代風の火器を使ったのは初めてだ。
「まぁ、とにかくこれで先に進めるな」
「そうですね。念のため、もう少しはなれたところで休憩を取りましょうか」
リーシャがそう言いながら剣を異空間に収納する。
その時、俺の肩に何かが乗った。
「ん?」
見てみれば、小石の欠片だ。
――なんだ……?
俺は懐中電灯で天井を照らした。
ひびが入っていた。
それをたどって見れば、俺達のいる位置より少し入り口側、ちょうどログジバルゥの真上あたり、小さい穴が空いていた。まるで何かに穿たれたような……。
……待てよ? さっき俺が撃って跳ねた弾が天井に当たって……。
ああ、なるほど、それで天井が……。
とりあえず冷静に分析した俺はそこで真っ青になった。リーシャはまだそれに気づいていない。
だが、身体を動かす前に変化は起きた。
ゴゴゴゴ、という音と共に、天井が崩れた。
「危ない!」
崩れた天井は俺達より少し離れているが、そのままこちらの天井も崩れる可能性があるし、落ちてきた岩が転がってこちらに向かってくる可能性もある。
「えっ!?」
俺は、事態を飲み込めていないリーシャの手を引いた。
「とにかくはなれ――」
そこで残念なことに俺の足元に石が置いていた。
さらに残念なことに俺は気づかずにそれに引っかかってしまった。
その結果は至極簡単なものだった。
転んだ。




