22.王族事情
坑道に入って、感覚としては二時間ほど経った。
「この坑道、キワル山内部まで伸びてるって言うけど、すごいでかい山なんだろ?」
しかも火山としてレイ・ウィングズ最大ときた。噴火とかすごく怖い。
思えば、俺はラインアルストのこともそうだが、この世界の地理とかあまり知らない。
「はい、ライン地方南部に広がるロント大山脈の中心、それがキワル山です。ここまで大きいレベルのものとなりますと、大陸北部最大の都市である北方氷閉都市のすぐ近くにあるグラーフリート山か、ライン地方のずっと北、魔淵大陸にあるとされるドラゴンの発祥地とされているリヴァスガルンという山脈ぐらいでしょうか」
もっとも、と前置きして、リーシャは続ける。
「去年末に北方氷閉都市が壊滅した際にグラーフリート山は消失したらしいのですが」
都市が壊滅して山が消失……!?
「それって大事じゃないのか?」
「はい……。噂では住民の半数以上が行方不明、または死亡したという話です。おそらく、政府が魔石を集めた理由もそれに対応するためではないかと、私は思っています。時期も重なりますし。
ただ、何が起こったか、またその事後処理などはすべて王族を中心とした中央政府が対応したらしく、ギルドにくわしい情報はほとんど渡されてないそうです。姉さんが愚痴っていましたから」
「政府が対応、ね……。その王族っていうのは信用できんの?」
小説とか漫画だと実は王様が悪いやつとかよくある話だ。
今の話、北部で何か悪いことやってその事実を隠そうとした、なんて風にもとれるのだ。
「それはもちろん。そもそも先のアーインスキアによる支配からレイ・ウィングズを解放したのがその王族とそれを支える四大貴族、そしてその協力者だったのですから」
「勇者とかじゃなくて王様が解放したのか。すごい軍隊を動かすのがうまかったとかかな?」
前にレオと話していた際、アーインスキアはその武力をもって王都を制圧したと聞いていた。
それを撃退するのであれば、それなりの戦力とそれをうまく動かす指揮が必要だろう。
「いえ、話によれば、合計十人でアーインスキアを撃退したという話です」
「――は?」
魔王軍を相手に一騎当千する勇者パーティーか何かか、その王様一行。
「主力であり、王族であるレイア・アジュア・レーベンケーニッヒ様、その弟君のアギト様、四大貴族であるユーシス・ウリュー・エンデシルト様、ジークフリート・マジル・ノーライト様の4名は現在のギルドで設定されているランクS……つまりはドラゴンを御一人で倒すレベルの強さだったとか。他の方もそれに追随するレベルの強さだったと聞いています」
ギルドで設定はされながらも、ギルドメンバーには存在しないランクS。
つまり、本物の化物レベルの集団だったということか。
武力統治もできるだろうに、そんな風になっていないのはそれだけ人格者達だということだろうか。
「それだけ強いならクーデターとかあっても大丈夫だろうな」
だが、リーシャは首を振る。
「それがそうでもないのです。先ほど話した北部での異常事態、あれ以降からレイア様を含めた主要な王族と四大貴族の方々は御姿を公衆に見せていません。政府の発表では事態対応した際に負傷し、療養のためお隠れになったという話です。
さらに突然の王位継承。今はレイア様の御子息であらせられるライナー様が王位にいらっしゃるのです。まだ幼い為、祖母であるミレイナ様が摂政として補佐されておりますが、民の間では不安の声もあるようですね」
「ふーん、なんだか思ったよりも大変なんだな……」
それだけごたごたしてるなら様々なところに影響してくるものだが、あまりそう言ったものを感じられないのは、俺の知っているラインアルストが田舎町だからだろうか。
「王都やラインベルニカなどは今年の初めのうちは混乱が起きたそうですね。今はそれも収束したそうですが」
どちらにしろ、遠い世界――ではないが、遠い地の話であり、今の俺たちは自分たちの目的を遂行するために目下火山に向かって進行中であり、気にしなければいけないのは魔石があるか無いかと安全かどうかだ。
「に、しても長いなぁ……そろそろ一度休憩しない?」
距離を稼ぐことも大事だが、疲労が溜まり、結果的に効率が悪くなるのは良くない。
「そうしましょうか、道はまだまだ長いですし――」
ふと、リーシャが言葉を、否、歩くのさえも止めた。
「ん、どうした?」
振り返り、尋ねた俺に対し、リーシャは口元に人差し指を立て、静かにするように伝えてきた。
そして、展開していた光源を、行け、という手のしぐさで前方に飛ばす。
坑道の先が徐々に照らされる。
十五メートルほどいった所で光源がある物を照らし出した。
――なんだ……?
全体的に暗いため、はっきりとは見えないが、サッカーボールほどの大きさの岩が転がっていた。
通路の中央にあり、かなり邪魔な感じがある。
暗い中で足を引っ掛けたりしたら転んで危ないだろう。
だが、イル・ライノや俺のライトである程度は前方が見えている状態ならば、付近に近づけばすぐわかるものだが、なぜリーシャは歩を止めたのだろうか。
答えをリーシャに聞こうとした俺に対し、リーシャが先に行動を起こしていた。
「――ファイア・ボール」
イル・ライノとは別の光源、だが、確かな破壊力を持った火の塊を出現させたリーシャはそれを岩に向かって放った。
リーシャの正確なコントロールでファイア・ボールは岩に直撃する。
――いくら邪魔だからって、道端にある岩にそんなことする!?
リーシャもストレスとか溜まってるんだろうか。否、俺が連れまわしてるし、俺が原因か、申し訳ない。
そんなことを思った瞬間だった。
岩が変形した。
「なん――!?」
アルマジロだった。




