21.坑道へ
「……ここがギルド占有の坑道か」
俺とリーシャはラインマインズ支部で入坑を許可された坑道に足を踏み入れていた。
少し入っただけで、周辺は暗くなってしまう。
「……イル・ライノ」
リーシャが魔法で光源を出現させる。
光の玉はリーシャの頭上に浮遊している。
「よし、俺も……」
思い浮かべるのは懐中電灯。
軽く持ちやすいものにすれば、持ち続けても疲労はたまらないだろう。
『――作成完了』
「――っと……」
空中に出現した現代科学のライトを掴む。
「それがジュンイチさんのスキル、物体を作り出せるというものですね……というかそれは?」
「あぁ、これか。こうすれば――」
懐中電灯のスイッチをつけてみれば、きちんと前方を照らせる。
「まぁ、こんな感じに照らせるわけだ。魔法と違って手で持たなきゃいけないけど、魔力消費もなし。俺の世界にあった電気を使った機械さ」
この世界、銃があるので、当然機械という概念もちゃんとあるらしい。
とは言え、俺の世界にあった現代科学の集合体というよりは蒸気とかそこらの時代に近い感じだ。
「なるほど、ジュンイチさんのスキルもそうですが、作るものも同じくらい興味深いですね」
興味を持ってもらったようで何より。そのうち、電池式のドライヤーとか作ってあげてもいいかもしれない。
「――しかしまぁ、なんだ。来たは良いけど、詳しい話は俺聞いて無いんだが」
否、決してギルドで話を聞くのを全部リーシャにまかせたとかではなく、俺は俺で、現地のギルドメンバーなどに魔石の手がかりなど聞いていたのだ。だが、やはり良い答えは返ってこなかった。
「ギルドで聞いた話だと、この坑道、採掘というよりはキワル山の調査目的で掘られた坑道のようですね……」
「と、いうことは鉱石とかも思ったより残ってる可能性が高い……?」
基本、調査用となれば、サンプルとなる分だけ採取して、採り過ぎないようにするものだ。
「そうですね、ジュンイチさんの言うとおり、魔石となりうる鉱石も採掘されずに残っている可能性は大いにあります――」
ですが、とリーシャは一息ついて、
「『キワル山の調査』という名目上、この洞窟は単純な構造だと思います。あまりに複雑だと調査員が迷ってしまいますし、民間の坑道と繋がってしまう可能性も高くなりますから。
おそらく、ほぼ直線的にキワル山内部に向かって伸びているはずです。……問題はその長さです」
「……かなり深いのか?」
「ギルドで対応してくださった方の説明ですと、確認が取れている最奥まで往復した場合、一日二日では戻ってこれないということです」
うへえ、何キロあるってんだ。
しかし、それならば、
「魔流活性で走ればそこそこ短縮できるんじゃないのか?」
俺の思いつきに、しかし、リーシャは首を振る。
「それほど足場が良いとは限りません。下手をすれば、足を痛めて身動きが取れなくなる可能性もあります。それに長い間、調査が入っていないならば、魔物などが住み着いている可能性も否定できません。やはり進むにしても慎重に行くべきでしょう」
魔物。
そう聞いて、俺も、旅に、観光地に来て緩んでいた気を引き締めなおす。
あれから一ヶ月たったが、あの戦慄は未だ、記憶に新しい。
「……そうだな、油断は禁物か」
「本来はあまり奥に進むべきではないのでしょう。しかし、魔石を採るとなると、どうしても人の手が入っていない場所の方が良いと思います」
それは、最奥まで行ってみる必要があるということ。
幸い、ストックスには数日分の水や食料などは携帯しているし、最悪それが尽きた場合は、俺の創造者でなんとかすればいい。
ともかく、その点に関してはリーシャに不都合させる気はない。
ここまでついてきてもらっているし、だいぶ無茶も聞いてもらっている。
「ひとまず、今日は途中にあるという休憩所までがんばってみましょう」
「そうだな。……この様子だとそこもだいぶ寂れてそうだ」
ここらはまだ良い。ここ数ヶ月以上、人が出入りしていないとは言え、出口も近いからだ。だが、奥のほうはどうなっているか見当がつかない。
「本当に人の気配というか、最近つきましたっていう活動の跡が見られないな。ここはギルド専用の坑道だから話は変わってくるだろうけど、商店のおっさんとかが言ってたとおり本当に採掘する人いなくなったのな」
「こんな風に言うのもなんですが、鉱山を掘り進めるよりは温泉事業の方が、安全ですから。崩落や魔物に襲われて命を落とすよりは、という話も良く聞きます」
確かに命あっての人生だ。
生き埋めになったりはしたく無いし、魔物に襲われるのも経験したから言えるが、生きた心地がしない。
「それに資源である以上、掘り進めて行かなければいずれ尽きてしまいます。……とまぁこれは温泉も沸き続ける保証はないので一概には言えないですが。
坑道の場合、どんどん奥に奥にと進んでいけば、それだけ労力や危険も増えますから」
結果、今のように町自体が温泉街へと移り変わってきている、ということなのだろう。




