20.予想外
女将から案内されたとおり、施設を進めば、俺たちのスペースにたどり着く。
この宿屋、普通の部屋ではなく、小さいコテージのようなゲストハウス形式であるようだ。
入ってみれば、思ったよりちゃんとしている。まあ俺の宿舎の部屋が基準なので、道中の宿もそれなりではあったが。
温泉は個々のゲストハウスにもひかれていて、食事以外はゲストハウスから出ることなく、できるようになっている。また、他にちゃんとした大浴場もあるらしい。
ちなみにベッドはダブルではなくツインだった。
「ご飯なのですが、今は夕飯時で先ほど見た限りでも混んでて大変そうなので、後でいいと思うのですが」
一通り、ゲストハウスを見たリーシャが提案してくる。
「だなぁ、俺も言うほど腹減って無いし」
と、なればすることは決まってくる。
「俺は大浴場に行ってみるけどリーシャはどうする?」
「私はここにひかれているもので済ませますので、おかまいなく」
まあそうだろう。今の時間帯、夕飯時で多くの人間が食堂の方に行っているはずとは言え、そもそも泊まっている人数が多いので、風呂場も混んでいる可能性が高い。
「そっか、じゃあ俺は行ってくる」
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さて、案内図に従って、脱衣所に着てみればなかなかに広い。この分だと浴場の方も広そうだ。
そして、ここに来て俺はあることに気づいてしまった。
俺の中での温泉事情はあくまで日本のものだということに。
そう、どこかで見た事がある。外国の温泉は水着で入るものだと。
そのルールはここでもそうらしい。
脱衣所と浴場を出入りしている男たちは皆、水着だと思われる物を着ている。
もちろん俺は持ってない。
(うわー、どこかで売ってないかな……あぁそうか)
そこで俺は気づく。
《創造者》で作ってしまえばいいのだと。
布一枚など簡単に作れる。
あってよかった特殊スキル。かなり情け無い事情だが、この際どうだっていい。
誰にも見られないようにこっそりと水着を作った俺はいそいそと着替え、そのまま浴場に出た。
一見しての感想は、自然の温水プール、だ。
温度を確かめてみれば、日本の温泉の温度には及ばないが、ゆるすぎるというわけでもない。
気温が高いので、ちょうどいい、と思える。ラインアルストから南下して気温も上昇しているのだ。
日本で言えば、北東北から九州南部まで行ったあたりか。道理で暑いわけだ。
そして、これも特徴の一つと言えるのだろうか。
混浴だった。
水着着用なのかはわからないが、女性の姿も多い。
おうおう、育ちのよい方が多いことで。
そんな邪な視線と感情を持って、しかし思うことは
「やっぱ温水プールに来た感じだなー」
そして実感する。リーシャはゲストハウスの風呂を使って正解だったと。
普通でもその美貌で目立つのに、脱いだらどうなるかわかったものではない。
きっと男どもの視線を一気に集めることになるだろう。
間近で一緒にいることになるであろう俺も色々大変になる、色々ね。
もしかしたらリーシャ自身、それを危惧して部屋で良いと言ったのかもしれない
色々珍しく、堪能したいとも思ったが、一人ではしゃぐのも何か虚しいし、リーシャをあまり待たせるのもよくない。
ほどほどの時間で身体を温め、部屋に戻る。
戻ってみれば、リーシャも風呂からあがったようで、髪を湿らせている。色っぽい。
「やはり、ちゃんとした温泉はいいものですね」
温泉からひかれているとは言え、部屋の風呂だがそれでいいのか、と思う。
「俺も、思ってたのとは違ったけどあれはあれでいいのかもなぁ」
とは言え、そのうちちゃんとした熱い風呂にも入りたいものだ。レイ・ウィングズに来てから基本的にはシャワーなのだ。
一軒家とか建てたらきちんと俺が間取り図とか考えよう。
そんなことを思った俺であった。
●●●
一夜明け、俺たちはラインマインズを歩いていた。宿で魔石を売ってそうな店を聞いてそこに向かっている途中だ。
ちなみにゲストハウスである手前、リーシャとは至近距離で寝ることになったのだが、徒歩での移動で疲れたからか、すぐ寝てしまってドキドキもくそもない。こんなんだから三十年近く彼女いなかったんじゃないかと脳内会議で議題にあがったが、余計なお世話だということで閉廷した。
「っと、ここか……さて、売ってるといいんだが」
俺は店のドアを開ける。
中はそれなりの客がいるようだ。
うーん、と陳列してある物を見回す。
ラインアルストでリリエにもらったような見当たらない。どちらかというと、土産物のようなものが多く、鉱石を売っているかと言われてもあまりそうは見えない。
「デマでも掴まされたか……?」
「しかし、あの女将が私たちに嘘を言う必要性もないです。店主に聞くのが一番早いのでは?」
「それもそうだな……すみませーん」
俺たちはカウンターにいる男に声をかける。
「はいはい、なんでしょう」
「ここに魔石が売ってるって聞いて来たんですけど、そういうのって置いてありますかね?」
「あー、お客さん魔石がお目当てか。悪いんだけど置いて無いんだよ。ごめんねー。前は置いてたんだけど、去年の末に政府のお偉いさんが何かに使うとかでこの街に売ってある魔石を全部買い取っていったのよ」
なぬ? この街の魔石全部?
「……ということはどこ行っても置いて無い?」
「そうだねえ。最近は街の人間も鉱石より温泉に力を入れてて堀に行くってやつも少なくなったから、やっぱり今はどこにも置いて無いんじゃないかねえ。そもそも魔石もそう簡単に掘れるものじゃあないし」
「マジか……」
これは予想外の出来事だ。というか街の魔石全部買い取って何したんだよお偉いさん。
「はぁ……とりあえずありがとうございました」
そう言って俺たちは店を出た。
困った。この店だけでなく、街すべて巡っても無いとなると、ここに来た目的が温泉に入ることだけになってしまう。
「どうするか……無いものはどうしようもないしな……」
これだけキワル山に近いならば、どこかに落ちていないだろうか。
そう、どこかに……。
「――待てよ……。無いなら採りに行けばいいだけの話じゃないか……?」
ぼそっと俺が言った言葉にリーシャがぎょっとする。
「それは坑道に入って自分で探すということですか? 反対です、危険すぎかと」
当然の反応が返ってきた。
まあそうだよねー。
だが、
「でも、無いって言うなら有るところに行くしかないじゃん?」
「魔石を諦める、っていう選択肢は無いんですか……」
「ここまで来たら無いかなー」
緩く、しかし強く即答する。
それを聞いて、リーシャはため息をついた。
どうやらリーシャが折れるらしい。
さて、こうなってくると問題は俺たちが入れるような、かつ魔石がありそうな坑道があるか、だが。
「……ラインマインズにも小さいですがギルド支部があるはずです。一度そこに行ってみましょう。運が良ければ、調査などの名目を立てて坑道に入れる可能性があります」
提案に俺は頷く。
俺たちは町の地図を頼りにギルド、ラインマインズ支部に向かった。




