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18.ストックス習得

 ミストと分かれた俺は食堂で遅い昼食をとっていた。


「とは言ったものの……」


 どうしたものか。

 強い、で最初に浮かんだのはもちろんリーシャだ。知り合いだし。

 しかし、彼女はランクDの強者である前に女の子だ。

 恋人でも無い俺とそれなりに長くなるであろう旅に行きたいとか思わないだろう。

 それに人選の他にも問題があった。

 金だ。

 今の所持金は日々の生活をする上では苦労は無いが、人を雇うとなると話は変わってくる。

 加えて、傭兵を雇った場合、いくらかかるのかもわからない。

 旅自体にもそれなりにかかると考えるとどう考えても足りない。

 ……最悪、創造者で金を……いやいや、それはなんか俺のプライドに関わる気がする。というか倫理的にあれだ。

 やはり、一日複数のクエストを受けて金を貯めるしかない。

 そう思ったとき、俺に声をかけてくる者がいた。


「ジュンイチさん、どうしたのですか、そんな難しい顔をして」


「おん? ああ、リーシャ……って、探してたんだぞ」


「すみません、今日は朝からクエストに行っていたもので。それで、何か御用でしたか?」


 俺はリーシャに魔法をそろそろ教わりたいということと魔力補充について知りたいということを伝えた。加えて、スキルの魔力消費についてと魔石の入手を計画していることも話した。


「……なるほど。では今日から本格的に魔法について練習していきましょうか」


「ああ、頼む」


「はい、それではまた夜に訓練場で」



●●●



 夜になり、俺たちは訓練場で合流した。


「それでは昼に言ったとおり、今日は魔法について本格的に練習していきましょう」


「いえーい」


 ぱちぱち。

 今日から俺の魔法使いライフが始まる。


「それではまず質問なのですが、ジュンイチさんはどんな魔法が使いたいのですか?」


「ストックス」


 即答した。


「……なんというか、料理を習い始めた日にいきなり宮廷料理をつくりたいとかいうタイプなんですねジュンイチさんは」


 例えがわかりにくいようでわかりやすい。

 

「ストックスは中級魔法なんだっけ? クセが強いとか聞いたけどそんなに難しいのか?」


「率直に言えば難しいです。私も習得に半年かかりましたし」


「は、半年……」


 気が遠くなる。

 とは言え、練習しないと習得までの道は縮まらない。やはりやり方だけでも教えてもらうべきだ。


「とりあえず、どんな感じかだけでも教えてくれると助かる」


「わかりました。――ストックスは魔法の中でもかなり特殊な部類に入る魔法です。その大きな特徴として、魔力消費が無い、という点があります」


「魔法なのに魔力を使わないのか?」


 それは果たして魔法というのだろうか。


「はい、ですからかなり特殊なものなのです。それゆえに魔力量の少ない方でも使用するだけは可能と言えますね」


「なるほどなぁ」


「先に断っておきますが、正直言ってやり方、というのも説明しにくいです。なので、私が使用するときの感覚を教えます」


「ほう」


 明確な使用方法っていうのは無いのか、それともリーシャが知らないだけか。


「――まず、自分の固有の空間、誰にも開けない自分だけの宝箱があると想像してください。そう考えながら、その宝箱をあける感覚で手を伸ばしてください」


「ふんふん……え、それだけ?」


「……それだけです」


 いや、まあ個人の感覚を説明したのだから直感的なものになるとは思っていたが、話を聞く限り、そんな難しいものか? というのが俺の感想だ。


「なんか簡単そうに聞こえたんだが」


「……実際やるとできないものなんです」


 あ、リーシャの機嫌が悪くなった。


「ごめんって。まぁ、とりあえずその方法、試してみるか」


 言って、俺は想像する。

 やってみると確かに難しい。自分だけの固有空間。これをあると自分に錯覚させるのが、だ。普通に考えれば、そんなものはない、と思ってしまう。

 しかし、俺の場合、スキルを使用する際に無いものを創造する必要があるのだ。ようはそれの派生。ならば、


「――え?」


 リーシャが驚きの声をあげる。

 俺の手が、空間に発生した光に飲み込まれていた。


「え、マジでできたの?」


 自分でも驚きだ。

 

「すごいです……いえ、どうしてそんなに簡単にできるんですか……」


 リーシャを見れば、驚きと困惑を隠せていない。

 ……これ、想像力豊かな年頃の子どもとかは簡単に出来るんじゃないか……?


「……こほん。まあ、たまに簡単にやってのけてしまう人もいると聞きますし」


 何で言い訳してるのこの娘。


「実際に出来たのならば、ストックスの注意点を教えます」


「注意点?」


 どうやら便利魔法ストックスにも制限はあるらしい。

 まず、ストックスの収納空間は個人の魔力量に比例すること。

 次に使用する際は発光するので、夜間の戦闘時に使用するときは気をつけることなど、だ。


「ということは魔力量をあげないとあまり物もしまえないってことだな」


「そういうことです。魔力量は元々の個人差もありますが、魔流活性や魔法を使用して慣らしていけば増える傾向にあります」


 運動すると体力が増えるのと一緒か。


「それと、魔力補充についてですね。基本的には自然回復です。食事などでも回復はしますが、あまり期待は出来ないですね。

 ――あとは、他人から譲渡してもらう、という方法もありますが、自分の魔力では無い分、うまく扱えない事が多いです」


「自然回復ねー、まあそうだよなあ……」


 ゲームでもそうだし。


「それでは、次に簡単な魔法を使えるようになりましょうか。ストックスだけが魔法ではないですから」

 

 俺とリーシャの訓練は続く。



●●●



「なんでストックスを一発成功させて、初級魔法はまったくできないんですか」


 的確な事実を述べた言葉が俺に突き刺さる。

 あれから二時間弱、ファイアボールやイル・ライノという初級魔法を教えてもらい、練習していた。

 だが、まったく使用できない。正確に言えば、できかかっているのだが、成功しない。


「ふむー、俺には才能がなかったということか……」


「諦めが早いですよ」


「まあまあ。とりあえずいちばんできるようになりたかったストックスはできるようになったし」


 割と簡単にだが。


「今日はこれぐらいにしておこうぜ?」


 眠くなってきたのだ。人間、十分な食事と睡眠と運動で健康にいられというもの。


「……わかりました。何か色々思うところがありますが、今日はこれでお終いにしましょう」


「おう、今日もありがとうな。じゃあまた明日」


 そう言って俺は訓練場をあとにする、はずだったのだが。

 服の裾を引っ張られる。


「? どうした、リーシャ」


 呼び止められるのは初めてだ。

 彼女は少し迷ってから、言葉を作った。


「ジュンイチさん、用心棒を探している、と言ってましたね」


「ああ、魔石を探すのに、俺一人だと危険だってミストさんに言われてなー。確かにその通りだと思ったからそのつもりで考えてるんだけど」


「――その役、私で良ければ受けさせていただきたいのですが」


「は? いや、でも地図を見た限りじゃ、街を結構離れることになるぞ? 金だって用意は出来ないし」


「お金はいいです。私もたまには遠出をしたい、と思うことだってあるんですよ?」

 

 金を節約できれば、俺も大いに助かる。

 だが、虫が良い話だ。何か裏があるのでは……。

 そんな疑問が顔に出たのか、リーシャが言葉を続ける。


「ギルドメンバーが強くなるのに越したことは無いですし、生徒が独り立ちしてくれれば教師も楽になるというものです」


 あ、リーシャも楽したいのね。


「――それに、キワル山周辺は良質な温泉があると聞きましたし」


 おい、なんか最後にボソッと言ったぞこの黄金メロン。目的はそれか。

 いいんだけどね? 俺も金髪巨乳と温泉旅行できるっていう事実ができるわけだから?

 何故か疑問系だが、女の子と二人旅とか緊張するぞ。

 とにかく、まだ大まかな計画を立てただけで詳細なことは決めていない。

 

「それじゃあよろしく頼む。詳しい日程はまだ考えて無いから後日伝えるよ」


「わかりました。それでは、おやすみなさい」

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