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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第三章 -永遠の契約-
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第二十話 あの日には届かない

 リーシャによる懇願。

 レイと戦わずに逃げて欲しいという内容に、誰もが言葉を呑み込む。

 一瞬のうちに判断できる事柄ではなかった。


「アイツと戦うことになる、そしてそうなれば絶対に負ける……か」


 そんな中、新たに発言を加えたのは修だった。

 先程のリーシャの言葉を簡略化し口にしていた。

 止まることなくそのまま言葉を紡ぐ。


「そもそも、その前提条件からしておかしいだろ」


 前提条件。

 つまりはルミナリア王国側がレイ一人に負けるという点だろうか。

 それに関しては伶奈も疑問を抱いていた部分だ。 

 確かにレイは強い。おそらく、伶奈一人では勝てる見込みはない。

 だがソラと修を含んだ三人でなら勝算は五分以上にあるはずだと考えている。


 修の発言の意図をリーシャも伶奈と同じように捉えたようで、神妙な顔つきのまま口を開く。


「おかしくないわ。シラサキ、貴方は何も分かってない。お兄様の強さを」


「…………」


「たしかに祝福者としてならば、貴方達はお兄様に匹敵できるかもしれない……だけど、お兄様の真髄は祝福じゃない――変革の日に齎されし奇跡の剣、祝魔剣こそ圧倒的な強さの源なのよ」


 祝魔剣。

 伶奈もその剣についてリリスから話を聞いたことがある。

 今から約五百年前に、混沌と争いの中にある世界に平和を齎した存在が扱ったとされる剣だ。

 

 世界を統べる圧倒的な戦闘力を誇る剣。

 ただし、その代償として使用者は魔力を吸い尽くされて死ぬとも聞いていた。


 しかし、その最後の一点においてのみ例外は存在しており――


「お兄様は祝魔剣を代償なしで使えるわ! 一振りで天を斬り裂き、地を穿ち、何者が立ちはだかろうと一切合切を断ち切る最強の剣の力を! その剣の持ち主と戦うだなんて、それこそ世界そのものを敵に回すようなものなのよ!」


 レイ・ジオ・エルトリアは、祝福と同時にその剣すら扱ってみせるという。


「勝ち目なんて、初めからないのよ……! 命を奪わないって制約があったとしても、もしものことがないだなんて言い切れない! だからっ、だから最悪の事態になる前に――」




「ああ……足りないな、全然」




「――え?」


 状況に適さない、というよりもどんな意味が含まれているのかさえ分からない修の呟きに、リーシャは目を丸くし言葉を止めた。修の意図を理解できないのは伶奈も同様であり、続く彼の言葉に耳を傾ける。


「ああいや、悪いな。勘違いさせたみたいみたいだから言っとくけど、俺が言う前提条件ってのはそこじゃない」


 本当の意味で伶奈が驚愕に目を見開くのは次の瞬間だった。


「リーシャ、お前は勘違いしている。勝手に話が進んでるけど、俺は一言もアイツと戦うだなんて口にしていない」


「なっ……」


「アイツと戦うか、それとも逃げるかなんて選択肢は傍から俺には存在しない……俺は何もしない、傍観を貫く。だから、この後の話はお前達だけで好きにやってくれ」


 それ以上の言葉は必要ないと言いたげに、修は自信に向けられる皆の視線を振り払うように立ち上がる。

 続いて動く足は応接間の扉に向かう、彼が本当に責任を放棄しこの場から去ろうとしていることが分かった。


「待ってください、白崎さん!」


 だからこそ、伶奈は反射的に修を呼び止めた。

 何を言うべきかなんて分からない。

 それでも言わなければならないことがあると、不思議とそう直感した。


 不意に、伶奈の脳裏に一つの記憶が蘇る。

 それは伶奈と修が二人、星空の下で交わした会話。

 自分達の想いを向けあった唯一の日のこと。


「貴方、言ってましたよね……世界中の人々とリリスさんを天秤にかけるなら、リリスさんを選ぶって! 今こそその状況なんじゃないんですか!?」


 扉の前で立ち止まる修の背中に叫びを続ける。


「私には白崎さんが今何を考えてるのかなんて分かりません。これまで分かり合おうとしなかったんだから当然のことです……だけど、だけどっ!」


「…………」


「嫌いなものは全部切り捨ててでも、本当に大切なものだけは命を賭けて守る! そういう人だったんじゃないんですか、貴方は!」


 ――どうして自分は、これほど必死になっているのだろうか。


 伶奈は思う。

 自分は、修のことが嫌いだ。

 贖罪に捕われた自分とは違い、彼はいつだって自分のエゴを貫こうとしている。

 自分には選べなかった道を、彼は常に自分の力で切り開いていく。


 だからこそ、伶奈は修のことが嫌いで。

 その在り方だけが唯一、伶奈が修を信じることのできる部分だった。


「大切な……もの」


 そんな想いで放たれた伶奈の言葉による効果か、修はゆっくりと振り向く。

 深い闇を呑み込んだかのような漆黒の眼が静かに此方に向けられる。

 その眼は、果たしてこれまでにどれだけの絶望を見てきたのだろうか。


 修の視線は最初は伶奈に、そしてすぐに横にずれ――リリスへと向けられた。


「…………」


「…………」


 無言で、両者は見つめ合う。

 あんな目を前にして、リリスは一歩も引こうとはしない。


「っ」


 先に痺れを切らしたのは、修の方だった。

 結局心が変わることはなかったのか、彼は今度こそ扉に向き直ると取っ手に手をかける。


「私は戦います!」


 これ以上修をこの場に留めることが無理だと悟った伶奈は、最後に告げる。


「ずっと悩んでいました……けれど、もう覚悟はできました。逃げません、私は。リリスさんを守るために、戦ってみせます!」


 自身の覚悟そのものを。


「ああ……そうか」


 それに対する応答は、相槌たった一つ。

 そのまま彼は扉の外に歩を進めていった。



「……戦うんですか」


 修の足音が完全に聞こえなくなった頃、リーシャが伶奈に向け確かめるように声をかける。


「はい、貴女がわざわざこの場に残ってまで忠告してくれた意味は理解しているつもりです……けれど、もう決めました。この答えは変えません」


「…………そう、ですか」


 伶奈の言葉に強い意志を感じたのだろう、リーシャはそれ以上言葉を紡ぐことなく――視線を、“最後の一人”に向けた。


 逢ヶ瀬 伶奈は戦うと決意した。

 白崎 修は傍観を貫くと宣言した。

 なら、彼女は。


 不自然に会話に入り込もうとしなかった――最後の勇者、ソラは果たしてどう考えているのだろうか。


 鮮やかな水色の髪が軽く靡き、見事に彼女の視界を塞いでいる。

 彼女が顔を下に向けていることも影響して、何を考えているのか窺うことはできない。

 ソラの言葉一つでこの状況は大きく左右されるというのに、だ。


 先程も思案していたことだが、伶奈一人でレイを相手にするのは難しい。

 修が参戦を拒否した今、残るソラに協力してもらわないことには話が進まない。

 いや、そもそも彼女がリーシャの提案通り、リリスを連れて逃げると言えばその時点で話は終わりだ。


「私は――」


 そんな重大な決定権を握った少女は、ゆっくりと答えを口にする。


「――私も、戦う。それ以外に、私は選択肢を知らないから」


「――――」


 決まり、だ。


「私とソラさんが戦う――結論としては、そういうことでいいですね」


 伶奈の言葉に反論する者など、この場には誰一人としていなかった。




 伶奈とソラが戦うことが決まり、より詳しい事柄は少し間を置いて話し合うこととなった。

 リーシャは既に部屋を出てレイのいるところに戻り、残りの四人しかこの場には残っていない。


 おもむろに、伶奈は自分の手に視線を落とす。

 とても白く滑らかで、だけどいつの日か赤く染まっていたその手を見る。


 戦う決意はできた。

 あとは……“これ”を使う覚悟だけだ。


「ふぅー」


 考えるだけで嫌な汗が出てくる。

 まだ自分は何も乗り越えられていないのだと、突き付けられているかのようだ。


「それでも、私は――――」




 そんなふうに一人思い悩んでいたからだろうか。


「やっぱり、そういうことなんですね、シュウさん」


 その少女の一番近くにいた伶奈を含め。

 この場にいる誰もが、悲しげな表情で呟かれたリリスの言葉を、聞き取ることはできなかった――――



 ◆



 足りない。

 まだ、全然、あの日には届かない。


「こんなものを、絶望なんて呼ばない」



 俺――白崎 修は、あの応接間での会話の後、自室に戻りこうしてベッドに仰向けに寝ていた。

 外は今も騒いでいるにも関わらずやけに物静かな空間で、俺はかつての記憶を思い出していた。



 ――――水音みずおと さきという少女がいた。

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