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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第三章 -永遠の契約-
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第十話 世界の悪意


 ◇


 走った、脚が引き裂かれそうになるのを力ずくで補強しながら。

 肺を無理やり強化し呼吸を整え、魔力を身体全体に凄絶な勢いで循環させる。

 鍛え抜かれ人智を超えたはずの体躯が休息を求め、悲鳴を上げる。


 それでも、止まるわけにはいかなかった。

 そんな選択肢は既に頭の中から消え去っていた。



 ――――どこで、間違えたのだろうか。



 それなのに、自分を責め苛む思考だけは消えない。

 俺の脳内に巣食う絶望の獣が、醜悪に蠢く。


 全身全霊で空を蹴る。

 その衝撃で後方一帯が吹き飛ぶが、気にしている余裕はない。



 ――――何を、見落としていたのだろうか。



 脳裏に、一人の少女の姿が浮かぶ。

 記憶の最奥に捕らわれた、この世界と関わりを持たないはずの黒髪の少女。

 感情を失っているのではないのかと本気で思ったことのある、あの日からまるで変わり映えしない容姿が眼前に広がる。


 その少女の小さな唇が、すっと開く。


『大丈夫、私はちゃんと、この世界が嫌いだから』


 どうして今、そんな彼女の言葉を思い出すのか。



 ――――きっと、全ては初めからだ。



 黒髪の少女が薄れていく。

 その代わりに現れたのは、一人の茶髪の少女。

 世界の全ての絶望を呑み込んだ、濁った瞳が俺を見つめる。


 彼女は、小さく微笑みながら告げる。


『世界が“彼女”を殺したら……君は、どうするの?』


 その答えは、とっくの昔に誓ったはずだった。



 ――――俺は、その真実から逃げていたのだ。



 そして最後に、一人の少女が俺の前に現れる。

 輝かしい光を纏った金髪を靡かせ、慈愛に満ちた蒼色の瞳で優しく笑う。

 胸の前で組まれた両手の上には、いつの日か俺があげた指輪が置かれている。


 手を、伸ばした。

 触れていたかった。

 手放してはいけないと思った。


 だけど――――


『ごめん、なさいっ――――』


 あと少しのところで、その少女は霞むように消えていく。

 伸ばされた手の先で、指輪がカランと地に落ちる。


「どうして……」


 その言葉は、届かない。


「どうして――――ッ!!」


 その理由を、俺は知っていたはずだ。



 だって、俺の願いと彼女の願いは、きっと――――



 深い闇に沈む思考は、次の瞬間に弾け飛んだ。

 見慣れた風景が視界に飛び込んでくる。


 舗装された巨大な一本の通路。

 両脇には様々な店や、煉瓦造りの住居が立ち並ぶ。

 いつか俺が果物を買った店や、逢ヶ瀬と一緒に回った装身具店。

 変わらない姿を保つ王都ルミナダが、そこには広がっていた。


 ――否、それは違う。

 建物に関しては、たしかに違いはない。

 ただ、人がいなかった。普段は賑わうその通りには何者も存在しなかった。


 刹那、声がする。叫びとでもいうべきか。

 一人のものではない。数百、数千、もしくは数万さえ――――


 その声は遥か先、王城から聞こえる。


 歩を進めた。

 その先に何が待っているのか理解していながら。

 心のどこかでは信じたくないと考えながら。


 だけど、現実は思い通りにいかないことを、俺はとうの昔に知っていて。



 生まれた時から未来は決まっていて。

 決意した時には既に手遅れで。

 終わってしまった何かに縋り、今日も誰かは始まらない明日を求める。



 王城の前の城壁に辿り着き、その騒ぎをようやくこの目に捉える。

 城壁の周囲を取り囲むように、数万の国民達が集まっている。

 怒りを顔に、武器を手に、誰もが口を揃えて、そう言った。











「――――金魅の忌み子、リリス・ジオ・ルミナリアを殺せ!」











 そして、俺は――――――

これは、世界を壊すと誓った少年の物語。

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